魔法高校の最強新任教師

@tree-cats

第1話 ふざけた新任教師

新人類。

それは2113年にその存在が確認された新エネルギー〝魔素〟を体内に有する人間。新人類はやがて魔素を使って火を起こしたり風を吹かしたりするなどの〝魔法〟を使えるようになった。彼らは魔法使いと呼ばれた。

魔法の普及は世界の発展を促進すると共に軍事的利用も活発になり2度の魔法大戦が勃発した。そして数えるほどしかいなかった新人類はやがて10人に1人の割合にまで増えた。



そして2505年4月。関東屈指の魔法高校の

関東第一魔法高等学校に1人の新任教師が現れる。





「あー、だりぃなぁー」

霧崎零二は朝から文句を言いながら高層ビルが建ち並ぶ東京の街を歩いていた。霧崎は今日から関東第一魔法高校の新任教師として勤務する。しかし、場所が分からずさっきから同じところを歩き回っている。もちろん、地図を見てはいるがそれでも迷う程の方向オンチなのだ。霧崎はもう遅刻は確定と思い諦めて焦る事なくゆっくり出勤することにした。




同時刻、学校の職員室では1人の男がキレていた。学年主任の木村だ。木村は一年の学年主任で霧崎は一年の担任だ。木村は怒りを露わにして校長室にノックをして入る。


「校長、やはり初日から遅刻する奴なんてクビにするべきです」


木村は会ったこともない霧崎のことを嫌っていた。桐崎は校長の推薦で教師に選ばれ、一年の中で成績優秀者しか入れない映えあるSクラスの担任になった。

元々Sクラスの担任は木村に決まってたが木村は霧崎に映えあるSクラス担任の座を奪われた形になり、コネ採用だと職員室で騒いでいる。


「いいじゃないか。初日なんだし、道に迷っているのだろう。」


と言いつつも校長は笑っていた。霧崎が面倒くさがり屋で自由人な事を知っている校長はある程度予想していた。


「さてもうすぐ入学式が始まるだろうし、我々も大講堂へ向かうとしよう」


そう言って顔が真っ赤な木村を連れて入学式へと向かった。


入学式の行われた大講堂は在校生と新入生で席が埋まっていた。新入生のエリアには緊張感が漂っている。校長の挨拶から始まり、生徒会長と新入生代表の挨拶と続き、最後は担任発表となった。


「では、発表します。一年学年の学年主任は木村誠先生です。」


木村は拍手を浴びながら壇上に上がり簡単な挨拶をする。


「次に、一年Sクラスの担任は新任の霧崎零二先生です。」


しかし、一向に誰も壇上に登らない。そこは校長が司会のマイクを奪い取った。


「霧崎先生は諸事情により到着が遅れております。」


これには職員と在校生がザワザワし始めた。

関東第一魔法高等学校の長い歴史の中でも新任の教師が入学式に遅れるなど前代未聞だろう。

異例のSクラス担任不在のまま入学式は進み

入学式が終わった。




入学式の後、Sクラスの教室は勿論騒がしかった。いきなり担任が不在なんだから当たり前だろう。

騒がしい教室に副担任の清宮美波が教室に入る。皆が静かになり清宮を見つめる。恐らく担任について何か話があるかもしれないと期待しているのだろう。


「霧崎先生は諸事情があってしばらく来れません。なので私がホームルームをします」


再びザワザワする生徒を無視して清宮は40人分の出席をとり終え、連絡事項に移ろうとする。そこに1人の乱入者が現れた。黒髪で割と高身長でイケメンの男だ。


「あ、霧崎先生おはようございます。すみません、先にホームルーム始めてしまいました。」


事前に履歴書を見せて貰っていた清宮はこの男こそ霧崎零二だと気づく。


「悪い、悪い、ごめんねー。じゃあ、続きいいよ」

「あの、ホームルームは担任がするものなんですが…」

「面倒だからパスで」

「でも、私も新任で初めてなので…」

「いいじゃん、みんなも可愛い先生の方が嬉しいでしょ」

清宮の顔が赤くなる。彼女にとって23年の人生でこんなにもストレートな〝可愛い〟は初めてだったのだろう。


「いい加減にしてください。さっきから遅れた来たと思えば謝りもせず仕事も放棄して。全部説明してください!」


教室の1番前に座っていた赤髪ロングの女が霧崎に向かって大声で吠える。


「なんで遅れたかって?それは道に迷ったからに決まってるじゃん。朝だし人間頭も働かないんだよ。」


関東最高峰の魔法高校の教師とは思えない程のくだらない理由にクラス全員の目が点になり呆然としている。


「そんなふざけた教師はクビにして貰います。」

「なんで?お前にそんな権限あるの?」


すると横から清宮が霧崎に耳打ちをする。


「彼女は100家の南沙羅さんですよ。」

「あぁ、お貴族さまのお嬢さんって事ね」


世の中の魔法使いは魔法貴族と呼ばれる一族が存在する。魔法貴族は魔法黎明期から新人類となって今では数多くの優秀な魔法師を輩出している名門家でその影響力は絶大だ。

その中でも南家は魔法100家、通称100家に選ばれるほどの名門一族だ。



「そうです。私は南家の人間です。あなたの事なんてどうとでもできるんですよ。」

「いるよねー。そうやって魔法貴族だからって偉いと思っているクズ。」


この発言にクラス中が凍りつく。たかが教師が100家に反抗できる訳がない。


「私は別に自分が偉いとは一言も言っていません。」

「さっき家の権力で俺をクビにするって言ったじゃん。バカなの?後、俺は校長のコネで入ったから多分クビにはならないよ」


南沙羅は自分がバカにされたことに対してひどく怒っていた。だから本当にクビにしてもらうつもりだった。

しかし、校長は国内でも有名な魔法使いでそのコネとなるといくら南家ではどうしようもできない。

だから南は怒りを飲み込み仕方なく引き下がった。そうして一触即発の状態は収まり、清宮がホームルームを続けた。





ホームルームが終わると一限目の体力テストが始まった。魔法師でも近接戦をする人も多いので剣術などの体育系の科目と取り入れられている。しかし、入試には魔法の実技試験しかないので初日に体力テストをする。


Sクラスは運動場に移動する。関東第一は関東最高峰の魔法高校なだけあって校舎は綺麗で最新設備が整っている。運動場も屋内でかなり広い。

霧崎は運動場に着くと早速、


「じゃあ、清宮先生よろしく」


と言って近くのベンチで寝転がった。


「ちょ、ちょっと霧崎先生」


霧崎に声をかけるがもう既に爆睡している。

もう霧崎に常識が通じないと悟ったのか清宮はすぐに切り替えて授業を進めた。


寝ている霧崎を他所にその後、体力テストは問題なく進んだ。

体力テストが終わり昼食の時間となった。食堂は学年別に分かれて、その学年のエリアの奥に行く程ランクの高いクラスの生徒という暗黙のルールがある。Sクラスのみんなはもちろん、1番奥の席に座って食事をする。




「あんなふざけた先生ありえない。」


南沙羅は声を大きくして愚痴る。


「落ち着いて沙羅。きっと先生にも考えがあるのよ。きっと」


そう宥めるのは彼女の幼馴染の真柴咲。

そしてクラスの男子の中心的な存在になりつつある岡本大河が後に続く。


「でも、校長のコネで入ったのは本当らしいぜ。俺の従兄弟は3年の担任やってるけど急に俺たちの担任が木村先生から校長の推薦者に変わったって言ってた。」

「校長のコネだからって関東第一のしかもSクラスの担任として失格でしょう」


そう語るのはいかにも勉強が出来そうなメガネをかける飯島歩だ。

そしてクラスのあちこちで霧崎に対する批判や詮索が始まった。




「メシ〜メシ〜」


霧崎は呑気な声を上げながら大盛りのカレーを持って食堂の奥への空いている席に座る。

もちろん、クラスのみんなは霧崎の話は辞めて他の話をし始めた。

周りの事なんてお構いなしにカレーを食い続ける霧崎に3人の女子が顔を赤くしながら近づく。松田莉音、三井茜、夏目鈴華の3人だ。


「あの、先生って彼女いますか?」

「ん?いないぞ。今までいた事もないぞ」


密かに耳を傾けていたクラスメイト達は驚く。霧崎は性格はともかく、顔はイケメンの部類に入るので彼女がいた事ないという事実は意外だったのだろう。


「えっ、本当なんですか?そんなにイケメンなのに」

「やっぱり俺ってイケメンだった?薄々気が付いていたけどやっぱりか!」


自画自賛している霧崎に周りの反応は驚きから呆れへとすぐに変わった。霧崎がクラスの半分くらいの生徒と恋愛談に花を咲かせているうちに、昼休み終了の5分前になった。

一行は午後の授業を受けるべく教室へとむかった。






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