第3話
遂に試験本番、美春は力の限りやったつもりだったが、合格発表の時、それが実ることは無かった。
受験勉強であれだけ支えてもらっただけに、申し訳なかった。何より美春が落ち込んでいた。
それでもやはり香織は隣で、沈んだ心を優しく受け止め、包み込んでくれた。
数ヶ月前の美春ならこんな結果で申し訳ないと思うことは無かったし、第一隣にいるだけで不愉快だった。そんな変化に気付いて、自分が面白く見えた。そして初めて、自分から体を合わせた。
三年前と同じように、間もなく卒業式がやってきた。その前夜、香織に話しかけた。
「明日の式の前に、一緒に行ってほしい場所があるんだけど」
そしていつもの通り、香織は笑顔で言った。
「どこかはもちろん分かってますよ。明日は早起きしなくちゃね」
翌朝は五時に起きて、香織と共に亡き母のもとへ行った。
これから卒業の報告と、口には出さなかったが香織のことを話してあげた。
ここへは卒業式が終わった後、もう一度父と来る予定だ。
家に戻り、制服に着替えた。これが最後だというのに、その作業はあっけなく終わった。
「じゃあ、行ってきます」
香織に向かって言った。
玄関を出ると、暖かい春の風が吹き込んできた。まるで美春を迎えるかのように空はどこまでも青く、澄み渡っていた。美しい春。
─そっか、お母さんが私に名前を付ける時、同じこの景色を見上げていたんだね─
振り返ると、見送ってくれている"母"がこちらに気付いて、また手を振った。その顔は笑っているようにも見えたし、また泣いているようにも見えた。
嫌な事だらけ、大事な時にいつも向かい風のこの世の中で、喜びを誰かと分かち合うために人生はあるのかもしれない。
一時期は考えたくもなかった未来に向かって、美春はその一歩を踏み出す。
聖母に卒業証書を キリンノツバサ @kirinnotsubasa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます