最終話「シャットダウン」


『××月 ××日 ××時 ××分

 録音件数が一件です。


 ――――プー


 …………

 …………

 …………ぐはっ……


 ス……スマホ、無事だった……

 あれだけボコボコにされて、グサグサやられて……スマホだけ傷一つついてないでやんの……


 ボク、ちゃんと声出てるかな……まだ出てるか、喉、やられてないんだな。よかった……。

 ……スマホ、シャットダウンまであと三分だって……バッテリー切れだ。

 ボクの命もそれくらいかな……シャットダウンしちゃうな……。

 頭割れてるし、腹は中身見えちゃってるし、血もすごい……ドバドバ……。


 敵兵のやつら、ボクが死んだと思ってどっかに行きやがった。

 ちゃんとトドメ刺していけっていうんだ……あいつら、ムカつくな……。

 でも、痛くないな……もう痛みも感じられなくなってるのか……。


 ……静かだな。

 ……静かだ。

 静か過ぎるな。


 今まで銃声とか、爆発の音とかしていたのに……なんの音もしてない。


 世界に自分だけ取り残されたみたいだ。


 みんなと繋がってるはずなのに、ひとりぼっち。


 なんの冗談だろう……。


 ……あっちゃん、聞こえてますか。


 なんかよくわからないけど、よくわからないうちにここで死ぬことになりました。

 なんのために生きてきたんだろう……。

 でも、そんなことを考えられるのも贅沢なのかな……。

 みんな、そんなこと考えるヒマもなく死んじゃったからな……。


 あっちゃん、無事だよね。

 ……あっちゃん、元気でね。

 いい人と巡り会って、幸せになって下さい。

 それでもし子供が生まれたら、その子が戦争で死んだりしないような世の中にして下さい。

 ボクみたいな無駄死にを作らないでね。

 そうしてくれたら、ボクも無駄死にでなくなる、そんな気がする。

 あっちゃん、元気で。幸せに……。


 ……声が聞こえる。……日本語だ、なんか喚いてる……味方の声だ。

 ……えっ? 戦争が終わったって……終わった?

 だから、銃声もなにもしてないの?


 ……なんてこった、あっちゃん、戦争が終わったんだって。

 どんな風に終わったのか全然わかんないけど……終わったらしいよ。


 ……あと一日、いや、10分でも早く終わってくれていたら、ボクも生き残れたかな……。

 いまさらいっても、遅いか。

 ああ、もう、スマホがシャットダウンしちゃう……最後に、いわなきゃ。

 あっちゃん、ボク、本当はキ――――。


 ――ピー

 バッテリー切れによりスマートフォンをシャットダウンするため、録音を中断します。

 ――録音された内容の再生が終わりました。残り録音件数、0件です』

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