第3話「設営」
『××月 ××日 ××時 ××分
録音件数が一件です。
――――プー
あっちゃん、元気ですか? また録音になっちゃったなぁ……。
でもあっちゃんがちゃんと聞いてくれてるから、いいや。
今ボクたちは歩くのはやめてます。代わりになにやってるのかって?
穴を掘ってます。
いや、穴というか溝か……人の高さくらいの深さの溝。
塹壕っていうらしいね。ここで塹壕を掘れっていう命令があって、ずっと溝を掘ってます。
というか、地面が固すぎる……スコップが跳ね返されるよ……。
ああ、スコップって大きいやつ、あれね?
みんなシャベルとスコップの大きさ間違えるんだ。シャベルの方が小さいからね。
さすがに携帯用のスコップじゃ全然ダメだった。軽すぎて掘れないの。
もう三日も溝掘ってるなぁ……。
歩くのが終わってやったー、と思ったら今度は一日中穴掘りだ。
歩いているのとどっちがマシかなぁ……ごはんはマシになったけどね。
ちゃんとした料理が食べられるんだ。調理部があって、大鍋でいつもなんか作ってるよ。
レーションかレトルトか知らないけど、そっちより百倍いいよ。インスタントは気が滅入るね!
でもこの溝、いったいなんの役に立つんだろ?
人二人がやっとすれ違えるくらいの幅……狭いは狭いけど、掘るには広すぎるよ……床にはすのこ引いたりして、なんかやらなきゃいけないことがたくさんあるんだ。
ああ、思い出した。
溝の隅にまた溝を掘らないといけないんだって……前にそれ掘るの忘れて、メチャクチャに殴られた。
兵隊になってから殴られてばっかりだなぁ……。
相手もビンタでするから手加減はしてるんだろうけど。映画みたいなかっこよさなんてどこにもない。
これからどうなっちゃうんだろう……。
ああ、ここじゃ気軽にスマホ充電できないんだ……普段は電源切るようにしてるから、そっちからは電話は繋がらないなぁ……ごめんね……。
あー……もう休憩終わっちゃった。
じゃああっちゃん、ボクもがんばるから、あっちゃんも色々がんばって!
またかけるね!
――ピ――
――録音された内容の再生が終わりました。残り録音件数、0件です』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます