第2話

 ディオスがいなくなった医務室。ハーズは探知魔法を使い、室内に二人以外誰もいないことを確認する。そして、医務室全体に不可視と不聴、不入の結界を張る。


 密室を作り、ハーズは床に倒れている人に話し掛けた。

「さーて、起きてください。ソフィア様」


 すると、胸にぽっかり穴が空いた獣人族の少女は立ち上がった。そして、


「変身魔法解除」

 淡々とそう言うと、彼女の容姿は一瞬で、元の姿である、魔王の娘ソフィアに戻った。


「あーあ、今回も残念だったね。ソフィア」

 ハーズは、できる限り明るくセーラに話し掛ける。一面の曇りもない笑顔を添えて。


「ねぇ、ハーズ?」

 ソフィアはまじまじとハーズの顔を見つめる。無表情で、少しの怒りを込めて。


「私に言うことあるよね?」

「えーと、何のことでしょーか?私最近、耳が遠く鳴りまして・・・」

「あの茶色の髪、あなたのものよね。今回の失敗は間違いなくあなたのせいよ!」

「はい!その通りです!!申し訳ありませんでした。この通り許してください」

 ハーズは土下座した。


「えっ」

 ソフィアは突然の行為に驚いた。いきなり土下座なんて。このままでは、私の一番の親友がいなくなってしまう。


「いや、そこまでしなくていいのよ。私とあなたの仲でしょ。さっ、頭上げて。ねっ、お願い、許すから」

「それでは、御言葉に甘えて!」

 ハーズはその言葉を待っていたかのように、顔を上げた。どこかニヤついている。


「───騙したの?」

「そんな滅相もない。じゃ、いつも通り反省会しましょ」

 ハーズの身の代わりぶりに、ソフィアはクスっと笑った。


 ソフィアとハーズは学生時代の同級生だ。(ちなみにディオスも。)当時から、二人は親友でそれは今でも変わらない。そして、現在、ソフィアはハーズに頼み、ある作戦を実行している。


「ええ、その通り。それじゃ、始めましょうか。『メイドになってディオス様を射止めよう大作戦』の反省会を」

 ソフィアは自信満々に言った。この作戦は素だとディオスに話しかけられないソフィアのため、ハーズが考えた作戦だ。


「じゃあ、まず容姿からですね」

 ハーズは話を進める。


「今回は狐の獣人族。ディオスが以前助けた、子どもに似せました。それで、結果はどうでしたか?」

「前と変わらず。いつも通りの無関心だったわ。せっかくおどおどした可愛い少女を演じたのに」

「えっ、それって素───」

「さて、次行こう次」

 ソフィアは強引に話を進めた。


「やっぱり、メイドの仕事はすっかり慣れたわね。ちゃんとお辞儀もできるようになったし、お茶も入れれるようにもなったから。ディオス様の瞬殺も無くなったわ」

「いや、全然ダメですよ」

 ハーズはツッこむ。


「お茶入れるのに、二分もかかるメイドなんてどこにいるんですか!これだからあなたの時だけ、ディオスに殺されるんだよ」

「ディオス様の近くは緊張するから仕方ないでしょ。それに私死なないし。あーあ、間近で戦うディオス様はかっこよかったなぁ」


 ソフィアには特殊能力が2つある。一つ目は変身魔法。自分の思い通りの姿になれる。

 そして、もう一つは不死。胸に穴が空いても、頭を切られても死ぬことはない。レベルマックスの光魔法を100時間くらい続けて、ようやく死ぬかどうかである。その代わりといってはなんだが、身体能力はそれこそ人間の女性程度だ。だから、防御力は無に等しい。


「ま、とりあえず明日どうする?」

 二人ともディオスを落とす方法は、未だ思いついていない。だが、希望を持って明日の作戦を考えるのであった。












 




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