短気な魔人と不死身のメイド
佐々木 内人
第1話
魔王城。300年前、突如として始まった魔族と人類の戦い。それによって一時魔族が滅びかけたとき、当時の魔王が命を投げ打って作られたという難攻不落、世界最大の要塞だ。今では現魔王の居城である。この城は勇者と呼ばれる者以外は、近づくことさえできない。
その魔王城の医務室で、四天王の一角「暴虐のディオス」は治療を行っている。先日、勇者パーティと激戦を繰り広げ、命に関わるほどの重傷を負ったからだ。まぁ、治療といってもベッドで寝ているだけだけだが。
「クソ、あの勇者達。次に会ったらただでは許さない。よりによって・・・」
ボソボソと独り言を繰り返している。ディオスは自分がかなり苛立っていることに気付いていた。勇者が姑息な手段で自分を葬ろうとしたのだから当然だろう。
「しっ、しつれいします」
そのとき、一人のメイドが医務室へと入って来た。彼女は髪が赤くて人間に近い容姿だが、可愛い獣耳とふわふわな尻尾が生えている。誰がどう見ても、狐の獣人族の少女だ。
「私、メイドのフィーラと申します。ディオスさま。お茶をおまちしました。ひゃっ、すいません。おもちしました」
フィーラは緊張しながら、少しずつディオスへと近づいてくる。それもそのはず、彼は今まで何十回もメイドを殺してきた。それも些細な理由で。自分も何かヘマをやったとたん、すぐに殺されるのだ。
フィーラは持ってきたお茶をカップへと注いでいく。手と腕はプルプルと震え、今にもこぼしそうだ。こぼしたら死ぬと、真剣に思っているからだろうか。
二分ぐらいかけて、ようやく注ぎ終える。フィーラはほっと胸を下ろした。
「それでは。ありがとうございまちた」
フィーラは急ぎ足で医務室を去ろうとする。するとそのとき、
「ちょっと待ってくれ」
初めてディオスがフィーラに話し掛けた。
「はっ、はい。何でしょうか?」
フィーラはゆっくりと振り返り、彼の顔を見る。その顔は心なしか笑っているように思えた。
「これが見えるか?」
フィーラは恐る恐るディオスが差し出したカップの中を見る。そこには、長く茶色い髪みたいなものが入っていた。
「これは何だ?」
「もっ、申し訳ありませんでした」
これでもかというほどフィーラは深々と頭を下げた。その髪は決して私のものではない。なぜなら、今の私は赤毛だから。だけどここは謝らなければいけない。殺されれば、また終わりなのだから。
「いや。別に俺は怒っている訳ではないんだ。たださ・・・」
フィーラは目の前から突然ディオスが消えたのに驚く。そして・・・
「お互い様だよね」
背後からそんな声が聞こえたと思ったら、ディオスの腕はフィーラの胸を貫いていた。
「んなっ」
フィーラは声にならない言葉をつぶやき、その場に倒れた。辺り一面に血が広がっていく。
「さて、そこにいるんだろ。ハーズ」
「なっ、何で分かったんですか?」
ドアの向こう側から、ハーズと呼ばれた一人の女性のエルフが現れた。彼女はディオスの副官で、支援魔法と結界魔法にたけている。
「お前の気配ぐらいすぐに分かる。いつも通り、死体の後始末頼むぞ」
「あー了解です。それより、魔王様へ報告したんすか?勇者のこと。もうとっくに体治ってますよね」
「・・・最後に一杯たしなんでから、行くつもりだった。まぁ、こいつのおかげで台無しだがな」
「とにかく、早く向かったほうがいいですよ。魔王様も心配してるだろうし。さっ、早く早く」
ディオスは医務室から出て、着替えた後、謁見の間に行くことにした。
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