第20話 ブリッツブレイン
部屋を飛び出すとだだっぴろくて終点も見えない廊下が広がっていた。
『301』などと部屋番号が書かれた扉が山ほどある。
正直、少しばかり気が遠くなったが嘆いているヒマはない。
俺は運動音痴なりに全速力で駆けだした。
だが。
「なんだ貴様! 侵入者か!?」
「さっきの爆発もおまえが!?」
「……ですよねー」
早速二人の警備員に捕まってしまった。
まあいい。どうせこんな広い中からブイを見つけられそうもない。
誰かを脅して聞き出すしかないのだからちょうどよかった。
「侵入者を打て――――!」
よくもまあ景気よく発砲してくれる。
全部よけるのは無理だ。これはもうある程度の被弾は覚悟して強引に攻撃するのがよかろう。弾丸をバカバカ喰らいながらも、アレックスが託してくれた薄い本をホルスターから取り出した。
「おお! ありがてえ! これは俺のお気に入りの一冊じゃないか! ストーリーはこうだ。おとなりに住む憧れのお姉ちゃんのパンツを盗み続けていたらとうとうパンツがひとつもなくなり、とっくに犯人にきづいていたお姉ちゃんがパンツを返してくれと言いにくる。いいかこの話で一番面白いところはパンツを返せと言いに来たお姉ちゃんに対して少年が「ええっ!? じゃあ今お姉ちゃんはノーパンってこと!?」と言う場面だ。パンツを盗んだことがバレてヤバイ! とか思うよりも先にその引き算から導き出される事実に気づくこいつは天才すぎる! 個人的にこういったシュールで天然的なギャグが入ってしまっている薄い本は大好物だ。絵もレベルが高くお姉ちゃんも可愛く、最後の『今日は会社休んでかわいいパンツ買いに行こうかな』というオチも爽やかでいい。これは是が非でも後世に残したい作品だ!」
「なんだこいつ!」
「きめええええ!」
ひるむ警備員たち。凄まじい破壊力の弾丸がヤツらの一人を吹き飛ばす。
「ひいいいいっ――!」
(――戻ってこい!)
さらに発射した弾丸をコントロールして、もう一人の背中にぶち当てる。
彼はペンギンのごとくうつ伏せで床をすべってこちらへやってきた。
「さてと――」
警備員に上からのしかかって押さえつけるとマッドドリルをケツの穴に押しつけた。
「さあ。ケツの穴に金属バットが収納できるようにされたくなければ質問に答えやがれ」
「ぎゃあああ! わ、わかった! 答える!」
「ブイはどこにいる?」
「……ブイ?」
「知らねえのかよ! 今日ここに捕まって連れてこられた娘だよ!」
「そんなのたくさんいるから」
「ああもう! 白くて長い髪のめちゃくちゃかわいい子だよ!」
「あー! あの子か! あの子なら392号室!」
「めちゃくちゃ遠そうじゃねえか! 一階に何部屋あるんだよクソが!」
警備員をマッドドリルで殴って気絶させると、また走りだした。
「――ここかな?」
392号室の扉をマッドドリルで破壊すると、いままさに拘束されたブイを妙な道具を持った男たちが襲おうとしているという状態だった。
「誰だ!」
「侵入者!?」
かなりしんどかったがハッピートリガーを放ってそいつらを倒した。
「どうやら間にあったようだな。アレックスに感謝だ。なんの工夫もなくただただ女性がひどい目に合う薄い本なんて読めたもんじゃないからな」
俺の姿を見てほっとした笑顔を浮かべてくれるかなと思ったが、ブイはいまにも泣き出しそうな顔で俺を見た。
「サルペン……! 体が……!」
まァそういう反応になるのも無理はない。スネイク号で来ていたかっちょいい黒のジャージは至るところがボロボロに切り裂かれ、剥きだしになった肌からは血が噴き出していたからだ。
「よかった。ブイはキレイなカラダのままだな」
拘束具を外してブイを自由の身とした。
「死んじゃう……!」
ブイの目から涙がこぼれる。こんなときになんだけどこの世にこんなキレイな涙があったんだななどと思った。
「だから言っただろう。命をかける価値があるって。俺だけじゃない。キミの作品を必要とする人がたくさんいるはずなんだ」
「そんなこと言っている場合じゃないって!」
ブイは俺の手を引いて歩き出す。
「早く治療をしないと! どこかに脱出ポッドがあるはず!」
「そう慌てるなって。実はまだ俺はぜんぜん本気出してないんだ。秘密兵器がまだあるし」
「そんな強がりはいらない!」
「ホントなのになー」
392号室を出て廊下に出ると――
「……ブイ。俺の後ろに」
一人の男が正面からこちらに歩いてくる。やつは後ろにたくさんの部下と思われる兵士をつれていた。後ろにたくさんいるのに一人の男が歩いてきた、というのも変な話なのだがそれくらいその男の存在が圧倒的に際立っていた。
そいつは俺たちの姿を見るやニヤりと笑った。
「サルペンとブイだな?」
「そういうあなたはライトネス・ダイヤモンド。生涯の宿敵だがそういえばご尊顔を拝見するのは初めてだったなクソ野郎」
「ふふふ。私のことをオンリーワンの存在に思っていただいてありがたい。こちらはおまえのことを踏みつぶすべきゴミ虫のひとつとしか思っていないがね」
「ところがどっこいただの虫じゃない。毒のある虫もいるぜ」
そういってハッピートリガーとマッドドリルを構えた。
後ろの兵士たちも銃を構えるが、
「いい。手を出すな」
ライトネスはそういってこちらに歩み寄ってくる。
「キミの武器はその両手だけかい?」
「どういう意味だ」
「ただでさえ下等な人間なのに両手を犠牲にしたくらいで私に勝てるつもりなのかと聞いている」
そういうとライトネスはその長く伸びた髪の毛を自分でひっつかんでひっぱった。するとライトネスの『アタマ』が眉毛より上でぶっちぎれ床に転がった。
「――――!」
ぶっちぎれたけれど血ィひとつでない。そしてヤツのムカツク顔の上には透明な『ドーム』があった。ドームの中では異様に複雑な金色の機械がキリキリと音をたてて蠢いている。
「これが『ブレイン・ブリッツ』。私はこの宇宙一優秀な頭脳をあえて機械に改造することによって、神にも迫る力を手に入れた」
「なるほど。犠牲が大きいから強いと。それには賛成だ。世の中そういうもんだよな」
「そうか。まさか貴様と意見が一致するとはな。では体感してみるがいい」
ヤツの頭の上のドームが禍禍しい金色に輝く。
その輝きはやがて稲妻となり、俺とブイの脳天に落ちた。
「感想はどうだ?」
「なるほど……確かに神の裁きみたいだ……でも神の力をそんな気軽に使っていいのかい……俺ならもっといざという……」
意識が遠くなる。だが死んでしまうほどの破壊力ではない。おそらくワザとであろう。
俺はこの宿敵の前で再び気を失ってしまった。
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