第14話 ダイナマイト☆

 このアキハバラ・セセッションに到着して以来、バタバタとした毎日を送ってきたが、この日からはしばらく――一週間ばかりは平穏な毎日が続いた。

「あっ……」

「……」

 朝。起きて飯を食ったらダムの回りを支給されたライフル銃を持ってうろうろする。

 昼。弁当を食べて休憩。食べ終わったらまたうろうろする。

 夜。仕事終了。夜番の奴と交代する。詰所に戻って作戦室で夕飯を食ったら仮眠室で寝る。

 そんな生活だった。残念ながらライフルをぶっぱなすような事態も一切なかった。

「……」

「……」

 この日も作戦室に置かれている缶詰入りのレーションを食べるところから一日が始まったのだが、スタンとアレックスが寝坊しているのでブイと二人きりになってしまった。

 会話はいっさいない。目もまったく合わない。非常にきまずい。

 ブイのクールすぎる態度はいまでもあまり変わらないが、アレックスとはそこそこ打ち解けて自分から雑談を振るようになってきているし、スタンや他の仲間ともそれほどきまずいということはなさそうだ。こんなにきまずいのは俺だけ。

「……」

「……」

 その原因はわかっている。あの夜のことだ。

 ブイとケンカなんかもちろんしたくはない。彼女が怒っているのであれば謝りたいのだが、なぜ彼女が怒ったのかの理由がわからない。厳密に言えば怒った理由は俺が彼女のズィルウェポンがどういうものかを聞き出そうとし、闘いで使用することを提案したことであるということはわかっているが、なぜズィルウェポンを隠そうとするのか、なぜ使用することを拒否するのかということがわからない。従って謝罪のしようがない。なんでもいいから土下座すれば許してくれるというようなタイプでもあるまい。

 そんなこの一週間で何回も行った思考を繰り返しつつ、同時並行でブイの横顔をバレない程度にちらちら眺めていると、スタンが「う~い」などとチャラい声を発しながら起きてきた。

「おはよー二人でなんの話してたんだい?」

「いやなんにも」

「ええーいいじゃん教えてよー」

「いや本当になんの話もしてないんだ」

「えー?」

 そこへリーダーがちょっと興奮した様子で詰所に入ってくる。

「あ、リーダーどうしたんすか?」

 リーダーは少し声を荒げてこんな報告をした。

「伝令だ! 敵軍の消耗状態充分とみなし、たった今わが軍の突入が始まったそうだ!」

 ――さていよいよ時がきた。

 あとは予定通りに動くのみ。俺は必要以上にデカい声でこんな風に叫んだ。

「マジかよ! 突入するの見てえ! 行ってくるぜ! みんなも行くよな!」

「HAHAHA! 愚問だね! ミーハーなめんなよ!」

「わ。わたしも見たい……」

「お、おい!」

 そういって俺たちは詰所を出て馬に飛び乗った。

 リーダーは止めようとして慌てて詰所を飛び出したが当然間に合わない。

 彼がどうしたものかと、詰所の中で十分ばかり右往左往しているとアレックスが起きてきた。

「あれー? みんないないー。いまどんな状況―?」

 遅れて起きてきたのもワザとだし、状況も俺のさっきのバカでかい声でわかっているクセに白々しくもこんなことをリーダーに聞いたそうだ。

「だから! わが軍は川を渡って原住民たちの陣地に突入したの!」

「えー!? ということは!」

 アレックスは詰所に戻り、ダイナマイトの箱を二つとバラで何本かをおそるべき怪力で外に持ちだしてきた。

「おい! なに持ってきてるんだ!」

「ダイナマイトはー!? 使わないのー!?」

「使わない使わない!」

「そんなぁ……」

「いいからそんなもん捨てとけ」

「……はあーい。捨てまーす。ええええええい!」

 アレックスはダイナマイトが入った木箱を土でできたダムに向かって全力でぶん投げた。

「――なっ!」

 木箱は土壁にめり込んで突き刺さる。

「なにしてんだおまえ!」

「はあ。ダイナマイト使わないなんてつまらないなー。ホントざんねん。なんかくさくさするからタバコでも吸おうっと」

 リーダーはその様子を見て少々お小水を漏らした。

「そのタバコ……太くない?」

「ん? ああこれダイナマイトだったー☆」

 アレックスはそのタバコを土の壁に向かってポイ捨てした。

「ぎゃああああああああああ!」

「わー☆ すごーい。花火だ花火だー☆」

 凄まじい爆発の連鎖。

 土の壁は崩壊し大量の水が溢れた。

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