第13話 ダムが大好き

 ――翌朝。

 俺、スタン、アレックス、ブイの四人は、馬に乗って移民たちの村に向かっていた。

「お馬さんに乗るのも慣れたなー楽しくなってきたー☆」

「HAHAHA! アレックスちゃん飛ばしすぎだぜ!」

 ブイは白い髪が目立たないように頭にタオルを巻き、白装束ではまずいのでサイズが同じくらいであるスタンの西部劇調の服を借りて着ている。

 彼女は俺とは一切目を合わせない。相変わらずの態度であるため昨日のことを気にしているのかどうかということは今一つよくわからない。

 アレックスやスタンに対しても一方的にしゃべりまくるのを受け流しているような感じだ。二人はそれをあまり気にしてはいないようだが。

「酋長さんの地図によるとこの辺りのはずだが……」

「おー見えてきた見えてきた」

「結構ひろい街だねー」

 志願兵の受付は例のオアシス周辺の小さな集落とは別の街にあった。

 地図的な場所としては『凸』型の『右肩』辺り、カンダリバーの最上流に位置している。

 けっこう賑わった街でレンガ作りの二階建ての建物が大きな街道を挟んでズラっと立ち並んでいた。アレックスなんかは興味津々な様子で、本来だったらいろいろ探検してみたいところだが、ブイもいることだしあまり目立つのはまずい。まっすぐに受付の建物に向かうこととする。

「えーお買い物したいなー」

「そもそも使える金がないからダメ」

 しばらく歩いて『街役所 志願兵受付中』と看板に書かれた建物を発見した。レンガ作りの小綺麗な建物で中身も外見と同様におしゃれな雰囲気だった。

「なによあんたたち! ヨソモノね! なにしにきたのよ!」

「いや志願兵……」

「だったらさっさとカウンターに座りなさいよ!」

 ――が受付のおばちゃんの態度が非常に感じ悪い。

「どの部隊にするのよ! 早くこの中から選びなさい!」

 そういってチラシをズラっとテーブルに並べてくれるが、ローカル言語で書かれているので読むことができない。

「えーっと。これはどういう仕事なんだ?」

「これはダメよあなた! これは突撃部隊の募集! 給料は高いけど腕に覚えがないとダメ! 従軍経験とかある? 格闘技の段位とか拳銃の扱いの資格とか持ってる? どうせ持っていないでしょう? あなたたちみたいなウナギ面は」

 なにゆえこのように敵視されなくてはならないのだろうか。やはり俺はムカつく顔をしているのかもしれない。昨日のブイとのこともあってへこんでいると――

「おばちゃん。給料安くてもいいからさ、ダムとか川の防衛みたいな仕事はないの? 僕たち水が好きでね」

 スタンがまったく動じることなく非常にナイスな助け船を出してくれる。

 やはり女性の扱いはこいつに任せておくのがよいようだ。

「ま、あるわよ。ホラこれ。ダムの警備。期間は一週間。資格不問。日給十アジョット。あなたがたのようなウナギにはふさわしいわね」

 確か酒場のビールが五アジョットだったはずだからこれは非常にひどい話だ。

 しかし我々にとっては最高の条件である。

「おおいいじゃねえかー。ダム最高。これにするぜー」

「だったコレもってさっさと現場いきなさいよ! この無駄メシ喰らいバカウナギが!」

 投げつけられた『臨時従軍バッジ』をキャッチし足早に建物をあとにした。


 二十分ほど馬を走らせて現場である『カンダリバー最上流防衛拠点』に到着した。

「うわー☆ すごーい」

「これがダム……?」

 川の最上流には巨大な土の壁が果てしなく遠くまで設置されており、流れを完全にせき止めていた。

「たぶん川底の土をなにかしらのズィルウェポンで固めたんだろうね」

「これならそう金も時間もかからない。再建築も容易ってわけだ。やはり一回壊したくらいでは解決にならんな」

「あっ。おまえらが新入りか? ちょっとこっちに来い」

 年若く人の良さそうな現場リーダーが我々を詰所のようなところに連れて行き作戦を説明してくれる。

「いいか。今われわれの軍は簡単に言えば先住民共への水の供給を遮断するためにあのようにダムを設置している。で、われわれの役割はダムの警備とダムの破壊だ」

「はかいー?」

「ああ。いいか。先住民どもが渇きに堪えられなくなって、川を渡ってこっちに一斉に来ようとしたら、ダムを壊して奴らを激流に流しちまおうっていう作戦なんだ」

 われわれの読みは正しかったようだ。とりあえず作戦の前提は成立していたようで内心胸を撫で下ろす。

「まあこの作戦を使う可能性は低いと思うけどな」

「なるほどー。どうやって壊すのー」

「ダイナマイトを使う」

「えー!」

 アレックスが興奮して立ち上がる。

「ダイナマイトまじ!? ちょうかっこいい! どこにあるの!」

「そこにあるけど」

 リーダーが詰所の隅に置かれた木箱を指さすとアレックスはそれに駆け寄って勝手にふたを開けた。

「あっコラ!」

「わあー☆ これがダイナマイトかー☆ フォルムかわいいー」

 などとダイナマイトに頬ずりして見せる。

 リーダーは絵に描いたようなドン引きの顔をしていた。

「ねえねえ。ダイナマイトを爆発させるのアレックスにやらせて欲しいなー。おねがいー」

「……勝手にしてくれ。どうせ使わないから。もういいから早く警備に行くぞ」

 リーダーは疲れた様子で詰所を出て行った。

 俺はアレックスの肩を叩いて親指を立てる。

 アレックスも満面の笑みで親指を立て返した。

「よしよしうまかったぞ」

「やったー!」

 さきほどのアレックスの奇行はいつもの奇行ではなく事前に打ち合わせした演技だ。

 なかなかどうして見事なパフォーマンスであった。かの日のチキュウであればロボちゃんアカデミー賞をもらえたかもしれない。

「頼んだぞ。この作戦の最重要人物はおまえだからな」

「おっけー☆」

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