第10話 ブイ
地図を見ながらゲスボルトにメガデス、バンバンビガロを走らせてカンダリバーの流域に到着したのだが――。
「ほらーやっぱり川なんてないでしょー?」
確かに自分たちが到着したポイントに川はない――が。
「いやないけどさ。これは――」
「アレックスちゃん、ここら辺を見てみろよ」
スタンが地面をつま先で示す。
「ここを境に急激な下り坂になってるだろう」
「うん」
「それにここからこっちは砂の質が違う。こっちはカラカラだがこっちは少しぬかるんでいる。ほら色も違うし――」
スタンが尖った爪先で乾いているほうの地面を蹴ると、フワっと砂が舞った。
湿っている方を蹴るとつま先が地面に埋まった。
「あーそういえばなんかこのへん湿ってるなーとは思ってたんだよね」
「おそらく強烈な太陽光である程度乾いてはいるが、以前までここは川だったんだろう」
「なるほどー! 干上がっちゃったってことかな」
「いやー違うなー。サルペンくんはどう思う?」
「俺も違うと思う。とにかくこの『川だった』ところを渡って見よう」
ゲスボルトを走らせると彼の蹄がズズっと地面に埋まった。
「思った以上に湿っているなあ。こりゃあちょっと時間がかかるかも。アレックスお前よくこれを足で渡ったなあ」
「すごいでしょー☆」
「ムチャをするなよ」
「HAHAHA! アレックスちゃんにムチャをするななんてのはカラスにカアと鳴くなっていってるのと同じことだぜ」
そんないつものようなくだらない会話をしながら馬を走らせていると――
「おい! なにをやっている! ここは立ち入り禁止だぞ!」
青い兵服を着て剣を携えた男が怒鳴りちらしながら近づいてきた。
恐らく件の独立王国軍とやらの警備兵であろう。
俺とスタンはズィルウェポンを構えた。――が。
「ええい!」
アレックスは馬から華麗に飛び降り、男を頭上にリフトアップすると遥か遠方にほおり投げた。彼は可哀想にギャグマンガみたいに地面に頭から突き刺さった。
「おまえ、なんかパワーさらに上がってないか?」
「HAHAHA! さすが銀河戦争の時代に作られた最終決戦兵器だぜ!」
「そういえばこないだもこんな感じの人に絡まれ――――ああああああああ!?!?」
突如叫び声をあげるアレックス。俺は慌てて駆け寄った。
「どうしよう……」
「ど、どうした! ムチャするから腕でもやったんじゃ……」
「ネイルが欠けちゃった」
俺はリアルにずっこけてぬかるんだ地面に尻もちをついた。
「HAHAHA! そんなベタなラフター。僕は嫌いじゃないぜ?」
ぬかるんだ道をバンバンビガロたちに乗って進むことおよそ一時間。
「おっ。砂の質がまたカラカラになった」
「うん、道もフラットになったしな。ようやく渡り終えたみたいだ」
「ふえー。アレックス疲れたー。もう休もうよー」
「だらしねえなあそれでもロボットか? 原住民たちの様子見たら帰るんだからもうちょっとがんばれ」
「やだー。休むー。おしり痛いー」
そういうとアレックスはメガデスから降りてサボテンの影に寝っ転がっちゃった。
「サルペンくんどうする? こうなりゃテコでも動かないでしょ?」
「しょうがない置いていこう。あとから追いかけてこいよ」
「はーい。ご主人様レーダーついてるから大丈夫―」
「しょうがねえヤツだ」
「HAHAHA! 子供みてえだな。可愛くて仕方ないっしょ?」
「うるせえ」
スタンと二人でしばらく進むと岩山のようなものにぶち当たった。
灰色の山が行く手を阻む壁のように、高くそして広範囲に渡って広がっていた。
「HAHAHA! こりゃあ移民たちが攻められないわけだね」
「この向こうに原住民がいるとすればな。とりあえずこの岩山を登れそうなポイントを探して――」
だが。案の定というべきか、俺たちの行く手を阻むものが現れた。
岩山のほうから二人の筋骨隆々とした男たちがこちらに歩み寄ってくる。
「おっ。原住民さんのご登場かな?」
「ああ、間違いない」
聞いていた通りの真っ白な肌、それに白銀のような髪の毛、さらに真っ白なヒラヒラした法衣のようなものを身に着けていた。
「侵入者だ!」
「捕らえろ!」
「そりゃごもっともだが、簡単に捕まるわけにはいかん」
俺とスタンは馬から飛び降り、ズィルウエポンを起動した。
「おっと。こいつはいわゆる搾乳もの。すなわち女性の乳房から放出される母乳をプレイに取り入れた薄い本だ。比較的定番の性癖ものといえるがこの作品は規模というか母乳の量が生半可ではない。母乳で床下浸水するところから始まって徐々にエスカレートして、学校のプールを母乳だけで満たしたり、大火事を母乳で消化したりと大活躍。しかし最終的には母乳ダイダルウェイブが発生して人類は滅びるというストーリーだ。これに興奮できるヤツが作者以外にもいるとしたらその彼にとっては生涯の一冊となるだろうな」
「じゃあ僕も行くぜ!
新婚夫婦のベッドの上での会話。夫がこんな話を切り出しました。
『僕たちもそろそろ夜のサインを決めようか』
『ええ……いいわよ』
妻は少々恥じらいながらもコクリと頷きました。
『解りやすいところで、その気があるときは僕のアレを一回握るっていうのはどうだい?』
『うん……分かったわ。逆に疲れているときは?』
夫は少し考えてこう答えました。
『僕のアレを……五十回握るっていうのはどうだい?』
なんてなHAHAHA!」
だが彼らは俺たちの攻撃を簡単に躱すと、逆にズィルウェポンを起動してきた。
一方の男の腕がボウガンに、もう一方の男の腕は長槍に変化する。
「げっ……」
二人は雄たけびを上げて襲いかかってくる。
こちらも応戦するが相手もかなりの手練れだ。簡単には攻撃が決まらず泥試合の様相を呈する。
そこへ。悪いことに向こうサイドにもう一人援軍が到着してしまった。
「ブイ!」「おおブイ! いいところに!」
『ブイ』と呼ばれた援軍は若い女の子だった。
人形のごとく完璧といっていいほど整った顔立ち、透き通るような肌、真っ白い法衣を身に纏っていた。白銀色の長い髪には七色の細いメッシュが散りばめられており、まつ毛も同じような虹色にペイントされていた。
(キレイな色だ。マンガでも見たことないくらいに――)
彼女は野生の狼のような冷たく鋭い目でこちらを睨みつけてくる。凄まじい敵意だ。ほとんどの人間が恐ろしさに凍り付くだろう。
だが。俺は正直いって恐怖するよりも、その美しさに目を奪われて動くことができなかった。
「なにがいいところにだ! さっさと捕らえるぞ!」
彼女が発したのはどこか幼さの残る透明な声だった。
「す、すまん」
「今度こそ覚悟しろ!」
「――まずいね。どうするサルペンくん」
俺はスタンのその一言でようやく正気に戻った。
「に、逃げるしかないだろ」
スキをついて馬に飛び乗って逃げよう――などと少々情けないことを考えていると。
「あーいたいたー! ご主人様―! スタンくーん!」
メイド服姿で華麗に馬を駆る、異常にかっこいい女性が現れた。
「ん? アレ?」
アレックスはメガデスから飛び降りると、目をパチパチさせた。
それからこんなことをのたまう。
「あー! また会ったねー!」
やつはなにを言っているのだろうか。
そりゃあさっき一旦別れたけどまた会ったねってことはないだろう。
状況がつかめずにいると――
「アレックス!?」
ブイと呼ばれた女性がそう叫んだ。
(えっ!? なんで名前を……?)
「わー☆ ブイちゃん。今日もかわいいね」
「――!?」
さらにさきほどまで鬼の形相を見せていた兵士たちがその表情をふにゃふにゃに緩める。
「あーアレックス様だー! 今日もお美しい」
「ごきげんうるわしゅう!」
「うん。うるわしいよー☆」
アレックスがなにやら「つまりこういうことっすわ」と言いたげに笑顔でこちらを見てくるがさっぱり状況が掴めない。
「アレ? わからない? ホラこれを見たらわかるでしょ」
アレックスはブイという少女の後ろに回り込むと、なれなれしくも両手で腕を掴んで手のひらをこちらに向けた。
「――そういうこと!?」
アレックスとブイのツメ、すなわちネイルは色合いこそ違うがほぼ同じデザインであった。
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