第9話 先住民

 そうこうしている内にもう時刻は正午に近い。

 差し当たり情報収集と食事を兼ねて昨日の酒場に行くことにした。

 昼時なので客はまばらだったが昨日のエロい女がカウンターでグラスを傾けてる。

 俺たちもその隣に座った。

「姉さん昨日は大丈夫だったのか?」

「あんなの日常茶飯事よ。夜の蝶をなめないでちょうだい」

「……そいつはすげえや」

「まあ舐められるんではなく舐める側だよな! HAHAHA!」

 マスターはなぜだかやたら友好的な笑顔で俺たちを迎え、ビールにコーンブレッド、ポークソテーにビーフシチューまで用意してくれた。

「なあマスター。ご好意はありがてえんだが俺たち昼からこんな豪華なもん食うほど金がなくてさ」

「わあ☆おいしい!」

「まあこいつはすでに食っちゃったけどさ……」

「いやいやお代なんかいらないよ。キミら昨日店を救ってくれたじゃないか!」

「それも誤解なんだが……まあいいか……アレックスもスタンもすでに食いまくってるし」

「マスター。アナタそんなにお人よしだから借金まみれになるのよ?」

 なるほど姉さんのコメントでマスターのキャラクター性をなんとなく把握することができた。

「マスターお人よしついでに一つ聞きたいんだけどさ。なんか働き口はねえかい? ちょっとばかり深刻な金欠でさ」

「アレックスからもお願いしまーす。だってアレックスのせいだからね☆」

 心がけはよいがもう少し悪びれるというような機能を実装していただきたいものだ。

「それだったらウチの娼館で働かない? アレックスちゃんはもちろん男性二人も大歓迎よ!」

「ババア黙れ~☆」

「働き口かー。そうだなあ今はアレぐらいしかないんじゃねえか?」

 マスターはそういって壁に貼ってあるポスターを指さした。

「アキハバラ独立王国軍志願兵募集?」

「ああ。キミら腕っぷし強いし打ってつけなんじゃねえか?」

 確かに俺はともかくアレックスやスタンに接客業やら工場の作業やら内職やらができるわけもない。

「そうだ。活躍すれば例の王国軍の隊長にも謁見できるかもしれないぞ」

「ええっ!? レイキャビク様に会えるの!? だったらサインもらってきてくださらない!? できればキスマーク付きで! いやまてよ……チン拓! チン拓いっとくか!?」

「ババア黙れ~☆」

「活躍ってのはどういうことだい?」

「今ちょうど大規模作戦をやってるからそれで成果を上げればってことだ」

「大規模作戦? どんな?」

「原住民との戦争だよ」

「ああなるほど」

「原住民ってなあに~?」

 アレックスがすっとこどっこいなことを聞くがマスターは丁寧に説明してくれた。

「いいかい。今ここに住んでるのは俺を含めほとんどが物価や地代が安いからって別の惑星から移り住んだ移民なんだが、一部にはもともとチキュウに住んでいてこの星といっしょに独立した奴らもいる。そいつらのことを原住民と呼ぶんだ。まあこの星が独立したのは一〇〇〇年も前のことだから正確には『原住民の子孫』だけどな」

「ふんふん」

「で、その移民と原住民が土地をめぐって長らく対立していると」

「えー? でもこの星の土地はもともとゲンジュウミンのひとたちのものなんでしょー? だったらイミンの人たちが悪いんじゃないのー?」

「まあそりゃそうなんだが、俺をそんなジトっとした目で見るなよ。こんなことはどこの銀河のどの星でも繰り返されてきた歴史だぜ。侵略戦争みたいなのをしているのは王国軍で俺たちは彼らから土地を買ってそこに住んでるだけだし」

「ふうーーん」

 アレックスは納得したようなしないような顔。

「原住民ってのは何人ぐらいいるの?」

 スタンが尋ねる。

「一〇〇人いるかいないかってところらしいぞ」

「それだけ?」

「ああ。だがなかなか手ごわいらしい。なにやら魔術のような力を使うらしくて」

 ズィルウェポンのことだろうか。はたまたホンモノの魔術であろうか。

「まあ俺は実際に見たことはないけどな。肌が異様に白い不気味な奴ららしい」

「異様に白い……ね」

「人間の顔なんてみんな同じにしか見えないけどなー」

「それに立地条件がなかなか厄介らしい。えーっと」

 マスターはわざわざ店の奥のほうから地図を持ってきてくれた。

「これを見てくれ。見ての通りこの星の居住区域はちょうど『凸』の字の形になっているんだ。原住民が住んでいるのはこの小さなでっぱりの部分」

 地図にペンを入れて説明してくれる。

「でな。この凸の字のでっぱり部分をちょうどぶった切るようにしてでっかい川が流れているんだ。『カンダリバー』っていうんだが」

「なるほど。そりゃあなかなか手を出せないな」

「うん。とにかくこの辺りには近づかないほうがいいぜ」

「あれー?」

 アレックスが地図をのぞき込んでくる。

「どうした?」

「アレックス今日この辺り行ったけどなあ」

 そう言って地図上の『凸』の字のでっぱりのあたりを指さした。

「う、ウソだろ?」

「ウソじゃないよ。アレックス位置情報認識機能ついてるもん。間違えないよ。ネイルやってもらったのこの辺りだよ」

「川泳いで向こう岸まで渡ったのか?」

「いやいやそんなことできるわけねえよ! 川幅十キロはあるんだぜ!」

 マスターのツッコミはごもっともだがアレックスならやりかねない。だが。事実はそうではなかった。

「川なんかなかったよ」

「ええ?」

 四人で顔を見合わせる。

「原住民っぽい人はいたか? 顔が真っ白で」

「人間の顔なんてみんな同じに見えるからわからないー」

 謎は深まるばかり。われわれはとりあえず現地に向かうことにした。

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