第4話 ラスト・カミエシ
待ち合わせ場所はロメロ星の首都パロにある酒場。第五銀河でもいちばん安くてまずくてボロくて治安が悪いことで有名なスペシャルナイトという店であった。
「HAHAHA! そいつはご機嫌だな! じゃあこんなのはどうだ?」
かなり広い酒場であったが待ち人の居場所はすぐにわかった。
「アホのマイケルが役所に行って書類を書いていた。その書類には『SEX』という欄があった。マイケルはこんな風に書いたのさ『週二回』って。
それを見た役所の女は呆れながらこう言った「ここには性別を書いてください」
そしたらマイケルはなんて書いたと思う?
こう書いたのさ『両方OK』ってな! HAHAHA!」
やつはいつものように美女を何人も侍らせながらアメリカンジョークをぶちかましていた。
「よう。相変わらずモテるな相棒」
「こんばんはー☆」
スタンは俺とアレックスの姿を認めるとニヤリと口角を上げた。
当時流行っていたおかっぱの金髪頭にテンガロンハット。ウエスタンシャツにスパンコールの入ったパンツ。オニのように先端が尖ったブーツ。背は小さいしよくみればかわいらしい顔をしているがなにせチャラさが先に立つ。歳は俺より二つか三つ下だっただろうか。
「HAHAHA! サルペンくんほどじゃないさ。いつもそんなにかわいい女の子連れて」
「女の子じゃなくてメス型メイドロボだよー」
美女たちは立ちあがって俺たちに席を空けてくれた。そしてぺちゃくちゃしゃべりながら店から出ていく。
「いいのか?」
「うん。とりあえずなんか頼めば?」
「ビール」
「アレックスはラム酒~」
「だからおまえは酒やめとけって」
「なんでー? アレックスたぶん一〇〇歳ぐらいだよー?」
「そういう問題じゃねえよ」
「HAHAHA! まあいいじゃないか僕が奢るからさ」
「よしレイズだ!」
「コール。受けるよ」
とりあえずカードでもやろうってなわけでポーカーの差し勝負なんぞしていた。
「Aのワンペア」
「Aと8のツーペア。悪いねサルペンくん」
「ぐっ……! また取られた」
だいたいにおいて根本がお人よしだからギャンブルなんて向いちゃいないのに、どうも辞めることができない。
「ご主人様ヘタクソ~。そんな手でレイズなんてバカみたいー」
ちなみに義手がなくてカードが持てないので、カードの操作自体はアレックスにやってもらっている。
「アレックスちゃん相変わらず手厳しいねー」
「まあねー。でも口が悪いだけで性格はものっっすごくいいんだよ? ご主人様のこと大好きだし☆」
「……そいつは嬉しいねえ」
「でもあんまりキツいとお嫁の貰い手がないぜ! なんてな! HAHAHA!」
「うーわー。相変わらずスタンくんのジョークつまんねー☆」
「誰にでも手厳しいなあアレックスちゃんは」
「そんなことないよー」
この三人でくだらないことを言ってダベるのも嫌いじゃないが、そろそろビジネスの話をする必要がある。
「ところでスタン。本題はなんだ」
「ええ? そりゃあ僕がキミに提供する情報っていったらひとつしかないでしょう」
「またどこぞに薄い本が埋まってるというような話か?」
「ああ。どうも第三銀河のほうのセセッション・アステロイドにあるみたいだよ」
「そんな辺境の地にか? うさんくせえ」
こいつからの情報には正しいものもあるがその十倍のガセ情報がある。
それでも貴重な情報源であることは確かなのだが、どうも今回は外れくさい。
「まあ確かにうさんくさい話ではあるんだけど今回は話の規模が半端じゃないんだよね」
「なんだ? 何万冊も埋まってるってのか?」
「いやそういうわけじゃなくて、そこにはとんでもないやつがいる――らしい」
「どんなヤツがいるってんだよ?」
「書けるヤツがいるらしい」
「なに!?」
俺は思わず立ち上がった、ビールジョッキが机の上に倒れる。
「それが本当ならとんでもない事件だが……」
「『ラスト・カミエシ』なんて言われているらしいよ」
「男? 女?」
「わかんないけど、一説によると恐ろしい爪で切りかかってくる狂暴なヤツなんだって」
「クマじゃねえか」
「それに。そのラスト・カミエシがいるセセッションっていうのが、もともとチキュウから独立したものらしいよ」
「チキュウから!」
「ああ。名前は『アキハバラ・セセッション』」
「……アキハバラ」
そこはかつてチキュウのジャパンという国においてオタクの聖地と言われた都市らしく、世界、いや宇宙全体からオタクたちが巡礼に訪れたなどと言われている。なんにせよ『アキハバラ・セセッション』という名前はスタンの情報に一定の信憑性を与えるものかもしれない。
「うーん。ひょっとしたら本当かもしれんなあ」
「そりゃもちろんさ。僕がデタラメな情報なんて流したことがあった?」
「あるわ! ――まァとにかく行ってみよう。ガセでも構うもんか」
「行くなら早く行ったほうがいいよ。ダイヤモンド・カイもそいつのケツを狙っているらしいからな」
「ダイヤモンド・カイってなにー?」
あまり興味なさそうにラム酒をやっていったアレックスが急に口を挟んできた。
「なんで知らねえんだよ! 俺たちの宿敵だろうに」
「アレックスちゃん。ダイヤモンド・カイっていうのは――」
説明しようとするスタンを手で静止する。
「それは俺からあとで説明しておくからいいよ。とにかく出発の準備をしておこう。スタン。今回はおまえも来るんだよな?」
「うん。もちろん」
「そうなのー? やったースタンくんそこそこ好きだから嬉しいー☆」
「HAHAHA! そこそこときたもんだ! 素直でよろしい」
「じゃあそうだなー。義手を修理したりもろもろ準備があるから一週間後……いや五日後に出発しよう」
「了解。ちなみに――」
「なんだ?」
「AとJのフルハウス」
俺はカードをほおり投げてガクっと肩を落とした。
「強いなあおめえは」
「ギャンブル強い人って性格悪いんだよー。スタンくん本当は悪いヤツだー」
「そうかもね」
やつはニカっと白い歯を光らせて笑った。
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