第3話 メイドロボのアレックス

 無許可製造宇宙船スネイク号。

 その名の通り蛇のように細長くぐねぐねと動きながら宇宙を飛行するいかした機体である。俺はこれを住居兼移動手段としていた。

「サルペンご主人様~」

 スネイク号居住区域のベッドで眠る俺の肩を誰かがゆする。

「ご主人様―早く起きてー朝ごはんの準備してよー」

「……まだ眠い。ってゆうかご主人様にそんなことを頼むヤツがいるか」

 起きしぶる俺を彼女は『ベッドごと持ち上げて』壁に向かってブン投げた。

「ぐおおお……! この馬鹿力め」

「目ェ覚めた?」

 ふわふわのライトブラウンの髪をポニーテールに結んで、水色を基調にしたメイド服を来た女の子が満面の笑顔で目の前に立っていた。彼女の名前は『アレックス』という。

「ベッドの足が折れちまったぞ。寝返りするのに便利になったなァ」

「ごめんなさーい音声が認識できませーん☆」

 一見してはほとんどわからないが彼女は人間ではなくメイドロボだ。十年ほど前にゴミ類投機惑星に捨てられていたところを拾って修理したもので、製造されたのは一〇〇年も前らしい。一〇〇年前といえば銀河戦争の時代であり、さきほどのように異常な怪力を持つのは護身用としての役割も兼ねていたからであろう。

「いいから早くごはんにしようよー。ご主人様も好きでしょ? ごはん」

 造形、機能ともに非常にハイレベルだがAIに少々問題があるようだ。


「おいしー幸せー☆」

「お気に召してなによりだ」

 アレックスは簡単なボタン操作で(やつはなぜだかこれを覚える気がない!)宇宙船が自動的に用意してくれる朝食を美味しそうに食べる。メニューはスクランブルエッグにトースト、サラダにウインナーといった永遠の定番品だ。

「おまえにはこんなもの必要ないはずなんだけどな」

「ええー? でもおいしいからなー」

 一般的なメイドロボにも社交の場に出るときのために食べ物や飲み物を口から入れて体内に保存できるようにはなっているものがあるが、当然栄養になどならないしそれを欲するようなこともない。製作したやつがわざわざ味覚の機能をつけて、食べ物を欲するようなAIを設定したのだろうか? まったくもって趣味がよい。

「そのせいで食費が二倍かかって大変なんだが」

「ごめんなさーい音声が認識できませーん☆」

 システム音声のようなセリフが明らかに口辺りにある発音機構から発せられた。

 まァいつも長くて退屈な宇宙の旅につき合わせており、数少ない楽しみを奪うのも可哀想なのでよしとしようか。第一この幸せそうな顔を見ては怒る気にはならない。

「ごちそうさまでしたー☆」

「おそまつ様」

「ありがとねー☆」

 ちゃんとお礼を言えてエライので頭を撫でてやった。

「ところで俺もハラが減ったんだが、食べさせてくれないか」

 そういって目の前に置かれた手つかずの御膳を指さす。

「えー? 甘えんぼさんだなー」

「仕方ないだろう。両手がコレじゃあスプーンも持てん」

 そういって片方はぶっ壊れた拳銃、もう片方はドリルとなった両手をテーブルに置いた。

「義手はー?」

「この間の闘いで両方壊しちゃった」

「またー? そもそも改造するにしても一か所にすればよかったのにー」

「そういうなよ。強くなりたくて必死なんだ。三か所改造すればその分戦力も三倍になるじゃないか」

「そう単純なものでもないと思うけどー?」

「まァまったく後悔してないと言えばウソになるけどさ。とにかく頼むよ」

「しょうがないなー」

 アレックスは座っていた椅子を俺の隣にもってくると、スクランブルエッグをスプーンですくって俺の口に運んでくれる。メイドさんにごはんをあーんしてもらうとは非常に快い。だがその作業は極めて雑で、俺が咀嚼するタイミングや時間など一切考慮しないものであった。

「ウボァ! アレックス! もっとゆっくり――」

「そうだ。ウインナーってさあ。お口よりも鼻からのほうが食べやすそうじゃない?」

「ムモーーーー!」

「あっ電話だ」

 ちょっとピリ辛なウインナーを鼻にブチこまれ悶絶する俺をヨソに、アレックスはかいがいしくも電話応対のために立ち上がった。

「はいはーい。こちらスネイク号でーす」

「スタンくん? 久しぶりー元気―?」

「今ご主人様にごはん食べさせてあげてたー。ご主人様ったらね、鼻からウインナー食べられないんだよ。変だよねーあんなにちょうどいい太さなのに」

「あはは。ごめんなさーい音声が認識できませーん☆」

「ん? はいはい。わかった聞いてみるね。ねーご主人様、今晩ヒマー?」

 亜光速通話装置から耳を離し俺に尋ねる。

 俺はゲホゲホとむせながらも首を縦に振った。

「大丈夫だってー。場所は? いつもの酒場? オッケーそんじゃあねー」

 アレックスは通話装置を停止しテーブルに戻ってきた。

「おいおい。要件ぐらい聞いてから切れよ」

「えーいいじゃん。スタンくんだよ? 要件なんてわかりきってるじゃん」

「まあそうだけど」

「さて。ごはんのつづき食べさせてあげるねー」

「ああ。だが鼻から食わせるのはやめてくれ」

「いいよー。アレックスご主人様が嫌がることは絶対にしないって決めてるからね☆」

「……そいつはありがてえ。涙が出るほど嬉しいよ」

「あーホントに泣いているー。照れるよー☆」

「おめーが食わせたウインナーのせいだよ!」

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