第2話 ライトネス・ダイヤモンド
第五銀河人口小惑星No.001 通称『ダイヤモンド・サテライト』。
その中心部には全館イミテーションダイヤモンドで製造された恐るべき建造物『ダイヤモンドキャッスル』がそびえたっていた。
普段は静かなるこの城が今晩は大変に賑わっていた。屋外広場は立錐の余地もなくぎゅうぎゅう詰め状態。ほとんどが女性で、みな一様にサイドと後ろを刈り上げて長く伸ばしたトップを右側に垂らすという髪型をしていた。
人々は青く輝くステージを見上げながら主役の登場をいまかいまかと待ち構えている。
みんなの期待と興奮が頂点に達したその瞬間。
『皆様! 大変長らくお待たせ致しました! ただいまより『ダイヤモンド・カイ』政治集会を開始させていただきます!』
聴衆たちは拍手、喝采。興奮のあまりかすでに失神しているものもいる。
『それではさっそく! ライトネス・ダイヤモンド様の入場です!』
ステージに設置された青く透き通った階段にスポットライトが当たり、そこから一人の男性がゆっくりと降りてくる。彼は青いスーツに身を包み、サイドと後ろを刈り上げて長く伸ばしたトップを右側に垂らすという髪型をしていた。
――ライトネス! ――ライトネス! ――ライトネス!
聴衆からは拍手と黄色い声援が送られる。
しかしこういった政治集会の宿命か一部にはブーイングも発生しているようだ。それは主に男性から発せられていた。
ライトネスと呼ばれた男はマイクを握る。
『皆様ごきげんよう。ライトネス・ダイヤモンドです。素敵な女性がたくさんいる中で演説をさせていただきまして光栄です。みなさま楽しんでいってください。
――まずは嘆かわしいお話から始めざるをえません。いま、とんでもない政策が打ち出されていることをご存じでしょうか?』
客観的にみて彼の演説はほとんどが他の政治家の悪口であった。
しかし聴衆たちは拍手喝采。
やがて演説は結びに入る。
『今からおよそ一〇〇〇年前にわたくしの先祖が『有害汚物書物禁止法』という素晴らしい法律を制定しました』
「なんにも素晴らしくねえぞ!」
そのときひとつのヤジが飛んだ。男性の声だ。周囲の聴衆たちは彼をギロリと睨みつける。
『それから長年の努力の甲斐あって有害汚物書物は過去のものとなりつつあります』
「おまえの人気も過去のものになりつつあるぞ!」
「化けの皮はもうはがれてんだよ!」
それをきっかけに会場の端々からヤジが発生する。
『ですがまだまだ汚物書物を隠し持っている輩がいます。わずかですが汚物書物を製造しているものがいるという情報も耳にします』
「いいぞ! もっとやれ!」
『われわれは約束します。私の生きている間に有害汚物書物を完全に廃絶することを』
「おまえが廃絶されろ!」
その瞬間。ライトネス・ダイヤモンドの額が金色に光った。
「なんだアレは!」
「気をつけ――――――ぐおおおおおお!」
雷光がほとばしり、神の裁きのごとく野次を飛ばしていた男たちの頭上に落ちた。男たちは死んだ。中には別に野次なんか飛ばしていない男もいたがそいつらも死んだ。
『こういった言論弾圧・集会妨害に我々は屈しません!』
聴衆から今日一番の大歓声が送られる。
演説の終了後。ダイヤモンド・キャッスル内の会場にてパーティーが行われていた。酒と美食それに女の物色を愉しむライトネスの元に彼の秘書が現れた。どう考えても能力以外の部分で選ばれたと思いたくなるくらい異様に色香のある女性だった。一応スーツ姿であるがスカートが異様に短いし、シャツのボタンを開きすぎて豊かな胸が丸見えである。
「ライトネス様」
「なんだ? 重要な要件でなければあとにしろ。見ての通り人生を満喫しているところだ」
「最上位の重要要件です」
「なに?」
ライトネスは秘書を廊下に連れ出した。
「要件はなんだ」
彼女の後ろに回りシャツに胸元から手を突っ込んだ。別に意味はない。こうするのが常であったというだけだ。
「とうとう『宇宙オタクサルペン』の居場所を掴みました」
「おお! やったか」
「はい。ヤツの情報を持っていたゴロツキを党員に引き込みました」
「なるほど」
「どうします? すぐに捕らえますか?」
「いや。前から考えていたのだが。私に名案がある」
「それは?」
「ほらもう一人いるだろう。おおまかにだが居場所を掴んだ宇宙のゴミが」
「はい。ある意味でサルペンよりも危険な存在の」
「やつらを一網打尽、というかサルペンを動かして一か所にまとめてしまうのだ。やるべきことはわかるな?」
「はい」
彼女は娼館で働いていたところをライトネスに気に入られ、好きなときにいつでもはけ口にしてやろうと秘書に登用された。だが実は優れた能力をもっており現在では『通常』の秘書としても手腕を発揮している。
「では動け」
「承知いたしました」
「ああそれとな。今日演説をした広場のタイルを新しくしておけよ」
「タイルですか?」
「汚らわしいからな、男の死体が転がった跡のタイルなんて。俺は男の死体が世界で二番目に嫌いなんだ。一番嫌いなのは生きている男だ」
「……承知致しました」
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