第40話 対登古島作戦会議③
※会議の続きです。
――
渚砂「まぁ、奏夢が教祖様になったらハーレム確定って話は置いといてだ。それでどうするんだ? 状況をまとめると、下級生での立花の寝取り女の噂は以前はびこったまま、登古島の交友関係は以前よりも広がりを見せていて、奴の目的は瀬鱈奏夢を潰したいってことか?」
千奈「けど、その目的の理由が何なのかさっぱりなんだよね。それが分かれば対策とかも色々と分かるんだけど」
奏夢「うん、そこが僕も分からないところなんだ。追加情報としては、登古島は僕の事を小学五年生よりも前の段階で恨んでたっぽいんだよね。さっき説明したけど、登古島と僕は小学五年生の春に会ったのが初なんだ。登古島が転校してきて、初日から絡んできた……その段階で既に彼女は何らかの心の傷を負っていた可能性が高い」
隆「え? そんな前から?」
奏夢「ここに関しては、ほとんど確定だと思って貰っても構わない」
渚砂「……普通じゃ信じられない情報だけど、実績のあるメンタリストの奏夢が言うんなら本当なんだろうな。ってことは何かい? 登古島はその為だけに転校してきた可能性があるってことか?」
夏恵「流石にそれは無いでしょ。現実味が無さすぎるわ。転校の理由は彼女が言っていた通りよ。お父さんの仕事の関係で昔住んでた加茂鹿に戻ってきただけ。彼女がなぜ奏夢君にちょっかいを出しているのかは分からないけど。いいとこ、小学生の時の仕返しなんじゃないの?」
月葉「仕返しって、奏夢君は二年間もイジメられてたんだよ? 私もこの一ヶ月イジメられてたけど、イジメって本当にキツイんだよ。それを身代わりになってくれたなんて、感謝こそすれど仕返しなんて絶対に有り得ない! あれがどんなにキツイか、夏恵は分からないんだよ!」
夏恵「私は月葉が守れればそれでいい。登古島は夏恵をイジメから守るって言ってくれた、その言葉を信じるだけよ」
月葉「それでも――」
御堂中「……私は今回のイジメどうこうに関しては一切何も知らなかったから、言える立場じゃないって思ってる。だけど、夏恵はもうちょっと視野を広く持った方が良いと思うよ」
夏恵「何よ、それ」
御堂中「人の発する言葉が全部真実だとは思わない方が良い。嘘しかない言葉を使う人も世の中にはいるんだよ。登古島って人間を私は知らないけど、その人が奏夢よりも信じられるかって言ったら、私には信じる事が出来ない」
夏恵「そりゃ奏夢君は教祖様なんだもんね、教祖様の言葉なら全部信じられるでしょ? きっと貴女は奏夢君が脱げっていったら脱ぐし、死ねって言ったら死ぬんでしょ? そんな薄っぺらい人の言葉なんか信じること出来ないわよ」
御堂中「……それは、そうだけど」
奏夢「いや、そこは否定して欲しい」
千奈「また話が脱線しかけてるよ。でもね夏恵ちゃん、月葉ちゃんに対する噂の出所が登古島さんじゃないのかって可能性、まだあるんだよ」
夏恵「……なんですか?」
千奈「それはね、私や渚砂、澄芽さんといった二年生全員がその噂を知らないってことなの。多分二年生だけじゃない、三年生も知らないと思うな。私達それなりに上級生とも付き合いあるけど、一度も一年生の間に流れてる噂を聞いた事がないから」
隆「ああ、そういや剣道部の三年の先輩達の中に一年の女子と付き合ってる人いるけど、その先輩から月葉さんの噂とか聞いたことないな。つまりあれか、彼氏彼女であってもその噂を言わなかった何かがあったってことか」
千奈「うん、一年生だけに噂を絞った理由。それはね、私達がいるからだと思うの」
渚砂「アタシ達がいるから?」
千奈「だって、そんな噂流れてきたら私だったらすぐに否定しちゃうもん。そして学校では二年生の方が一年生よりも強いでしょ? 二年生、三年生が噂を否定したら、それだけでこの噂は信ぴょう性が皆無になって霧散しちゃう。それをさせない為にも、登古島さんは一年生限定で噂を流したんだと思うんだ」
奏夢「……そんな事まで考えて」
夏恵「噂の内容が嘘だという事実を把握している二年生には聞かれたくなかった。その事を知っていて噂を操作できる人物が噂の出所であり、その人物こそが登古島さんってこと……か」
隆「流石にここまで出揃ってくると、頭から否定は難しいな」
渚砂「ってことはあれか、アタシ等が噂を否定してやればいいんだな?」
千奈「多分、それで一気に沈静化すると思う。明日早速テニス部の子達全員に言うつもり」
渚砂「……前は無駄だろうって言っちまったけど、一斉に動くんならその方が良いわな。んじゃ、アタシも付き合いのある奴片っ端から連絡してやるか。他校にまでいっちまうけど別にいいよな? あと御堂中、お前も協力しろよ」
御堂中「奏夢君の為なら、何でも」
月葉「うう、その言葉、嬉しいけど何か嫌だなぁ」
奏夢「あはは……でも、そこに好きとか愛してるって感情はないから。ね、青森先輩」
千奈「……うん、私と一緒だね。澄芽さんさ、今度一緒にお話しようか? 意外と私達馬が合うかもしれないよ?」
御堂中「そう、なのかな。……そう、なのかもしれないね」
渚砂「アタシはちょっとまだ許せてないけどな。でもま、被害者本人が言うんなら、いいか。あとそうだ、ついでに言っといてやる。夏恵」
夏恵「な、なんですか」
渚砂「お前、王様ゲームの事でそこの隆って男と喧嘩してるみてぇだけど、あの場で断れる奴なんかいなかったって言うコイツ等の言葉は本当だぞ。一応その場にアタシも千奈も居たからな、そこの所は証言しといてやる」
隆「瀬々木先輩……! 夏恵! 本当にすまねぇ! 土下座しても足らないかもしれねぇが! どうか許して欲しい!」
渚砂「はは、いきなり土下座すんなよな。……一応な、責任って奴だ。一年坊主が可愛がられてるなって思っちゃいたけど、止めはしなかったからな。それに、同じ奴にキスされたんだ、これでお互い様だろ?」
夏恵「それは……うぅ、分かりましたよ」
隆「夏恵!」
夏恵「でも、この一回だけですからね! 次はもう二度とないですから!」
隆「絶対にしねぇ! 二度としねぇ! もししたら死んでもいい! 夏恵ー!」
夏恵「来ないで! まだ会議終わってないから! 終わったらね!」
奏夢「あはは……」
月葉「……良かった、二人仲直りして」
奏夢「うん、でも、二人が仲違いになってたのも僕のせいでもあるから。ちょっと、責任感じちゃうな」
千奈「違うよ、奏夢君の責任じゃないよ。登古島さんが原因なんでしょ」
奏夢「……結局、なんでこんな事するのかな」
渚砂「結局そこに戻ってくるって事はよ、やっぱり直接聞くしかねぇんじゃねぇのか?」
奏夢「……そうだね。彼女が晴島高校に転入してきてからずっと逃げてたけど、もう、逃げてる場合じゃないのかもしれない」
月葉「奏夢君」
奏夢「うん、会おう、きちんと話をしよう。そうしないと、多分永遠にこの問題は解決しない」
千奈「その場合、私達も同席しようかな。証人は沢山いた方がいいでしょ?」
御堂中「私も……多分、登古島って人は私の存在に気付いてないから、公平な第三者って事で参加する」
隆「俺と夏恵もだな」
奏夢「……皆、本当にありがとう」
渚砂「よっし! ちょうど二時間だ! 方向性も決まった事だし! この会議もこれで終わりだな! そんじゃこのままカラオケでも行くか! 御堂中! お前も来い!」
――
こうして、十時から始まった対登古島作戦会議は、濃密な二時間をもって無事幕を閉じる事となった。カラオケからボーリング、ダーツと皆で遊び、結束力を高めた僕達は強い意志を持ったまま月曜日を迎える。
一年生の間に流れていた月葉の噂は、千奈を始めとした二年生が沈静化に努め、当の本人の謹慎もあってか、ものの数日で噂自体が消え去る事に。月葉の机も真新しいものに差し替えられ、彼女の復学を今か今かと待ちわびている様に見えた。
けど、僕はまだ登古島との直接対決に踏み出せないでいる。
逃げている訳ではない、少しでも勝ちへの導線を増やす為だ。
登古島は僕の恋人である月葉が学校に来れていない状況に満足しているのか、噂が霧散した今も特に気に病む事はなく、平然と日々を過ごしている。そもそも噂の出所が彼女だと分かっている人は少ない、噂が否定されたとしてもダメージは皆無だ。
その間、僕は渚砂さんを通じ、登古島の知り合いである人へとコンタクトをお願いした。
もしかしたらその人なら、僕の知らない登古島を知っているかもしれない。
そんな淡い期待を抱いてのお願いだったのだけど。
「奏夢、ちょっといいか」
「渚沙さん、どうでしたか」
「……可能性の段階ではあったんだがな、結果はお前の予想の遥か上に行っちまうかもしれないぞ。ただ、いくつか確認しないとダメだ。それが終わってからの方がいい」
「そう、ですか。分かりました」
調べた結果、登古島ルエムが僕を恨む理由、その全貌が見えてきてしまった。
知らなかった方が良かったのかもしれない。
知ってしまったが最後、僕は多分、今後一生彼女の事を憎む事が出来なくなる。
それでも、現在の状況を変えないといけない。
決戦の日が、迫る。
――
次話「誰も気づかない彼女の心の底①」
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