第39話 対登古島作戦会議②

 僕が借りた会議室は公民館二階、一時間千円の三十人部屋。お値段の割にカラオケよりも安く借りれて、月葉がお得だねって驚いてた。機密性の高い話し合いの場や沢山の人が集まるには、こういった場を利用するのも一つの手だ。 


 長机と椅子はみんなで運んで、なんだかクラス会みたいな雰囲気の中、会議の場を設ける。

 青森先輩と渚砂さんも笑いながら作業し、御堂中さんも自分の椅子を運んでいた。

 隆は夏恵さんに何か言葉を掛けようとしていたが、それはまだ早いからって僕が止める。


 かくしてものの数分で対登古島作戦会議の場は整えられ、僕と月葉は皆に飲み物を配り、机の真ん中に軽食を広げた。重苦しい会議の場ではなく、あくまで今後を見据える為の情報交換の場だから、最近の雰囲気から一転、この会議は明るく過ごしたい。


「さて、ではまず、皆さんの貴重なお休みを潰してしまい、誠に申し訳なく感じております。この場は情報交換の場です。いま僕が知っていること、月葉の身に起こっていること、それら全てを公表し、そして検討していけたらと思います。忌憚の無い意見でも結構です、僕に直すところがあったら何でも言って下さい。拙い挨拶ではありますが、宜しくお願いします」


 かくして始まった対登古島作戦会議。


 小学生時代にあった僕と登古島の話から始まり、月葉の身に起きたイジメ事件。更には夏恵さんに対してまで魔の手を伸ばしていた事実。青森先輩に対しての接し方に、その時漏らした言葉。


 それら情報を精査すると、登古島ルエムという人物がどれだけ用意周到で、どれだけ僕のことを憎んでいるのかが浮き彫りになった。ちょっと揶揄うとか、何か気に入らないとか、そんなレベルの憎悪ではない。


 僕という人間が生きている事が許せないような、そんなレベルだ。

 ここまで来た所で、青森先輩が口を開く。


 ※七人での会話なので、ここからは頭に人名を入れます。


 ※長方形に机を組み、奏夢、月葉、夏恵、澄芽の三人が座り、反対側に隆、渚砂、千奈の順に座っています。渚砂の側に座りたくない澄芽や、隆の側に座りたくない夏恵等々の思惑あっての席順です。ちなみに、夏恵と澄芽の間にはかなり距離が空いていると思って下さい。


――


千奈「……何だか、凄い執念を感じるね」


奏夢「うん、はっきり言って異常だ。自分を殺してでも僕を殺そうとしている」


渚砂「でもよ、そんなのに何の意味があるんだ? そこまで回りくどい事なんかしないで、直接言えばいいのにな」


千奈「直接言うなんて、そんなの出来るの渚砂くらいのもんだよ。大抵は黙ったまま終わりにするか、そのまま隠して終わりにしちゃうと思う」


月葉「……私も、そう思います。どんなに相手が憎くても、直接は無理、かな」


渚砂「そっかぁ? 今回のだってこんな会議の場を設けるんじゃなくって、登古島を呼び出してぶん殴っちまえばいいんだよ」


千奈「ちょっと渚砂は黙ってて」


隆「すっげ……豪快な人なんだな」


奏夢「あはは……でも、渚砂さんらしいと言えば渚砂さんらしいね。さすがにそんなことしたら、月葉が自宅謹慎じゃなくて停学になっちゃう恐れがあるから、それは却下でお願いします」


月葉「最悪退学かなぁ、やだな、私、大学行って運動系の先生になるのが夢なのに……。奏夢と結婚してそれで家庭に入るのも、一つの手かもしれないけど」


千奈「……」


月葉「あ、ごめんなさい。続き、どうぞ……」


夏恵「惚気も時と場所を考えなさいな。登古島さん、味方と接する時は物凄く優しいんですよね。月葉のイジメ対策もしてあげるって言ってる訳ですし、そもそも彼女がイジメの発端かどうかすらも確定してないんですから、決めつけで物事を進めるのはどうかと思います」


千奈「そう言われちゃうと、そうなんだけど」


奏夢「いや、イジメ自体が登古島が扇動してる可能性が物凄く高いんだ。可能性なんて言葉じゃない、僕からしたら確定事項だと思う」


夏恵「どうしてそう思うの?」


奏夢「状況証拠にしか過ぎなかったけど、登古島は月葉が先生たちに連れ去られたあと、僕に対してざまぁって言ったんだ。もちろん、先生達に聞こえない様にね」


千奈「それに、私と会話してる時に瀬鱈君に合う女なんていないって漏らしたのよね。私はてっきり渚砂の親友の私が月葉ちゃんに彼氏を寝取られて、その恨みを代わりに晴らそうとしてるのかなって思ってたんだけど……でも、それだったらそんな言葉出てこないと思うんだ」


夏恵「証拠としては弱いですよね。彼女が私に突き付けてきた、隆君が御堂中さんとキスしてる写真ぐらいインパクトがないと、とてもじゃないですけど状況は変わらないと思います」


隆「うぐ」


澄芽「たかがキスぐらいで……」


夏恵「たかがですって? 本当に信じらんない。御堂中さんのモラルって最低最悪じゃないですか。他の人とキスする事になんら抵抗とかないんですか?」


澄芽「ないね」


夏恵「口ばっかり……! じゃあ今すぐ誰かとここでキスできるって言うんですか!? みんなの前で他の人に見られながら! 無理ですよね!? そんなの出来るはずがないですよね!」


澄芽「……うるさい口だね」


夏恵「え、ちょ、ちょっと? や、やめ――――! ん――――!」


月葉「え、うそ」


隆「マジか」


渚砂「はは、コイツのこういうとこは憎めねえんだよな。でも、お前が千奈にした事は忘れてねぇからな。今日は奏夢たちの一大事だからこうして席を囲んでいるが、本来ならお前の顔も見たくねえって事を忘れるなよ」


澄芽「……分かってる、許してもらえるとは思ってない。私もアンタ達に会いたいとは思わなかった。ここに来た理由は一緒だよ、私を一番理解してくれてる奏夢が困ってるんだ……。あの時抱き締めてくれた恩返しがしたい、奏夢の助けになりたいんだ」


千奈「澄芽さん…………ん、ちょっと待って、どういう意味?」


月葉「私も訊きたい、奏夢君、どういう意味?」


夏恵「私も気になる」


渚砂「ぎゃはははは、何だよ奏夢、お前結構手広くやってんだなぁ!」


隆「なんだよ、俺以上じゃねぇか」


奏夢「ちょ、ちょっと待って! ホント待って! ちゃんと説明するから!」


月葉&千奈「早く」


奏夢「えっと……あの音楽室事件の後に、僕は御堂中さんを呼び出したんだよね。冨樫が主犯だったけど、御堂中さんが一枚噛んでるのは間違いなかったからさ。そのままにしておく訳にはいかないって思って、二人で話し合いをしたんだ」


千奈「えー、全然気づかなかった」


月葉「それで、どうして抱き締めたの」


奏夢「……今は随分と変わったみたいだけど。その時の御堂中さんは感情が無かったんだ。全部嘘でさ、喜びも悲しみも、怒りも全部が嘘だったんだ。そんな御堂中さんを見てたら、その、可哀想に思えちゃって、それで」


澄芽「そう、あの時抱き締められた温もりが私を変えたんだ。だから、昔みたいに節操なく抱かれたりはしなくなった。キスをするのも男とはしない、女はまだ気にならないけどね」


夏恵「気にしてください」


千奈「……感情が、そっか」


月葉「え、そんなの奏夢君分かるの? 凄くない?」


渚砂「奏夢はメンタリストだからな、それぐらい出来るんだろ」


月葉「へぇ……何か、私の知らない奏夢君が沢山出て来て、ちょっとショック」


奏夢「ごめん」


月葉「ううん、でも、これで全部知った訳だから、ちょっと安心」


御堂中「実際凄いと思う。今まで誰にも気づかれなかったのに、奏夢は私の心の奥を見抜いたんだから。奏夢君が教祖様になったら、私は間違いなく信者になるよ。この身も全財産も捧げても良いと思う」


千奈「それは、私もかな。死にたくなってた時に助けてくれた奏夢君は、本当に神様みたいな人だったから」


月葉「わ、私だって一番の信者になりますから!」


隆「……奏夢、宗教始めるか」


奏夢「始めないよ」


――

次話「対登古島作戦会議③」

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