第38話 対登古島作戦会議①

瀬鱈奏夢

――


 やっと訪れた週末日曜日。秋から冬へと季節が変わり始める十一月は、夏服では寒く、冬服だと暑いなんとも言えない合着の期間。僕もタンスの中から引っ張り出してきた長袖と半袖の重ね着で、寒さと暑さの両方を凌ぐ様なスタイルだ。


 ぶっちゃけ、今はおしゃれ何かどうでもいい。

 事前の連絡では全員来てくれるってなってたけど、はたして。


 月葉は学校から自宅謹慎の処分が下されてしまい、しばらくは学校に行くことが出来ない。

 かといって何もないでもなく、超大量の課題が山積みなのだとか。

 人権作文も毎日書かないといけないって、泣き言を毎日の様に連絡してくる。


 それに対して登古島は何もお咎め無し。まぁ、被害者なのだからそれが正しいのだろうけど。

 僕と月葉の心の中では、登古島が一番の加害者だ。


「あ、来た来た、おーい奏夢!」


「随分早いね、借りたの十時からなのに」


「何だかわくわくしちゃって。それに、外にでるのも久しぶりで何かね! あ、ほら、夏恵もこっち来て! ちゃんと挨拶しないとだよ!」


 ベレー帽に厚手のセーター服にミニスカート姿の月葉は、結構なオシャレさんだ。

 そんな月葉に呼ばれて物陰から僕を見る夏恵さんは、何て言うか漆黒だった。

 上から下まで全部黒、ゴスロリではないけど、何かそれを連想してしまう。


「瀬鱈君」


「うん」


「私が来たのは月葉の為だから。貴方と月葉が別れた方が良いって伝えたのも、月葉を思っての事なの。私が一番大事なのは月葉、それを理解して欲しい」


「うん、それで良いと思ってる」


「あと、隆君が来ても何も会話しないから」


「……それも、解決できるといいよね」


 あれから一言も口をきなかい二人は、同じクラスなのに絶壁と言った感じで。

 隆の落ち込みっぷりは、言葉じゃ言い表せない程に沈みきっていた。

 やっぱりキスは断るべきだったんだ……まぁ、今更だけど。


 噂をすれば何とやらで、死刑判決が出たみたいな表情の隆が、足取り重く現れる。


「……うっす」


「隆も、ありがとうね、昨日も部活だったんでしょ?」


「全然、大丈夫……夏恵と仲直りできるなら、何でもする」


 隆が現れた瞬間に、夏恵さんは姿を消した。物陰に隠れただけだろうけど、早業だ。

 渋めのジャケットに身を包んだ隆は、学校の沈み具合そのまま。

 重苦しい空気が僕達を包み込んでいた時に、爽やかな春の息吹の様な人が現れる。


「みんな早いね、あ、渚砂もほら、おいでよ」


「ったく、なんでアタシまで」


「いいから、渚砂の後輩の件なんだから、渚砂も参加するべきだよ」


「別に直接の知り合いじゃないっつーの、知り合いの後輩って言ったはずだぜぇ? ……よ、奏夢、久しぶり、何だかんだで音楽室に殴り込んだあの日以来か」


 千奈と渚砂さん。渚砂さんは露出度がかなり高いギャル系ファッションで固めてきたけど、千奈はロングタイトスカートに肩からポンチョを着た、秋服ファッションって感じ。落ち着く感じの千奈は僕を見ると、ニッコリと微笑む。


「……久しぶり、かな」


「こうして会うのは、文化祭以来になるよね」


「なんか大変みたいだけど、ちゃんと月葉ちゃんと仲良くしないとダメだからね? じゃないと、私が退いた意味ないじゃんか……って、湿っぽくなっちゃいそうで、ヤメヤメ!」


 ぱたぱたと両手を翼の様にして、千奈は僕の前から月葉へと移動する。


「月葉ちゃんも久しぶり」


「あ、はい、その……やっぱり、青森先輩可愛いですよね」


「え? そんな事ないよ、月葉ちゃんの方が可愛いから」


「い、いや、そんなこと、無いです」


「……ね、可愛いよね、奏夢君?」


「そこで僕にふるんですか。当然じゃないですか、月葉が一番可愛いですよ」


 意地悪そうな顔をしながら、千奈は僕に無茶振り……いや、的確に話題を振ってきた。っと、気を付けないと、千奈じゃない、青森先輩だ。青森先輩は僕の返事を聞いて「それでよし」って言ってるけど。感情の色を見える僕からすると、何とも言えない気持ちにさせてくれる。


 さて、時刻は間もなく予約していた十時になるけど。

 僕がここに来るようお願いしたのは、もう一人いる。


 彼女が来てくれないと、ある意味この会議の意味が無くなってしまう。

 電話した時は来てくれるって言ってたけど……。


「……あ、奏夢、来たよ」


「ん、そっか。じゃあ予め言っておかないとな。すいません、渚砂さん、夏恵さん」


 名前を呼ばれた渚砂さんは「あん?」って言いながら僕を見る。

 夏恵さんは隆がいるからか、物陰から「なに」って声だけの返事。


 「え、夏恵いるのか? 夏恵! ごめーん!」って叫び出した隆を黙らせて、僕は再度二人へと忠告を出した。


「この場に呼んだもう一人、それは御堂中さんです」


「……なんだと」


「ヒッ」


「ごめんなさい、渚砂さんからすると青森先輩の宿敵の様な存在ですし、夏恵さんからしたら隆とキスをした最悪の相手だって思います。ですが、彼女にも絶対にこの場にいて欲しいと、僕がワガママを言いました。絶対に揉めないと約束してください、叩きたかったら僕を叩いて下さい! 僕だったら何回でも殴っていいですから――ぐへぇ!」


 容赦のない渚砂さんの一撃が、僕のみぞおちへと叩き込まれる。

 そういえばこの人、扉を壊そうとした時にも凄い蹴りを入れてたっけ。


「一回で我慢しといてやる。夏恵だっけ? お前は」


「ヒッ、い、いえ、私は、結構です」


「そっか……じゃあ、代わりに」


「渚沙! それ以上したら奏夢君死んじゃうから! 話し合いも何も出来ないでしょ!」


 千奈の必死の食い止めで、二撃目は何とか叩き込まれないで済んだ。

 渚砂さんの蹴り、中国拳法のつま先蹴りに似てるんだよな、みぞおちに突き刺さる感じ。

 一言で言うと、死ぬ。あ、千奈って言っちゃってた。気を付けないと。


「奏夢、大丈夫?」


「月葉……うん、大丈夫。それよりも、来てくれてありがとうね、御堂中さん」


 相変わらずの長い髪は、結構激しく梳いてあって。

 今日の化粧はそんなに派手目じゃない、ナチュラルメイクな感じだ。

 多分、いまの御堂中さんを一番輝かせるお化粧なんだろう。


「本当なら、来たくなかった。でも、奏夢のお願いだから」


「……本当にありがとう、じゃあ、そろそろ時間だから、会議室に行こうか。一応お菓子と飲み物も購入してあるから、適当につまみながら……ん? どうしたの月葉?」


「後で御堂中さんとの仲、説明してよね」


「あはは……うん、いいよ。そこら辺も含めて全部説明してあげる。さ、行こうか、会議の始まりだ」


――

次話「対登古島会議②」 

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