第18話 御堂中澄芽
御堂中澄牙
――
文化祭なんて何が楽しいんだか。男子共は私が適当なメイド服着てへらへら笑ってればいいだけなんでしょ? それって普段からしてる事と何ら変わらないんだけど。むしろ相手をしなくていいから普段よりも楽。楽っていうか、物足りない。
もっと刺激が欲しい、楽しい事がしたい。それには悪い事をしないといけないんだ。
夜中に親の目を盗んでするお出かけとか、お店に飾られた商品を盗んだりとか。
悪い事は楽しい、成功した時のスリルは本当にたまらない。
でも、この年齢になってスリルと同じぐらい楽しい事を見つけてしまった。
ただのセックスじゃない。彼女がいる男とするそれは想像以上の快楽を味わえる。
冨樫の事を誘ったのも私だ、アイツは元々こっち側の人間だって気付いてたから。
「千奈のこと、好きじゃないの?」
「好きだ、けど、抱かせてくれないから」
「……じゃあ、千奈だと思ってしてもいいよ?」
「最初からそのつもり」
おかしかった、私を抱いてるのに、私を抱いているとは思っていない。
いつだって冨樫が抱いているのは仮想の人間だ。私じゃない。
でも、それでも別に構わなかった。
クラスに行くと、渚砂が笑いながら私に話しかけてくる。
千奈もそれを聞いて小さく微笑んでいる。
アンタの彼氏と昨晩一緒にいたのは私ですが?
それを暴露したらどんな顔をするのかなって、心の中だけで楽しむ。
冨樫だけじゃない、片思いしている男や、他に彼女がいる男も片っ端からアプローチして、そしてその全てと私は寝た。寝取られって言うらしいけど、私のしてる事はそれなのかな? でも、お互い気持ち良いんだから、何も問題ないよね?
別に奪いたい訳じゃない。
一緒に寝て馬鹿にしたいだけ。
彼氏なんか欲しいとは思わないし、男なんて単なる肉棒かATMだと思う。
だから、誰と寝ても抵抗の一切もしないし、誰とでもキスぐらいなら直ぐにできる。
「千奈が抱きたい」
私を抱きながらのたまう冨樫に、段々と嫌気が差してきた。
最初の内は千奈の彼氏を奪ったって言う快感があったけど、どうやらコイツは違う。
奪う以前に、恋愛感情の何かがおかしい。狂ってる。
……はは、私に言われる様じゃ、こいつも終わりだね。
渚砂に変装する何て適当な案を伝えてやったら、馬鹿みたいに乗りやがった。
女は誰にでも化ける事が出来るんだよ、渚砂だけじゃない、千奈にだってなれるさ。
千奈が別れ話を切り出してきた時は、冨樫に対して失っていた感情が少しだけ再燃してた。
なんだよ、コイツ、面白そうなこと考えてるじゃんって。
でも、狂人には狂人なりの、越えちゃいけない一線ってあるんだよ。
冨樫はそれを越えようとしている。
だから見捨てる事にした。
わざと見つかる様に渚砂と奏夢の二人に接し、学校にも警察にも連絡した。
千奈は腐っても友達だからね。
私が汚れる分には構わないけど、友達が汚れるのは黙ってられないんだ。
いずれ冨樫がチクるか、千奈が私の名を出すかって思ってたけど。
事件から一週間、嘘みたいに私は普段と同じ生活を送っている。
冨樫の言葉は元々当てにならないだろうけど、千奈が何も言わないのは予想外だった。
文化祭なんかこれっぽっちも楽しくない。メイド服の下に何も穿かなければ楽しめるかも? けど、そんなのはもう飽きたし。刺激が足りない、こんなに何も無いのは久しぶりだ。
そんな気怠い朝を迎えた私の下駄箱の中に、刺激的な手紙が仕込まれていた。
差出人は、瀬鱈奏夢。
ああ、そうか、コイツが動くのか。
きっと今の奏夢は千奈の彼氏だ。
きゅんって股間がうずく。
遊園地のフリーフォールに乗って落ちる時みたいに、ゾクゾクしてたまらない。
私の根幹は不純にある。
まっとうな恋愛なんかしたいと思わないし、きっと出来ない。
出来るはずがない、もう何人と寝たのか分からないし、これからもその数は増えるだろうし。
侵入禁止になってしまった旧校舎を眺めながら、私は校外へと足を運んだ。
学校から少し離れた何もない名目上の公園、そこのベンチに座り、スマホをいじる。
何かあってもいい様に全部撮影してきた今までの男共の動画や写真。
その中にある唯一私が抱いてない男、瀬鱈奏夢。
ふふ、何をしてくるのかな。
楽しみ楽しみ。
――
次話「色の無い彼女」
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