第13話 親友の告白
放課後、本当なら僕は千奈の別れ話に付き添うつもりだった。話を切り出した冨樫がどういった行動をとるのか予想も出来ないし、とても危険だと思っていたから。
けれど、僕の前に彼女が立ちはだかる。
千奈の親友、昨日僕が怒鳴りつけてしまった女性。瀬々木渚砂。
彼女の色は……青だ。
「昨日言った通り日を改めたよ。少しは落ち着いたかい? ま、ちょっと顔貸しなよ」
千奈も決着を付けに行ったんだ、僕も瀬々木さんとの決着を付けないといけない。
疑問点は沢山ある、千奈に訊いても判明しなかった彼女の言う捻じれ。
それを把握するには、この人と情報交換をしないと。
「おいおい奏夢っち、お前大丈夫か? あの人ってこの前のカラオケの時の人だろ?」
HRを終えた直後に廊下で待つ瀬々木さんを見て、藤堂君が僕の服の裾を引っ張る。
「……そうだね、でも、大丈夫だよ。あ、そうだ藤堂君」
「なんだ――ぐへ」
「ごめんね、ありがた迷惑な情報をどうもありがとう」
僕のパンチなんてたかが知れてるはずだ。剣道部なんだから腹筋もそこそこ鍛えているだろう? だからじゃないが、千奈との喧嘩の原因を生んでくれた藤堂君に軽く一発だけ入れさせて貰った。
「な、なんの話よ」
「ううん、こっちの話。じゃ、またね」
「いやいや、俺殴られただけ! っておい!」
藤堂君の言葉に嘘はなかったけど、もうちょっとちゃんと観察して欲しい。嫌がる千奈を無理やりキスしたなんて、その場に僕がいたら絶対に……止められないか。僕は逃げたんだし。いや、後悔するのはやめだ、今は瀬々木さんの所に行かないと。
「ま、ここでいいだろ。ほら、座りなよ」
連れてかれたのは食堂に併設された談話室。昼間は三年生に占拠されていて使う事ができないこの部屋も、放課後となれば空き開放の状態だ。向かい合わせに席に着くと、瀬々気さんから口を開く。
「……まず訊くけど、今は落ち着いてるんだろうね?」
「それは勿論。僕からも訊きたい事が幾つかありますから、丁度いいと思ってます」
「OK、この前みたいに騒がれたら先生とかが来ちゃうからね。まず言った通り認識の確認だ。千奈とアンタの関係は? 私が知っている限り、千奈は中学生の頃から賢介と付き合ってる。それは今も変わらないはずだ。なのに最近千奈の周りにはアンタがいる。これは一体どういう事なんだ?」
「……端的に言うと、浮気関係です」
僕の言葉を聞いて、やっぱりね……と瀬々木さんは溢す。けれど、その顔に罪悪感はない。色は少しだけ薄まり水色へと変化した。
「千奈が浮気するなんて……一体何があったのさ? あの子は一途で優しい子のはずだよ? とてもじゃないが私には信じる事が出来ない」
「それはこの前伝えましたが、瀬々木さんが賢介と浮気したのが発端ですよ」
「……それだ、その言葉の意味が分からない。私と賢介が浮気って一体どこから出てきたのさ? いっちゃ悪いが私と賢介の仲は悪くもないが良くもないよ?」
「嘘はつかないで下さい、貴女と賢介がホテルから出てきた所を、千奈さんは見てるんですよ? 彼女が貴方達を見間違うはずがないでしょう?」
それを伝えると、瀬々木さんは睫毛が盛られた目をぱちくりとさせた。
「私が? 賢介と? 行く訳ないでしょう? 親友の彼氏を寝取るつもりなんか更々無いよ」
色が変化した、水色から黄色に。
黄色、つまりは驚き系の色。
嘘をついていない? 嘘を暴かれた人間は大抵怒りを伴うはずなんだけど。
という事は、どういうこと? 千奈の見間違い?
「……カラオケの時に瀬々木さんは少しだけ怒ってましたよね? 千奈が冨樫とキスするってなった時に。あの怒りはなんだったんですか?」
「え? そんな顔に出るぐらい怒ってた? あの時は千奈が賢介とキスしなかったから、それを少し怒ってたけど……。っていうか、最近千奈が賢介と仲悪そうにしてたから、せっかく私が身を引いたのにって思ってた」
「身を引いた?」
千奈の話では中学二年の時に冨樫から告白されたって言ってたけど、そこに瀬々木さんは一切話題には出て無かったはず。……あ、いや、違うか。一番最初は二人で見に行ったんだっけ?
「……アンタが千奈からどこまで聞いてるのか知らないけど、千奈と付き合う前に私と賢介は付き合ってたんだよ。中学一年の時にね。でも、アイツ千奈の事を好きになっちまったって言って来てさ。最悪って思ったけど、でも千奈も満更でも無さそうだったからね。ま、あの子はそのこと知らないけどさ」
「それで、身を引いたってこと? だから仲良くしてない二人に怒りを抱いてたって?」
それだとすると、色々と辻褄が合わなくなる。
いや、合わないもん
「だから言っただろう、捻じれてるって。大体アンタはどこから湧いて出てきたのさ? 千奈の交友関係は私も把握してるけど、アンタの存在は微塵も無かったはずだ。いきなり湧いて出て賢介と千奈の仲を裂いた男ってイメージしか持てなくてね、アンタに関しては常時怒りを抱いていたのは間違いない。というか、アンタの話を聞いてると感情が読めてるみたいだけど、どういうこと? メンタリストか何かなのかい?」
「……僕は、自殺しようとしていた千奈を助けた」
「……は? 千奈が自殺!?」
「瀬々木さんの言う通り、僕は人の感情が少しだけ読める。あの時の千奈は冨樫と瀬々木さんが浮気したと思い込んで、それを苦に自殺しようとしてた。それに気付いた僕が千奈を海に連れていって、それで……」
「……気付かなかった、あのバカ。なんで相談してくれなかったのさ……」
頭に手を置いて、長い髪をぎゅっと握り締める。
感情の色は、青だ。自身への怒りだろう。
「けど、冨樫が千奈を嫌っていたのは間違いないです。彼は千奈を見るたびに感情が……その、上手く言えませんが突き放す感じを出してましたから」
色の事を伝えるのは止めておいた。
あまり人に知られたくないし、伝えてしまうと情報の入手が出来なくなるかもしれない。
「……メンタリストのアンタが言うのなら、多少は信ぴょう性ってのがあるんだろうけど。私には信じる事が出来ないよ。身を引いた私の立場がないじゃないか……いいや、そんなのはどうでもいい、千奈は冨樫に訊かなかったのかい?」
「……ホテルで二人を見かけた時は、出来なかったと言ってました。けど、その後何度か冨樫に問いかけようとした節は見受けられます。適当にあしらわれてましたけどね」
一番最初に千奈を見かけた時、あの時がきっとその時だ。
冨樫に問い詰めようするも邪険にされてしまっていた千奈は、死を決意した。
「そのホテルだよ、一体なんなんだ……。でも、冨樫のその態度って事は、アイツは何か知ってるって事だよね? じゃあ話しは早いじゃないか、アイツを殴ってでも聞き出してやる。冨樫の野郎、今はどこに――」
「千奈が呼び出しているはずですから、旧校舎の三階、音楽室です」
「OK、じゃあ行こうか、アンタは?」
「もちろん行きますよ。千奈の彼氏は僕ですから」
「……ふうん、ま、いいさ。じゃあ行こうか」
談話室から出る時に、僕は再度瀬々木さんの色を見た。
青と白、まるで稲妻の様な色をした彼女は、信用に値する。
全部の答え合わせをする時がきた。
この結果千奈が冨樫を選択する様な事があれば……その時は、それを受け入れよう。
千奈の事が好きだから、だから、彼女を悲しませる事だけはしたくないから。
――
次話「side冨樫」
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