終わらせる方法



 血まみれのままでは目立つからと、着替えさせられた俺は指揮官の男に連れられてある部屋へと向かった。

 武器庫のような場所。そこで彼は俺にあるものを手渡す。


「作戦概要は殲滅時と変わらない。お前はただあちらの世界で人間を虐殺してくれればそれでいい」

「これは?」


 話を聞きながら、俺は手渡されたものをまじまじと見つめる。

 それは見たことのない鎧だった。全身を覆うフルフェイスの鎧。血のように真っ赤なそれは、みてくれは奇妙だが普通の防具のように見える。


 異世界への侵攻に、こんな前時代的な代物を用意することに俺は不思議に思った。

 あちらの世界では機械兵が跋扈している。鎧と剣では太刀打ち出来ないことなど誰にでもわかることだ。


「それはこちらで管理している新兵装だ。材質に魔物の核を使用している。この鎧はその核と生体を同調させるものだ」

「つまり、俺に化物になって人殺しをしろと?」

「理解が早くて助かるよ」


 男の返答で、この兵装の意味を俺は理解した。

 あの世界での標準装備、銃火器では人間を殺すには充分だが、こちらの世界に住まう魔物を殺すには火力不足なのだ。

 あんな鉄の鉛玉では魔物の強靱な身体には傷一つ付けることは出来ない。それをなんとか武器に出来ないかと考えた結果、これが生まれたわけだ。


「だがこれにはデメリットが多い。その一つが魔物化した後に制御が利かなくなるところだ。いつ暴れるとも知れない危険因子を傍に置いて侵攻は不可能。よってお前には単独で向かってもらう。当然、命の保証も出来ない」

「わかった。それでいい」


 即決した俺に、指揮官は特に驚きもしないで明日の朝、迎えにいくと言った。

 それまでにこの鎧を着て、身体に馴染ませろと。俺は彼の言葉に素直に従う。自分が死ぬ事にも、誰かを殺すことにも。何を聞いても特別心を動かされる事もない。


 ただ早く終わらせたい。それだけを望みながら、俺は作戦決行の時間を待った。




 明朝、宣言通り指揮官は俺を迎えに来た。

 彼に連れられて基地を出て、異世界へ向かうゲートを潜る。

 俺がこうして殲滅の為に異世界へ行くのは初めてのことだった。いつもは侵攻してくる機械兵を撃退するだけ。


 ゲートを潜った後に見えた場所に、俺は少し驚いた。

 床も壁も、どこもかしこも白く発光している。こんな様式は魔法の発達した俺の世界でも見たことがない。あちらの世界の産物かとも思ったが……なんだかそれとも違う感じがする。


 周囲を見渡していると、指揮官は俺たちが使ったゲートの前に立つと、その傍にある台座に手を伸ばした。

 するとそこから半透明の板が表示されて、彼はそれに触れる。何をしているのかわからないが、少しして男がそれから目を離すと、ゲートが青白く発光しだした。


「これからお前に向かってもらう場所は、ここだ」


 そう言って指揮官は俺に見慣れた世界地図を見せてくれた。俺たちの世界で使用しているものだ。

 平行世界であるから、地理的にもほとんど変わりがない。


「この地域の人間を殺してくれればいい。一人も残すな」


 簡単な説明を終えると、彼は地図を懐にしまった。そうしてゲート前への道を空ける。

 俺は鎧の兜を閉めると、振り返りもしないでゲートに入っていく。


 最後に見た男の顔は、いつも通りの顰めっ面だった。


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