流れ星と雨雫

白狼(はくろう)

第1話

たとえば、瞬きをした瞬間世界が止まったとする。

光を目にした時、光合成ができたとする。

例えであがるそれらは異質だと言われるだろうが

この身に起こってしまえば、何てことはない

ただの 日常で現実なのだ。


「言葉一つで救われる

言葉一つで殺められる」


目に見えない刃とはよく言ったもので

私はまさに今、想像もし得なかった異質により

恐らく 自分が放ったであろう刃で

元居た世界を切り裂いてしまったようです。


ー…事の発端はそう、何てことはない

普通の休日…の、はずだった。


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とんたたん、とん。

何気無く耳に届くそれは

今ではもう慣れた、

日常に響く電車の音。


目的を見失い、道が途絶えても

何ら変わる事なく巡る世界。

綺麗な世界…腐食、未来、払拭。

とんたたん、とん


ー…午後16時7分、今日もバスは遅刻気味。

暑さを凌ぐ為の屋根はミシミシと音を立て

ベンチは意思を持つかのように温かい。

夏だというのに、それも何処か他人事で、

暑さは不思議とこぼれ落ちることはなく

体内に吸い込まれていった。



色に満ち溢れた

彩度のない世界。



そう、目の前に見える景色は

いつもと変わらないはずなのに

窓に反射して見えた世界は、

自分の知る世界とは、

全然違ってみえた覚えがある。


記憶のどこかで見たことがあるような

だけど、経験のない世界。

透き通った背景と、

・・・逆さまに吹く風。



“視点を変えること、

固定概念を捨てる、

周りの声を聞く“



この言葉は、私自身の思考と視界が

すれ違った時に流れてくる、心の声のようなもので

いつから聞こえていたのか

はっきりとは覚えていないが

こういう時は決まって、

思考に邪魔が入るか、バスが到着するかなので

深く考える必要もなかった。


ー…ふと、焦げた匂いが鼻をつく。


この時期には

可笑しなくらい冷え切った風に

どこか誘われるように目を閉じて

深く呼吸をした。



「誰も、知らない世界で生きたい」



溢れた言葉はとても小さいけれど、

耳によく馴染むように溶けた。


ふと、光を受けて

風に踊る髪の隙間から覗いたのは

窓に反射した

私の、知らない世界。


すれ違う人を見るたび

本当に同じイキモノなのかと、

頭の隅で考えてしまうほどには

あまりにちっぽけで、小さな個体に見えた。


同じ人間として見る自分と

脳裏で雲の上から眺める自分と。

全ての感覚に違和感があったんだ

それは小さな頃にお別れしたはずの感覚そのもので。


どうやら私は

「誰も、知らない世界」に来てしまったようです。


表に出ない気持ちとは裏腹に

いつもより早くなる鼓動は

生きてきた中で一番心地良く思えた、

そんな夏の日。

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流れ星と雨雫 白狼(はくろう) @Vonsaiprin

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