意図的に壊される世界、走り抜けるキミ
……その日の舞台裏は、あるタイミングを境にやけに騒がしかった。
出るべきはずのキャラクターは呼び出されず、出たとしても一瞬で終わってしまい、誰もが不思議そうな顔をしているのを眺めていた。そして、口々に言うのだ。「なんだか舞台がおかしい」と。
唇だけ舞台に持っていかれてあたふたする雑魚敵から始まって、異常事態が次々と起きた。突然普段と別のタイミングで転がり込む少女は、体の半分がちらついてしまっていて、いつも一緒にいる殺された姿の少女が見当たらない。ある村人は、剣の台座と融合した姿で舞台裏に戻ってきて、またすぐ呼び出されていった。
相変わらずボクはここから出られないので、ひたすらそれを眺めているだけだ。おかしいと言われた舞台も、ボクに見る機会が与えられていないのでピンとは来ない。
(だってボクは関係ないじゃないか)
すねているかと言われると、そんな気持ちはあったかもしれない。とにかくかかわりたくないからと、ボクは一層体を縮めて周りの喧騒に耐えていた。
そんな時、急に手を掴まれたような感覚を覚えて、突然どこかに引きずられた。急な出来事に反応もできなかった僕は、そのまま得体のしれない所に足を下ろしていた。
草原と神殿が混ざったような場所……これが普通なのかおかしいのか、普段を知らない僕には全く想像できない。ただはっきりしているのは、ここは普段ボクがいる
(…………あ)
初めて、ここがゲーム画面である証を見た。空の一面が切り取られ、大きな窓のようになっている。その向こうに一人の男性が座っていて、真剣なまなざしで此方を向いている。はっきりとわからないが、何やらもっともっと大勢にの視線がこちらに向けられているような気がした。
(やった、ボクは、舞台に立て―――――)
……喜んだのもつかの間、ボクの目の前にはこのゲームの主人公、きっと画面の前の男性が動かしているキャラクターが迫っていた。そしてその体に触れたかと思うと、急に舞台が暗転した。
**********
気が付けば、僕はまた元通りの牢屋に戻されていた。何が起きたかも正直よくわからない。画面の前に奥が建てたあの経験は、事実かどうかも信じられなくなっていた。
あまりにあっけなく終わった表舞台、そのたった数秒の記憶を反芻する。ボクは確かに、一度はプレイヤーの前に降り立ったはずなのだ。主人公役の彼に聞けば一目瞭然のはずなのだが、ボクは彼との連絡手段も持ち合わせていない。
呼び出されなかった他のキャラクターたちが、不思議そうにカーテンコールに顔を出す。もちろん今回も、僕はその輪の中に呼ばれることはなかった。
(……またボクのいないエンドロールが流れていく。ボクは、今あそこにいたのに)
涙を流す顔を作ってもらえていないから、この世界の中で言葉を発する権限が与えられていないから、泣いても誰にも届かない。
今までとは違って、羨ましくて泣いているわけじゃなかった。ただひたすらに……たった一瞬だけしか見せてもらえなかったあの景色が、二度とないかもしれないことが悲しかった。
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