<STAND-BY>

「……っと、そんなわけで、ゲーム自体が気になった方はぜひ皆さんの手で遊んでいただきたいところです。さあ、布教していたら間もなくスタートの時間になりましたね。かけりやさーん、準備どうです?」


 ヘッドホンに、僕のハンドルネームを呼ぶ馴染みの声が響く。相変わらず相棒とも言うべき親友……ハンドルネーム「laughlaugh」さんは、盛り上げるための話がとにかく上手い。僕のセッティングの間もマシンガントークでゲームの説明をしてくれていたのだが、うんちくの多さと幅広さにそれどころじゃないのに僕まで唸る。

 ちらり、とカメラと確認用の配信画面を見てしまう。普段一人でやっているのに対して、僕のプレイを今かと待ちわびる人は既に5桁に到達しようとしていた。僕がこれからやるゲーム自体は古くて現行の媒体で遊べるものがないけれど、SNSで宣伝しまくったのがちょっとは功を奏したらしい。


 コントローラーを握る手が、汗ばむ。ミスをしたらゲームがクラッシュして、本体ごと壊す危険性もある。1コマンド間違えたら全ておじゃんで大ブーイング間違いなしなのだが、それでも僕はでタイムアタックをやりたかった。


「……っ、はい、いけます。カウントは、ムービーが終わったらお願いします」


 喉の奥で、声が震える。既にオープニングムービーが始まっているのだが、もう目が滑り始めている。……終われば、僕の戦いが始まる。


「さーあ、RTA、any%……とにかく終わらせることを目標とするレギュレーションでの挑戦開始です!じゃあコメント欄、カウントよろしく!ムービー終了10秒前……9……8……7……」


 laughlaughさんの煽りに合わせ、ギリ、とコントローラーを強く握りしめた。音声のカウント外れてしまうので、僕も独自で小声で終わるタイミングを計り始める。ヘッドホンの音が遠く聞こえるほど、僕は目の前の画面と指先に神経を集中させていた。


 画面のブラックアウトと共に、僕の指先が暴れるようにコントローラーのボタンを打ち始めた。

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