絞首台

ぴいじい

絞首台

 あいつは罪を犯した。


 金の欲しさあまりに見知らぬ人の家に侵入し、あいつに気づいて抵抗しようとした家族を、ナイフでめった刺しにした。


 その遺体を近くの山中に埋め、あいつは酒を飲んだふりをして、家まで送ってほしいと俺に頼んできた。どうせあいつのことだから遅くまで飲んだくれてたんだろうと、俺は仕方なしに車を出した。


 あいつが、何の罪もない幸せそうな一家を手にかけてしまった後だったなんてことを知らずに。




 あいつはやがて全ての悪行が暴かれて逮捕され、牢屋の中で人生を送ることになった。


 とは言っても、働いて罪を償うでもなく、警察官による胡散臭いカウンセリングを受けて反省するでもなく、あいつは一日中畳の上でゴロゴロしながら漫画を読み耽ったり、筋トレをして体を鍛えたりしていた。


 特に何もせずに刻々と時は過ぎた。漫画は大抵読み終えてしまい、筋トレをしようにも嫌気が差してくる。


 こんな同じような日々があと何年続くのか。あいつの中でそう考えると、虚しさが湧いた。




 そしてある朝。時は来た。


 出ろ。


 その一言で、あいつは膝から崩れ落ちて、恐怖で身を震わせた。


 死にたくない。死にたくない。


 そう思ってももう遅い。こんな人生を歩むことになってしまった自分を、あいつは心の底から恨んだ。


 死にたくない。死にたくない。


 そう沈黙の叫びを上げながら、あいつは一歩ずつ、あの部屋に近づいていく……




 はずだった。




 死にたくない。


 今はそうは思えない。でも少しは怖いという感情が心のどこかで疼く。


 なんせ俺が、あいつのために牢屋に入っていたんだからな。




 あいつを家に送る途中、交通事故に遭って即死したあいつの身代わりに、俺はなった。何十年もの月日を、俺は狭い独房で過ごした。


 そして今日、俺はあいつの罪を全て償う。




 さてと、もう時間か。


 あいつ、絞首台で死ぬ俺の生き様、見てくれてっかな。

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絞首台 ぴいじい @peagea

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