第2話 初デート、

「なん、あれ……」


 ひょっとこが踊っている。

 額に鉢巻き、尖らせた唇で、片手に桐の箱を抱え、着物の裾を巻き上げて。

 夏の風物詩であった盆踊りのシンプルな振り付けも、冬の大都会、それも車道半ばで披露されては、視線も奪われてしまうものだ。


 だからか、思った以上に平凡な、それでいて間抜けな声が漏れる。

 半開きの口で眺める人々の光景は、自分を含めて対岸の歩道でも変わらない。それもそうだろう。本日はマイナスに届くかというこの寒空の下、十人余りのひょっとこが行列を作って踊る光景など、普通じゃ考えられないものだ。


 足を止める人は多くとも、それでも足早に通り過ぎる人もいる。中には珍しそうに、行列の進行に合わせてカメラを向ける奴だっている。

 囃子の太鼓に、長棒に連なる鈴を鳴らし、旗持ちがその腕を振る。

 先頭を歩くひょっとこは、片手に桐の箱を恭しく頭の上に掲げると、踊りに繋げて道化のように周囲を魅了する。


「イルミだけじゃ物足りないってのは正直あるけどさ」


 街路樹に巻かれた電飾は、夕方17時から点灯する。

 正午を過ぎてすぐの真昼では、暗い電飾がかえって寂しさを物語っているから、ちょうどいいとはいえ、まさかひょっとこで盆踊りなんて。


「ま、いいや。そんなこと」


 あんなちっちゃな踊りを見たところで、今日の予定は覆らない。

 向けかけたスマホのカメラアプリを切って、SNSの返事を確認する。


『駅に着いたよ』


「了解、っと」


 スタンプで返事をしておいて、首のマフラーを巻き直して少年は一路、駅を目指す。

 歩く速度が上がるのは、今日が彼にとって初デートだからだ。


 12月25日。クリスマスのこの日。

 彼にとって初めての彼女との思い出となる――はずだったそれは、たった一瞬の輝きによって塗りつぶされる。


「あ――」


 ひょっとこが再び掲げた桐の箱が、光り輝く。

 一瞬にして塗りつぶされる視界は、炎熱で焼き焦がされていた。


「りあj」



即興小説 お題「ちっちゃな踊り」「クリスマス爆破計画」

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ぱんのみみをちぎって食べ続けるお話 ぱん @hazuki_pun

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