ぱんのみみをちぎって食べ続けるお話
ぱん
第1話
「……ッ」
後頭部の疼痛で目覚める朝は、いつも朝日が眩しかった。
閉めたはずのカーテンは開かれ、腹にかかっていたタオルケットは蹴飛ばされていた。「ついに寝相の悪さは小学生から変わらなかったな」とこの前、家を出た兄に言われたのはいい思い出だ。
好きで寝相が悪くなっているわけじゃない――たとえ枕に足をかけていようとも、その方が寝やすいと就寝中の自分が判断した、というだけだ。何も悪くない。ベッドから落ちようと、床の冷たさが好きだから――などと何個でも言い訳は浮かぶけれど、それは結局、自分に寝相を直す気がないからだろう。
「直したところで、誰かに褒められるわけじゃないし」
説教たれていた兄ももういないし、父母ですらこっちが起きてくるまで何も言わない。自由教育とは名ばかりの放任主義のせいで、学校に何度遅刻したことか。
後頭部をさすりながら、ベッドサイドの目覚まし時計に目を向ける。
「まだ六時半……そう」
ならまだ寝れる。
ギリギリ七時から仕度すればいいし……朝ご飯も、きっとお母さんが作ってくれているだろうから、かき込めばなんとかいけるはず、か。
いや。
「……つか、考えたらお腹減ったんですけど」
仕方なくベッドから降りて、姿見に寝癖で爆発した自分を映す。
腫れた感じのする後頭部を映そうとするが、伸ばしきった髪をかきあげても見えないものは見えない。触れたところで腫れた感じがする、というだけだから――まあ、気にすることでもないか。
「おかあーさん? お父さんはもう仕事?」
次第にジンジンと響く後頭部の痛みに手でさすりつつ、一階のリビングに降りて両親を探すが、見当たらないどころか、人気がまったくない。
「味噌汁はできてるのに……」
火は着いてないけれど、コンロの鍋からは湯気が立っている。
ダイニングテーブルには朝食を食べたのだろう、二人分の食器が置かれたまま。
「隠れてる?」
でも朝の時間に、かくれんぼなんてして遊んでいる暇はない。お母さんは家事があるし、お父さんは出勤だ。電車の時間に遅れてしまえば、万年課長の座から抜けることはできない。
私は私で学校が――
「もういいや、自分でつくろ」
お腹が減りすぎて停止する思考に、すぐさま私は冷蔵庫を開けた。買い物は今日にでも行くのだろう――食材は卵ぐらいしか残ってない。
しかたなくフライパンを取り出し、火にかけ、オリーブオイルを垂らす――と。
「――あ」
手から滑り降りたオリーブオイルの瓶が割れ、床に広がる。
やばいと思って台拭きに手を伸ばすが、足を取られた私はいつの間にか天井を見上げていて――
「……ッ」
――後頭部の疼痛で目覚める朝は
即興小説:30分 課題「地獄の眠り」「オリーブオイル」
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