第74話 益田修一と言う男

          益田修一と言う男

 少し遡り 1904年 5月 人工衛星打ち上げ直後

「修一、今月中に皇居へ来い、用がある。」

 陛下に呼び止められ、そのまま招待を頂いた。

「陛下、相変らず唐突ですね、どうされました?用件なら今聞きますよ?」

「ちょっとここじゃ都合が悪い話だ。」

「わかりました、来週にでも伺います。」

 何だろう、そんな重要な話があるとか、何時にまして陛下が真剣だったのも気になる。

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 翌週

「おお、来たか、修一よ、又無理してるんじゃ無かろうか?」

「陛下はご存知でしょう、小官が白血病で後長くて8年悪くて半年と言う事位、今更かもしれませんが、やり残した事はまだ有ります、出来る限り済ませておかないと。」

「ああ、そうだったな、だがなぁ、儂より早く逝くとか悲しい事言うな。」

「陛下も、ご自分だけでなく崇徳院様を一緒にお祀りするおつもりなのでしたら早めに神宮建立案を打ち出して決めとかないとご自分だけ祀られてしまいますよ?」

「ああ、それに関しては既に提案してある、儂は歴代天皇の中でも庶民に人気が有るようなので、既に崩御後にお祀りしたいとか言われて居るからな、土地も既に決まってるのだ。」

「旧加藤清正邸の土地ですよね?」

「ああ、それとその付近の土地が幾何かな・・・そうか、お主は未来を知っておるからな、毎回驚かされるわ。」

「それを知って居るのは陛下と松岡殿位なのですから忘れんで下さい。」

「松岡君か、彼は又転生したのだろう? 誰だと言ったかな?」

「孫文殿の連れて来られたあの子供ですよ、むしろ孫文殿を連れて亡命して来たと言うのが正しい認識なのですけどね。」

「おお、そうであったか、清国の未来を担う人物の幼少期と言う話だったかな?」

「ええ、全面的に協力してやって下さい、陛下の後も含めてね。」

「そうだな、天照大神の眷属に協力するのは勿論儂の使命と思って居るし、息子や孫にも言い聞かせてある、そこは任せよ。」

「ええ、お任せいたしますよ、ところでそれだけですか?用件って。」

「ははは、もしかしてバレてたか?」

「ええ、何となくですが。」

「そうか、では、お主に、空軍発足に尽力し、成し遂げた功績を称え、空軍大将に任命するものとする、異論は無いか?」

「ええ、予想通りですし、異論在りません、確かに拝命致しました・・・それと、一つ宜しいでしょうか?」

「何かね?」

「小官亡き後で良いのですが、特に航空機開発には無くてはならない人材であった二宮君を空軍提督に、そして海軍航空隊総司令官には第一号テストパイロットにして、六度も墜落しながら生還した、貢献度ではトップの種田君を推薦します。 現在海軍に派遣している麻門君は実は・・・」

「判っとる、一度受勲式で顔を合わせたがあの雰囲気は悪魔だね?」

「ええ、そうです、そして現場主義と言う事で航空隊隊長に収まって居たいらしいので。」

「しかし彼も社に祀ったのだろう?」

「ええ、祀ってあります、ですがあの最上位悪魔6柱の連中は並列存在とか言う物があるそうで普通に神格化した物と別に活動できるらしいです、出鱈目な能力ですよね、まぁ一世代下になるリリス殿だけはまだそこまでの力が無いらしく、並列存在が無いそうで、愛しのサタン様を追い回せないとか言って拗ねてましたけどね。」

「そうか、本当に出鱈目だな、力を失いかけて居たとは思えない程だな。」

「何だ、そこまでご存じだったんですか、もしかしてだからこそ小官に祀り上げろとか悪知恵付けたんですか?」

「はっはっは、だが祀って見て如何思った?儂の言うとおりだったろ?」

「ええ、そうですね、悪霊や悪魔と神は表裏一体と言う事が良く解りましたよ、本当に彼らの神としての力は凄い、建立したばかりの神宮があっという間に人の集まる社になってますからね、御利益あったんでしょう、多分。」

「まぁ、そう言う事だろうな、御礼参りに訪れて居る物も既に居ると言うからな。」

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 皇居を後にした吾輩は、陛下のお勧めの地下通路を通り市ヶ谷近衛兵団基地よりヘリによって相模野空軍基地へと帰って来た。


 余談だが、実際に前世で自衛官になった友人から聞いた話で、市ヶ谷駐屯地には地下通路が伸びていて皇居や国会議事堂に繋がって居ると言う話は聞いた事が有ったが本当に存在して居たとは驚きである。

 帝都の地下は地下鉄も張り巡らされて居ると言うのにこれだけの規模の陛下をお守りする為の通路が存在するとは・・・

 市ヶ谷近衛兵団基地は、昭和以降では、かの有名な三〇由紀夫の切腹の舞台になったあの建物がある基地である。

 まぁ今は未だ、只の近衛兵団の会議室だが。

 少々脱線したようである、話を元に戻そう。


「お帰りなさいませ、中じょ・・・う?・・・し、失礼しました、大将閣下! ご昇進おめでとう御座います。」

 出迎えに出て来た種田君(吾輩の留守の間代理をして貰って居た、現在階級は大佐であるが、近く准将無いし少将への昇進が既に決まっている。)が、吾輩の階級章に気付き慌てて訂正をした。

「いやいや、未だ明日の朝礼迄内緒だったのだ、気にするな。」

「そうでしたか、陛下の呼び出しに応えたと言うから何かあるのではとは思って居りましたが。

「ああ、後な、君への辞令も賜って来たぞ、君も後日皇居に呼ばれる事と成った、ホレ、辞令書だ。」

「は、拝見いたします。」

「どうだね?」

「な、小官が、二階級特進で少将でありますか!?」

 成程、内容までは知らんかったがあのタヌキジジイ、まだまだイケイケな路線で行く気満々では無いか、本気で少将に捻じ込むとは良くやってくれる、最近以前より物静かになった気がして居たが、吾輩の杞憂のようだ、まだ元気は有るようで安心した。

「で、呼び出し期日は何時かね?」

「あ、明日になって居ります。」

「成程、とっとと済ませる腹か、せっかちも相変わらずのようだ、あのジジイめ。」

「陛下の事をジジイとか呼んじゃうのは閣下しか居ませんよ?こっちの感覚がおかしくなりそうなので口には出さんで下さい,

 あ、それと、来る時は閣下も連れて来るように書いてありますね。」

「ん?吾輩もか?今日行ったばかりなのだが、まぁ良いか。」

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 翌日、種田君と共に、今一度皇居へと赴いた吾輩であった。

「お早う御座います陛下、昨日の今日でどんな御用でしょう。」

「はっはっは、予定してたよりも一日早くにお主が来ると聞いたので敢えてこのようなサプライズを思い付いたのだがね、まさか翌日に又すぐに呼び出されるとは思わなかったろ?」

「ええ、驚きました、どのような意図があったので?」

「それは種田君の任命式が終わった後のお楽しみだ、待って居れ。」

「陛下らしいですね、仕方ありません、楽しみにして置きますよ。」

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「・・・・この功績を称え、従五位少輔の官位と空軍少将の階級を与えるものとする、今後も国の為、民の為に努力を怠らぬよう精進する事を希望する。」

「有り難き幸せに御座います、誠心誠意に受け止め努力する事を誓います。」

 こうして種田君は勲章と官位証書、階級章を手渡され、晴れて基地司令への就任が可能な階級を手に入れたのだった。

「さて、益田修一、此方へ。」

「は、只今。」

「お主は愛刀を奉納した為に現在刀を持って居らなんだな。」

「はい、愛刀叢雲は現在、宝剣として横浜宝船神宮へと祀られて居ります。」

「うむ、そこでだ、お主に新たな刀剣を授ける事とした、納めたまえ。」

「な・・・有り難き幸せに御座います。」

 これか、このタヌキジジイのサプライズとやらは。

「お主は長年苦楽を共にした愛剣であってもあの様にあっさりと奉納してしまう様な性格故、此度は二振の刀剣を授ける、一の剣を此方へ。」

 陛下の秘書官が頭上に掲げ、一振りの日本刀を持って入場して来る。

 柄には叢雲のような村田式サーベルに良く見られる装飾付きハンドガードが付いて居る。こちらの装飾は、神道の女神、恐らくは多岐津姫辺りでは無いだろうか。かなりの逸品である事が伺える。

「剣の銘は鬼斬刀義経きざんとうよしつねである。」

 陛下はそう告げると、その鞘より刀身を抜き、見せつける様に頭上に掲げる。少し反りの強めの刀身に波型の波紋が美しく輝いている。

「悪しき者より民を護る為の剣である、心して受け取るが良い。」

 鞘に納めた鬼斬刀義経を賜った、ずっしりと重い、厚めの刃で、その上に長めの刀である。

 まるで鬼丸国綱おにまるくにつなさながらの、骨ごと断ち切る様な正に豪剣と言った印象だ。

「有り難き幸せに御座います、誠心誠意、国の為、民の為に尽力する事を誓います。」

「宜しい、では、次なる剣を此方へ。」

 もう一振りの剣が陛下の元へと運ばれた。

「二振り目の剣、この剣の銘は天斬剣迅雷てんざんけんじんらいである。」

 此方の柄にも装飾の付いたハンドガードが付いて居る。

 此方の装飾は西洋のドラゴンであろうか。

 こちらの剣も鞘より刀身を抜き、見せつける様に頭上に掲げた。

 此方は又見事な直刀、波紋もスラっとまっすぐであるが、ダマスカスの紋様が浮かぶ剣だ、その紋様は叢雲のような形では無く、鋭角にまるで落ちる雷のような紋様に見える。

「神もまた、完ぺきでは無い、誤った道を選んだ神を切り、あるべき姿への代替わりをも可能にする剣と言う意味を持つ、己の信念の下、必要な時に振るう剣と言う意味を込めて打った銘である、心して受け取るがよい。」

「恐れ多き一振りに御座います、しかし、己が信念の下で振れと申されるのならば、その剣に相応しい者に成れた時、その真の力も解放されると確信いたします、故に今は未だ振れずとも有り難くお受けいたします。」

 受け取った其れは、驚く程に軽く感じた。

 先程賜ったのが豪剣であれば、此方はまるで西洋の刺突剣のように軽く、豪に対し柔と言った印象だった。

 長さは通常の日本刀と大差は無く、要するに短いものでは無いが、一振り目の物と並べると脇差の様でも有った。

 何よりも、叢雲よりも薄いのでは無いかと思われる薄い刀身が非常に美しい。

 正直な話、これで物を切るのは師範代以上の達人級で無ければ無理なのでは無いか?

 少しでも振った刃の角度がおかしければ折れそうだ。

 こうして二振りの剣を賜った吾輩は、侍のように二本の刀を腰に差し、この場を退出する。

 しかし、二本も賜って、如何したものであろう。まさしく裏と表と言った二振り、粋な演出である、これもプロパガンタの一端でも有るのだろう。

 ある意味では吾輩にロシアのレーニンと言う人の皮を被った悪魔を討てと言って居るようにも聞こえなくも無いが。

 どちらにしても吾輩の成すべき事は変わらない筈だ、今まで通りに精進すれば良い。

 当面は迅雷の出番は無いであろうと、箱根の屋敷に保管して置く事にした。

 吾輩の箱根邸の書斎には、アザゼル殿が完成させた最強の金庫がある、開け方は吾輩以外誰も知らん。

 久々の箱根邸へ戻ると、身重の妻が出迎えてくれた。

 現在妊娠五ヶ月、10月終わりか11月の頭には生まれる予定だ、もしかすると吾輩と誕生日が被る可能性も有る、そう言えば一知花の生まれたのも10月だったな、吾輩は11月2日生まれであるから惜しいと思ったものだ。

 3人目の子にはどんな名を付けようかも考えて居たが、既に妻はこの子の名前は考えて有るのだそうだ。

 性別も、吾輩には教えてくれはしないが妻には既に判って居るらしい、根拠を聞くと、勘だそうだ。

 だがしかし、この妻に任せておけば問題は無いだろう、修輔も立派なやんちゃ坊主に育って来て居る事がその事実を証明してる。

 そのお陰で吾輩は安心して家を空ける事が出来るのだ。

 一知花はと言うと、最近発言が生意気になって来て、未だ5歳にして自分の部屋が欲しいと言うので、理由を聞くと、吾輩も驚くような見事なプレゼンをやってのけた、我が娘とは言え何処迄賢いのだろう・・・

 5歳とは思えない見事なプレゼンに驚いた吾輩はつい、部屋を与える事を認めてしまったが、この子ならば自分で勉強もして行くだろうし、学力が落ちるのでは無いかと言う不安は無かった。

 三人目の子が産まれるのが先か、一知花の6歳になるのが先か、いずれにしても先が楽しみではある、この子が嫁に行くまで見届けられない可能性が高いのだけは残念でならないが、それも致し方の無い事だろう。

 吾輩はこの子達に出来る事を出来るだけ全力でしてやる事しか出来ない、だがその為に出来る事は全てするつもりである。

 空き部屋の数にだけは困らない我が邸宅なので、一知花には好きな部屋を選ばせることにしたが、母の隣の部屋を選ぶとばかり思って居たのだが、一知花の選んだ部屋は、2階の角部屋だった、何故此処かと聞くと、一番静かで読書に集中できると言う、成程一理は有る、吾輩の書斎は反対側の3階の角部屋だったからである。

 それにしても我ながら無駄にデカい屋敷を作ってしまったなぁと、この部屋の余り具合を見れば見る程反省である。

 そう言えば我が邸宅も同様だが、レンガ造りの建物が流行りの昨今、地震で倒壊する恐れのある積み方は推奨出来ないので、フランス積の鉄筋構造を提唱してそれ以外の工法は禁止にして貰った。

 これで東京駅同様に、関東大震災が起こっても崩れる建物はほぼ無くなるであろう。

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