第72話 宝船神宮 建立

            宝船神宮 建立

 1904年 1月

 吾輩は正月くらいは家にと思い、箱根に戻って来ていた。

「おとうさま、いちかもいっしょにはいる~。」

 一知花が風呂に一緒に入ると懐いて来る、流石に可愛いし、今で無いとこんな事は満喫できないであろう。

「よし、じゃあ背中を流してくれるか?」

「いちか、おとうさまのおせかなながすー。」

 未だ多少たどたどしい所が有るものの、一知花は良く言葉を覚えて喋る様になって居る。

 こんな事も三箇日迄だな、等と思いながらも堪能しておく事にした。

 今月中には吾輩の建てる新しい神社が概ね完成予定との事だったので、未だ完成して居ない神社に初詣と洒落込んで見る事にした。

 この神社は勿論、サタン様を筆頭に、一連の吾輩の転生等に関わったと思われる悪魔達全員を祀り上げる為の神社なのだ。

 サタン様が大国天だいこくてん、ベルゼブブ殿が恵比寿天えびすてん、アザゼル殿が寿老人じゅろうじん、マモン殿が福禄寿ふくろくじゅ、アスタロト殿が布袋ほてい、サルガタナス殿は毘沙門天びしゃもんてん、そしてすでに同一化が完了して居る弁財天べんざいてんのリリス殿、七福神を祀る宝船神社と言う訳だ。

 字が違うと言われるかも知れないが、は元が大国主命おおくにぬしのみことなのでで間違って居ないのである。

 この神社が完成すると、サタン様を筆頭とする悪魔達は、信仰対象となり、かつての天魔大戦によって失った力の殆どを取り戻す事も出来得るであろう。

 これは、”過去へ”では有るもののこうして生き返らせて頂いた最大限の返礼である、サタン様はその様な事をせずとも良いとは言うが、再び生きてこの世に存在する事を許されたのは正直に言って奇跡以外の何物でも無いと思って居るのだ、それに対して礼を欠くのは吾輩のポリシーに反するのだ、そして最大の敬意を払うとこうして祀り上げると言う行為になる訳だ、陛下の受け売りではあるけどな。

 ただ早急に進めたのは、最近体調が優れない事からの多少の焦りがあるのは否めないが。

 忙しくはなるやもしれないが、信仰が産む力は最大にして最強であると思って居る。

 今回丁度七柱の悪魔がこうして吾輩の前に現れたのである、七福神と同一化するのが最も良いだろうと言う算段であった、たまたま先に弁財天と同一化して祀って居たリリス殿も居る事だし。

 その上、仏教が優位性を持つ近代社会で常に最前線で信仰を受けつつ認知度も高い神となったらやはりこの七福神であろうと言う事もあったので、七福神と宝船と言うこの組み合わせなのだ。

 まぁ、この悪魔に加担したクロノス神やクロノス神にそそのかされてこちら側に落ちて来た智天使ケルビムなんてのも居るようだが彼等には直接世話にはなって居ないのでそこまでは知らん。

 彼らに関してはその内世話にでもなったらその時考えてやろう。

 何故だかサタン様の悲鳴のような声が聞こえた気がするのは気のせいであろう。

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 1904年 1月末日

 遂に社が完成したと言うので、御神体となる純金製の全長2mの宝船、銅鏡、瑪瑙メノウの勾玉と一緒に、我が愛刀、叢雲を奉納し、出雲大社より呼び寄せた神主を任命した。

 勿論任命できるのは天皇陛下と言う事に成るので陛下にはご足労頂いていた。

 叢雲の代わりの刀は三条の職人に打って頂くとしよう。

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 -数日前-

「陛下、お久しぶりです。」

「おお、修一、久しいの。」

「今日は陛下にお願いがあって参りました。」

「何だ?お前の願いなら大概の事は聞いてやるぞ、お前はうちのもう一人の息子みたいなもんだからな。」

「ははは、止めて下さい、継承権なんて面倒臭そうなもん要りませんよ?」

「言うようになったな、だが流石のわしにもそこまではくれてやれんよ。」

「冗談はこの辺で置いておきましょう、お願いと言うのは他でも有りません、この度横浜は金沢八景の外れに社を建てておりまして、今月末には完成、建立の折となりますので、陛下にそのことで尽力いただきたいと思いまして。」

「ほほぅ? ついに彼らを祀り上げる事にしたのかね? 興味深い、詳しく聞かせろ。」

「はい、以前にサッキュバスの女王リリスを弁財天と同一化し元町に社を建てた事は以前にお話しした通りですが、元より小官の転生に関わった悪魔が六柱居ったようで、最近になって其の内の、サタン様、ベルゼブブ殿以外の四柱も小官の前に姿を現した訳なのです、リリス殿と合わせて丁度七柱、しかもリリス殿は元より弁財天をイメージできたもので丁度七福神の一柱となって居ったものですから、七福神になぞって纏めて祀り上げる方法を思い付きました。

 サタン様を大国主命、大国天とし、生命力と腐敗の能力を併せ持つベルゼブブ殿は、破壊の邪神としての力を併せ持つ、蛭子ヒルコと表裏の恵比須天、不死の悪魔であるアザゼル殿が寿老人、頭脳明晰で論理的なアスタロト殿が布袋、無双の武人たるサルガタナス殿が毘沙門天、縦横無尽に飛び回り面白い事楽しい事が好きなマモン殿が福禄寿、これにリリス殿の弁財天を入れて七福人となる訳です。

 なのでご神体は宝船に七福神の像、そして三種の神器、これはレプリカでも構いませんが、勾玉と銅鏡を陛下のお力でどうかして頂きたいです、後は神主の手配と任命をお願いしたいと思って居る次第です。」

「うむ、思ったよりちゃんと考えて祀るようで感心したぞ、喜んで協力してやろう、して、剣はどうするのだ?」

「剣は、御存じの通り、小官の愛刀が”叢雲”の銘が打ってある業物ですから、丁度良いのでは無いかと思って居ります、草薙剣くさなぎのるつぎの別名は天叢雲あめのむらくもですからね。」

「ほう、自分の愛刀を奉納するか、余程の覚悟を持って祀ると言う事が良く解った、これは何があろうと最優先で協力させて貰わねば成らんな、良かろう、すぐに手配しよう。」

「陛下、一塊の将校の我儘を通して頂き至極恐縮に御座います。」

「何を言うか、お主と儂の仲だ、もっと気楽に来れば良い物を、あ、それとな、儂が一枚噛むのだから天皇家ゆかりの神社となる、従って神社では無く神宮とするように頼むぞ。」

 相も変わらずフランクなお方だ、吾輩の真剣なお願いなどどこ吹く風と言った風にサラッと受け止めて下さった、本当に懐の深いお方であると実感した。

 ただ、少々フランク過ぎてこちらがくたびれる事が多いのが玉に瑕だが。

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 1904年 2月

 -モスクワ-

「同志書記長殿、暗殺部隊の訓練が概ね終わりました、統率は完璧であります。」

「そうか、やっと暗殺部隊を再編できるな、後は諜報要員の訓練次第だな、引き続き継続せよ。」

「は、了解いたしました、お任せあれ。」

「戦況の報告は未だかね?」

「は、はい、た、ただいま・・・戦線は押し上げられてしまい、北京市を制圧して居た部隊も壊滅、奪還されてしまいました・・・敵戦力は圧倒的な物であり、小銃一つとってもとんでもなく高性能でありまして・・・・その・・・」

「では奴らの装備を奪ってしまえば良いでは無いか、その位は戦闘部隊後方の補給を狙って叩けば訳無いはずだろう。」

「そ、それが、混戦して居た戦線で手に入れた小銃が有ったのですが、先ず弾丸の規格が合わないので独自で作らせたのですが、どうにもうまく機能しないのであります、何が違うのか判らず・・・敵軍の使用して居た銃弾も入手して調べたのですが、見た事も無い火薬が使われておりまして。」

「つまりはそいつを解析出来なければ使えないと言う事か、くそ、何処までも忌々しい奴だ。」

 べリアは技術者などでは無く政治家であったが故にコルダイトを知らなかったのだ。

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 -一方、北京-

 宮殿を不法占拠して居たロシア軍に気付き蹴散らした帝国軍であったが、その実情を把握して愕然として居た。

 皇帝は長い監禁生活に耐えられず、危篤状態に陥って居たのだった。

「軍医は未だか?皇帝には元気になって貰い、烏合の衆となって戦線を妨害する清国軍の統率を回復して貰わねば成らんのだ、兎に角急ぎ連れて来い!」

 近くに居る軍医は怪我の処置用の薬剤しか持ち合わせておらず、後方から運んで来る必要があった為に、無線機が無ければ恐らくはこの場で見殺しにするしか無かったかも知れない、しかし無線連絡が可能であったが為に、対馬県総合基地に入電、即刻必要薬剤等を積み込んだ双発型ヘリが物資と同時に軍医を輸送する事を試みる事と成った。

 点滴用生食及び栄養剤、食品等と、軍医、従軍栄養士等が輸送対象となり、対馬基地を飛び立ったのであった。

 そしてこの現状を知った大本営は、保護中の孫文氏と中国版神童とも言える後の蒋介石となる瑞元に目を付け、対馬県へと輸送機を飛ばせることを企てたのであった。

 彼らの思想は大変に共感が持てるものであった事、そして何よりも神童たる瑞元の発言が非常に益田修一のそれと近く、まるで未来を見通して居るかのようであった為、何故か魅力的に見えたのであった。

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 皇帝はこの後、大日本帝国によってその身柄を救われた事を最大限考慮し、大本営の思惑通り孫文氏にこの大国の未来を託す決意する事になるがそれは又別の話である。

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          白昼夢

 -開城山中、秘匿基地-

「中将、液体水素燃料の精製に成功、液体酸素の抽出も可能です、ロケットノズルに関してはモリブデンタングステン合金の物がどうやら強度的に優秀では無いでしょうか、他にモリブデンニッケル合金等も候補に挙がって居ります、前者は硬度が高く、後者は軟度が髙くどちらも耐久性に優れて居ります。」

「それだけではいかん、モリブデンタングステン配合の高硬度ステンレスであれば耐熱強度も有ろうとは思うが、重すぎるのだ、チタン、黒鉛なども配合したもっと柔軟性に優れ軽い材質で耐熱性を確保したい、吾輩が伊号弾のエンジンに使ったような素材の更にもっと強度の有るものを作りたいのだ、出来んか?」

「再計算をして見ます、他に候補となる様な材質に中将閣下は心当たりがありませんか?」

「そうだな、後は瀬戸物、何度も焼いて鍛えた瀬戸物は高温になっても割れなくなるのだが、吾輩はそう言った物をセラミックと呼んで居る。」

「瀬戸物でありますか・・・高温で割れない瀬戸物と言いますと、土鍋のような直火に掛ける物でしょうか。」

「うむ、惜しいな、土鍋は土鍋でも只の土鍋ではいかん、すっぽんの調理法を知って居るかね?」

「すっぽん、ですか、いえ、あまり良く知りません。」

「すっぽん、まる鍋に使うあの土鍋は、コークスを使い真っ赤になるまで焼きその上に出汁などを入れて調理して行くのだ。」

「コークスですか、すると温度は2000度以上ですか、納得ですね、判りました、可能性を探ってみます、早速コンピューターで再計算して見ます。」

 どうしても人工衛星自体のサイズがデカくなるので、H2ロケットに採用されて居る電磁コイル超電導ノズルのようなものを再現したいのだが、現在の化学力でどこまで再現できるだろうか。

「人工衛星の方は順調で有ります、現在運搬ロボットに大型部品を運び込ませて最終組み立て段階に入って居ります。」

「うむ、極短波通信ユニットの方は出来て居るのか?」

「はい、此方も順調で有ります、双方共に皿型アンテナを使い電波を反射、収束させて受信すればかなりの高感度での受信が可能になる筈です。」

「うむ、理想的だな、引き続き研究を頼む、方向性はあって居る、後は雨天対策だ。」

 パラボラアンテナは雨で皿面が濡れると受信感度が著しく低下するのだ。

 しかし開発は概ね順調の様である、このロケットが完成した暁には、GPSや衛星レーダーによって自軍と敵軍の位置を全て把握したデータリンクシステムによる完全な防空システムが構築出来るだろう。

 勿論軍事利用だけでは無く気象衛星等の一般利用にも活用出来る訳だが。

 何よりも衛星通信と言う方法で地球の裏表での無線通信が可能になるのは有難い、人工衛星はそれだけ利用価値が高いのだ、何としても吾輩がこの白血病に蝕まれて今生を終えるまでには人工衛星を大日本帝国内での認知度を上げたいのだ。

 さて、未だこの基地の全体を把握して居ないので吾輩は少し探検をする事にした、いや暇な訳では無く、眠気覚ましの為である。

(さて、この扉の先にはまだ踏み入れた事が無かったな・・・しかしこんな奥の先に何か建設した覚えが無いのだが何故扉が有るのだろう、動力用電源室かなんかだったかな?)

 ロケット用の大空洞ラボの先にあった扉だ、開けると長い通路になって居た、何だろう?

 眠気も有って夢でも見て居るような感覚で有った。

 通路の先にはまた扉があった、それを開けてみるとロケットラボと同等位の空間、そしてそこには中距離弾道ミサイルか小型宇宙ロケットと思しき巨体が3体見えた、気がしたのだが、そこで意識は途絶えたのだった。

 目が覚めると秘匿基地の吾輩の寝室だった、夢だったようである。

 しかし妙な夢だった、しかもやたらリアルだったように思える、何故そんな夢を見たのだろう。

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