第69話 各航空教導隊

      各航空教導隊

 1903年 8月

 -相模野空軍基地-

「益田空軍元帥閣下、お待ち申し上げておりました、既に連絡を受け輸送機の準備が整って居ります。」

「うむ、ご苦労、しかしながら吾輩寝て居らんのだ、2時間ほど仮眠を取らせて貰えんか?

 出立は”まるごまるまる”とする、以上だ。」

「は、了解しました、では出立は2時間半後、まるごまるまると致します。」

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 仮眠を取り終えた吾輩は制服を整え、支度を終えた後、軽い軽食として仮眠前に頼んで置いた蕎麦を食すと搭乗口へ赴いた。

「閣下お早う御座います、出立されますか?」

「ああ、支度は整って居るのだろう?」

「万全であります、既にエンジンも温まって居ります。」

「よし、では行こう、ついて来給え、坂本少佐。」

 坂本少佐とは、第一号テストパイロットの種田君(現在大佐で教導隊長)の一番弟子で、腕がいい上にヘリも航空機も乗りこなす器用な男なので吾輩の副官として吾輩の乗機のパイロットを受け持っている。

 種田君は後進の育成の長として動いて貰う方が都合が良かったのである。

 護身用のキャリコと叢雲を身に着けると輸送機に搭乗した。

 機内でも、まだ何か引っかかるので、ずっと考えて居た、何故陛下では無く吾輩なのだろう・・・と。

 3時間後、漸く対馬県総合基地が目下に見えるようになって来たようだ。

「閣下、間もなく対馬県上空で有ります、御覧になりますか?この領土が我々の者となったのは閣下のお陰で有りますから、是非ご覧になって貰いたいのですが。」

「止してくれ、吾輩は手助けしたに過ぎん、あまり持ち上げるな、しかし上空から見るのは初めてだな、見させて貰おう。」

 青天の青空の元、目下に見える対馬県は、かつての酷い荒れ野腹の姿は既に無く、再開発と植林等の成果が表れているように見られた。

「これが対馬県(韓国)か・・・うむ、良い県にしたいものだな。」




 無事に着陸した吾輩は早速孫文たちと面会する事にしたのだが、やっと行き着いたある考えがあった為、完全に人払いをし、3人だけで会えるよう一室を借り切る事にした。

「ようこそ日本領対馬県へ、吾輩が空軍元帥の益田中将であります、孫文殿とはお久し振りであるとは思いますが、只の将校程度にどのようなご用向きですかな?」

「私はこの子に懇願されて一緒に逃げて来た只の避難民です、貴方に用があるのはこの子です、あちらの安全が確保できさえすれば私は何時でも戻る気で居るのだが、この戦況では仕方ないのでね・・・」

 只の避難民であると言うのは自分の思想を隠す為の嘘であろうと思われるが、やはり吾輩の思った通りなのでは無いだろうか。

 すると5歳の中国人の子供が流暢な日本語で話し出したのだ。

「はじめまして、僕は瑞元(セォワン)、譜名は周泰、僕は貴方に興味が有ってどうしても会いたかったです、お会い出来て光栄です、贈り物に、一点物の馬頭琴を用意して来ました、お納め下さい。」

「はっはっはっは!お久しぶりですね、貴方は松岡殿でしょう?とうとう転生されたんですね。」

「何の事です?僕は後に蒋介石となり中華民国を統治するのですが。」

 自分で自分の未来を予言する奴が何処に居ると言うのか、完全に別人の人相なのに、にやりと笑った笑顔が懐かしく思えたものである。

 こんなに心強い事は無い、あの松岡殿がこうして約束通り転生していらしたのだ、それだけで感無量であった。

 しかも後の民主主義中国を支える屋台骨たる人物として転生するとは、全くどこまで出鱈目な方なのだろうか、しかも、以前保護した時に会って顔を見知って居るとは言え孫文程の重要人物を連れて亡命して来るなんてどこまでも無茶苦茶である。

 やはり彼らしいと言うか、常に予想を上回って来るだけでなく斜め上の死角をキープして来るような印象さえ受ける。

 二人が話す内容が理解できない孫文殿は終始首を傾げて居た、一応日本に数年は居て勉学に意欲的であったのだから日本語は理解出来ると思うがそりゃ唐突にあの会話では何がなんだか判らないだろう。


 何はともあれ、こうして戦火より逃げおおせた孫文殿と後の蒋介石と成る予定の、中身は天照大神の眷属であると自称する転生者松岡殿を保護する事と成ったのであった。

 保護対象者として御二方を移送する帰りの輸送機の中で、蒋介石は、感動の涙を流したのであった。

「ついに、ついに航空機が完成したのか・・・史実よりもかなり早い登場だ、素晴らしい・・・流石です。」

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 1903年 9月

 呉の造船基地に隣接するように、訓練の為の滑走路が完成して居た。

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 そして新聞紙面にはプロパガンダが躍って居た、修一も知らぬうちに海軍が独自に考えた謳い文句が掛かれた物であった。

『【集エ若者達ヨ、闘神益田中将ノ新兵器ヲ駆リ飛ビ立テ大空ヘ!】

 帝国海軍では、かの益田修一中将閣下の開発せり秘密兵器”参式改艦載戦斗機"ミサゴ"にて大空の覇者となる勇者を募集中である、今こそ諸君らの才能を開花させる時である!(但し適性検査アリ、結果次第で整備兵としての乗艦となる。)』

 このプロパガンダの掲載当日を境に、海軍内は勿論、陸軍からの志願兵有志、そして一般よりの志願者が殺到する事と成る。

 修一は知らない内に、紙面で闘神と扱われて居たのだった。

 まぁ、新聞屋としては、戦車や自走榴弾砲の開発、そしてそれらによる戦火は見逃せるものでは無く、こう書き上げる事は当然だったのかもしれない、しかし、新聞に目を通す暇も無く研究開発に没頭して居た修一は、これまでそんな事になって居るとはつゆぞ知らぬ事であったのだ。

 ようやく朝もゆっくりと朝食を摂りながら新聞を読めるようになって居た修一は、このプロパガンダが目に入った事で椅子からずり落ちかけていた。

「な、何なのだ、これは・・・お、おい、この出鱈目に吾輩を持ち上げたプロパガンダは何なのだ?

 しかも参式戦に勝手に呼称付けてやがる・・・」

 思わずコーヒーのお代わりを持って来たメイドに聞いてしまった。

「ええ、旦那様は巷では有名な闘神となってますよ、私もこのような方のお屋敷で御使い頂いて大変光栄で御座います。」

 なんと言う事だ、知らなかったのは吾輩だけと言う事か・・・

 何でこうなった!何時吾輩が戦ったと言うのか、冗談では無い!

 しかしまぁ、空母の乗員を募集する為のプロパガンダである事は理解できた、しかし海軍ですら無い吾輩を引き合いに出すのはどうかと思う・・・

 引き攣った笑いを浮かべながらメイドを下がらせ、何事も無かったように背筋を正し朝食を続ける事にした。

 しかし、道理で空軍の設立を機に徴兵したら召集令状を出した5倍以上もの人数が志願で殺到した訳だ・・・多分同じようなプロパガンダを空軍司令としての吾輩の副官となった坂本君、もしくは政府関係者、下手にすると陛下が掲載させたのでは無かろうかと思う。

 どんな記事が掲載されたのかと気になって仕方が無いが、この屋敷は勿論の事、基地内を探した所でひと月も前の記事ではそんな新聞が残って居るとは思えない・・・

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 基地にて、朝礼を始める。

「傾注! 元帥閣下に敬礼!」

 全員一斉に、吾輩へ向け敬礼をする、この瞬間だけはとうとう軍隊に入って指揮官になってしまったのだなと実感をする。

「直れっ!」副官の号令で一斉に気を付けの姿勢に戻る。

 相当に統制が取れているように思える、正に一糸乱れぬと言った感じであると思う。

 この後は拡声器を受け取った吾輩が演説する所である。

「あー、休んで宜しい、ちなみにだが、本日新聞を見て居ったら海軍のプロパガンダ記事が掲載されて居ったのだが、吾輩の名を勝手に使って、しかも闘神等と囃して居って大変脱力させられた、吾輩は海軍にはおらんよな、ここは空軍であるからして。」

 軽く掴みを取ってみると、大して面白くは無いと思うのだが少し笑い声が聞こえて来た、朝礼だし余り爆笑が出るよりは、まぁ掴みはこんなものだろう。

「そこでだな、ちなみに吾輩はこの空軍の募集に関して、吾輩自身は全くの知らぬ所で考えられたプロパガンダ記事も出たのでは無いかと思って居るのだが知って居る者は居らんか?」

 真剣に聞いて見たのだがここでは大爆笑が取れてしまった、何でだYo!

 仕方無いのでこう続ける事にした。

「まぁ、冗談はこの辺で置いておこう、諸君らの訓練はこのひと月間、見させて貰って居るが、基礎体力は大分付いたように思う、そこでパイロットの者達は、今日から複座式練習機にて、教官より航空機の操縦を習う事と成る、パイロットに選ばれた者の中には高所恐怖症の者は居らんとは思うが、高い所が怖いと言う者は今のうちに申し出るように。」

 どっと笑いが起きる、冗談でこんな事言える訳が無いのだが、冗談に聞こえて居ると言う事はそんな奴は居ないと言う事だろう、うむ関心関心。

「ちなみに整備班の者達は、万が一に備えての剣術指南を吾輩自らが行う事になって居る、北辰一刀流免許皆伝であるから覚悟して掛かるように。」

 すると整備藩の列から一斉に「はい!」と言う気合の入った良い返事が帰って来た。

「うむ、宜しい、それではこれで朝礼を終わる、しっかり励み給え。」

 副官に拡声器を渡し壇上より降りる。

「解散っ!直ちに持ち場に戻るようにっ!」

 副官坂本中佐が檄を飛ばすと一斉に散っていく。

 うん、良い部隊になったな、と思う。

 袴で道場に出向くと既に整列済みであった。

 基礎の握りから教える事と成るが、基本なので柔軟体操だけはやらせる事にした。

 驚いた事に、彼らの大半が一般からの志願兵であるし、体力測定の結果航空機のGに耐え切れない可能性が有るとされた者達である筈なのだが、柔軟体操をさせると股割(またわり)も出来る様なものが複数名居たのだ。

 これはもしかすると鍛えればこの数名の者がエース級に伸し上がれるかも知れない等と思ってしまう。

 柔軟性が有ると言う事はそれだけ筋肉のコントロールも上手いと言う事に成るので、訓練次第では可能性が有る。

 そして武術を教えるに当たっても柔軟性は重要なのだ、瞬間的に体の動きを加速出来る人間は柔軟運動も得意なのである。

 柔よく剛を制す、これは柔道だけの話では無いと言う事だ。

 北辰一刀流益田道場として免許皆伝を出せる奴が・・・いやそれはそんな簡単では無いか・・・

 しかしまだまだ鍛え甲斐のありそうな者は居るのだなと実感したのだった。


 剣術の授業後、一人の整備兵が駆け寄って来た。

「閣下、あの、これ、小官の持って来た募集記事を切り抜いた物です! 記念に、どうぞ。」

「ん?あの朝礼で触れたプロパガンダ記事を持っておったのかね?」

「はい、もう一枚保存用で持ってますので、お納めください。」

「ふむ、では頂いて置こうか。」

 そのまま執務室へと戻った。

 後でじっくり読ませてもらうとしよう。

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 -満州中部戦線-

 第一八機甲科大隊は、ここ迄押し返したこの戦線で、ロシア機甲科部隊と接敵して居た。

「大本営へ連絡、”敵機甲部隊と接敵、これより砲撃戦へ移る、鉄鋼信管の使用許可求む。”急げ、許可を取りたいのだ!」

「こちら無線中継小隊二号車、了解した、今すぐ連絡を取る、しばし待たれよ。」

「隊長、撃って来ました。」

「取り敢えず応戦だ、機動防御戦闘開始、左右に展開しつつ回頭、走行しつつ各個砲撃開始せよ。」

 無線機の配備が進んだ戦闘車輛である、通常ならば多車両に指示が出来ない所を一斉に指示が飛ぶ、お陰で一糸乱れぬ回避行動と回頭して走行しながらの砲撃が開始される。

 方やロシアの戦闘車輛は、無線機も無い上、砲塔が回頭出来る仕様にはなって居ない、当然ながら方向転換をせねば成らないお陰で一カ所に纏まったまま移動が出来ない。

 日本の戦闘車輛からの砲撃が直撃した車両はソコソコの被害を受けた様だが、これでもかと言う程の分厚い装甲を張り付けたロシア製は至近弾の炸裂ではほとんどダメージを受けて居なかった。

「くそっ、硬いぞ、鉄鋼弾頭の使用許可未だか!?」

「こちら通信車両小隊二号車、対馬県総合基地よりの確認が取れた、鉄鋼弾頭の使用を許可する。」

「有り難い、各車両に告ぐ、鉄鋼弾頭使用許可が下りた、貴重な弾頭である、良く狙って撃て!」

 ロシア戦闘車輛はその場で方向転換しないと照準出来ない為にいつの間にか円形に全周囲を狙える陣形になって居た、日本の戦闘車輛はその周囲を取り巻く様な陣形になりつつあった。

 但し、日本側としたらむしろ的が大きくなった印象で狙いやすくなって居た為、鉄鋼弾頭によって装甲を貫かれたロシア車両はひとたまりも無く片っ端から活動を停止して行った。

 戦闘が終わった頃には、風穴の空いたロシア戦闘車輛が残ったのみ、生存者はほぼ皆無であった。

 鉄鋼弾頭の初陣であった、これで鉄鋼弾頭の優位性は証明され、ロシア戦闘車輛の性能を含め、直ちに報告は上がり、その戦闘データは技術開発省へと報告されるのだった。

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 -技術開発省-

「大佐、鉄鋼弾頭が使用され、その戦闘記録が届きました。」

「どれ、見せたまえ。」

「は、此方が全戦闘記録の封書で有ります。」

「ふむ・・・やはり流石益田中将だ、大方あの人の予測していた通りの結果と言えるかもしれない、それにしても、何という厚さの装甲を・・・良くこれで走れた物だ、相当の重さであろうに・・・」

 井上大佐は独り言のようにブツブツと声に出した後、連絡係に命令を下した。

「よし、鉄鋼弾頭の量産化を図ろう、益田重金属工業、〇菱グループ、〇井グループ、それと合衆国のエジソン工業へ打診し給え、設計図は既に配布してある、第248号の量産を許可とだけ告げれば判る。」

「は、畏まりました、第248号の量産を許可で宜しいですね。」

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 -ドイツ、ベルリン-

「報告致します、同盟国日本とロシアの戦闘状況ですが、ロシアの物量作戦に一進一退の均衡を辛うじて保っておるようです。」

「報告ご苦労、日本に資金援助を申し入れろ、今はそれだけでいい。」

「援軍は出さなくても宜しいのですか?」

「援軍・・・か・・・かの益田の様々な新兵器を投入して居ると聞く、一度は援軍の打診をしたのだが、誤射が有ると申し訳が無いと断られてしまったよ、戦闘自体は彼らに任せよう、それよりも此方は、ロシアに騙され誘導された清国軍の撃滅を考えた方が良いだろう、ロシアと言う国は何処までも狡賢い戦略を取って来る可能性が高い、武力で清皇帝を脅し監禁した上で偽の皇帝命令を発行して居る恐れがある、側面から同盟国を支えるのも我々の戦い方だ。」

「は、畏まりました。」

「今のうちに精々恩を売っておこう、貸した金を新兵器で支払って貰っても良いしな、我々も色々開発して居るが、あの益田の開発速度は常軌を逸している、我らが構想して開発途上の戦車が既に在ると言うでは無いか、どんなものかこの目で実物を見てみたいものだ。」

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 -フランス-

 パリ・コミューン陣営

「同志レーニンが思いの外苦戦を強いられて居るようですが、如何致しましょう。」

「如何も何もあるか、英国経由で日本製の銃器を手に入れた反抗勢力が幅を利かせ始めて居てそんな方向へ作戦力は無いだろう?」

 事実、益田自動小銃や、トーマス・エジソン.Jrの開発した自動小銃が英国経由やドイツ経由で流入しており、それらを持って武装した反体制派のクーデター軍が幅を利かせ始めて居たのである。

「しかし、せめて植民地の警護に出して居る海軍位は動かせませんか?」

「うーむ、そうだな、背後から日本の艦隊を討てれば日本艦隊へ奇襲を掛け、その後に半島に構えた敵基地を叩く、これならば行けるかも知れん、宜しい、やって見給え。」

「は・・・お、お任せください、必ずや。」

 海上大攻勢が始まろうとして居た。

 しかし彼らにそんな余裕は無さそうなのだが・・・

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 1903年 10月

 -呉、海軍航空訓練基地-

 此方には、教官として、テストパイロットとして異例の速度で頭角を現し、才能を認められた若手、麻門一郎(まもんいちろう)中尉(中身はマモン)が教導隊教官として空軍より派遣されて居た。

 何処から憑代を見つけて来たのかは知らないが・・・その名前ってどうなんだ?と思ってしまうのは吾輩だけでは無いのでは無いだろうか、ベル殿やサタン様等はきっとそう思って居る筈だ。

「オラお前ら!機体を手足と思えっつってんだろ!神経を研ぎ澄ませろ!機体は貴様らの体の一部だ!」

 もう無茶苦茶とも言えるスパルタである。

「4番機!旋回が遅い! 7番機は旋回に入る速度が速すぎる!大回りになって対空機銃に撃てれてりゃせわねーんだぞ! 速やかに小さい回転範囲で回り切れ!」

「どうかね、麻門君、訓練の進捗状況は。」

「これはどうも、呉基地司令官殿、奴らはやっと一人で飛ばせられるようになったばかり、言わば幼毛が剥がれたばかりのヒナのようなもんです、もう暫くは飛行訓練が必要です、その後に、空母の細い甲板滑走路に着陸する為の訓練をせねばなりません、今しばらくの心棒を。」

「うむ、儂は航空機については何も口出し出来る程の知識は持ち合わせん、しかしさすがに君の腕前を見せられた時には感動した、あれ程上手く人は空を自由に飛べるのかと思ったもんだ、君をここに派遣してくれた益田君には礼を言わざるを得ないだろうな、それで、どうかね、訓練が終わったら、彼らの隊長となって一緒に桜島へ乗る気は無いかね? 君さえよければ海軍少佐へ推薦するつもりで居るのだが。」

「お言葉は有難く受け取りましょう、しかし今は順次新しいパイロットを育成せねば空母の塔載数に届きませんからな、全て終わった後には考えさせて頂きましょう。」

「そうであったな、彼らの中で腕を上げた者は君の部下の教官とせねば訓練もまま成らんのだったな。」

「はい、後2か月は最低必要であります。」

「うむ、育成は貴様に一任する、任せたぞ。」

「お任せ下さい、益田中将閣下より完全に委任されて参りましたので、此方に残る事も検討させて頂きます。」

 楽しいぞ益田よ、これまで空を飛ぶなど想像だにもして居なかった人間を空に揚げる手伝いなんて、こんなに楽しい遊びを我に与えてくれて感謝する、これだけの対価を貰ったのだ、お前の願いなら3つ迄なら何でも聞いてやっても良いと思える程にな。

 マモンはニヤリと笑う、これ以上ないのでは無いかと言う悪そうな笑顔だった。

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 -ウラジオストク-

「同志書記長、戦車の初戦の報告が上がって来ました。」

「うむ、読み上げろ。」

「は、では読みます、第1戦車大隊は満州中部最前線に置いて敵戦車部隊と接敵、砲撃を開始するも、敵部隊は散開、走行したままの砲撃を受けるも、当初は被害軽微、しかし、後に直撃砲弾が装甲を貫・・・通・・・壊滅・・・した、との、情報部よりの報告との事です・・・」

「な・・・なんだとぉっ! 何であいつらの戦車は走りながら砲弾を当てる事が出来るのだ!砲塔を回頭させて居ると言う事では無いか!そんな事が出来るのはやはり益田のせいかっ! 糞っ糞っクソォぉ~~~っ! しかもどう言う事だ、初めは直撃しても損害軽微だったのに後から貫通するようになったなど! まさか、奴は鉄甲弾まで用意したと言うのか! 許さん、何としてでも益田の首を取ってやる!」

「ひぃっ! ど・・・同志書記・・・長・・・そ、その・・・暗部教育隊よりの報告も、上がって来て居りますが・・・お読みしても?・・・」

「読み上げろ!」

「は、はい、暗殺専門の部隊を徹底訓練中、現在1000人程が間もなく教育を終えるそうです、一切の感情も持たない自らの命をも厭わない殺人部隊が間もなく完成すると言う事です。」

「ふむ・・・そうか、済まない、少し取り乱したようですね、判った、下がっても良いぞ。」

「は、失礼致します。」

「クックック、益田め、今に見て居れよ、目にもの見せてやろう。」

 邪悪な笑いを浮かべるレーニン、部屋を出て行ったばかりの連絡将校はその部屋の外で聞き耳を立てて居て身震いするのであった。

 直後、海軍提督が入って来る。

「失礼します、同志書記長。」

「なんだ?今なら気分が良いので何でも聞いてやる、言って見ろ。」

「は、我が海軍に今一度チャンスを、未だ最強のバルチック艦隊が居ります、我々は未だ負けて居りません。」

「ふむ、勝算はあるのか? 圧倒的な射程と圧倒的な機動力、そして圧倒的な火力なのだろ?相手は。」

「はい、背後より回り込んで、フランスの艦隊と挟み撃ちにして奇襲すれば如何な精強な艦隊と言えど一溜まりも無いでしょう、如何ですか?」

「うむ・・・悪く無い戦略かも知れんな、宜しい、やって見給え、君にはもう後が無い事は忘れるなよ?」

「は、お任せください、書記長の期待にお応えできるよう尽力いたします。」

「ふっふっふ、駒は揃ったようだな、思い知らせてやろうでは無いか。」

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 1903年 11月

 -相模野空軍基地-

「中将閣下、陛下よりの秘匿暗号通信が届きました、マニュアル手順通り、此方のカセットテープとか言う物に記録しました。」

「うむ、そこに置いておきたまえ、後でゆっくり確認する。」

 暗号と言うのは便宜上である、有線電話でも無線でも、これなら誰にも理解出来ない上、PCが存在するのはここと技術開発省、そして合衆国位である、未だインターネットが存在しない以上、そして国内の通信である以上、誰にも情報が洩れる事は無いのだ。

 内容を確認する吾輩の表情はどんな表情だったであろうか、手鏡でも有れば見れたかも知れんが自分で見られたらさぞかし妙な笑いを浮かべて居たに違いない。

 以前より、陛下にお願いして秘かに吾輩の出資で建設して居た、対馬県の山中の地下の実験研究施設が完成したらしい。

 空軍へと配置換えされる直前に完成した最新スパコンも皇居に預けて有ったのだが、それも運び込んであるようだ。

 位置的には、開城(けそん)の南東部の山岳部だ。

 ツインローターヘリが何の不安も感じずに入るゲートが天井部に有る為、物資搬入はそのゲートで行える所謂秘密基地である。

 考えうる中で揃うであろう全ての機材も取り揃えて置いた。

 付近には製油基地を隣接した港も建設中、此方も間もなく完成する予定らしい。

 更にその港と製油基地のある地点から秘密基地までの間に大型の重油式火力発電施設を建設中、ここで作る電力はほぼ全部基地に使われる。

 宮大工等から習って鍛えた0.01mm単位の精密技術、此方に転生して来てから鍛冶師と共に試行錯誤して培った錬鉄技術、そして吾輩の未来から持ち込んだ知識とデザイン力、全てを駆使してこの基地で開発を出来ればジェット戦闘機も夢では無いだろう、対艦ミサイルなども作れるだろう。

 技術開発省からも特に成績の良い研究者を3名だけ、此方に連れて行っても良い事で陛下とは話が纏まっている。

 まぁ実際には上位三名も連れて行っては技術開発省は回らなくなってしまうのである程度出来る者を連れて行く形にはなると思う。

 実際の話、スパコンに連動させたマザーマシンや、運搬組み立て用ロボットを稼働する予定なのでそんなに成績上位の者で無くとも、管理をお願いする程度なので務まるのだ。

 むしろオーバーテクノロジーだとか騒がれるよりは良く判って居ない者の方がマシかも知れない。

 ちなみにこの基地の運営費用は吾輩が全額持ちである、所謂完全に個人の趣味で作って貰った秘密基地であった。

 井上君が確立してくれたインバーター技術もここで本格的に使わせて貰う事になるだろう。

 しかし今は吾輩は空軍から離れる訳には行かないので、記憶の片隅に置いて今は無かった事のように流して置く事にした。

 でも一度は確認しに行って置こうと思って居る、なんせ吾輩の趣味の集大成のような物である。

 何を作る気かと言うと、人工衛星やそれを打ち上げるロケットなどが、この秘匿基地の主な開発項目となって居る。

 しかし、この規模の物を建設してもまるで腹が痛まないのだからどれだけの金が入って来て居るかと言う事ではある、驚くべき事だ。

 私設軍でも作れそうな勢いだな。

 いずれにしても、今は忙しくて見に行く事も難しいが、時間を作って行ってみたいと思ってはいる。

 それにしても最近、妙な気配を感じるのは何だろう、何と例えたら良いのだろう、我が弟が周りをうろついて居る様な、とでも言うべきか、吾輩に近い存在が付近をうろついている感じだ。

 箱根の邸宅に戻ると弟が例の女優を嫁に娶る為に両親へ挨拶に出向いて居たので奴だったのかも知れない、忙しそうにして居たので声を掛けずに帰ったのでは無いだろうか・・・

 しかしこの相模野空軍基地に居る事は誰にも話して居ない筈なのだが・・・まぁ良いか。

 吾輩の病状は急性で無かった為にそんなに進行が早い事は無いようである。

 白血病など正直な話、何時動けなくなるかも判らん、体の動くうちに早めに社でも建ててサタン様を含め、まだ信仰対象とされて居ない六柱も祀り上げてしまおう。

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