第67話 第壱号空軍基地

          第壱号空軍基地

 1903年 7月

 -相模野空軍基地-

 赴任したてのこの基地に、続々と配属されて来る徴兵された新兵達。

 因みにこの基地には大規模生産工場を有しており、此方の工員も続々集合しつつあった。

 この生産工場では、戦闘機、偵察機、輸送機、爆撃機と、全ての航空機の生産ラインが作られており、実に常時800人以上の工員が働けるようになって居る。

 吾輩が新たに立ち上げ、MASUDAより引き抜いた叩き上げの役員の率いる益田工機に発注したコンベアーやクレーンを筆頭に、航空機生産に必要な生産補助機器と半オートメーション化を実現した組み立て機械等を導入しつつ、各部品をMASUDA、〇菱重工業、三〇製鉄等に発注をして居るが、そう言った物も現在続々と搬入されて居る。

 当面はこう言った物の納入をチェックしサイン、それが吾輩の仕事であろう。

 勿論、空母の運用に関しての説明と意見交換の為の日程はしっかり確保してあり、当日の搬入は一切無い事にしてある。

 当日は東京湾中央埋め立て基地の滑走路からVIP用輸送機を飛ばし此方にお越し頂く事と成る。短い距離だが回転翼機を飛ばすよりも此方の方が乗り心地も静音性もずっと良いのである。

 空軍の存在感を見せつけるパフォーマンスにもなるだろう。

 そしてこの基地で練習機を使用しての模擬戦闘、ちょっとした爆撃演習を見せ、その有用性を証明した後に空母を含むその運用に関しての意見交換をする事にしている。

 今はとりあえず、基地の落成式と元テストパイロットの教官就任式、そして吾輩の総指令の就任挨拶と言ったものの予行、各人の制服の採寸など、今日はする事が目白押しで忙しいのである。

 先ずは落成式、形式上だけと言う訳には行かないようで、何せ世界に先駆けて初の兵科の軍隊のスタートを意味する物でも有るので盛大にやろうと言う事らしい。

 但し機密なので一切の情報統制は忘れて居ないと言うのだから何とも微妙な事である。

 一体どう盛大に秘密裏に出来ると言うのだろうか?

 そもそもここまで盛大にやれと言って置きながら情報統制なんぞあったものではない気がするのだが。

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 -式典当日-

 陛下、内閣府各大臣、海軍提督、陸軍提督のメンツがVIP専用輸送機にて到着した。

「ようこそお越し下さいました、陛下に置かれましてはご壮健のご様子で何よりであります。」

「うむ、出迎えご苦労、ところで修一よ、今日は楽しませて貰うぞ、航空機の披露を期待しておる。」

「はい、未だテストパイロット40名しか居ない部隊ですが、上空よりの爆弾投下攻撃の有用性を披露してご覧頂けるのではないでしょうか。」

「益田君、久しぶりだね、お招き感謝するよ。」

「何をおっしゃいますか、桂総理大臣閣下、前任の陸軍元帥閣下にこそこの威力をお目に掛けたくてうずうずして居りましたよ、お越し頂き感謝しております。」

 次いでタラップを降りて来る海軍元帥、井上いのうえ良馨よしか閣下と、開戦を受けて1月にインド出張より早期帰国し、陸軍元帥へと就任したばかりのおく保鞏やすかた大将閣下を順次出迎える。

 このお二方とは良しなにさせて頂いて居るので、挨拶もそこそこに来賓席へと案内を付ける事にする。

 その後には副官と思しき者と各軍の重要ポストに付いて居ると思われる佐官クラスの複数名が続く。

 因みに、技術開発省を吾輩に変わり預かる事になった井上大佐は井上良馨海軍元帥閣下の親戚筋に当たるのだそうだ。

 彼の功績も閣下の耳には入って居り、「養子に貰って置くべきだった」とか、昔の彼の余り宜しくなかった素行の事を考えると「よくアレを更生出来た」等と吾輩を褒めるのが常になって居る。

 一応吾輩の方が年齢は下なのだが・・・

 まぁ確かに吾輩の元へ配属されて間も無い頃に反抗的なので手痛く仕置きをした事は有ったが・・・それに今の彼の功績は彼自身の才能と強運の部分がかなり大きい。

 何だか盛大に脱線したので元に戻そう。

 基地の落成式並びに就任式を滞りなく済ませた我々は、ツインローター式回転翼機にて丹沢高地演習場へと移動する。

 相模野基地よりはそんなに離れて居ないのですぐに到着する。

 全員に的を確認させる為の双眼鏡を手渡し、航空攻撃の的を確認させ、実弾実装の練習機を待って居ると、すぐに上空よりプロペラ音が聞こえて来た。

 周囲より、おお~という歓声が上がる。

 東京大火災の時に水上機による散水を行って居るので航空機の存在は知って居そうなものなのだがあれだけの数のスマートな機体が爆弾抱えて飛んで来るのは新鮮らしい。

 攻撃を支持すると順次急降下をしつつ爆弾を投下、操縦桿を引き上げ機体をぐっと急上昇させ離脱して行く姿は正に隼やイヌワシの狩にでも見えたかもしれない。

 急降下爆撃の命中精度は折り紙付きである、大歓声が上がって居た。

 その後、八咫烏の攻撃フェイズでも拍手喝さいであった。

 こうして滞りなく公開演習を終え、基地に戻ると昼食を済ませ、午後からの運用に関しての会議に入ったのであった。

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 -会議室-

「・・・威力、命中精度などは先程の演習の通りであります、しかし航空機には多少の問題が有ります、富士登山等された事のある方々はお気づきかも知れませんが、上空に行く程気圧及び気温が下がる傾向が有りますので、翼に付いて居るこの方向等を変える為に必要な部品が凍ってしまう事も想定せねばなりません、不凍油脂による加工など、念入りな整備が必要になります。

 整備不良で空に上がれば、制御不能に陥って墜落等と言う可能性も否めない訳であります、従って整備員の人員数はかなり必要となる為に、非戦闘員も多く徴用する必要性が有ると言えます。」

「陸軍としては兵が無駄に死ぬ戦場よりは先に掃除して貰ってから残敵掃討と洒落込んだ方が有意義である、従って全面的に支援させて貰おう。」

「海軍としては、その航空機を海軍にも運用して欲しいとの意見に対し、一つ思い当たったのだが、最近建造したあの甲板に艦橋以外ほぼ何も無い船はこの航空機の滑走路とする為の船と言う事で間違いは無いかね?」

「はい、あの船は航空母艦と言う事であります。」

「成程、航空母艦か、しかしあの船に何人の航空整備士を搭乗させようと言うのかね? 先程の話だと相当数の整備員が必要のようだが。」

「そうですね、まずそちらの資料の2頁目を見て頂きたい、搭載機数が明記されて居ます。

 恐らくは航空機の機体数と同等かそれ以上の人数が必要になるのでは無いかと、その内の10~20名程は深刻な不具合を修理できるような腕の者を必要とするかも知れません。

 整備員はそのまま航空機の離着艦の誘導員等も務めて貰う様にして人員の削減を図りましょう、回転翼機にも回転翼機専門の整備士を凡そ20名程搭乗させておけばいいのでは無いかと思います、現状この基地では整備士とパイロットを同時進行で育成する事が当面の課題であり目的となって居ります、空母も既に完成して居るので優先的に桜島への搭乗員として徴用して居ります。」

「人材育成に尽力して頂く事には異存はない、しかし船上にて同じ作業をしなければいかんとなると更なる訓練や育成機関が必要となるだろう、海軍としては、初めから船上を想定しての育成する方が早いのでは無いかと論じたい、数名の教官としての運用可能な人材をお借りして独自に教育を果たして行く事が重要では無いかと考える。」

「成程、一理有ります、それではテストパイロットの中でも4名の腕利きと、技術開発省の航空機開発部門の技術者六名をお貸し致しましょう、実際に航空母艦の運用も世界に先駆けて我らが最先端で有る為に実際に運用して見ない事には果たして理論上の人員数で足りるかと言う所にも疑問は生じる限りであります、逆にもっと削減出来るかも知れません、実際に手探りでやってのけるしか無いのが現状であります、そのお考えであるのならそれに対しての協力は惜しまないつもりであります。」

「では、当面その内容で空母の運用に関しては我ら海軍が独自に人員の育成もして行く方向で良いかね?」

「陸軍としても問題は有りません、パイロット育成に関しても問題は無い物と思われます、何より益田殿の開発して来た新兵科には相当数助けられておる、これはもう疑う余地も無く非常に有用な兵科であると想定致します、これからは航空機による支援が期待できるのは人的資源損耗を最小限に抑える事が可能であると見込める以上、陸軍としては不満は無い、タダ・・・」

「何かお気づきですか?」

「うむ、実はな、敵の背後に航空機で回り込めるならばもっと戦略の幅が広がりそうな気がするのでな、何か良い手は無いか?」

「それでは、これはどうでしょう、今お配りします書類に目をお通し下さい。」

 秘書官が空挺構想を予想図付きで文面化した物を手渡す。

「如何でしょうか、兵を空輸し、落下傘にて降下、背後に廻り込む落下傘部隊と、先程演習場へ移動する為に使った輸送用の回転翼機を利用したロープによる降下のどちらも熟せる空挺部隊構想で有ります、此方は重歩兵程の装備は無理ですが、自動小銃を短銃身化し肩に当てて使う銃床を伸縮式もしくは折り畳み式にした空挺用自動小銃を持たせる事で背後よりの奇襲攻撃が目的であれば、十分な威力を発揮出来ると思われます、また、自動小銃に35㎜程の小型炸裂弾射出装置を取り付ける事で更にその効力が増加するでしょう、手榴弾よりも飛距離が稼げる分、炸裂弾には大した命中精度は要らないだろうとの考え方が認められればの装備では有りますが。」

「ふむ、素晴らしい兵科であるな。」

「もう一つ宜しいでしょうか、今は未だ私の使用している試作品2丁のみの生産でしか有りませんが、拳銃弾を100発程連続発射できる此方の長身型自動拳銃を持たせるのも一つの手では有ると思います、拳銃弾になる為に射程距離は短くなりますが、弾倉を変えることなく百発の弾を撃ち続ける事が出来ると言う利点は有ります、私の場合、護身用として独自に試作した物をこのように2丁持ち歩いて居ります。」

 秘書官が吾輩のキャリコを持って来て手元に置いてくれる。

「それは又面白い形状をした銃であるな。」

「はい、これはこの銃床に当たる部分の大半が弾倉になって居ります、今ここでぶっ放す訳にも行かないのでその辺はご容赦下さいませ、希望される方は後で射撃場で試射も可能であります。」

「判った、最重要案件として検討する事として、後でそいつを撃たせろ。」

「儂も撃ちたい、是非撃たせてくれ、万一揚陸戦になった場合に使えそうだ。」

「しかし益田殿は何故こんな物を2丁も持ち歩いとるのかね?」

「ははは、意外と敵が多いんですよ、お恥ずかしながら海外からだけで無く国内にも敵が居る様でして、技術開発省時代にはほぼ毎日何処かからの刺客が、私が帰宅する所を狙ってましたので、回転翼機も実は初めは基地からゲートを使わないで帰宅出来る様に考えて開発した程ですので。」

「「な・・・成程・・・それはご苦労な事で。」」

 何だか慰められてしまった・・・

 そんな様子を陛下だけは無言でクスクス笑いながら遠巻きに見て居た、このジジイ、天皇陛下で無かったらグーで殴ってやりたい所だ、ちくしょうめ。

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