第60話 加速する日露情勢
加速する日露情勢
1903年 1月
ロシアは清国に対し、旧朝鮮国北東部海上へ艦隊を終結させての艦砲外交による見返りを求める。
清国を守ってやる等と言う大義名分を引っ提げては居たが、体裁だけを整えた脅しである。
脅迫である、武力行使を仄めかす脅迫なのだ。
そして付近を巡回中の大日本帝国の巡視任務を遂行中の軽巡洋艦高尾に対し、死角より砲撃を実行した。
高尾は中破、その後、回避行動を取り射程外への離脱を成功させるも、浸水が激しく、被害拡大により航行不能となる。
それにしても、死角よりいきなり砲撃されたからと言ってまさか直撃弾を一発食らうとは何を油断して居たのだろうか。
仮にも日本海にて我が国の巡視艇たる軽巡洋艦を攻撃、航行不能に貶めたと言う事は海軍の逆鱗に触れる事は容易かった。
第一、第二艦隊を特別合同編成し、周囲の包囲を開始する大日本帝国海軍であった。 因みに、指揮官を任命されたのは村上少将、つまり我妻の父、吾輩から見ても義父であった。
そして、日露両海軍は、膠着状態となったのだ。
清国はこれに対し、後に言われる露清密約なる物を締結するに至るも、現在最も信用に足ると皇帝の認める所の大日本帝国へも縋る様に保護要請を打診する。
しかし露清盟約の内容が悪かったのである。
日本の進軍に対しロシアへの援軍要請と清国内の進軍を容認、許可すると言う内容が含まれていたのだ。
それを知らずに、元陸軍大将桂太郎内閣総理大臣閣下は大義名分を受けたと息巻いて進軍の命を下してしまった。
元々軍人でありかなりの武闘派であった総理にとってまさに青天霹靂だったとしか言い難い。
しかし、露清密約が締結されるよりも前に日本へと送った使者が到着するまでのタイムラグが有るが故、誰が悪くてこの事態になったと言う訳でも無かったのだ。
その上露清の結んだ条約が密約となってしまった以上その内容も開示できない以上、清国皇帝にもこの戦争を回避させる手立ては無く、日本へ対し新たな使者を派遣する事も出来なかった、つまりはレーニンの思う壺であったと言う事である、正にレーニンの策に関係各国はすっかり乗せられてしまっただけであった。
そして清国へと再進軍を始めた大日本帝国陸軍は、ロシア軍の奇襲を受け、ほぼ同時にロシアは、露清密約を大義名分の盾として、大日本帝国への宣戦布告をしたのである。
実に凡そ1年も早い開戦となる。
回転翼機開発の功で吾輩も12月に少将となって居た。
そして今、日露戦争開戦を受け、訓練を終えたばかりの回転翼機部隊2個師団を、まず対馬県へ第1師団を配置の為に届け、弟の所へ行き、開戦の為の避難と称し事前に金沢に買い付けて置いたMASUDA金沢事務所へ移動の旨を伝え、小松工場の土地買収、工場建設、及び対馬県の行員全員の一時小松移動などの会社方針、及び人事と、やはり事前に用意して置いた役者養成所及び役者養成所兼プロダクション会社設立を伝え、その後、ヘリ空母はまだ無い物の、巡洋艦クラス以上か補給艦へならば着艦が可能であると言う理由から日本海に展開中の海軍艦隊へと第二師団を届けるべく、吾輩の移動用の非武装戦闘回転翼機で向かって居る。
せめてもと思い、早めに多めの人数の回転翼機パイロットを育てて置いて良かった、2個大隊処か2個師団も用意出来たのだから。
勿論、輸送用のツインローター式回転翼機も、ロケット弾などの回転翼機用弾薬を積み込み、後から到着する運びとなって居る。
序でと言っては何なのだが、義父へ挨拶までにと、指令艦となる第二艦隊旗艦の新造大型戦艦 志那都比古(しなつひこ)へと着艦し、艦橋へと到着した。
「提督!回転翼機部隊第二師団、並びに技術開発省長官益田少将到着されましたので、ただいまお連れ致しました。」
「うむ、ご苦労下がって良い。」
「は、失礼致します。」
「ようこそ、婿殿。」
「もう婿殿は辞めませんか、お義父上。」
「いやぁ、何だかまだお主等が新婚のような気がしてなぁ、はっはっは。」
「やれやれ、義父殿(おやじどの)は未だご自分の娘に未練があると見える、自分は既に尻に敷かれて居ると言うのに。」
と言って笑い合う。
「どうだ、儂の孫は元気にしておるかね、長い事海の上なものでね、情報が不足しとるのだ。」
「ええ、元気過ぎて困る程です、今はすっかり箱根邸の方が気に入ってる様で毎日野山を駆け回ってるようです、お恥ずかしながら自分もここ数か月は開発が混んで居るもので、中々箱根へは帰れておらず、横浜の方にずっと居るものでして。」
「そうか、しかし電話が有るので儂よりは情報が有るようで安心した。」
「そうですね、今度は海上でも孫の顔を見たり情報を手に入れられるような通信手段を確立するつもりでおります、期待して居て下さい。」
「おお、それは楽しみだ、婿殿期待しておるよ。」
そうこうして居る内に警報が鳴る。
「おっとこうしては居れん様だ、婿殿はもう用は済んだのだろう?
早々に離れなされ、万一でも有ってお主に死なれるとその通信手段も手に入らんようになりそうだ。」
「はっはっは、お義父上の采配とこの艦がある以上其れは無いのでは?」
「そうかね、それではまぁ、何時もの一寸した挑発程度だろうから艦内で大人しくしておいて下され、すぐに終わります。」
「ええ、それでは優雅に茶でも頂いて置きましょう。」
「ああそうそう、東郷平八郎少将が婿殿に会いたいと言っとったな、後で第1艦隊の旗艦、武御雷へ行ってやってくれんか。」
「ええ、勿論、自分もお会いしてみたい。
先の日清戦争の英雄とお会いできるのは光栄です。」
「はっはっは、向こうも同じような事を思ってるようだぞ、凄い艦を造って貰ったと燥いで居ったからな。」
第1艦隊の旗艦が武御雷、第2艦隊の旗艦が志那都比古、所謂、雷神に対して此方の旗艦は風神である。
因みに以前の第2艦隊旗艦である毘沙門は再編によって第3艦隊旗艦となって居る。
お互いに冗談を言い合いつつ吾輩はこの艦の食堂へと誘われ茶を頂く事にした、食堂へ辿り着く前に、この艦が発砲したのだろう、轟音と共に少し揺れる。
吾輩を案内して居る下士官に、結構揺れるのだな、等と問うと、彼は「いえ、この艦はあれ程の大口径砲を撃ってもこの程度しか揺れないのです、むしろ本当に揺れの少ない優秀な艦です、益田少将の設計思想は本当に素晴らしいと思います、小官も尊敬しております。」等とべた褒めされた上に握手を求められてしまった・・・まるで売れっ子芸能人にでもなったかのような気になる。
そんなに煽てられても大和級の艦は作る気は更々無いのだが。
思った以上に小突き合いは直ぐに終わったようだ。
折角出して頂いた茶をのんびりと味わって居ると、プチ戦闘を終えた兵士達がちらほらと水分補給に集まって来た。
食堂に入るなり吾輩の階級章を見てビビりまくり、「ご苦労様であります!」とか、吾輩の顔を新聞等のプロパガンダ記事で見知って覚えて居る物等は、この艦の設計も吾輩であると知って居る様で、「素晴らしい艦を有難う御座います!」とか言って来て居心地が悪いので早々に立ち去る事にした。
艦橋へと戻った吾輩はお義父上に挨拶だけ済ませるとパイロットを待たせて居る自分の回転翼機へと戻り、行き先を第一艦隊旗艦武御雷であると告げる。
武御雷に降り立つと、すぐに下士官が吾輩の案内に現れる。
流石に統率が取れているようである。
「案内役を命ぜられました、益田少将を艦橋へとご案内致します!」
「ご苦労。」
艦橋へと誘われると、真っ先に東郷平八郎が吾輩を出迎えた。
「おお!ようやっと出会えた!我が艦の設計者にして日清戦争に置いて清国の増援を木っ端微塵に打ち崩した伊号弾の発明者、益田殿!お会いしたかったぞ!」
何だか熱いな、この人、誰かに似てる・・・
海軍ってこんなのばっかか?もしかして。
但し、もしも彼であるとすれば吾輩を良く知って居る筈なのでこのようなまどろっこしい事はしないだろう。
「自分もお会いしたいと思って居りました、東郷殿。」
取り敢えず握手をして、挨拶を終える。
「本当に貴官の設計したこの艦は最高の艦だ、吾輩の尊敬する、故、松岡大将閣下が一目を置いて居ただけの事はある、流石だ。」
あぁ、そう言う事か、あの未来人に影響されて真似してるタイプね、納得。
「いえいえ、自分はまだまだですよ、松岡閣下は右も左も分からない状態から勝閣下とたった二人で海軍を立ち上げて成し得たお方ですからね。」
取り敢えずは褒めておこう。
「この戦争が終わったら儂は一時帰還する事になって居るので、食事でもご一緒させて貰いたい、招待しますので是非その時は良しなに。」
「判りました、自分も忙しい身では有りますが、御招待頂けると言うならば喜んでお伺いします。」
「そう言えば益田殿の奥方は今作戦の指揮官村上殿の娘と聞いてます、是非一緒に起こしになって下さい。」
「判りました、妻に伝えて置きます。」
「今一度握手を、益田殿!」
「あ、はい。」
「今回の、回転翼機ですか、これも大事に使わせて頂きます、本当にすごい物をお作りになる。」
「あまり褒め殺しにせんで下さい、まだまだやりたい事があると言うのに、もう良いのかな等と心が揺らいでしまう。」
「はっはっは、冗談も秀逸ですな。」
「いえいえ、それでは自分はそろそろ、お抱え操縦士も未だかと痺れを切らせて待って居ります故。」
「おおこれは済まない事を、それでは、益田殿、御壮健でおられる事を祈って居ります。」
「こちらこそ、船上でお怪我などされぬようお祈りしておきますよ、では、又。」
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回転翼機の飛距離では、東京湾中央埋め立て地迄は届かないので途中で給油する必要が有る、こちらに来る時は対馬県に第1師団を届けてからなのであちらで給油が出来たのだが、どうしても無理が有る為、帰りは、小松の陸軍駐屯地に立ち寄る。
すると、ここでも大歓迎で、是非に晩飯と宿を奢らせて欲しいと言われ、本日中に帰る予定だったのだが和倉温泉に一泊する事になった。
の、だが・・・温泉は最高に良かったし言う事は無いのだが、吾輩はこの温泉の名物をすっかり忘れていた。
勿論操縦手の村上君は大はしゃぎして居て良かったのだが、吾輩的にはあれはあまり好きでは無いのだ・・・
所謂、男子のみの宴会場にだけ登場すると言われて居るあれである・・・
ここまで書いてお分かりの者が幾人居るかは知らぬが、かの有名な『女体盛り』の事である。
そしてあれが出ると言う事は当然、『わかめ酒』も有る事に成るのだが、吾輩はそのどちらも今一つ好きには成れぬ、その上、妻の顔がチラチラと脳裏に浮かんでしまいその罪悪感がどうしても拭えない。
吾輩は、意外かも知れないがこう見えて一途なのだ。
「そうか、それでは吾輩が居たら羽目を外せないであろう?吾輩は退席しておくから楽しみたまえ。」
「いえ、益田閣下の為に用意させたものなのですが・・・」
「いやいや、良いから楽しんで置き給えよ、こんな物なかなかお目に掛かれるものは無いだろう。」
等と理由を無理矢理付けて退席し、夜の温泉街へと晩飯を探してさ迷うのであった。
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