第57話 回転翼機

          回転翼機

 1900年 7月

 箱根の工場もかなり出来上がって来た、吾輩の箱根邸宅も、上下水道の整備を残すのみとなって居る。

 の、だが・・・イリーナ以来、留学生の受け入れをして居る為、横浜の屋敷には現在、留学生達が書生として居るので完全に箱根に住む訳にも行かんのである。

 仕方が無いので横浜の屋敷の裏庭と、箱根邸宅の中庭にヘリポート用地を設定、航空機と同時進行して居たヘリの開発を急がせる事にした。

 シングルローター式だと小型化は望めるものの姿勢制御用反トルクローターがなかなか難しい、従ってツインローター型を作る方が早い。

 実の所ツインローターは既に10分間の浮遊には成功して居た。

 後は全身や左右への舵取りが出来るようにする事と飛行時間の延長を成すだけだったのだ。

 吾輩が本腰を入れると言う事で、にわかに開発チームの士気も上がって来たようだ。

 何気にシングルローター式もこっそり開発して居たのだが、ツインローターが日に日に進歩している。

 この分だと10月頃には試験飛行が出来るのでは無いだろうか。

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 9月に差し掛かった頃である。ひょんな事から、シングルローター式に必然の尾部反トルクローターを制御するコツのようなものが一寸した事で見つかった。

 これだと航続距離と小型化が容易であると言う利点から、シングルローターの方が開発が一気に加速するかも知れない。

 等と思いながら数日もすると、シングルローター式がスイスイと縦横無尽に飛び回るようになってしまった。

 姿勢制御だけが問題だっただけにあっと言う間に実用段階に近づいてしまった感じだった。

 後は、実用速度の問題を解消する為に小型のガスタービンエンジンを推進用として開発してしまおうと言う事になった。

 ガスタービンエンジンの設計図と、こっそり手の空いた時に少しづつ部品の一つ一つを忠実に再現した木製の模型を作ってあったりするので早速MASUDAの空き工場を使い流用出来る部品を多用しつつ形状の差異を削り直したり、型から起こして作る。

 最近では三条の職人等も少数ではあるが参加して来て居るので腕のある者が増えて来て居て助かっている。

 そして組み上がったガスタービンエンジンを試運転して見る事にした。

 うん、良いぞ、予想以上に出力も強そうだ。

 等と暫く回して居ると、何やらカリカリと妙な音がし始めたので急いで燃料供給を止めるも、バチバチと小さな破裂音を幾つか伴って黒い煙を上げて停止した。

 恐らく出力を上げ過ぎて高熱に耐えられなくなってしまったのだろう、試作段階の、しかも小型のガスタービンエンジンであれ程の性能を発揮させたのだから仕方ない事であろう。

 むしろあの高出力だとジェットエンジンへの進化をも容易にすると思われる有意義な物であった。

 何はともあれ、出力を絞って使えば問題の無いレベルに仕上がって居た為、ヘリに搭載する事を決定した。

 これで吾輩の移動手段が確立できた、留学生の為に屋敷の使用人は残しては行く積もりではあったが、ずっと箱根に籠っている気も毛頭無かったので、このまま出勤も可能になる様に、試作機離発着用空港にもヘリポートを設ける事にした。

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 10月

 吾輩用のプライベートヘリ試作5号機がついに横浜箱根間と同距離の飛行に成功した・・・というか加速度的に出来てしまった。

 これを愉快そうに見ていたのは吾輩の妻の父君、つまり村上格一海軍少将である。

 ボリビアの一件でご活躍に成り准将より一つ階級を上げていたのだ。

「あー、時に修一君、君が今開発しているあれ、あれは何と言うのかね?」

「えっと、どれの事を言ってますか? 幾つも同時進行してるもので。」

「ああ、そうだったそうだった、あの、空を飛んでいるあれです。」

「空を飛んで居るのと言えば、航空機とヘリコプター、どのような物か分かるように名付けるならば回転翼機です。」

「航空機と言うのは何となく判る、あの羽根が有る奴だな、ではわしが言って居るのはそのヘリコ・・・何とか言う奴、回転翼機と言ったか、あれですよ。」

「成程、回転翼機ですか、あれがどうかしましたか?」

「うむ、あれだったら、戦艦の甲板に載るのでは無いかと思ってね、無線通信網の不調時の連絡や、他にも様々な場合に使い勝手が良さそうに見立てたのだが。」

「成程、そう言う事でしたら、武器を取り付けて戦闘参加も多少出来るようになるかと思いますので、序でに開発して見ましょう。」

「武器も塔載出来るのか?凄いじゃ無いか、是非作ってくれ。」

 こうして戦闘ヘリの開発が始まったのだった。

「そうなって来るとその回転翼機で戦争は又新しい局面を迎えるのでは無いか?」

「そうなるかも知れませんね、専用に航空母艦とかも建造して見たら良いかも知れませ・・・あ。」

 知って居るだけについポロっとこんな言葉が口を付いて仕舞った。

 まずいと思った瞬間には既に時遅しである。

「航空母艦・・・つまり航空機も船に乗せて運ぶと言う事か・・・」

「あははは・・・この構想は未だ御内密にお願いします、何せ今の所未だ絵に描いた餅でしか有りませんので・・・」

「いや、凄い、素晴らしい、流石儂の娘が見初めた婿殿だ、そんな新しい戦艦誰も想像もせぬよ。」

 言っちゃったものは仕方が無い、むしろここ迄理解が早いと説明する必要性が無い分助かると言うものだ。

 それにしても、ここ迄問題が少なくスムーズな開発が出来てしまうなんて、やはり何かしたな、サタン様達・・・

 何だか、今まで知識だけで開発を進めていたのに、まるでノウハウが全て知識の上に上乗せされて居るかのようなノリで試作機の進歩が進んで行くのだ。

 知識だけでやっている以上細かい数値等の誤差での事故や失敗がもっと起こり得る筈なのにこの有様、きっと何かの・・・神で言う所の神託・・・とか、奇跡・・・?

 のような物を勝手に吾輩に与えたのでは無いだろうか・・・

 そう言うチートみたいなのは一寸あまり好きでは無いのだけど・・・

 しかし、かくして実用段階へと発展が完了したヘリとしては、凡そ50年程も早く完成した事に成るのだった、実用の航空機も未だだ完成とは言い切れぬと言うのに、吾輩が関わっただけでこれか、はぁ・・・またやらかした感が異様に強いのが一寸なぁ・・・

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 11月

 アッサリ完成してしまった、アナログ的では有るものの、世界初のアタックヘリである。

 デザインはどちらかと言うと丸みを帯びた機体が好きな吾輩の趣味がかなり反映された為に、Mi-24ハインドに非常に似通っている、サイズ的にはコブラより少し小さい程度なのだが・・・

 これを陸軍省と海軍省の両方に発表するとあっと言う間に配備が決まってしまった。

 航空機の試作機を持ち出した時は承認しなかった癖に、である。

 やはり何かの力が作用して居る様に思われる。

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 対艦・対陸戦飛翔攻撃機 八咫烏(ヤタガラス)

 乗員:前席:射撃手、後席:操縦士(計2名)

 主回転翼直径:11.21m

 胴体幅:3.11m

 全長/胴体長:16.44/12.25m

 全高:4.6m

 自重/最大重量:2,923/3,930kg

 発動機: 彩香零式(さいかれいしき)(最大:1.600shp、連続:1,370shp)×1

 超過禁止速度:260km/h

 巡航速度:190km/h

 実用上昇限度:3,200m

 航続距離262.1km

 武装

 20mmガトリング砲×1(固定武装)

 発煙弾ポッド(発煙弾10発入り)×2 

 汎用小口径ロケット弾ポッド(ロケット弾12発入り)×2

 又は大型対艦用ロケット弾1発×2

 性能もかなりやらかした感が強い・・・

 航続距離に関してはまだ改良の余地アリと言う所ではあるが。

 これが工場のラインを占領する事になってしまった為に、吾輩の個人所有機もこの発表に使った1号機になってしまったのだった、さてどうした物か・・・個人で戦闘ヘリ(フル装備)所有ってどうなのさ。

 因みにあまりにも急速に開発が進んでしまった事で、行き詰り気味な航空機部門からも吾輩に加わって欲しいとの要請が来ている、仕方が無いので年を跨いで来年から参加する事にしたのだった。

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 1900年12月

 我妻が二人目の子を身篭った。

 長女の一知花が最近良く喋ろうとするようになったのが可愛さひとしおであるが故に二人目も娘でも良いと思って居るのだが、妻は一姫二太郎で男の子が縁起的にも良いと、男の子が良いと言って居る。

 因みに、妻は既に箱根に住むようになってしまって居て、毎日温泉に浸かってご機嫌である。

 箱根は既にかなり雪が降って居るので除雪用軽車両や除雪機を用意して使用人に除雪をさせている。

 勿論、ヘリポートもである。 流石にここは除雪して居ない事には着陸出来ないのでまめにやって貰う事にしている。

 パイロットは、志願してテストパイロットとなった若い曹長が操縦テクニックがあり安定感も有ったので彼にお願いして居たのだが、人里離れた箱根に泊り込まねばならないので同僚や世間と離れてしまい済まないと聞いた事が有ったが、そんな心配は杞憂で、箱根邸で雇って居るメイドの一人と知らない内に良い仲になって居た、逞しい限りである。

 正月にはあのメイドに休みをやって見よう、彼らにはうまく行って欲しいと思う。

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 1901年 1月

 初詣の為に横浜へ戻って来ている。

 元町弁天へ詣でると、元リリスが現れた、恐らく他人には見えて無いだろうが・・・

「ねぇ、サタン様こっちに来てるような気配が有るんだけど、居るんでしょう?

 おねぇさんに嘘付いたらプンプンなんだからね?」

 そんな妙な可愛さアピールされても吾輩に付いて居る訳でも無いサタン様を呼び出すのは非常に面倒な上に今ここにリリスが居るのは知って居る筈だから間違いなく来ないだろう。

 ましてや声に出して返答などしようものならおかしな目で見られてしまうでは無いか、何と答えて良いのかと悩んで居ると、どうも思考を読まれたらしい。

「そうなのね、やっぱり来てるのね!

 ああ~サタン様~、どうして私の元には来て下さらないのよぉ~、弁財天と同一化しちゃって忙しくって行けないのよぉ~、もう!」

 どうやら吾輩の計はうまく機能して居るらしい、淫魔等に翻弄される訳にはいかないので社を建てて祀ったのだからこの結果は正に上々の出来栄えだった。

 屋敷に戻るとサタン様がやって来た。

「リリスの奴はどうであったか?」

「ええ、しっかり弁財天と同一化が進んでまして、お忙しそうでしたよ。」

「そうか、お陰で纏わり付かれずに済んで居る、お主のお陰で助かっておるよ。」

「で、サタン様も祀りますけどどうされます?

 神格化出来ればきっとお力もかなり増すのでは?」

「我は今の所そんな事は考えて居らん、それにお主に一切任せて置いたら何者と同一化させられるか判ったものでは無いからな。」

 と言って笑いながら去って行った。

 ・・・と思っていたのだが、箱根に戻り露天風呂に浸かりに行くと浩江ちゃんに体を返さずにサタンの意識のままで風呂を堪能して居た。

「おお、遅かったな、先に頂いておるぞ。」

 どこまで人間臭い悪魔なんだよまったく・・・

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