第51話 番外編その4・パンデモニウム弐
パンデモニウム 弐
「最近、リリスが姿を見せんな、お陰で静かでよい。」
サタンは最近人間界で見つけて一目惚れして揃えたソファーセットの長椅子に寝そべってポテチを頬張りながらつぶやいた。
そこにベルセブブが飛び込んで来た。
「サタン様、大変です!」
「何だいきなり、落ち着いて話さんか。」
「あぁ、失礼しました、それよりも大変な事をしでかしましたリリスの奴!」
「何だ?最近来ないと思って居ったのだが、どうした?」
「それが、ですね、益田の所に出現しました・・・」
「はぁ?何だと?一体どうやって過去へ?」
「そ、それがですね、時限神クロノスがどうも一枚噛んでおりまして。」
「何だと、あいつめ余計な事を。」
「と、兎に角、あちらで繁殖させて増やした我が眷属を数体あのアホ女の様子を見に行かせたので、映像出せますが如何致しましょう。」
「うむ、出せ。」
「は、畏まりました、只今。」
壁に投影を始めるベルゼブブ。
「なぁ、ベルよ、お前の眷属な、尾行バレてるじゃん、何であの女いちいち何かっつーとカメラ目線なんだよ・・・」
「そ、そうですね、何でかバレてますね・・・」
「敢えて判ってて放置してるって事はあれか、俺に見せる為にワザとやってるっちゅう事だな?」
「そ、そうみたいですね。」
「っておい!あいつ!わしの娯楽対象の益田に魅了仕掛けてやがる!」
何故か自分が怒られてるような気がして冷や汗ダラダラなベルゼブブ。
「ぶはははははは! あいつ、儂が見込んだだけは有るか、サッキュバスの女王のリリスの魅了を完全に掛かる直前に回避しおったぞ、リリスのプライド折れまくりだな。」
ホッとするベルゼブブ。
「おい、ベルよ、これなら心配は要らんのと違うか?」
「あ、一寸お待ちください、益田陣営に動きがあるようです。」
「ほう、益田め、中々面白い奴を子飼いにしておるな、一見美女の男の忍びとは、しかもかなりの手練れのようだ、情報網もかなりだな。」
「録画はここまでです、ここからしばらく、益田が忙しくなるようでリリスとは会わなくなります。」
「それじゃ今の直近の映像とか無いのか?」
「御座います、しかも少し動きが出始めた様なのでこちらを。」
新たな映像を投影し始める。
「こちらが現在の映像です。」
映し出した映像の右上の端に”LIVE”とスーパーインポーズが出ている。
何だか妙な所を現代メディアに毒されて居る様な気がしないでも無いベルゼブブである。
修一がリリスを新築したばかりの家に招き入れる所だった。
「ほぅ?あいつめ、自ら招き入れるか、面白いな。」
「益田は何をするつもりなんしょうか、何かを企んでそうですね。」
リリスに食事を薦め、和やかな雰囲気で夕食が行われる、終始和やかな雰囲気である。
「ふむ、流石と言うか、益田め、旨そうなもん食ってんな、今度我も馳走になりに行きたい所だな。」
「同感です、かの者は非常にグルメですな。」
そして映像は修一がリリスの正体を問い詰める場面へ。
「ほう、そうか、あの情報網を駆使してそんな事を調べさせてたのか、やるじゃねぇか。」
「ええ、私も聊か驚いて居ります、リリスの魅了が効かなかったのも頷けますな。」
リリスがついに正体を現すと、サタンは拍手喝采だ。
「はははははは、あいつめとうとうやりおった、リリスを負かしたか、俺の見立ては間違って無かったな、リリスに本性を出させるとは驚いたぞ。」
「し、しかしリリスがこのままでは済ませないのではありませんか?」
「良く見て居ろ、あそこ迄出来る奴が正体を出した程度のリリスに負けると思うか?益田の方が一枚も二枚も上手だ。」
「って、リリスは騙されてますね・・・そんな弁天なんかと同一視で神格化されたら、逆に弁天に取り込まれるか、多岐津姫辺りに乗っ取られますよ?」
「道理で静かになった訳だ、これで当分は絡まれないぞ、良くやった、益田よ。」
ソファーに深く腰を下ろし直して溜息を一つ付いたサタンの後ろに、クロノス神が忽然と現れる。
「へぇ、おもしれー事やってんじゃん、ようサタン久しぶり。」
「テメェ何であいつを益田のとこに送りやがった、大事には至らなかったから良かったが俺の娯楽台無しにするとこだったじゃねぇか!」
「クロノスさん、貴方何故リリスに手を貸したのです?」
「まぁ良いじゃねぇか、お陰であの阿婆擦れに付き纏われなくなったんだからヨォ。」
「お前もしかしてこうなるって知ってたのか?」
サタンが問い質す。
「いや、正直ここまでの展開になるとは思って無かった、サタン、確かにこの人間面白れぇな。」
「ふん、お前に見せる為に飼ってる訳じゃねぇよ。」
「まぁそう言うな、お前らさっき、一度会いに行って飯でも馳走になりてぇって言ってたろ?
それ俺が居なきゃ出来んだろ? だから俺も混ぜろ。」
クロノス神の提案にサタンは二つ返事で答える。
「仕方ねぇな、まぁいずれお前の力も必要になるだろうし、遅かれ早かれお前抜きでは無理だから良いぜ、混ざれよ。」
「ありがてぇ、俺も退屈してたんだよ、で、どうする?
ベル公の能力で映像だけ見てるよりも常にあいつの周りにいたらもっと面白くリアルタイムで見れるかも知れんぞ?
行って見るか?
まぁ今は太陽フレアの影響でもしかすると今見てる時間帯に着けないかもしれんが。」
強引な提案をするクロノス。
「それは時間のラグがあるだけか?
それとどの位の誤差が出る?」
「ずれは時間だけだ、誤差は・・・そうだな、せいぜいどんなに酷くても±1年は狂わないと思うが。」
「1年か、少し問題アリだが仕方が無い、益田の飯を頂きに行くとしよう。」
そのやり取りを見守って居たベルゼブブが口を挟む。
「ちょ、サタン様、宜しいのですか?面倒だから映像をと言う話だったじゃ在りませんか。」
「ん?
何だベル、お前は行って見たくないか?
あ、そうか、お前の場合眷属送り付けて有るからリアルタイムで体感してるのと同じなんだったっけか?」
「いえ、サタン様、我が主たる貴方様が動くのであれば私は何処までもお供させて頂く所存に御座います。」
「相変わらず硬てぇなぁお前は、まぁいいや、ついて来るんなら準備しろ。」
サタンはクロノスに向き直る。
「じゃぁクロノス、1時間後にこの部屋でな。」
「おう、俺はいつでも準備出来てるから待ってるわ。」
「ベル、お前も向こうで使う体を探せよ、あ、お前は眷属のアストラルボディが使えるか。
便利で良いな、その辺り。」
「わたしはあちらで不自由は無いので、サタン様のお手伝いとしてあちらで使えそうな体を今眷属に探させております。」
「流石ベルだな、やる事がはえぇ。」
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「あ、その、サタン様、先程サタン様がお気に召して居た人間がですね・・・」
「ん?何があった?」
「あの女性のような奴ですが・・・益田を暗殺しようとして居た者と相打ちになりました。」
「何だと?では奴の体を使わせて貰おうでは無いか。」
「は、今すぐ手配します、我が眷属総動員で確保、保管しておきます、早速行動致します。」
かくして浩江ちゃんの肉体を手に入れたサタンである。
転移した先は、浩江ちゃんが相打ちになる実に10日前であった。
時限神クロノスは良い仕事をしたようで得意満面であった。
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