第49話 スーパーコンピューター

          スーパーコンピューター


 休暇も終わり、横浜の港へと帰って来た。

 勿論村上准将と寛子さんも一緒である。

「船旅お疲れ様、益田殿。」村上殿が声を掛けて来た。

「いえいえ、村上殿こそお疲れ様です、ですが、それ以上にお疲れ様、寛子さん。」

「あ、有難う御座います修一様、帰りも酔ってしまいました、船は馴れません。」

「次に遠方へ旅行に行く機会までに、もっと短時間で移動出来る手段を開発しておきます、いや寧ろ既に開発途上なので完成させて置きましょう。」

「そんな物が出来るのですか?

 まるで空でも飛ぶような・・・」

「流石ですね、寛子さんはセンスが良い、文字通り空を飛ぶ乗り物です。」

「はっはっは、知らずに当てるとは我が娘、流石と言うべきか、儂に似て勘が良いようだな。」

「はっはっは、それでは村上殿、寛子さん、迎えの車が来たようなのでこれで失礼致します、後日ご自宅へとお伺いさせて頂きます。」

「益田殿、有り難い良いお話に成りました、では後日。」

 車に乗り込むと、迎えに来た山田中尉が突っ込みを入れて来る。

「あの美しいご婦人はどなたです?

 准将に熱い視線を送って居たように思えるのですが。」

「あの方は、隣に居た村上海軍准将の娘さんだ、そして、隠しても仕方が無いので言うが、今回ハワイで偶然出会ったが、色々あって気付いたら婚約をする事になっておった。」

「それはおめでとうございます、これは技術省に戻ったらお祝いの宴会ですね。」

「はっはっは、宴会の方が重要なのだろう?お主等としては。」

「あ、バレましたか?」

「まぁ良い、好きにすると良いさ。」

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 1897年 9月

 すっかり隠居した父を連れ、横浜は石川町に准将になった時に屋敷を構えたと言う村上家へとやって来た。

 吾輩の建てた屋敷が山下町なので割とご近所である。

 何の為に父を連れて来たかと言うと、当然ながら結納の為であった。

 支度準備金として三万円と、村上家へと、今年の最新モデルの冷蔵庫、洗濯機、掃除機の三大家電を持参している。

「ようこそお越し頂きました、益田殿。」

「これはどうもご丁寧に、私が修一の父、益田孝と申します、この度は良縁に恵まれ感謝しております。」

「いえいえ、此方こそ当家の我儘に育ってしまった末娘を貰って頂けると言うので大変感謝の限りであります。

 世間知らずの娘ですのでご苦労されるやもしれません。」

「早速ですが、此方をお納め下さい。」

 と、父上が小官の用意した支度金を収め、引き連れて来て居た配達員に最新家電の搬入を御願いした。

「これはこれは、大層な物を。」

「いやいや、大切な娘さんを頂くのですからこの位はさせて頂きますよ。

 我が愚息の発明した物ばかりではありますけども。」

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 何だか後半、父と村上殿は妙に意気投合して酒を酌み交わして居た、余り酒癖が良い方では無い父上なので羽目だけは外さないで頂きたいとは思うが、気分良さそうに飲んで居るので今日の所はその心配は無さそうである。

 その間に吾輩は寛子さんを連れて馬車道に出向いて居た、ここには吾輩が早々に広めたアイスクリーム屋が有るのだ。

 馬車道あいすくりんと言えば前世でも平成頃にリバイバルして有名であったと思うが、史実よりも十数年程早くに流行の食べ物となって居た。

「修一様、こんなに近所でアイスクリームが頂けるとは知りませんでした。

 今度、最近此方で出来たお友達を連れて来たいです。」

 気に入って頂けたようで何よりであった。

 前世ではこの世を去るまでの35年間、女性とのこのような接点が微塵も無かった吾輩は少々どう扱って良いものかが良く解らぬので、軍で培ったこの堅く畏まった話し方でしか会話を成立させる事すらままならぬのだが、はてさて祝言を上げた後などは果たしてどのように接したら良いのであろうか。

 そもそもが吾輩は情報科学、特に社会科学は専攻範囲外なので何をどうするのが正解かなんて確かめる術など無い。

 大体女性と二人きりでこのようなデートをすると言うのも彼女とが初めてとなるのだ。

「吾輩はこの歳になるまで女性との交友と言う物が殆どありません、もし失礼が有れば言って下さい、直します。」

「大丈夫です修一様、大変お優しい方で私も安心して居るんです、私には勿体無い程のお方ですわ。」

 赤面・・・沈黙・・・

「母上、あのお兄ちゃんとお姉ちゃん真っ赤になってる~。」

 通り掛かりの子供に冷やかされてハッとする。

 見つめ合ったまま、互いに顔を真っ赤に染めて固まって居た。

 吾輩としたことが・・・

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 1898年 1月

 第三次伊藤内閣成立

 伊藤博文公が三回目の総理大臣となった訳である。

 そして早速呼び出された修一であった。

「お久し振りです、今日はどの様なご用件でしょう。」

「うむ、わざわざ御足労の事、感謝の念に堪えん、今日呼び立てしたのは他でも無い、兵科技術省への予算の件なのだがな、君の機関のお陰でかなりの利益が出て居るのでね、今の倍の予算を出そう、もっと新技術の開発に邁進して貰いたいと思ってな。」

「!・・・ば、倍ですか!?

 今でもかなりの額を捻出頂いて居ると思うのですが。」

「まぁ、それだけ君への期待が高いと言う事だ、聞く所によると、電子計算機とやらの高性能な物を作ろうとしておると聞く、それが出来れば恐らくは開発速度も格段に上がるだろうと言う話も耳にしている。」

「秘密にして居たのにどこからそんな情報を?」

「はっはっは、仮にも一国のリーダーを、しかも3回目のそれを務める人間だぞ?

 その位の情報を掴むのは簡単な事だ。」

「御見逸れしました、で、どの程度そうなると御理解してらっしゃいますか?」

「うむ、他国に先駆けて15年も早くに開発が進めば常に一歩先を行けるのでは無いかと思って居るが、その位ならば十分に先行出来るだけの物であるのだろう?」

「15年ですか、その程度ならば造作も無いでしょう、物によっては、どの国も持ち合わせていない技術で新素材などを確立するに至るやもしれません。」

「うむ、そこまでの自信が持てるものであるならば、倍出しても惜しくは無い、とことんやってくれ給えよ、お主のお陰で東京府内でも河豚が食える時代に成ったのだ、全面的に信頼しておるよ。」

 河豚が東京で食えるようになった事が余程嬉しかったのであろうか、全面的な信頼を得てしまったようである。

「で、だな、以前に、儂の姪を紹介してやろうと言って居ったろう?今晩当たりどうだ、河豚料理を赤坂で用意させておるのだが。」

 う、そう言えば以前にそんな事言ってたな・・・この間結納したばかりなのだが・・・

「すみません、大変素敵なお話であるとは思うのですが、実は昨年9月頃に結納を済ませた相手が既におりまして・・・」

「なんと!

 それはめでたいでは無いか、もっと早く言い給えよ、祝儀位用意したものを。」

「はは・・・しかし祝儀は聊か早すぎる様な気も致しますが。」

「ふむ、それもそうか、で、祝言はいつ執り行う積りなのだ?披露宴はするのか?

 するのなら儂も呼びたまえよ?」

 根掘り葉掘り聞かれてしまう。

「勿論、披露宴を致します折には、是非とも公には、陛下と共に主賓としてお越し頂きたいと願って居ります。

 付きましては恐らくは今年の9月頃になるのでは無いかとは思って居りまして、未だ決定した訳では有りませんが。」

 前回、半年の交際の後に祝言をと約束をしていたが、格一殿が都合が付かぬと言う理由で、寛子さんの誕生日を済ませた後にと言う事に成ったのであった。

「して、お相手は何処のどなたなのかね?」

「海軍准将、村上格一殿の末の娘さんです。

 昨年頂いた休暇でハワイへ行って参りました所偶然にご一緒する事と成りまして、その時に縁談に相成りました次第です。」

「ほうほう、あの村上の娘か、奴の嫁は大層器量良しで有ったからな、さぞ美しい娘なのであろう、如何じゃ、当たっておるであろう?

 本当なら今すぐにでも祝言を上げたいのでは無いかね?」

「まぁ、一応は美形であるとは思います、ただ、未だ15歳なので、誕生日を迎えてから日取りを決めようと言う話だったものですから。

 この2月で16ですので、恐らくはそこから半年以上先と言う事で、9月ならば季節的にも良いかと。」

「そうか、呼んで貰えると言うならば、一つ詩吟でも唸らせて頂こうかのう。」

 何だか後半はグダグダな雑談になってしまったが、こうして兵科技研は莫大な予算を頂ける事と成ったのである。

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 1898年 5月

 遂にスパコンの為の基盤デザインの最適解を捻出する事が出来た。

 大急ぎでこの基盤を作成に取り掛かる。

 そして、この基盤のデザインを産む事になったCPUのサーキットデザインも書庫の奥から引っ張り出して来て、細部のチェックをする。

 さぁ忙しくなって来たぞ。

 必要となる物、コンデンサや様々なパーツを全て洗い出し発注を掛ける。

 スパコン用の巨大タワーケースも用意せねば成らないだろう。

 水冷システムも当然搭載する。

 この時の為に進化を繰り返して来た大容量HDDも塔載するつもりだ。

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 完成した基盤は、今の技術レベル的な物もあり、随分と巨大な物となって居た、タタミ六畳分程も有るのだ・・・

 さぁ、これをどうやって組み上げよう、様々な付属パーツや抵抗等の必要な物を全て半田付けしなければ成らないのだ。

 真空管とかで代用せずにICとか作っちゃわないとなァ・・・

 余りにも大きいので様々な試作品を作る為に用意されている工場の一画に置かれて居る基盤を吊り上げ、自らもたすきを背で交差するように巻き、交差部分を工場内のクレーンに引っ掛けてリモコンで自分を吊り上げて必要パーツとマスキングテープとクレーンのリモコンを工具ホルスターに入れて半田付けを実行する事にした。

 先ずパーツを一つづつ必要個所に刺しては粘着力の低いマスキングテープで仮止めをして置き、基盤の裏に回り半田と半田鏝を取り再度自ら吊り上がる。

 と、そこに井上中尉が吾輩を呼びながら飛び込んで来た。

「益田准・・・しょ・・・う? 何してるんです?」

 寄りに寄ってのタイミング・・・

「そんな反応をするんじゃ無い!

 そんな目で見るな、恥ずかしくなるでは無いか!」

「何となく何でそうなってんのかは解りましたけどね・・・」

「う、煩い、放って置け!

 で、何か用があったのでは?」

「あ、はい、新型戦闘車両のトランスファーがどうにもうまく機能しないのでご助力を願いたいと思いまして・・・」

「分かったすぐ行く。」

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 数日後、遂に一から全て手作りのスパコンが完成した。

 電源を入れると、スムーズに立ち上がる。

 これならばこれからの開発の為に役立ってくれる事だろう。

 現在はモニターも簡易な真空管、所謂ブラウン管のモニターを使っているが、出来るだけ早めにカラー液晶に切り替えて行こうと思って居る。

 液晶モニターは軽く省スペースになるので航空機用のレーダー等にも有用なのだ。

 当然だがこの開発にもこのスパコンの演算能力が重要なカギとなる。

 その他の様々な開発途上の物の性能向上であるとか、現在の技術力の向上の手助けもしてくれるだろう。

 早速、液晶モニターの為のノウハウを知る限り書き出した設計計画を構成する。

 其の上で液晶の為の数値の最適解をコイツに演算させるのである。そして吾輩の記憶には無い技術を必要な技術として開発して行けば数年後には遅くとも完成に至るであろう。

 この明治の時代にカラー液晶モニターを再現出来るとなれば完全に他の追随を許さぬものとなるだろう。

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 液晶モニター以外の現在開発して居る物をリストアップして見る。

 1、一六式機動戦闘車の再現に失敗したのでキャタピラーを採用した戦車。(間も無く完成)

 2、航空レーダー。

 3、航空機各種 :大型爆撃機、小型爆撃機及び雷撃機、万一他国が戦闘機の有用性に逸早く気付いた時にも揺るがない優位性を確保する為の空対空戦闘機。

 4、誘導性能を備えたロケット弾、所謂ミサイル。

 5、新型気象レーダー

 6、映像送信通信技術

 7、打ち上げ用ロケット

 8、人工衛星(気象衛星、監視衛星)

 9、新建築工法(耐震技術等)

 10、電子顕微鏡(細菌研究所寄りの依頼)

 11、データ通信システム

 12、ガスタービンエンジン及びジェットエンジン

 13、天然ガスを利用した給湯システム(瞬間湯沸し器等)

 14、水洗トイレ

 15、電子レンジ

 16、各種センサー類

 これだけの物を一度に開発して居る、流石の大所帯になった物である。

 スパコンで最適化をする事で開発に掛かる膨大な時間をかなり短縮する事が出来るだろう。

 これで吾輩は例の放射性鉱物の特定と開発に優先的に取り掛かれる。

 一応前世の記憶上、あれはウランで間違い無い筈である。

 うまく使えば原子力発電の礎を完成出来るだろう。

 軍事利用だけは回避するつもりであるが、発電と言う平和利用の為に開発する。

 前世の令和の世では、様々な事故とその後の対応のマズさなどから敬遠されがちで、猛反対などを受けて居たが、安全性と事故対策マニュアルの徹底を出来てさえ居ればこれ程効率が良く破格での発電が可能でかつ、公害を生み出さないエネルギーなのである。

 吾輩が開発するからにはマニュアルの徹底は必須となるだろう。

 以前に太陽電池を最適化して高効率に出来てはいるのだが、やはり太陽電池の効率だとかなりの敷地を使用しないと電力の完全供給には至らない筈であった。

 ダムによる水力発電、燃えるゴミの処理に伴う火力発電等を駆使しては居るが、これからこの国は超大国への道を歩み始めるのだ。

 極力公害の出やすい火力発電は減らして行きたい所だが、それとは逆に電力はどれ程あっても良いのである。

 紙ごみ等は再生利用を早めに確立したいとも思って居る。

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 1898年 6月

 航空機開発部門へ顔を出すと、揚力の不足に頭を抱えていた。

 もっと効率良く揚力を得るにはもう一工夫必要であると言う見解になって居てそこが悩みになって居た様なので、ほんの少しだけアドバイスをしようと思い、資料室にある蜻蛉の標本を持ち出した。

「所長、これが何か?」

「揚力に難が有るのだろう?ならば飛行のエキスパートで有る所の蜻蛉に習えば良いでは無いか、空中で静止出来る程の揚力を生み出す蜻蛉の羽根は最高の教材だ。」

「成程、少しだけ所長の膨大な知識の根源に触れた気がします、何でも気に成ったら調べる、これが重要なんですね。」

「うむ、特にこの蜻蛉と言う虫の羽根は真似るだけでも効果が出るやもしれんぞ?」

 蜻蛉の羽根の断面図を見ると、実は羽根の下側は波打って居てそこに空気の渦のような流れが出来る為、羽根の下側の気圧が高圧になりその為に揚力をより効率良く利用出来る事と成る。

 ほんの少し波打たせておくだけで大きな揚力が生まれるのだ。

「この標本を分解してしまっても宜しいのですか?」

「ここは技術開発部門である以上、あれは研究材料であって飾って愛でる物では無い、そう言う事だ。」

 何だか凄い大ヒントを与えた様な気はするが気のせいと言う事にしておこう・・・

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