第48話  縁談

           縁談

 所謂真珠湾に降りた。

 とは言え、真珠の養殖は実はまだ盛んでは無い。

 何故ならば今はまだおみやげ物程度の感覚しかこの島の者は持ち合わせていない。

 やはりここは、まだまだ産業が足りないと思うので、真珠の養殖はもっと大々的に始めさせるが良いだろう。

 折角この地へ久し振りにやって来たのである、ここは宮殿へと足を運ぶ事にした吾輩は、真珠の価値を説き、この島の産業として確立させてやろうと思って居る。

 宮殿前にやって来ると、驚いた事に衛兵が日本人では無いか。

「もしや貴方様はかの益田修一殿では有りませんか!?」

 ゲートに近づく前に寄って来て声を掛けられてしまった。

 どうにもこの島を救った英雄のように扱われて居た、何でだろう・・・

 そもそも何故一目で吾輩であると判ったのかと不思議に思って首を傾げた瞬間、カ・メハメハ大王像の隣に堂々と飾られる吾輩の胸像があった、何故こうなった・・・orz

 現在、ハワイの王は、東伏見宮依仁親王(ひがしふしみのみやよりひとしんのう)とカイウラニ女王陛下が即位して居た。

 本来既にこの国は合衆国より入り込んだ側近達の手によってクーデターが起き、合衆国に統合されてしまって居る筈であるが、7年程前に吾輩がこの王家を保護するべく講じた一手で事態は一転し、新しい歴史を紡いで居るのである。

 そして、更にはアメリカ人の政治関与を徹底排除した結果、史実では天皇陛下がお断りした連邦案が合意にこぎ着けており、この国は大日本帝国の第二の国と言うポジションであり、日本海軍が駐留して居るだけでは無く、この地で新造戦艦の建造も行い、本土との技術共有化も図っている。

 既に電力供給にしても、島であるが故か、完全に全体をカバーできている様だ。

 所謂吾輩の持てる技術の集大成が此処には溢れ始めているのだ。

 事実ここの宮殿の衛兵達は40連弾倉を挿した自動拳銃を装備しており、もしも宮殿へ侵入しようと言う不審者が有ればあっと言う間に蜂の巣であろうと思われる。

「出迎えご苦労である、吾輩こそ大日本帝国兵科技術省所長、益田修一准将である、本日は休暇で出向いたのだが、出向いた以上は吾輩も縁のある陛下にご挨拶をと思い御目通りを願いたい。」

「畏まりました、それでは只今確認を取って参ります。」

「うむ、よろしく頼む。」

 ある意味有名で良かった、すんなり御目通り出来そうだ。

「益田准将殿、誠に申し訳無いのですが、陛下は只今公務が押しておりまして、1時間ほどお待ち申し上げたいのですが、此方でお待ちになりますか?応接室へとご案内差し上げますが。」

「左様ですか、それでは少し待たせて頂きます。」

 応接室へと通された吾輩は、出されたコーヒーの熱さに少々苦戦しつつ、〈この地には 冷凍冷蔵庫も氷菓も既に在るのだからコーヒーフロート位有っても可笑しく無いのだがなぁ・・・〉等と思い、ふと思い出した。〈そう言えば本土でも飲んだ事無いな。〉

 無いのならば作ってしまえば宜しい、この際だからこの地の新名物にでもして貰おう。

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「お待たせ致しました、陛下及び女王陛下、お会いになられるとの事です。」

「ありがとう、では参りましょう。」

 謁見の間へ通された小官は立膝で頭を下げている。

「良くぞ参られた、面を上げよ。」

 との声に顔を上げ、「お初にお目に掛かります、ご多忙の中、謁見の機会を頂き至極恐縮に御座います。」

「何を申すか、※睦仁大帝(むつひとたいてい)を含め、色々と世話になって居るようでは無いか、お主の発明品には何時も驚かされておるよ。」

「わたくしも、貴方がもたらした風呂と石鹸、そして髪を乾かす道具、ドライヤーは毎日使ってます、大変すばらしいと思いますよ。」カイウラニ女王陛下のお言葉も聞く事が出来た。

「有り難き幸せに御座います。」

「しばし本土の様子等聞かせて貰いたい、今宵は会食を開くのでそこで存分に話を聞かせてくれぬだろうか。」

「わたくしめ如きの話で宜しいのですか?それでしたらば喜んで出席させて頂きたく存じます。」

「うむ、土産話、楽しみにしておる、では夕刻まで、島内の観光を楽しんで参られよ。」

「は、それではこれにて失礼致します。」

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 一度宮殿を離れた吾輩は、以前訪れた時に訪れた日本人街の観光地へと赴き、アイスコーヒー、コーヒーフロート等バリエーションコーヒーを広め、夕刻に宮殿へと戻って来た。

 因みにこの時に広めたコーヒーフロートが数年後に進化してハロハロの原点になるのだがそれは又別の話である。

 それにしても、思いっ切り休暇を楽しみに来た筈なのに気が付くと半分仕事のようになって居る、何故だろう。

 やはり日本人は仕事が好きなのかも知れないと言う事にして勝手に納得して置くとしよう。

「お招きに預かり、光栄至極であります。」

「はっはっは、今日は会食と言うてもお主と我々だけだ、無礼講で行こうでは無いか、睦人大帝のご意見番とも言われるお主の事だ、朕とも仲良くして貰いたいのだよ。」

 なんか最近やたら王族やらなんやらとのこう言った会話が多い、困ったものだ、砕けた会話がご所望と言われるがこちらとしてはそうはいかないのだ、やはり格が違うと言うか、ねぇ・・・

 結局、このハワイにも配備され始めた新造戦艦や自動小銃、自動拳銃等や、依仁親王の御趣味になっている自動車の開発に当たっての裏話等を聞かせろと言われ困ったが、何とか楽しんで頂ける話が出来たのでは無いだろうか。

 しかし会食とは二度と出席したく無いとも思わなくも無いが、これからはもっとこう言う席に招かれるのかとも思うと慣れるしかないだろうと思ったものである、何せ何を食ってもロクに味など解らぬ程に緊張していた。

 もう少し話を聞きたい、また来てくれ等と惜しまれながら、既に建てられて居た別荘へと帰ったが、余程神経を使ったのだろう、部屋へ戻った後の記憶は無く、目が覚めたら昼近かった・・・。

 まぁ、休暇なのだからこのような体たらくをしても良いだろうとは思うが、こんなに寝坊したのは転生後の人生では幼児期以来初めてと言っても良い。

 まぁ良かろう、今日からの3日間はじっくりと体と心を休めよう。

 近くのビーチへ出て見たのだが、さてどうしよう、非常に暇である・・・

 どうしよう、ずっと開発や実験を繰り返してきた吾輩は、暇の潰し方を知らなかったのだ。

 結局、気付くと砂浜に枝を使い数式等を書いて周囲にドン引きされて居た・・・

 やはり吾輩は理系の学問が好きである、そしてそれを生かす事が出来ている今の仕事が好きである。

 後2日居られる予定だが、明日は自分の別荘の敷地でのんびり過ごして明後日は港の基地へ戻ろう、暇すぎて落ち着かない。

 そう決めたらなんだか気が晴れた気がして楽しくなった。

 思わず鼻歌等を歌って砂浜で寝そべって居ると、何処からか日本語で声を掛けられた。

「変わった曲ですわね、何と言う楽曲ですか?」

 あ、しまった、”残酷な〇〇のテーゼ”何ぞを鼻歌でやっていた。

「あ、いやこれは・・・」

 しどろもどろで辺りを見回すと、何とも可愛らしい、15~16位の娘が立って吾輩の顔を覗き込んでいるでは無いか。

「ふふ、面白い方。」と言ってほほ笑む・・・可愛い・・・

 少し離れた所から、

「あぁこれ、他所様にご迷惑をお掛けするではない。」

 と、お父上であろうかと言うような声が聞こえるが、何処かで聞いた事のある様な声である・・・

 おや??

 どなたであろう。

 更に起き上がって辺りを見回すと・・・

「おや、これはこれは益田准将では無いですか、何たる偶然、お久しぶりです。」

 背後よりの声で振り返ると、そこに立って居たのは西郷従道海軍大将閣下と、第一艦隊旗艦の艦長を争い、現在では第二艦隊を任せられている第二艦隊指揮官の村上格一(むらかみかくいち)海軍准将、吾輩がお会いした時は大佐であった。

「ああ、お久しぶりです村上殿、此方には休暇で?」

「ええ、やっと朝鮮の、もとい対馬県の方の海上も落ち着いて来ましたので、長い事休みなく海の上だった我が艦は長期休暇が貰えましたので、今日を含め2日間だけですがこちらへ家族を連れて来たと言う訳です。

 いかんせん船の上に居る時間が長いのでもう少しゆっくりしたい所ではあるのですけどね。」

「ある程度の休みが貰えてもこちらまで時間も掛かりますからな、2日間でも致し方は無いですな、ではこちらのお嬢さんは娘さんですか?」

「ええ、妻に似て器量だけは良いのですがいかんせん甘やかし過ぎた様で、少し人様に対してご迷惑をお掛けする事が多く手を焼いとります。」

「いえいえ、大変お可愛らしいですな、性格も明るくてらっしゃる、良い娘さんでは無いですか。」

「ああ、益田殿はそう言えばまだご結婚なさってらっしゃらなかったように思うのですが?」

「ははは、そうですね、少し前に酒場の娘に惹かれて居ったのですがフラれてしまいました。」

「何と、益田殿を振るなんてなんと勿体無い、この娘で良かったら貰って頂きたい程なのに。」

「お父様、私この方素敵と思います、私もこの方に嫁げと言うなら二つ返事で何時でも。」

 なんともハッキリと物を言う娘だ。

「はっはっは、性格も宜しいようですな、これからは女性もハッキリと物を言える時代に成らねばいけないと思いますよ。」

「おや?益田殿、もしや満更でも無いと言う所ですかね?」

「そうですね、吾輩もそろそろ実を固めねばとも思って居た所なので悪い話では無いやもしれませんし、こんな可愛らしい娘さんを頂けるのなら吝かでは有りませんよ。」

 一寸社交辞令で言って見た一言だったが・・・

「そうですか、それは良いお話だ、善は急げ、今からこの寛子と暫く親睦でも深めて頂けますかね?」

 寛子さんと言うらしいが、いきなり話が独り歩きし始めた、まぁ満更でも無いのでまぁ良いか・・・

「では、益田様、不束者ですがよろしくお願いします。」

 満面の笑顔でなんだかもう嫁に来たようなご挨拶をされてしまった。

「此方こそ宜しく、修一と言います。」

「それでは、修一様とお呼びしても宜しいでしょうか。」

「ええ、それで構いません。」

「寛子や、その方は我が家よりも階位も爵位も上の方です、粗相の無いようにしなさい、纏まれば玉の輿です。」

「はい、お父様、大丈夫です、私この方、何となくですがきっと私の旦那様になる方のような気がします。」

 ストレートな娘だな、本人の居る前で殆どプロポーズでは無いか、だがそんなあっけらかんとした所も悪くない。

 それではと言う事で、甲羅干しを辞めてデートと洒落込む事と成ったのだが、凄い勢いでこんな事になってしまってちょっと戸惑って居た。

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「寛子さんはアイスクリームと言う物を食べた事がおありですか?」

「いえ、噂には聞いた事があります、確か横浜の方では有名な甘味と聞いてます。」

「そうですか、では頂きに行きましょうか、この島には有るのです。」

「まぁ素敵、楽しみです。」

 アイスクリームとジュースを販売する小屋へと来ると。

「あ、益田殿!昨日はどうも、早速アイスコーヒーもメニューに載せて見ました!なかなかの売れ行きですよ。」

 アイスクリーム小屋の主人だ。

「それはそれは、商売繁盛で何よりですね。」

「勿論、益田殿のお陰で結構儲かってますよ、此方は奥さまですか?」

「あ、いや、先程突然偶然出会った知人の娘さんです、なんだかすごい勢いで縁談になってしまったようで現在見合い中です。」

「お綺麗な方では無いですか、お似合いの美男美女ですねぇ。」

「はっはっは、煽ててももう先に教えてしまったのでこれ以上何もアイデアも出ませんよ?」

「いえいえ、折角ですから、今日はむしろ私が奢りますよ。」

「そうかい?悪いでは無いか。」

「お気になさらずに、お陰で宮殿の御用達にもなって来て儲かってますから。」

「そうか、会食の時にデザートで出たアイスクリームはここで作った物だったか。」

「これも益田殿のお陰です、感謝してもし切れないですよ。」

「それではお言葉に甘えさせて頂きます、アイスクリームを二つ。」

「畏まりました。」

「アイスクリームってもしかして修一様がご考案されたのですか?」

「そうですよ、他にも色々と作って居ますがね。」

「凄い方なのですね、益々わたくし修一様に惹かれてしまいます。」

 割と積極的な性格をして居る様で、普通にこんな言葉が飛び出す、面白い娘だ。

「お待たせしました、益田殿、ご注文のミルクアイスクリーム2つと、オマケの私が考えた新作のマンゴーアイスです。」

「おお、良いでは無いか、此方のはアイスクリームでは無く、シャーベットと名を変えた方が良い、触感が違うだろう?」

「益田殿、その案頂きます!」

 こうしてマンゴーシャーベットがこの店に新たに加わったのである。

「まぁ美味しい、冷たくて喉越しが心地良いですね。」

「気に入りましたか?」

「ええ、とっても。」

「でもあまり沢山召し上がるとお腹を冷やしてしまいますから、一日一度位にして下さいね?」

「それは大変だわ、修一様に輿入れする積りなのに子が産めなくなっては大変。」

 本当に物をハッキリ言う娘である、完全にプロポーズになってる事には気付いて無いようだが・・・

 だんだんこの娘が解って来た、玉の輿と言う自分の父の言葉は全く気にしている様子も無く、本気で吾輩を気に入ってしまったようだ。

 吾輩も一目見た瞬間あまりに可愛らしくてドキッとしたし、この性格も嫌いでは無いのでこのまま話を進めても良さそうだと思って居る。

 何よりも、身元もこれほどはっきりとして居れば安心でもある。

 で、有るからして、もしも吾輩の財産目当てであるとしても全く問題は無いとも思うし、そんな事今更気にしても仕方が無いと思って居る。

 何よりもアイスクリームを食しているこの満面の笑顔に吾輩は癒されて居るし、一緒に居て楽しいのだ、そこが一番大事では無いだろうか。

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 結局明日港へ戻り船に乗ってしまおうと考えて居たが、明日も会うと言う約束を取り付けられてしまった。

 とは言え、吾輩も乗り気になって居たのでむしろ良かったが。

 しかも泊まっている宿が吾輩の別荘に近い山の手に在り、吾輩自身も夕食をそちらのホテルで取って居たので顔を合わせる機会があった。

 宿のレストランで顔を合わせると、寛子さんは今更ながら顔を赤らめていた、ご自分がすっかりプロポーズとなるような言葉を使って居た事に後から気が付いたのであろう。

 純白のムームーに身を包んで顔を火照らせた姿は、それはとても美しく、未だ15歳とは思えなかった。

「お父様、船は嫌いですけど、来て良かった。

 素敵な人とお会い出来たわ。」

 と言う話声が隣のテーブルから聞こえて来たのだった。

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 翌日、丘へ登って島を展望した、このムードで勢いに乗って、吾輩も寛子さんへお付き合いを申し出た。

 半年程交際をした後に祝言を迎えると言う約束を取り付け、婚約を果たす事と成ったのだった。

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