第44話 淫魔女王・開拓

           淫魔女王・開拓

 翌日、休日は普段、ゆっくり寝て居るか、バイクで早朝よりツーリングに出掛けるのが小官の休日になって居るのだが、今日は桜さんが来るかもしれないので、朝食を摂った後、着替えて最近自分の物を手に入れたばかりの自動車を車庫より出して、手洗い洗車をしてのんびり過ごして居た。

 今小官のこの屋敷の立って居る場所は、前世で言う所の元町のはずれの高台に構えている。割と見晴らしも良く、海軍基地もここから見る事も出来る。

 最近この辺では有名な屋敷となっている。

 20歳そこそこで独身にして爵位持ち、本人の自己評価は低いのだがどうも人から見ればかなりのイケメンらしい上にこの屋敷には今、6人の使用人を雇って居る。

 そりゃ有名にもなるわな・・・元神童だし。

 とは言え屋敷がようやく完成したのは2か月ほど前だった。

 洗車を済ませ、昼食の時間に成ったので車を車庫へ入れて屋敷へ入り掛けた所で門の呼び鈴が鳴った。

 すぐさま使用人に声を掛け、昼食をもう一人前用意できないかと言うと、直ぐに用意出来ると言うので頼んでおく事にした、良く出来た使用人である。

 警備の者が応対して居る所に小官が門前に到着。

「ようこそ桜さん、どうぞお入りください。」

 そう声を掛けると、それに反応した警備員がすぐさま門を開錠する。

 桜さんは終始驚いて居るようだった。

 本題に入るのを後回しにして、先ずは昼食でもご一緒しようと思う。

「お食事は未だですよね? 用意させてありますのでどうぞ召し上がって下さい。」

「あ、はい・・・」

 桜さんはちょっとオドオドしながらついて来る。

 玄関を開けると使用人が並んで出迎えてくれる、出迎えろなんて一言も言わなかったんだけどなぁ・・・まぁ良いか。

 他愛の無い雑談をしながら昼食を済ませた後、庭のローズドームのベンチへ誘い、本題に入る事にした。

「桜さん、今日はお越し頂いてありがとう、今日は実はお聞きしたい事があってお招きしたんです。」

「はい、あの、何でしょう?」

「実は、以前に色々お聞きした事に関して、調べさせて頂いたんですが、桜さんの育ったと言う寺は、明治7年に廃寺となって居ます、本当の事を教えて頂けませんか? もしかすると貴女は・・・」と、未来人ではと言いかけた所に桜さんが被せて話し出す。

「やっぱりバレちゃったんですね、ウフフフフフ、流石に一筋縄じゃ行かないわねぇ、おねえさん貴方の事少し見くびってたかもぉ~、流石にサタン様の見つけた玩具だわねぇ~。」

 うん?未来人とか言わないで良かったかも、ってか自分から色々話し出したな、暫く黙って聞いて見よう。

「私はぁ~、リリスって言うの、サッキュバスの女王なの、余りにもサタン様がつれないから、貴方を玩具に遊ぼうと思ってこっちに来ちゃったのよぉ~。」

「悪魔だったんですね、一応小官はサタンの庇護下にある様なので、サッキュバスの魅了は効かないのだと思いますが、でも何か気にはなって居ました、そう言う事でしたか。」

 陛下と依然話した内容がふと頭を過った、悪魔も信仰されれば神と同義である、か・・・ここは抵抗せずに受け入れてみよう。

「そうよぉ~、だから諦めて大人しくお姉さんのオモチャに成りなさいな。」

「玩具とは行きませんが、小官もサタン様に蘇らせて頂いた身ですから、貴女方悪魔は言わば小官にとって神も同然、眷属に成れと言うならばお断りする訳にも参りませんが、既に小官は先程も申しましたようにサタン様の庇護下に有ります、いわばすでに眷属となって居りますので、リリス様、貴方様は私の信仰するサタン様の使いと思って接する事としましょう、それで宜しいでしょうか?」

「あら~、残念ねぇ、私を抱きたいとは思わない?」

 と言いながら正体を現す。

 すっげぇ悩ましい、狂おしい程のナイスバディーの、蝙蝠の羽の生えた美女であった。

「一応小官は前世でも彼女居ませんし、風俗へは行った事は有っても素人童貞と言う奴ですから、今生では普通に女性と良い仲に成りたいとも思います、しかしリリスさんはサッキュバスと言う事は、先ず素人では無いですよね、それと、悪魔と交わると人とは出来なくなると聞いた事が有るので少々それでは困ります、むしろ小官としてはサッキュバスのリリスさんにはご加護を求めたい程です。」断りつつ煽てて見たがどうかな・・・・

「そうねぇ、おねえさんとエッチしちゃうと確かに人間とは出来なくなっちゃうかも知れないわねぇ・・・うん、貴方が私を信仰してくれるなら、それは私の力に成る筈だわ、良いわよぉ~、其処で手を打ちましょう。」

 うまく行った、何処かに社でも建ててご神体でも飾ってしまおう。

「リリス様、確かリリス様はサッキュバスの中でも飛び抜けて音楽や踊りに精通してらっしゃいますよね?」

「そうねぇ、私は音楽とか踊りは大好きよ。」

「では、決まりですね、悪魔としてお祀りしては小官は別として他の人の信仰の対象には成り難いと思うので、思い切って七福神の一柱、弁財天としてお祀りしようかと考えたのです、大層な美神なのでリリス様と挿げ替えても判らんのでは無いかと。」

「良いわねぇ、芸能と財運の女神を信仰して居る様に思わせて実はおねえさんを信仰するのね?

 何か詐欺っぽくて素敵だわぁ~。

 この際だから江の島ってとこにあるご神体も私に挿げ替えられないかしらぁ~。」

 この悪魔・・・なかなか無茶を言う・・・

「そうですねぇ、小官の建立した物にご利益が有ったりすればもしかすると、と言う可能性は有りますが、あの島の弁財天像はかなり古い物なので少々難しいかも知れませんね。」

「あらぁ~、残念ねぇ~。

 でも信仰して貰えるならおねえさん頑張っちゃおうかしらぁ~、ご利益があれば信仰ももっと増えるわねぇ、ンフフフフ、面白くなって来たわぁ~。」

 すっごく何か企んでる感が強い・・・やっちゃったかな・・・

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 とんでもない会話であったと思う、悪魔を、しかもサッキュバスの女王を、男を誑し込む淫魔を逆に誑し込んでしまった・・・

 早速、小官の屋敷の近く、元町にあった薬師堂を建て替え、弁財天を祀ると嘯いてリリスを祀る事にした。

 ご神体の彫像の裸弁財天は、完全にリリスの姿を再現した物を発注、モデルとしてリリスの写真を撮って使った、勿論羽根迄は完全再現する訳には行かないので水着美女として撮った写真だが・・・

 なんか彫刻師が小官の手渡した写真を見て妙に意気込んで居たのでかなりの物が出来ると思う。

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 1896年 3月

 砲撃のお陰ですっかり焼け野原、見事なまでの荒野と化して居た朝鮮半島南部だったが、本土から送った重機での整地作業を始めていた。

 作業が進む中、山岳部等の治水や土砂災害リスクが問題である事が発覚した。

 政府は砂防ダムやダムを建設すれば済むと言う見解を出したのでそれだけでは足りないと小官が意見具申、植林の重要性を説いて、植林最優先の方針を打ち出す。

 針葉樹と共に広葉樹も植林すると後々標高の高低差で自然と住み分けが出来るのでそれを推奨した。

 ある程度整地が終わったら小官も出向いて、MASUDAの重機工場を建設する土地を物色に行こうと思って居る。

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 1896年 4月

 授伯爵 正二位 兵科技術開発准将に推され、名実共に技術開発の重要性が認められた。

 兵科技研は、兵科技術開発省と言う国家機関として独立、下部組織として東京科学技術学校が発足、理系の学者を育てる学校が出来た訳である。 

 省へと格上げされた訳だがあくまでも軍関連の施設には成るので階級はそのまま継承され、参謀作戦会議にも出席出来る。

 因みにこの学校の方は、学舎はすでに1月から建設を始めて居たらしく、3月には落成して居た・・・何だか小官の耳に入らないように先回りされて居た感じである。

 因みに准将とは言えど将官に成ったのだからそろそろ小官の自称を卒業しろと言われたのだが何と自称したら良いものであろうか・・・

 もう暫く小官のままで行こう。

 此処の教授として小官が航空力学を教えた学生が呼ばれたと言う事もあり、入学希望者が殺到している。

 北緯38度線のやや北に決まった国境線付近の東側の山岳部の、砲撃で崩れた山肌の一部に、鉄鉱石のような物が出たとの報告を受けた小官は調査に向かう事になった。

 少し早かったが序でに土地の物色も済ませてしまおう。

 そうこうして居る内に、海軍、陸軍とも違う新しい制服が手元に届いた。

 完全に陸軍でも海軍でも無い、軍寄りの内地勤務の象徴としての制服らしい。

 これを着た軍人は出張で外地へ赴いて居る時でも基本戦闘には参加しないで良いと言う免罪符を得た様なもののようである。

 研究や開発、調査の為に外地へ出ても余計な事をしなくても良くなったのは良い事では有るが、万一最前線に調査任務で行った時に銃も持たずにウロウロ出来ると言うのは気が引けないでも無いので、新型自動拳銃のプロトタイプとして技術開発省の幹部の人数分だけ作って見たキャリコでも下げて歩く事にしよう。

 前にも言ったがあの100連マガジンを再現するのは非常に面倒なのであまり量産には向かないのだ。

 プロトタイプなので名前は無いのでこれは益田自動拳銃といつしか呼ばれるようになってしまうのだがそれは又先の話である。

 然しまさか100発もの弾がたった1丁に実装された自動拳銃だとは軍上層部でもあまり知る者は居ないだろう、ふっふっふ。

 新しい制服に袖を通してみると、将官の端くれに成ると肩に付く装飾が少々もたつく感があって何だか少し違和感を覚えるが、慣れて行かねば仕方ないだろう。

 この制服での初出勤を果たすと、基地の警備兵がガッチガチに固まって丁寧な敬礼をして来たので、気が引き締まる思いであった。

 一度この制服で実家に顔を出すのもありかと一瞬思ったのだが、どうせ又母が号泣し、父が益々小官を恐れて避ける・・・となりそうなので実家へ帰る時は私服を着て帰るとしよう。

 朝鮮へ調査へ行く船に乗り込む直前に、船員全員が敬礼をして両脇に整列して小官を迎え入れる。

 何とも偉くなるとは色々面倒な物であるなぁと思ったものである。

 と、同時に、やはり自らを表す呼称は小官ではいけないのだろうと思う気持ちが強くなった、さてどうしよう。

 やはり吾輩かな・・・うん、一番しっくり来る気はするが、くそ偉そうでなんか嫌だと思って居た呼称を自分が使う事に成るとは思って居なかった。

 だが、偉くなったと言う事はそう言う事なのだろう、自覚も必要なのだと思った。

 新型大型戦艦、富士の艦橋へ上がると艦長が出迎えてくれた。

 階級は一緒なのでお互いに敬礼を交わした後、軽く艦の説明を受けたが、この艦の設計図の原型を引いたのは吾輩なので誰よりも良く知って居るのだが・・・等と思いながら聞き流した。

 この艦には、小官が試験的にハイドロジェット推進を設定して試作のガスタービンエンジンを搭載して居る。

 実はこの船で朝鮮へ調査に行こうと思った理由は、この船の乗り心地や速度も確認したかったのだ。

 船が出航した。

 是非最大船速を見せて貰いたいとお願いすると快く承諾してくれた。

 実際にこのサイズの戦艦が40ノット以上で走るのは中々にして末恐ろしい物が有った。

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 調査対象の山岳へ到着した吾輩は早速、連れて来た調査隊に指示を出し機材の点検を済ませ、明日からの調査に備えて野営の準備に入った。

 この山岳は、前世である時間軸の未来では、韓国では無く北のエリアに属して居る、今の国境が38度よりも北になったせいである。

 もしかすると北の謎の資金力の理由はここにあるかも知れないと思っての調査に来たのだ。

 以前北里君に頼まれてつい作ってしまったのと同型のクーラーボックスに入れて持って来た食材を使って自炊する事にした。

 作るのは吾輩がどうしても食べたかった料理、すき焼きだった。

 この時代、すき焼きの元祖とも言える料理、牛鍋は有ったのだが、未だすき焼きの領域にまでは達して居ない物だったからだ。

 牛鍋は幾度も食べて来たが、吾輩の好きだったのはこれでは無かった、甘めのわりしたで鍋を炊いて生卵に付けて頂くすき焼きがどうしても食べたかったのだ。

 その為に生で食べられる卵も必要だった、だが未だ生食に耐えうる卵はほぼ存在して居なかった為に、養鶏場から作り、遂に手に入れた、生食してもサルモネラの心配の無い卵を手に入れた所だったのだ。

 たまたまこの調査と重なってしまったが為にここまでしてでも食べたかったのだから仕方が無い。

 そしてもう一つ、この卵があれば食べられるようになるどうしても食べたかった物、そう、”T・K・G"やっと食べられるのだから何が何でもすぐにでも食べたかったのだ、この際ピクニック気分で後の世には観光地にもなりうる景観が望める屋外で初実食してやろうと思いワザワザ持って来たのだ、誰にも文句を言わせるものか!

 どうせなので全員分用意をして来て居るのだ、思う存分味わうが良い!

 等と思いながら飯を炊き鍋を用意して居る所を、

「准将閣下、その鼻歌は随分テンポが良くて小気味の良い曲でありますね、何と言う曲でありますか?」等と聞かれてしまった・・・

 言える訳ねぇだろ、まさかD〇DJのオープニングテーマだなんて・・・

「こ、これはぁ~、あれだ、吾輩のオリジナルで曲名は無いのだ。」と言って誤魔化すしか無かった。

 すると調理班の一人が、割り下を調合している吾輩の視界の左端で何か寸胴に火を入れ、何かを焚こうとして居るのでふと視線を移すと、其処には小官の持ち込んだ卵がボールに山積みになって居るでは無いか。

「おい貴様、何をする気だ?」

「は、准将殿、卵はこのままでは食用に堪えないので茹でようと思い・・・」

「あほぉっ!!!!」危なかった、茹で卵に成る所であった。

「貴様その卵を茹でて見ろ、この場で切り刻んで貴様をその寸胴鍋で炊いてくれるわ!」

 一寸マジ切れしてしまった、吾輩の野望をあっさり打ち砕かれる寸前だったのだからそれは頭に来たものだ、しかも食い物の恨みと言うのは恐ろしいのである。

「し、しかしこのままでは・・・」

「ほぉ、貴様吾輩のこの怒りに油を注ごうとするか、良い度胸だ、其処になおるが良い、今すぐその減らず口を叩く首を切り落としてやる。」自分でもここまでキレたのは始めてだった。

「准将閣下、どうか剣をお納め下さい、悪気があった訳では有りませんので。」

 付近に居た者が慌てて割って入り吾輩を止めようとする。

 既に小官は叢雲を抜き刃先を向けて居たのでそれはこの間に入るのは恐怖であったに違いない。

「ふん、悪気が無ければ強姦しても罪には問われないと言うのか?

 悪気が無ければうっかり人を殺してしまっても罪に問われないとでも言うのか?」

「いえ、そのような訳では有りませんが・・・」

 興が削がれたので叢雲を鞘に納めながら、

「丁度良い、飯が炊けたようだからこの場に居る貴様ら3名に食わしてやる、自分の舌で確かめてから自らの愚かさを悔いるが良い。」

 と、窯の蓋を開け、飯を茶碗に寄そう。

「但し、飯が足りなくなる、一杯だけだぞ、三名で分けて食え。」

 卵を小鉢に割り、サッとかき混ぜ、茶碗の飯に醤油を二回し程掛けて混ぜ、其処に生卵を落として良く和えた。

「それ、食って見ろ。」

 と、吾輩特製のT・K・Gを差し出すが、食おうとしないので、強引に口元に押し付ける。

「貴様、吾輩を信じられないと言うか? 食えと言ったら食え。」

 茶碗を置き、更に付け加える。

「食えぬと言うならやはりこの場で吾輩に逆らった罪で軍法会議に掛けるまでも無く切り捨ててやる。」

 と言いながらまた叢雲を抜こうとすると、諦めたように茶碗を手に取り一口。

「う、旨い、旨いで有ります准将殿! 何だこれ、こんなに美味いとは思わなかった!」

「何、俺にも食わせろ!3人で分けよとのお話だったのだ、貴様だけ食うな!」

 奪い合う様にあっという間に平らげた彼らは、ここで初めて吾輩の怒りを理解した様で、土下座をして謝る。

「申し訳ありませんでした、准将閣下、職にも精通する益田准将閣下と知りつつも何処かで信じては居ない所が有ったようであります。 どうか寛容なご処分でご勘弁を。」

「ふん、判れば良い、だが覚えて置け、食い物の恨みとは恐ろしいのだ。」

 と、寛容に許す事にした、むしろどんなに頭に来ていたと言っても実はそんなに人を殺したいとまでは思っては居なかったので上手く収まる所に収まって良かったと思う。

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 念願のすき焼きを堪能して居ると、其処へ先程吾輩に楯突いた下官がやって来てまたも土下座をする。

「准将閣下、このレシピを教えて頂けないでしょうか、小官は髙岡常史郎曹長であります。」

「ん?別に良いが、どうしてだ?」

「小官の兄の常太郎が本庄で料理屋をしておりまして、其処の目玉で牛鍋を出して居るのですが、今一つ客足が伸びず、悩んでおります、この味ならばと思いまして・・・」

 高岡・・・髙岡常太郎・・・ん?

 もしかして人形町今半の創業者か!

 なんと言う出会いであろうか、奇しくも初めて完成させた日に超名店の創業者の弟に食わせる羽目になったとは・・・

「別に料理にまで特許権を付ける気は無い、好きにするが良い。 それとだ、貴様の兄に一つ意見をしてやる、人形町へ出て来て店を開けと、あの付近は今新しい国道も引いているし新しい駅も建設中だ、繁盛させたければそこが良い。」

 まさか自分の意見が120年以上も続く名店を生み出す事になうとは思って居なかったが、これが現実と言う物なのだろう。

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 翌日、早朝より先ずは断裂、つまり天然洞窟たり得る裂け目を探して内部の探索に当たる。

 一人が大穴を発見したと言うので、そちらから探索する事と成った。

 暫く進んで行くと、確かに鉄鉱石は有るように見えるが、埋蔵量はそんなにも多くは無さそうだ、ボーキサイトも多少は有ったが、敢えて採掘に踏み切る程の量では無いように見受けられる、外れかも知れない・・・

 さらに奥へ行くと石英、所謂水晶のエリアに辿り着いた、石英は二酸化ケイ素であるから、加工すれば記憶媒体にも使えそうだがこれもそんなに多い量では無かった。

 やはり外れだったか・・・と思ったその時、更に真下へと降りる穴が見つかり、縄を使い降りる羽目になってしまった、こんなに探索が大変とは思わなかったが、仕方ないだろう。

 降りた先は地底湖が有り、その先にぼんやりと光るものが見えた、気がした、これは少々迂闊だったかもしれない、やってしまったかも知れない。

 しかし我等の持って居る電灯は、量産には至らない物のかなり無茶をして数個だけ完成させていたLED電灯なのだ、これならば・・・

 試しに全員に電灯を消させてみる、真っ暗だ・・・小官だけ電灯を点け、ゆっくりと辺りを照らして行くと、うっすらと青っぽく光る部分を遂に見つけてしまった、やはりそうか。

 このような洞窟内で暗くしてLEDで照らしただけで光るなんて相当に純度が高く量もそこそこ潤沢に取れるのでは無いだろうかと思わせるには十分であった。

 取り急ぎ全員に引き返す命令を出して急いで外に出たのだった。

 あれは、只の鉱石なんかでは無い、劣化放射性金属、しかも恐らくはウランだ。

 ウランと言う鉱石は、実はただの土の中にも僅かながら含まれる事が多く、精製さえすれば何処からでも採取出来ない事は無いが、膨大な量の土をとんでもない手間を掛けて選り分け続けると言う気の遠くなる作業をしなければ成らない。

 だが、純度の高いウラン鉱石はそう簡単にそこかしこに埋まって居る物でも無い。

 しかしその高純度ウラン鉱脈では、ブラックライトや青色LEDに反応し、先程のようにぼんやりと光を返して来るのだ。

 まさかとは思って早めに気が付いて良かった、余りあの場に長居をすると放射線を浴び過ぎに成る所だった。

 かの軍事国家の妙な資金源はこれだったのだろう。

「准将殿、何故引き返したのです?まだ先があったと思うのですが。」

「いや、あの場にあれ以上居ると危険と判断した、もう一度、ちゃんとした装備を整えてからで無いとあの場の探索は禁止とする。」

「我々にも判るような説明を頂きたいのでありますが・・・」

「では言おう、ぼんやりと壁面が所々光っていただろう?

 コケも付いて居ない様な岩石の壁が光るなんて明らかにオカシイとは思わんか?」

「そうですね、ですが鉱石なら光を反射して光っても不思議では無いのでは?」

「いや、そんな事で片付けてはいかんのだ、今回持って参った吾輩の作った電灯は紫外線を少し多めに出す傾向にあるのだが、それが当たってあのような青色に発光して居る事に問題が有る、ほんの最近だが、2月にドイツのアンリ・ベクレルと言う科学者が、放射線と言う未知のエネルギーが出ている鉱物を一つ特定したのを知らんか?

 ウランと言うのだが、あれは紫外線が当たるとあのような青色に光を反射すると言う特性がある、つまりあの奥はウラン鉱山と言う事だ。」

「成程、つまりは未知のエネルギーを放出する鉱石があの場に眠って居たと言う事ですか。」

「左様、しかもあの場に生き物が何も見つからんと言う事はそのエネルギーはあまり浴びては成らない物と気が付かねば成らん。」

「成程、それは確かに都合悪いですね、それで日を改めてそれなりの装備を整えてからと言う事ですね。」

「まぁそう言った所だ。」

 今回は撤収を余儀無くされたのだった。

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 港付近へ戻って来た、吾輩は早速、工場を作るに良さそうな土地を物色し始める。

 が、しかし探すまでも無く直ぐに良さそうな平地に出くわした。

 標高は20m程、うん、悪くない。

 工業用水を取る為の海も割と近い。

 前世の日本では工業用水に地下水を使いそれを吸い上げ過ぎた為に地盤が弱くなり陥没、所謂地盤沈下をしてしまった、酷い地域では海抜-2m以下になって居る所も確認されている。

 勿論吾輩が今の東京府の都市開発に携わっている以上は、それをしない様に工業用水は海水を濾過蒸留して使うよう推奨して居るので、こっそり地下水を汲み上げる企業もあるやも知れないが今の所は地盤沈下の兆候は見られない。

 成功して居るのでここでもその手法を使わない手は無いのである。

 此処に工場を建設し、作った大型重機で植林とダム建設をし、インフラを整備して行けば侵略に対抗出来る一大都市を築く事は可能であろう。

 そのためを見越した重機工場であり重機メーカーを立ち上げるのだ、社名も決めている。

 何処かで聞いたような社名では有るが、”MASUDA"である。

 何だか一字違いで吾輩が前世で乗って居た事のあるスポーツカーを作った自動車メーカーに成りそうだ・・・

 勿論重機メーカーはある程度までは徹底的に重機のみを作るが、一定数確保出来た後は戦闘車両の生産に重心を切り替え従事させれば本土から輸送する手間も、訓練兵を本土で教育してから連れて来る手間も無くなるのだ。技術開発省となった今ならば我らはあくまでも兵士ではなく職員、副業も可能となるので、吾輩は村田少将付き少尉であった彼が適任と思い、今では右腕となりつつある現井上中尉か、若しくは父の抱えている書生に経営学に長けた者が居ると聞いたので何れかを社長としてこの地に派遣する事を考えて居た。

 移民希望者も募集が始まって居る様なので、帰ったら早々に、移民の募集要項の一角に工員の募集も付けて置きたいと思いながら、土地の確保を終えた後、すぐに防護服を作成する為に本土へトンボ返りしたのだった。

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