第43話 戦後処理と再開発

         戦後処理と再開発

 1985年 12月

 清国との戦後処理で、政府関係者は忙しそうに動いて居る。

 相当額の賠償金を請求出来ると踏んで居るようだ。

 そんな中、総理大臣伊藤博文公は、ちょくちょく出張と称して出掛けて居るようだった。

 陛下が怪訝な面持ちで小官に聞いて来た。

「伊藤の奴、コソコソと呉へしょっちゅう出張と称して出掛けて居るようだが、そんなに海軍の拠点に用が有る物か?

 何を企んで居るか調べて欲しい。」

 何と無く小官はピンとくるものがあった、成程そう言う出張だったか、そして小官はこう返答する。

「ああ、ご心配は無用です、あの御仁はこっそりと好物を食しに出かけて居るだけです、参謀会議で海軍の天狗になった鼻を小官が折って置いたのでそんな悪巧みを各策出来る程の信頼は得て居ませんからね。」

「ほう?好物ねぇ、それはどんな物かね?」

 速攻で食いついて来る陛下、皇居で出される物しか食って居ない陛下的には外の食べ物が羨ましいらしく、最近は小官が訪問する際にはケーキや干し芋、酷い時には小官がついウッカリ自作して食ってたら広まって流行り出しちゃったラーメンや餃子を届けろとか言い出す始末なのだ。

 正に入れ食いである。

「実はここだけの話ですが、情報部の話ですと下関に行って河豚を食って居るらしいです。」

 本当はただ単に知って居ただけだが・・・

「河豚だと?確か毒があって食えんと聞いたが?」

「実はトラフグも内臓と皮だけ丁寧に取り除いて処理してしまえば、身には毒が無いのですよ。」

「ふむふむ、マツタケも実は熱処理すると分解されて無毒化する毒を持つキノコと聞く、毒のある物は旨いらしいと言う話も聞く、興味が出て来たぞ。」

 しまった、余計な事を言ってしまった気がする。

「よし、これから河豚を食いに下関へ-」「ちょっとお待ちください陛下、河豚の中には毒の無い者も居ますが、トラフグと余程並べて食べ比べでもしない限り遜色無く美味い物です、小官が今度釣って来ますからそれでちょっと我慢して下さい、今陛下に東京府から出られると統率に乱れが・・・」

 被せる様に捲し立てて止める。

「しかしなぁ、トラフグに魅せられたのだろう?伊藤は・・・」

 かなり口惜しそうだ。

「ああ、じゃあこうしましょう、小官がトラフグを海軍の知人に頼んで運ばせます、そしてそれを解剖して毒のある部位と無い部位を徹底検証してその結果を伊藤総理に報告して東京府でもフグ料理を食べられるようにしますよ、そしたらこっそり抜け出して食いに行けるでしょう?」

「おお、それ名案! 直ぐ手配してくれ。」

 なんかまたやらかした気がしないでもない・・・

 ----------------------------------------------------------

 しかし河豚は小官も好きである、この際なので知人の漁船に乗り釣りをして居るとお目当ての鯖河豚が数尾釣れたのでそれを持ち帰って兵科技研で捌いて居ると、井上君がやって来た、こう言う嗅覚は良いらしい。

「おや、大佐、何を調理してるんです?・・・げ、河豚じゃ無いですか、今度は毒爆弾でも作る気ですか?」

「何をバカな事を言ってるんだ、食うんだよ。」

「辞めて下さい、自殺ですよそんなの。」

「この鯖河豚と言う河豚は毒が無いんだよ、それにトラフグであっても内臓と皮だけちゃんと処理すれば身に毒は無いんだ、俺はこれが食いたいから釣って来たのだよ。」

「マジで食えるんですか?」

 信じようとしないので手元で捌いて居る身を一切れ手に取ってサッと水洗いし、用意してあった柚子ポン酢しょうゆに付けて口に運ぶ、うん、良い触感だ。

「ホレ、食ったぞ、試してみるか?」

「う、頂きます。」恐る恐る手を伸ばす井上君にさっと水に晒した一切れを手渡す。

 小官を真似てポン酢しょうゆに付けて口に運んだ井上君は、目を見開いて「うまっ!」と叫ぶと、自分のポン酢しょうゆを作り出す、現金な奴である。

「大佐ー、俺の分お願いします~、捌けないので。」

「貴様、後でパシリにしてこき使ってやるから覚悟して置けよ。」

 小官はフレンドリーにフランクに接し過ぎたせいか今一つ威厳が足らない気がする、今や兵科技研の所長なのになぁ・・・

 ----------------------------------------------------------

 台湾国の申し出で政局は大きく動きはしたのだが、結局は台湾は琉球に統合して沖縄県として取り込む事とした。

 但し、独立出来る力が付いたら独立しても良いと言う限定を付けてやった、国家主席となったところを数か月で帝国に併合させる道を選んだ裏には相当の思い切りと葛藤があっただろうと言う事からの配慮だった。

 これは陛下が出したご意見であったが、それを全面的に小官が後押しをして賛成多数を取り付けたのだ。

 ハイそうですかとごっそり自分の物にされてしまえばいつの間にか湾曲していつしか悪者扱いに成り得るから敢えてそうした。

 香港と一緒でもしも100年後に独立しても日本人として生まれ育った者達ばかりになってしまえば独立なんて意味が無いと言い出す可能性もかなりの確率なのだ。そこを逆に突いた形だ。

 小官の出資の学校ももうすぐ建物が出来上がる様なので、しっかりとした歴史を植え付けようと思って居る。

 朝鮮に関しては、閔妃以下、政権関係者はイギリスで処刑されてしまったので王はもう居ないし、作戦に参戦した合衆国は自動小銃を卸すと言う事で納得し朝鮮半島の権利は放棄して来た為、北緯38度線より少し北迄押し戻した部分より南は、済州島を含む全てが現在日本領となって居る。

 清国軍に取り入った連中や悪逆非道の限りを尽くして居た暴徒共は清国軍と共に追い出すか戦火で全滅してしまって居たし、女子供は真っ先に前者達に蹂躙されてしまって居た為、完全に日本人以外居ない、正に完全に日本以外の何物でもない。

 地震や大火災、脚気など病気で死んで居た筈の民も死なずに着実に人口が増えて居る、現在人的資源はまだまだ増える余地があるので移住希望者を募って再開発をさせようと言う事と成った。

 そのついでと言っては何だが、ここには工業団地を作り、生産力を向上して行く方針になった。

 其処に益田化学工業以外にも、新たな工場を作って参画したいと思って居た、ここで小官の技術の粋を尽くした油圧ショベルやクレーン等の重機を作ってこの朝鮮改め対馬県(つしまけん)の開発を助けようと思う。

 だが、重機を作る裏で当然ながら色々作る事に決まっているが。

 ----------------------------------------------------------

 清国からの賠償のお陰で国は今までに無い程潤って居た。

 そして圧倒的な大勝を導き出した小官の兵器に対しての評価が鰻登りに上がったおかげで兵科技研は今や軍内でも最も意見が通りやすい立場となっている。

 従って伊号弾は封印、発展させた呂号弾の開発費用を捻出させるに至る。

 呂号弾だけでは無い、合衆国に自動小銃を払い下げるに至った為に更なる優位性が欲しいと言う要望もあった為、実戦データーも有る事であるし全ての武装の再開発プランも持ち上がっている。

 こうなって来るとやる気が出て来たぞ、航空機も遂に単葉が飛ぶように徐々になって来た。

 いよいよ小型戦闘機と大型爆撃機の開発も出来ようかと言う物である。

 現在小官は、装甲車の戦闘データとにらめっこ中である。

 このフィードバックデータから、回頭式砲塔を塔載した戦闘車両を完成させる為の数値を計算する為である。

 前世の未来の知識を持ってしても、実際に戦車を設計した事は無いのだからこう言った実戦データは重要かつ貴重だ。

 小官の居る隣の部屋では、バイク部隊に配備しているサブマシンガンのジャミングが多かった事を加味しての再構築が小官の育てた技術者達のグループで行われて居る。 何らかの進展か疑問等が発生したらすぐに小官の元へ伝令が来るだろう。

 サブマシンガンに関してはこの際だからUZIをモデルケースとして作られて1990年頃から空挺などに配備された自衛隊正式採用SMGの9mm機関拳銃(M-9)を丸ごと、拳銃弾使用で再現してしまおうかとも思って居るのでどうしてもクリア出来ない問題でも起きた時の為に新プランとして用意してある。

 本当はキャリコM100なんて好きだし、良いなと思うのだが、あのマガジンを再現するのは少々骨が折れる。

 無反動砲に関してはもう少し威力を上げられるだろうと言う事で、炸薬にコルダイトNを採用する事で変更点が確定している。

 迫撃砲及び重迫撃砲に関しては変更点は無し、十分な戦果を上げて居ると言う見解だ。

 そして、陸軍のメイン装備である自動小銃だが、これに関してはもう少し銃身を延ばして命中精度を上げたいとの意見が多かったのだが、銃身はあまり延ばすと取り回しが悪くなるのだ、ここはライフリングを現在の4条から5条に変更する事で解消出来るのでは無いかと考えて居る。

 まぁ、6mmで5条のライフリングを刻むのは骨だが、かなり技術レベルが向上して来たので何とかなるとは思う。

 取り敢えず、海軍装備は後回しである、十分過ぎる物が配備されて居るから今では無敵艦隊等と言われるのは帝国海軍だったりするのだ。

 まぁそりゃぁ、大型戦艦に巡洋艦駆逐艦の魚雷、潜水艦まであったら強いわなぁ・・・

 とは言っても戦闘機がロールアウトした暁には空母も同時にロールアウトさせる気で既に設計図は有るのだが・・・

 そして問題の伊号弾の発展型である呂号弾、これに関してはやはり、現行の個人用PCでは処理が間に合わないので、大型のサーバーを作って個人向けPCとイントラネットで繋ぐ必要性を感じている。

 目指すは、かの有名な奴、そう、”京(けい)”である。

 スパコンを開発出来れば完全に他国に対して優位性が確立出来てしまうのだ。

 これを作る為に、小官のPC2機は、現在無理矢理相互リンクさせて24時間演算を繰り返し、基盤デザインの最適解を出そうと常に稼働中、もし停電にでもなろうものならショックで三日は何も食えなくなりそうである。

 ----------------------------------------------------------

 夜、ゲート前に出来た盛り場に通って居たが、遂に桜さんを見つけた。

 飲み歩く前にと立ち寄った居酒屋で、腹ごしらえを済ませて店の外に出た所で、お客を呼び込む呼び子として、酒場の前に立って居たのだ。

 すぐさま駆け寄った小官は、作って置いた名刺の裏に、兵科技研が移転した為に外から通えるようにと横浜に建てた屋敷の住所を書いて手渡し、明日の休暇日に来て欲しいと告げて、その日は帰る事にした。

 果たして来てくれるのだろうか・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る