第42話 日清戦争終結

          日清戦争終結


 1895年 3月後半

 海軍が功を焦ったか、勝手に清国へ、手を引かねば北京を伊号弾で強襲すると脅迫文を送り付けようとして居た所を情報部が阻止、だが脅迫では無く外交としてならば悪い手では無いと言う事に成り、陛下よりのお言葉として、もっとソフトにオブラートで包む様に打診すると、流石の清国も大半の部隊を失って疲弊して居たのだろう、検討すると言う返事が届いた。

 こうして日清戦争は、大日本帝国の被害は最小限に収まったのだが、いかんせん中華思想が停戦-終戦への意見を嫌い過ぎたせいで清国の被害は莫大な物となって居たのだが、ここで敗戦国は賠償責任が発生する。

 これによって実質的に、清国の軍事力はほぼ削がれてしまったのだった。

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 まだ完全と良い切れない伊号弾を、試験運用だと置いて来た筈なのに訓練も何もせずにいきなり実戦へと持ち出された事を知り、また、もう既に使用してしまった事を知り、慌てて浩江ちゃんに調査を依頼した小官であったが、調査結果が届いて、頭を抱える事と成ってしまう。

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 搭載艦船:大型戦艦 武御雷 4門

    大型戦艦 毘沙門 4門

 総射出数:8

 目標:大連港

 海面状況:凪

 結果:飛距離不足 2 内、至近弾1

   命中 3

   飛距離過乗 2

   不明弾 1

 効果:不足弾:海上着弾の折、信管作動 海上炎上

   至近弾:大連港 出航途中過程 敵大型戦艦に直撃 轟沈

   命中弾:大連港施設直撃、完全沈黙

   飛距離過剰弾:大連港後方市街地着弾、被害甚大

   不明弾:恐らく大連港後方山岳部へ着弾の模様、但し不発と思われる

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 未だ訓練用に卸しただけだと言うのに・・・未だ実践投入しては成らないとくれぐれも通達して置いたのだが・・・

 海軍の暴走傾向はどうにも困ったものである。

 一番問題なのが飛距離過剰弾の市街地被害である。

 此方の返答次第では国際法に抵触してしまうのだ、まぁそこは政治家達の領分だろうと思われるので彼らの狡賢い脳みそによってひねり出した言い訳で誤魔化して頂くしか無かろう。

 しかし、あの段階の物で半分の艦船に直撃の至近弾含め4発も着弾させられたのは恐らく艦長や射手の腕と言う所だろうか。

 詳細を確認すると飛距離不足弾は海面に着弾し信管が作動、海面を文字通り火の海にして見せたらしい。

 そう言うのいいからね・・・

 至近弾の直撃した大型戦艦は正に運が悪かったとしか言いようがない、海面擦れ擦れに飛んで行ったロケット弾が見えた時には既に目の前に居たと言う所では無いだろうか。船首部分を粉々に粉砕されあっという間に沈んで行ったらしい。

 艦隊の指揮官の報告書ではその辺が誇らしげに書き記されて居たらしいのだが・・・駄目だからな、それ・・・

 軍法会議物なのでは無いかとまで思える所業だ。

 これはいかんと思い、海軍大将閣下に直接抗議に行ったのだった。

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 一方、清国

 後進国であると侮って居た日本の此れまでに例を見ない新兵器の数々とその戦力による圧倒的不利な戦況を打開できるか否かと言う会議が行われていた。

 各方面軍に打開策を求めるも、海軍を壊滅状態にした、いつの間にか設置されている機雷、何処から飛んで来たのか判らない火を噴きながら飛んで来る砲弾、そして、陸軍をあっさり押し返した、かつて例を見ない連射を可能とした理解の範疇を超えた小銃と、対峙した敵歩兵の陣地から飛んで来る謎の小型砲弾、更には装甲を施した車両による機動力に物を言わせた戦術、これ等に対する対処は何処からも意見が出なかった。

 正に魔法でも見せられて居るかのような脅威でしかなかった。

 折角進軍して一度は完全に手中に収めた半島はすでに半分以上が奪還されてしまって居る。

 朝鮮国は何故こんな連中が駐屯して居たにも拘らず暴動の鎮圧を要請する手配をしたのかも今となっては知る術も無いし知りたくも無い、朝鮮王家はイギリスに移送され戦争の火種を作ったとして処刑される事と成って居たので問い詰める事も出来ないのだ。

 何でこんな不利益を被らねば成らなかったのか、そちらに議論が移行してしまう。

 早期に和睦案を持ち出すしか無い様に思える。

 しかしそれを中華思想が邪魔をした、自分達が何者よりも優れて居ると言う思いが、其処に辿り着かせなかったのだ。

 とは言え、海軍はほぼ壊滅状態、朝鮮攻略へ出した陸軍は既に10師団を数えて居たが、其処に更に12師団を投入する事が決定していた。

 実に半数の師団を投入しようと言うのだ。

 だが、一向に敵軍を撃破したと言う報告は一つも入らないのだ。

 一体日本の軍隊とはどうなって居るのか・・・

 何より、誰かが和睦案を出さない事には軍隊の全てを失い兼ねない。

 そんな折、大日本帝国の天皇よりの親書が届く。

 内容はこの辺で終わりにした方が良いのでは無いかと言う、もしも引いて頂けるのならばこれ以上の戦闘はお互い避けた方が良いとの外交文書だった。

 これによって停戦派は諸手を上げて喜んだのだった。

 そして、一度は、検討するとだけ返信をするも、すぐさま停戦派勢力が勢力を増す事となり、同月中に停戦が行われる事と成ったのだった。

 これにより戦争は終結、史実より僅か一月だけでは有るが、早期終結に至る。

 そしてこの後、清は国力の疲弊によって窮地に立たされる事と成って行くのだった。

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 1895年 8月

 兼ねてより、日本への訪問を希望して居た台湾国元首であったが、遂に日本へとやって来る事と相成った。

 一歩先駆けて帰国している北里君と小官が、大日本帝国政府との懸け橋となる事で、この訪問が実現したのだった。

 先ずは小官と北里君が出迎え、台湾へ駐屯していた第6艦隊旗艦‐戦艦富士の艦長がエスコートして艦橋より下船して来る。

「ようこそお越し下さいました、お初にお目にかかります、小官が益田修一大佐であります。」

 短く端的に北京語で挨拶をした小官は、早速台湾国元首を艦長に替わってエスコートし、国賓としてお迎えする為に皇居へとお連れする為に車へ誘う。

「大佐凄いっすね、中国語も使えるんですね、底が見えないお人だ・・・」運転手で連れて来た二宮少尉が半分呆れ気味に呟いていた。

 先ずは、是非お会いしたいのでお連れする様にと陛下よりのお達しがあったので、取り敢えず陛下の元へと皇居にやって来ると、小官がコッソリ命名のイケイケ陛下は今か今かと待ち遠しそうにウロウロして居た、相変わらずのお人である。

 まさかこんなに愉快な性格の方だったとは思わなかったんだけどなぁ、初見の頃までは・・・

 帰りの車の中で初めて陛下にお会い出来たと言う二宮君も、「あんなに砕けた方だったとは知りませんでした。」

 等と言って居た程だ。

 だがしかし、小官のように心を許した相手の前では気を抜きたい気持ちも良く解るのだが・・・

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 後日、台湾総統閣下の来日した理由が明らかになって兵科技研全員で、いや、むしろ参謀本部までもが仰天した。

 実は大日本帝国の末席に加えて頂けないかと言う申し出だったのだ。

 そりゃそんなまさかの理由での来日であるから、いきなり聞かされたら驚くわな・・・

 しかしまぁ、そうしたい気持ちも判らないでも無い、清国本土からは忌み嫌われて居るにも拘らず清国に併合して扱うと言う事はつまりは同民族であるのに植民地にして奴隷扱いをすると言う事と概ね相違無いのだ。

 其の上、それに対応すべく軍備を整えようにも天然資源に乏しい台湾では、資金的にも苦しいしそれもまま成らないだろう。

 それを押し切って独立したいが為に我が国に連絡を取る暴挙に出た訳だ、だが、折角それによって独立を果たしたとしても、もしも日清戦争が終結した後に清国が立て直しを図ったとしたら真っ先に戦火に苛まれるのは台湾と言う事を危惧したのだろう。

 因みにこれは未だ非公式で、世間には公表されて居ない事だが。

 小官としては台湾国はリゾート地として優秀なだけで無く、漁獲高も日本の造船技術で作った漁船を提供すれば相当に上げられそうだと言う事もあり、願っても無い申し出なのでは無いかと思う。

 陛下には承認しても良いですよとだけ言って置いた、後は陛下の胸先三寸である、それに益田化学産業もあるしな。

 もしも大日本帝国に成るのであったら小官の膨大に膨れ上がった資産で小学校から大学校迄全てを備えた大型学校を建ててやりたいとも思って居る。

 全ての正しい歴史は崇高な教育により維持できるのだ。

 小官は前世の、特に歴史の教育方針は間違って居ると自負して居た。

 それが学校を作ろうと言う理由でもあった。

 古い大昔の歴史などは余り手広くやらずとも良いのだ、過去300年程の歴史を詰めて勉強する事でこそ正しい歴史認識が未来に伝わるのだ、ましてや大昔のメディアとは違い今のメディアは保存が容易である、確かに壁画や粘土板等は長く保管が利くとも言えなくは無いが、兎に角デカすぎるが、コンパクトに纏められる紙や、音声がそのまま記録できるレコードやこの度小官がまたやらかして開発してしまった磁気テープ式記録装置、所謂カセットテープ、もう少し調整したら完成に至るHDDやフラッシュメモリー等も、定期的に更新さえすればコンパクトで保管が容易なのだから。

 大昔の歴史は考古学者などにお任せしておいた方が良いのだ、どうせ新事実がとか言って古い歴史の授業で教える内容なんか変わってしまうのだから。

 其の上、近代史を詰めて学ぶ事はこの先もっと政治に興味を持ち国を良くしたいと言う思いを持った政治家を生み出す為には重要な教育だと思って居る。

 成功した政策や、失敗した政策、様々有るだろう、近代史とはそう言った事も学べる素晴らしい学問だと思う。

 古代中世代史までやって居る時間等は勿体無いので触る程度だけでいい。

 この度、小官が国内でも学校の設立を申し出て出資を始めたのだが、日本学園の名前で、小官の前世では高等学校のみであった学園を小中高一貫学校にする為にかなりの資金の提供をして居る。

 思いっ切り脱線してしまったが、そんな理由もあって最近の小官は学校を建てる事には非常に意欲的なのだ。

 それにしても台湾国主席も、折角国家主席になったと言うのに随分と思い切ったものだなぁと感心してしまう、それだけ本当に台湾の事を考えて考え抜いたのだろうな。

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 1985年10月

 清国の大攻勢によって思わぬ大群の反撃が行われた為、日本と比べて兵装が劣る合衆国軍が大分被害を被って居たらしい。

 それに伴い、合衆国より、新装備の販売を熱望する要請が届いていた。

 いずれにしてももう暫くもすれば教えずともコルダイト位作り出してしまう国なので、この辺で我が国の優位性を示す為にもアサルトライフルの提供を始めようかと言う議論が巻き起こっていた。

 だが、ここで例の伊号弾の偶然とも言える成果を傘に意見を強めた海軍が猛反対をしたのだった。

 これだから海軍にでかい顔をさせてはイケナイのだ。

 前世で習った太平洋戦争の敗因は海軍の暴走に端を欲するアメリカとの対立が最大の原因だったのだから。

 だが、この参謀会議は小官も招聘されて居るのでそこはかの戦果を否定してでも海軍の意見を通さない方向で意見を通わせていく気であった。

「お待ち下さい、大連港壊滅の戦果を傘に着て強く出たような発言でありますが、かの戦果には疑問も多く、小官としては海軍の意見を押し通させる訳には参りません。

 伊号弾は十分に訓練をしてからで無いと誤爆誤射が民間被害を誘発するので訓練を十分にするようにと言って申し送ってある筈なのですが、いきなりぶっつけ本番で撃ってどれだけ民間に被害が出たと思って居るのでしょうか?

 港の壊滅が出来たのも偶々凪で船が殆ど揺れて居なかった為に数発が命中しただけでは無いですか!

 それとも小官とこの場で対峙しようと言うのであればその被害を小官独自に情報部に調べさせた報告書が有るのでこの場で全て公表しても構いませんよ?

 お陰でどれ程陛下や総理に心労を掛けたとお思いでしょうか?

 合衆国の国力は正直に言って我が国の数百倍と定義出来る程の物、今新型火薬や自動小銃を此方から提供する事で恩を売ってでも我が国があくまでも上の関係である事を思い知らせておかないと何時か痛い目に遇います、ここは良い機会と小官は定義致します!」

 時の艦隊司令、日清戦争開戦時に旗艦館長をして居た東郷平八郎海軍少将は、小官の反論に苦虫を噛み潰したような顔で黙り込んでしまった。

 数分間の沈黙の後に、議題は可決され、合衆国へ自動小銃とコルダイトの輸出が始まる事が決定された。

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 久しぶりに飲みに来ている。

 桜さんに、正直にスパイを疑って調査した事、出生がウソだと言う事が解った事、だがスパイの疑いは晴れたと言う事の全てを打ち明け、その上で彼女の事を聞いて見ようと思ったからだ。

「あら、いらっしゃい、お久し振りね、元気だった?」

 お店のママさんだ。

「ええ、お久し振りです、兵科技研の場所が移転してしまったものでなかなか来られなくなってしまいました。」

 取り敢えずこうとでも言って置けば良かろう。

「そうだったの~、桜ちゃんったら、貴方が来なくなっちゃったからってお店辞めちゃったのよ、今は確か、横須賀の方に住んでるんじゃ無いかしら?」

 なんと言う偶然・・・いや、むしろ小官を追いかけたように感じるのだが・・・

 しかし横浜も割と広いので、此方から探すとなると骨が折れる。

 この数か月、休みの前日に成ると横須賀の酒場を梯子して回って居るが、情報は無かった。

 だがむしろ逆に、情報が無いのならば夜の仕事に付いて居ない、もしくは横須賀ではないと言う可能性が高くなった。

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 ‐回想‐

 少し前の出来事、浩江ちゃんが突然現れた。

「一太郎ちゃん、お久しぶり。」

「浩江ちゃん、姿を見せるなんて珍しいじゃ無いですか、どうかされましたか?」

「例の子なんだけど、あの後色々と捜査して見たんだけどね、出生はまるで嘘だらけだしご家族もまるで見つからないのだけど・・・

 でもそれだけで、スパイとかそう言った可能性に関しては全く白なのよ・・・

 一太郎ちゃんがお付き合いしたいと言うなら止める筋合いは無いのだけど、私から見たら不気味過ぎるわ、本当に何者なのかしらね。」

「浩江ちゃん、君は小官を狙ってた訳では無いのか?

 お付き合いしたいなら止めないって、小官は諦めると言ってるのと一緒だろう?」

「あら、私は少し幼くて可愛らしかった一太郎ちゃんが好きな訳であって、20歳な修一が好きな訳じゃ無いの、それからこの辺には誤解が有ると思うけど、私は可愛い男の子が好きだけどそれをどうこうしようとかそう言う事は無いのよ、ずっと眺めて居るだけで良かった訳なの、だから一太郎ちゃんは私の望みを既に散々叶えてくれた大事な、いわば息子みたいなそんな感覚なのよ、だからこれからは貴方の力になる事にしたのよ。

 それに、もしも一太郎ちゃんが結婚して子供が生まれるとして、その子が男の子だったらどれ程可愛いかと思うとゾクゾクするわぁ。」

 やっぱり色んな意味で浩江ちゃんは変態だった。

 でも実害が無いタイプのようだからちょっと安心したが・・・

「浩江ちゃんってやっぱり変態だったんですね。」

 とつい言ってしまったが、浩江ちゃんは、「一太郎ちゃんにそうやって蔑まれると堪らないわぁ~。」

 と捨て台詞を履いて出て行ってしまった。

 オカマの男色家、それもショタコンで、その上にマゾだったのか・・・スゲー濃いキャラだな、それ・・・しかし見た目は無茶苦茶美女なんだよね、事実は小説より奇なりとは言うが、いやはや何と言って良いか。

 それにしても一体何者なのだろう、桜さん・・・

 もしかして、小官と同じような転生者?

 いやむしろタイムトラベラーのような者だったりするのだろうか・・・

 だが、一応スパイの目は無くなったので、これで安心して顔を合わせられるだろう。

 一度、思い切って突っ込んだ事を聞いて見よう。

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 だが彼女は未だ見つかって居ない、どうにも探し切れないと判断した小官は、浩江ちゃんの情報網に頼る事にした。

「いるんだろ?浩江ちゃん。」

「いつもそばに居るわよ。」

 声はするのだが相変わらず姿は見せない。

「なら話は早い、彼女を探して欲しい。」

「もう見つけてるわよ、驚かないでね、横浜海軍基地通用門前の繁華街に居るわ、どの店かまでは未だ掴めていないけど。」

 意外な事実だった、まさかこの兵科技研の所在地の埋め立て地への唯一の陸のゲートに成る横浜ゲート前とは・・・

 恐らく前の酒場のママさんは横須賀と横浜を勘違いして覚えて居たのだろう。

 しかし偶然にしては出来過ぎている、意外過ぎてこっちが見付け切れなかった位なんだから驚くしかない、もしもわざと横浜に来たのだとすれば彼女は小官の居場所をどうやって突き止めたのだろうか。

「ありがとう、後は自分で探してみるよ。」

 その夜から小官は毎晩横浜ゲート前に呑みに繰り出すのだった。

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