第40話 挟撃戦

           挟撃戦

 1894年 11月 兵科技研

「うう、寒い・・・今年は寒いとは言われて居たが、こうも昨年と違うとは思わんかった、やはりあれか、東京湾のど真ん中の海上に浮いたようなこの埋立島の立地のせいかな・・・」

 修一は余りの寒さに達磨ストーブの前で蹲って居た。

「大佐、寒いのは確かに寒いですが、後一歩まで来てる此方の研究に協力して下さいよ、リチウム電池の安全性を確保しかつ充電放電性能が確立すれば画期的に潜水艦の潜水時間が伸びるのですよね?」

「ああそうだ、すまんね、いかんせん寒がりでいかんな。」

 体を起こして研究室へと向かう途中、備品庫の前でふと思いつく。

 そうか、現状此処に有る物で作れるじゃないか、使い捨てカイロが。

 確か、不織布になってる高温耐熱布も有った筈だ。

「山田君、一寸待ってくれ、寒さ対策しようじゃ無いか。」

「寒さ対策ですか?」

「ああ、備品庫にちょっと寄ろうじゃ無いか。」

 薬品庫に入り、苦土蛭石紛と鉄粉、活性炭を一瓶づつ持って出る、その後、発明して来た物のサンプル等を置いてある倉庫へ向かい耐熱布を探す。

「ああ、有った有った。」

 それを持って作業台へ向かい、瞬間接着剤で生地を張り付け袋を作る、其処に鉄粉と活性炭、そして水分を良く吸わせた苦土蛭石紛を適量計って入れ、一方だけ開けてあった口も接着する、完成だ。

「大佐、今の鼻歌はなんて曲です?初めて聞いたのでありますが。」

 ウ、しまった、こんな短時間に鼻歌謳ってたか、ほとんど無意識だったのだが、ユー〇ンの、中央自動車道を走ってるあの歌だったのだがそんなもの説明しろと言われても中央自動車道からして未だ無いので説明が全く不可能な歌であった。

「ま、まぁ良いでは無いか、何となく口を突いただけだ、無意識だったから同じのを鼻歌で歌ってくれと言われても無理だぞ、そんな事よりホレ、完成だ。」

 それを山田少尉に投げ渡す、曲に関しては誤魔化せたと思う、多分・・・

「何です?これ。」

「良く振って、揉んで見たまえ。」

 言う通りに揉むと当然発熱が始まる。

「大佐、これって・・・」

「うむ、簡易使い捨て懐炉(カイロ)だ。

 意外と熱くなるから気を付けて使うように。」

「凄いっすよ、これを今朝鮮攻略してる部隊に届けたら大喜びされるんじゃ無いですか? あっちはここより寒いみたいですし。」

 それは気が付かなかった、そうだ、北海道と同じ位の緯度だったんだ。

 早速、製鉄でかなり業績を伸ばしている〇菱辺りにこの製法を教えて量産体制を構築するとしよう。

 ただ・・・何だか、またやらかした気がする・・・

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 済州島攻略部隊より、戦況報告。

『ワレ港湾ノ完全掌握ニ成功セシ、コレヨリ島内陸ヘノ進軍ヲ開始スルモノナリ。』

 作戦参謀本部でこの報告を聞きながら、我ら、作戦参謀本部付将校達は予定外の戦闘に困惑の色を隠せなかったのだ。

 済州島は、特に清国軍が進軍し占領されたと言う事は無かったのだが、寄港を拒否するだけで無く、再三の呼び掛けを無視した挙句攻撃をして来た為、清国へ寝返った朝鮮軍である事は明白であった、遵ってこの攻勢が決定し、儂は虎の子の混成第肆旅団と混成第伍旅団を派遣し、制圧を試みる事としたのである。

 我々でもなかなか想定できなかったこの状況を、例の益田大佐は少なくとも起こりうるとして想定して居たのだ。

 そんな参謀本部に、これからの朝鮮攻略に欠かせない新装備を齎した、参謀本部内ではあの悪名の高い神童、もとい問題児、益田大佐がやって来た。

 これまでさんざ頼って来たのに何故今更問題児扱いかと言うと、陛下のご意見番となってしまった彼が政府にも意見するようになってしまったからだ、此方が本来作戦を立てる側なのでやり難くて仕方が無いのだ。

 だが、彼がいなければ此処までの大勝続きとは行かなかったであろうから無碍にも出来ないのだ、ますます厄介な小僧になったものだ。

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「失礼致します、益田大佐、入ります。」

「何だね、会議中だと言うのに。」

「大変失礼を承知で伺いました、昨日非常に優秀な防寒対策の発明をしまして、是非採用して頂けないかと思いこうして伺った次第であります。」

「ほう、防寒対策か、朝鮮は日本よりも北にあるからな、確かに寒い、どのような物か持って来ておるのだろ?見せ給え。」

「は、ではこちらを。」

 使い捨て懐炉を参謀本部付将校の皆さんへ、一人一人お配りしてお渡しする。

「何だこの砂袋、馬鹿にしとるのかね?」

「砂袋では有りません、振って揉んで見て下さいませんか?」

「こうかね?」

 参謀将校達が挙って振りはじめ、揉むと、一斉に反応が始まり温まりだしたようだ。

「む?なんだ?なぜこんな物が発熱するのだ?」

「どうですか、温かいでしょう? 鉄と水を空気中の酸素と反応させて発熱して居るんですよ。」

「このような袋で危なくは無いのかね?」

「はい、この袋は耐熱性の布を張り合わせた物であります、その布に入れた鉄粉を活性炭と苦土蛭石に吸わせた水分を反応させ、布の通気性で入る酸素を取り入れる事で、鉄が水酸化第二鉄と言う物に変化する化学反応を利用する事で発熱するようにしてあります。

 通常ですと鉄はゆっくりと酸化するので発熱して居るのですが、その反応を水分と活性炭で加速、調節して居る事で適度な発熱を促し、しかも長時間温かいままに成ります。」

「ふむ、どのぐらい持続できるのかね?」

「そうですね、未だ一つ一つの出来で多少前後はしますが、少なくとも6時間程は。

 もっと徹底して最適解を導き出せば14時間程は発熱し続けます。」

「な、6時間から14時間だと?」

「はい、短すぎますか?」

「いや、十分だ、この大きさでこれだけ発熱して6時間もこのままとは。

 よし、早速量産出来る工場を抑えて生産せよ、早急に補給艦に積み込んで前線へ届けよ。」

 寒くて縮こまって居るのと寒さ知らずで動き回れるのとでは機動性が圧倒的に変わるのだ、流石参謀本部の将校は判ってらっしゃる。

「は、実はすでに材料は抑えて有ります。工場が手配できません。」

「何?もう?」

「はい、〇菱は鉄粉と苦土蛭石をいつでも提供出来るようです、苦土蛭石は鉄やアルミニウム、ニッケル等の廃棄物ですからね、ですが、工場に空きが有りません。

 そして〇井には活性炭と袋の材料、高温耐熱繊維は有るのですが、やはり工場が空いておりません。」

「そうか、ではどうするか・・・」

「提案なのですが、台湾の独立に手を貸す序でに、廃工場になって居る物を買い取って雇用を促しては如何でしょうか、手工業でも出来る単純作業ですし、人手だけあればいい筈、そして帝国軍が製品を買い上げてやれば経済活動も活性化する筈です、戦後の復興が必要な時期に成る今の台湾には願っても無い事業では無いですか?」

「ではその廃工場は何処の企業が買い上げるのかね?」

「委託するのも面倒なので、先程彼方に行ってデング熱の研究をして居る北里君に海軍の無線を使って連絡を致しました、小官が買い上げ、起業します。」

「君が? 確かに君は様々な特許のお陰で金は有るのだろう、しかし会社を動かすと言うのはそんな簡単な事では無かろう?」

「ええ、ですから信頼の出来る者を社長にして小官は当面、筆頭株主として指示だけ出す事にします。」

 父上の会社に就職して実力を付けている父の元書生の一人に小官は白羽の矢を立てていた。

 今は重役になって居る筈である。確か本来、次期社長に成る人物と記憶している、したがって彼ならば出来るだろうと信じている。

「成程、では早急に動いてくれ給え、軍の規約に海外での起業は禁止して居らんしな。

 まぁ、まさか起業するとは思わないと言うだけだが。」

「は、早速手配致します。」

 実の所、北里君が連絡をくれて9月の時点で台湾の廃工場は押さえてあったのだ、本当は自動車部品の工場でも作る積もりで押さえた物であったが、この機会にこのタイミングなら使わない手は無い。

 早速北里君に動いて貰い正規社員と工員を募集する事にして、連絡を入れた。

 やはり早い段階で無線機を優先して作って置いて良かったと思う、情報戦は今後の戦争で最も有効打を生み出す武器でも有るのだ。

 北里君に工員の募集を御願いすると、小官は父上の会社へ、ヘッドハンティングに、材料の輸送の依頼も兼ねて向かってバイクを走らせた。

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 同11月

 北里柴三郎はデング熱の菌を発見して居た。

 本来、史実では台湾には渡らず国内で研究して居た彼は8月に腺ペストを発見する筈だったのだが、此方に来ていた為に、腺ペストの発見は彼の代わりに野口英世が発見して居た、前話の修一が尋ねた時に籠って居たと言うあの時点に発見している。

 脱線したが、このデングを見付けた迄は良かったが、ちゃんとした施設が無い為にこれに対抗しうる薬品もしくはワクチンの開発には漕ぎ着けられそうにも無かった為、保存方法に頭を悩ませている所に修一からの連絡を受け、工員を募集するのを代理で請け負う代わりに電池で稼働する持ち運びが出来る冷蔵庫、もといクーラーボックスが作れないものかと修一に相談して居た。

 勿論頼まれればやれない事は無いと答えてしまうのが修一である、そしてやり過ぎてトンデモ無いオーパーツが出来る訳なのだが・・・

 かくして北里柴三郎は携帯冷蔵庫が確約出来たと喜び勇んで工員の募集を代行するのだった。

 次は何を見つけてやろうと企んで楽しそうにしながら・・・

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 -作者の独り言-

 釣り用のキャスター付きの少し大きめのクーラーボックス、あれに充電器を刺す穴が有って蓋部分の上半分がリチウムイオン電池になって居て内部が金属製で冷やす効果があり、本体のサイド付近に冷却用のファンが付いて居る。

 そんな感じの自立冷却型のクーラーボックス、近年では既に生産されて出回り始めているので知って居る人も少なくは無いのではないでしょうか?

 釣りをする作者としては有ったら嬉しいと思って居ました、だがその反面、船に乗せて潮風や波に晒して平気なのかと言う問題は果たしてクリア出来るかと言えば少々疑問に思って居ますが・・・

 多分そんな物が出来ちゃうと思って下さい。(汁

 現在あるものは、余りエネルギー効率が良くないようで稼働時間に難ありと言った感じです。

 デュアルカーボンバッテリーかリチウム空気バッテリーで稼働時間が今の10倍程に延びた物が出来るだけ早くお目見えして欲しいと思う今日この頃です。

 ん?デュアルカーボンバッテリーを知りません?

 リチウム空気も?

 では検索してみて下さい、夢のようなバッテリーは既に試作段階工程までは終わって居ます。

 私としては後5年かそこいらで急速に普及するのでは無いかと踏んで居ます。

 失礼、思い切り脱線しました、本編に戻します。

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 同11月

 新設したての第二潜水艦隊、旗艦碧龍 弐番艦紅龍 参番艦黒龍 肆番艦黄龍の四艦は、北海道宗谷岬の北、樺太とロシア本土の海峡で機雷を敷設して居た。

 それとほぼ同時期、第一潜水艦隊も同様に、ウラジオストク港及びナホトカ港を封鎖するべくして機雷をバラ撒いて居た。

 そして合衆国大艦隊は、函館港及び、青森港に分割し最終補給を行って居た。

 大日本帝国主力、第一及び第二艦隊はと言うと、そろそろ機雷除去が終わって出航出来るようになりそうな清国主力艦隊を港に居る内に沈めるべく、主要港を固め砲撃を開始して居た。

「喧嘩は先手必勝、先に撃って出て出鼻を挫くのが常套手段なのだ。」とは海軍大将閣下西郷従道の言葉である。

 流石に歴戦の英雄と言っても過言では無い人物、作戦の意図を読んで先手を打っている。

 第弐第参両艦隊は対馬に集結、補給艦隊より補給を行って居た。

 いよいよ朝鮮再上陸の大攻勢へ向けて強かに準備中であった。

 第壱、第弐揚陸艦隊及び第壱~第肆揚陸機動装甲車部隊、第壱~第陸重歩兵大隊は、来る上陸戦へ向けて英気を養うべく台湾で休暇を楽しんで居た。

 少々やんちゃな荒くれ者が多い重歩兵隊には特に台湾で傍若無人に振舞わないようにと言う注意こそ付くが、この寒い時期に暖かな台湾での休暇は羽を伸ばすには十分であろう。

 その上、この開放したばかりのこの地で金を使う事で、活性化も図れると言う物だ。

 支援物資も台湾へ続々と、英国より運び込まれていた。

 まぁ英国よりと言うよりも英国植民地よりと言った所では有るが・・・

 そして、日本との貿易でボーキサイトを売り、潤い始めていたベトナムが、本格的に清国と事を構えた友人へと、支援をと申し出てくれた、有り難い事だ。

 英国程では無いにしろ台湾へ支援物資が届いて居るのだった。

 帝国海軍はかなりの速度で戦艦を建造していた、修一でも舌を巻くほどの数の艦を、修一の描いたたった一組の設計図を基に、新装備こそ生み出しはしないが次から次へと新しい艦船を建造して居たのだ。

 しかもどんどん大型化を実現させて居た、まさに職人の意地と努力の賜物なのだろう。

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 -解説-

 第二次大戦の頃にはあの主力第一艦隊程の大艦隊を実現させて居た位なので元々の技術力はかなりのレベルなのが日本の造船業だ、要は元の設計図さえあれば大概は作れてしまう所には達して居たのであろう。

 実際にペリーの一行が種子島に立ち寄った時に技術力レベルを知りたかった彼らは、持って居たライフル銃を見せて同じ物を作らせようとすると、驚く事にライフリングすら刻んだ非常に再現力の高い物が完成してしまったと言うエピソードがある。

 日本の製鉄技術はその時点ですでに世界に追いついて居た、むしろもしかすると先んじて居たのかも知れない。

 かくして主人公益田修一の予測を上回る大型艦が修一の知らない間に建造されて居たのである。

 そしてそれは、日清戦争でも日露戦争でも無く、第一次大戦を予想を上回る速度で終結に導いてしまう事と成るのだがそれはもっと先のお話である。

 今はこの時系列の日清戦争を描いて行きたいと思う。

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 本来、史実では11月と言えば旅順港攻略戦が始まった頃だろうが、修一の戦術予報と戦略をかなり強く推して進めた現在、天津港、上海港の大型港湾が沈黙させられている清国には陸上戦で朝鮮を攻めるしか無かった為に、この戦闘は行われて居ない、帝国海軍の艦船の性能は旅順より出航出来る清国軍の艦船では歯が立つような物では無いので、万一この攻略戦が火蓋を切って居たとしても瞬時に決着が付く事だろう。

 むしろ旅順は持ちうる艦船を全て使い、天津及び上海の港口に張り巡らせられた機雷の除去に心血を注いで居た、そして駆逐艦と軽巡洋艦で構成された第壱、第弐 両雷撃艦隊の餌食となって居たのだ。

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 12月、済州島の全面降伏にはそう時間が掛からなかった。

 捕らえた兵士達は捕虜とはせず、陛下のご意向で、清国へと送り返す事になっている。(清国兵では無い筈だが清国に呼応して攻撃をして来た事と朝鮮も今では清国にほぼ制圧されて居た為母国に帰る場所は無いだろうと言う考え方からである。)

 こうして済州島は大日本帝国の領土となった、ここには当面補給基地が置かれる事と成る。

 朝鮮国王の閔妃とそのご一行は英国へと移送された後、この戦争の引き金となった事とその徒党を率いたとして罪に問われ処刑を待つ身となって居た。

 そして、12月より本格的な朝鮮半島の挟撃戦が始まるのだ。

 予定通り、米国艦隊が東側を、大日本帝国艦隊が西側を包囲、そして勧告を行った。

「こちらは大日本帝国及び合衆国連合艦隊である、不当な朝鮮国への侵略行為は認められない故、48時間以内に、朝鮮国民並びに戦闘の意志の無い者は投降せよ、48時間以内の名乗り出ない者は戦闘の意志ありとして艦砲射撃によりすべて焼き払う。

 繰り返す、48時間以内に、朝鮮国民並びに~(以下略)~。」

 これで大義名分も立とうと言う物だ。

 都市部への砲撃も、これならば住民を保護出来るので国際法に抵触しない筈だ。

 恐らくは忌々しき小僧、益田修一の入れ知恵だろうが、陛下も恐ろしい事を思い付いたものだ、これだとやり様によっては、応用次第で例えば北京市へ直接の砲撃が可能と言う事でもあるのだ。

 だがまぁ、圧倒的な軍事力が無ければ其処までに至る事も無いだろう、しかしそうなるとあの小僧には頭も上がらないので何ともし難い。

 前海軍大将閣下松岡殿はあの小僧をかなり高く評価して居て全面的に擁護して居たが、陸軍の擁護さえ無ければ何か濡れ衣でも着せて貶めてしまおうとも思って居るが、陸軍大将閣下だけで無く、どう言う訳か諜報部迄が益田を守っている、仕方ないので儂も表面上は益田を評価して居るがどうもいけ好かんのだ。

 仕方が無いので新兵器の開発に専念させて利用出来るだけ利用をさせて貰いたいと思っては居る。

 そしてこの悪魔的発想の都市砲撃は儂にとっても都合が良いのだ。

 48時間内に投降して来た者は、ほぼ皆無と言っても良かった。

 僅か数名の女子供だけであった。

 そしてついに、艦砲射撃の命を下す。

「第壱第弐、全艦に告ぐ、目標、朝鮮半島内陸部、艦砲射撃用意、てーっ!」

 内陸部から砲撃を加えて行き、沿岸方向へ追い詰めて行く、そして追い詰めた所を上陸部隊の装甲車と重歩兵の迫撃砲や無反動砲で一網打尽にしてしまう。

 通常ならば沿岸より内陸に向けて追い詰めると考える所だが、内陸に行く程標高が上がる事を考えると地の利は相手にある事に成るので、こちらの損耗を最小限に防ぐ為には最適な作戦だ、だがこれも、この時代にそぐわない異常な射程を持つこの艦砲が無ければ不可能の作戦とも言える。

 内陸部で上陸部隊を待ち構えているであろう清国部隊はまさか届くとは思って居ないであろうから、一掃する事は容易であろう。

 全艦上げての砲撃が始まった、半島が見る見るうちに砲火に晒されて行く、恐らくは反対側では合衆国海軍が同じように砲撃を開始して居る事だろう。

 この挟撃戦はただの挟撃では無い、中央に集まらせず、分断させて統率をさせない事で圧倒的な優位性を確立する物なのだ。

 まさに敵対する者には一切の容赦をしない作戦であった。

 益田の戦術だと言うが、被害を最小限にすると言うのは確かにそうなるのだろう、我が軍側は、と言う限定付きで有るが。

 それにあの益田の作り出したと言うあの火薬の威力も恐るべしだ、あのコルダイトとか言う火薬は従来の黒色火薬を大きく凌駕した爆発力だ、あの火薬を装薬として使っただけであれ程の飛距離が確立出来るとは。

 そして新たな提案があった、装薬をより威力のある物に出来ると言うのだ、トリプルベース火薬とか言って居ったな、早めに採用出来るようにしておこう、奴とは共闘関係で居るのがやはり望ましい。

 奴の知識はこの時代の物とは思えない、一体何者なのだろう・・・

 儂の娘と見合いをさせようとしたが未だ結婚は考えて居らんと突っぱねられてしまったからな、真相は判らぬ。

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 丸一日砲撃を続けた結果、それでも白旗は確認出来ない、後は揚陸部隊の出番である。念の為、守るように巡洋艦を配置して補給艦を陸地へ隣接、錨を降ろして停泊させる。揚陸艦隊の浅瀬に侵入出来る新設計の船に物資の運搬をさせつつ、様子を見る事に成る。

 しかし、逃げ惑った折にすっかり分断され統率を失っている清国陸軍など、敵では無かった。

 まさに蹂躙と言うべきであろう。

 こちら側にはほぼ被害が出ない内に、半島南端の挟撃戦が終了、朝鮮半島の南側2割ほどを、たったの一週間で制圧出来てしまった、艦隊はそのまま北上、同じように砲撃を開始するのだった。

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