第34話 航空機第壱号

          航空機第壱号

 1888年 6月

 そろそろ手狭で有るので、新たに兵科技研施設営舎を新設する事となった。

 兵科技研の敷地は、これ以上広くは出来なかったし、航空機を作る事に成ると滑走路を敷設する必要性から、ますます敷地が必要となるのだ。

 試験飛行も出来る程の広い敷地と滑走路・・・

 一件だけ、最高の場所に心当たりが有った、東京湾中央埋め立て島、ここだと金剛級戦艦の就航を目指す為、軍専用だが街が一つ丸々入る予定だった。

 そこに空港も作ってしまおうと言う事なのだ。

 10年計画の埋め立て島なので未だ面積は狭い物では有るが、埋め立てのペースも上がるだろうと言う事で、大橋も既に掛かって居た、何と言う急ピッチで建設したのだろうか、三年前に提案したと言うのにそのわずか三年で橋まで掛かるなんてね、技術力の向上力にしてもそうだが、この時代の人の行動力や人足のパワフルさに感服する次第である。

 脱線したが、この中央埋め立て島への空港設置案、所謂前世の羽田空港を、羽田埋め立て地を作らない代わりの東京湾中央埋め立て島に初めから設置してしまおうと言う構想である。

 厳密には違うがイメージ的にはウミホタル空港とでも言うか・・・

 まぁ、読者諸君に判りやすいように言うならばそんな雰囲気だろう。

 陸から離れた所を埋め立てると言う聊か難しい事をして居たので、この作業には概ね海軍がその労働力の大半を担って進められていたのだが、大橋の建設が終わったと言う事で陸軍も労力を増加して居るかと思いきや、大橋の陸地側が横浜軍港敷地内になる為にあまり労力を割けないと言う現状だったりするのはどれだけ仲が悪いんだ海軍と陸軍と思ったものである。

 そしてまだ、ようやく埋め立て地が島になって来たばかりだったので、港の設営を始めようかと言う所を強引に島中央部の開発もしてくれと言ってるのだから文句も出よう物なのだが、其処は陸軍の肝入りにして海軍にも一目置かれる存在の小官の頼みとあってどちらもやけに協力的だった。

 海軍的には、恐らく兵科技研自体を海軍に摂り込みたいと言う旨も有るのかも知れない。

 驚いた事に、11月には兵科技研の新営舎迄は完成したのだった。

 もう一か所、東京府側から、技術の発展は必要なので何れと言う事には成るが、海底トンネルで繋げたいと思う。

 今は軍施設以外はこの埋立島には存在しないので横浜軍港内からの大橋と湾内航路だけで十分だろう。

 12月に入り、何に使うんだと不思議そうに聞かれるも、滑走路と管制塔を建設し始めた。この管制塔に無線設備を設置してレーダーも作ってしまう気で居る。

 余談であるが、自衛隊が持って居る牽引移動が可能なレーダーに使われて居るヒューズには様々な物が有るのだが、そのうち一本、0.001mA(ミリアンペア)と言う、掌(てのひら)の静電気でもとんでしまうと言うレベルの物が有るらしいが、これをうっかりとばしてしまうと、メーカーに特殊発注で1週間待つか秋葉原のヒューズ専門店に行かねば他の何処にも無いらしいのだが、当然有事の際に使えないのは困るので後者が選択されるが、このヒューズをくれと店主に言うと、爆弾作るのか自衛官かどっちだ?と聞かれるので身分証は絶対に持参しないと売って貰えないらしい(笑)

 これは実際にこのヒューズを飛ばしてしまった前世の自衛隊に入った同級生から直接聞いた笑い話である。

 因みに金額も途轍もない物で、幹部候補生自衛官の初任給の2か月分がたった一本で吹っ飛んだらしい・・・笑い話なのに洒落に成らんとはどういった了見なのだろうか。

 それにしても掌の静電気で飛んでしまうヒューズもどうかと思うが、そんなヒューズを使って居るにもかかわらず、レーダーの内部構造上、そのヒューズの使用される部位とは別の基盤ではパリパリと大気中の水分で放電するような部位迄存在すると言うのだから恐れ入る。

 ----------------------------------------------------------

 1889年 2月

 本格的に兵科技研が移転する事と成ったのだが、今暫くは元の場所も残す方針だ。

 何故なら、継続してシリコンの精製を続けて純度を上げて行く為だ。

 後一歩なのだ、Pentium3相当のCPUをデザインするに堪えうる純度にまで持って行ければ一気に開発が加速出来る筈だからである。

 そんなさ中、久々に陸軍省から村田大佐共々呼び出しが来たので久々に新宿へ行って見ると、愉快な陸軍大将閣下が執務室のデスク下に隠れてるのが気配でバレバレだったので、先回りして、何してるんですか年甲斐も無くと突っ込みを入れると、バレた事でバツが悪そうに苦笑して居た。

 どうやら小官が中佐、大佐は准将へと昇格が決定したらしくその辞令であった。

 副官両名も少尉に昇進である。

 大佐が准将へと昇進した事で、兵科技研は所在を改め参謀本部直轄になった。

 今までが陸軍であるにも関わらず海軍の兵装も開発していたと言う妙な事態に陥って居た為、今までよりは動きやすく成る・・・だろうか、多少嫌な予感もある。

 陸軍の幹部将校からの苦言等は海軍大将閣下と陸軍大将閣下の両名が力技で押し返していたらしいのでご本人達も立場上も肩の荷が下りた事だろう。

 ----------------------------------------------------------

 同年4月

 小官のデザインで複葉機を設計した試作模型が完成した。

 水上機と陸上機のどちらにも換装出来るような設計だ。

 ボディー部分はアルミニウムを有意義に使う為にジュラルミンに加工して使う。

 劣化は他の金属よりは激しいが、硬度と加工のし易さではピカ一の合金、それがジュラルミンなのだ。

 早速だが、実機の骨組みの制作に取り掛かろうとしたのだが、骨組みに使う材質が思う様に決まらない、散々に悩んだ結果、そう言えば第2次大戦後半には木零戦なんてのが有ったなぁと思い直し、柔軟性も抜群で剛性もある程度確保出来る木で骨組みを作る事にした。

 3Dプリンターが欲しいとか言いたくなる位の複雑な、小官デザインの恐らく最少使用材料で有効的に強度を叩き出す骨組み展開図を片手に、部品を削り出しながら鼻歌を歌って居ると、山田少尉が声を掛けて来た。

「中佐殿、中佐殿が何かを作って居る時に良く歌って居られるその鼻歌は何という曲で有りますか? どうにも他で聞き覚えが無いのですが・・・」

 ああしまった、小官が今歌って居た鼻歌は、平成頃にやって居て映画にもなった変形ロボで宇宙で戦い歌って踊れるヒロイン二人と三角関係に成る例のアニメ、所謂超時空のフロンティアのアレの、途中から弱って行く方のヒロインの持ち歌だったのだ、返答に困る事を聞かれてしまった・・・

 まぁまだ鼻歌だったので歌詞迄は聞かれて居ないのがせめてもの救いだ。

「ああ、まぁ・・・あれだ、小官の創作と言うかな・・・」

「テンポが良くて何処かの外国曲なのかと思ってましたよ。」

 そりゃそうか、この時代の歌と言えば・・・ねぇ・・・

 全然自覚してない領域でもやらかしてたよ・・・

 何処かから大爆笑が聞こえてきた気がしたが・・・気のせいだろう。

 ----------------------------------------------------------

 同年4月

 自力で骨組みを作る気満々だったのだが、どうにもパーツ同士を組むとガタが出る、うまい具合に合わないのでどうした物かと思い、木工なので大工の棟梁を呼んで貰い、ご指導を御願いしようと言う事になった。

 すると、陸軍大将閣下がご自分の家を建てる時に呼んだと言う方がやって来た・・・のだが・・・京都から来たって、それもしかして宮大工じゃねぇの?

「あんさんか、有名な神童はんは。」

「はい、恐らく小官の事だと思います、益田中佐です、よろしくお願いします。」

「お若いのにもう中佐に成らはったんやねぇ、これは本物やなぁ。」

 京都弁で言われると前世の記憶からなんだか嫌味を言われている気がして成らないのだが、ここは素直にとっておこう。

「有難う御座います。」

 みっちり鍛えて貰う事にした小官であったが、前世では元々〇ンテル社在籍中はサーキットデザイナーをしていた位なので細かい作業や微妙な隙間に入る物を合わせて行く感性は有ったようだ、メキメキと腕を上げる小官を是非に弟子にしたいとまで言わしめる程に腕を上げて行ったのだった。

 ----------------------------------------------------------

 同年6月

 シリコンの純度が大方当初の目標までに到達して来た。

 早速、小官のデザインして居たPC初号機用のCPUのサーキットデザインを例の特大フィルム用カメラで撮影、フィルムを定着させて、出来上がった金属シリコン盤に転写する、ようやくCPUが完成するのだ、フフフフフフ。

 だがよくよく考えたらまだOSも作って居ないし使用言語も決めて居なかった。

 CPU自体の言語をどうするかの問題なのだが、取り敢えずは前世でも親しみのあったBlawnでプログラムを走らせられるようにして見る事にした。

 この言語ならばスッキリした美しいプログラムの羅列を生み出せるだろう。

 いずれにしても基盤やモニターなら何とでもなるが、HDD(ハードディスクドライブ)、もしくはSSD(ソリッドステートドライブ)当たりの大容量記憶媒体を完成させるのはもう少し後に成るだろう、その開発の為にもCPUが重要な役割をして居るのだ。

 ----------------------------------------------------------

 同年11月

 遂に試作PC初号機が完成、OSこそ無いがDOS機程度には仕上がった。

 試しに10桁の数字20組の計算式を入力して見ると、中々悪く無いスピードで計算をして行くでは無いか、良いね・・・とうとう小官は一からPCを作り上げたのだった。

 モニターはどうしたのかと言うと、余り作りたくは無かったが真空管、所謂ブラウン管式の物を間に合わせで開発していたのだった。

 ・・・待てよ?これって、すでに音声位は電波で飛ばしてるんだからもう少し頑張ればTV出来るんじゃね?

 早速TVカメラの開発も始めてしまう小官だった、ますます航空機の開発が滞りそうだが其処は本多少尉が頑張ってくれて居るので並行出来るだろうと踏んでいる。

 段々と、小官の開発の研究を代行させられる後輩も育って来て居るなぁと言う感じの昨今、化学研究班から、とんでもない報告が上がって来た。

 なんでも殺虫剤を開発して居た所、思わぬ毒ガスが出来てしまったと言う、研究者の一人が少しだけだが吸い込んでしまい、倒れたと言うのだ。

 急いでその場に赴くと、強烈な塩素臭のような異臭、直ぐに窓を開けさせ、換気すると共に倒れた兵科技研化学研究班士を引き釣り出す。

 塩素臭がすると言う事は砒素かサリンであろうが、毒ガスと言う証言が有るし、VXやマスタードガスのような有色機体では無さそうである以上はサリンだろう。

 偶然にもサリンを開発してしまったらしい。

 すぐさま化学式を書き出し、計算、大急ぎで中和剤を精製しては見たが、この被害者はもう死なずとも植物状態になってしまうだろう、小官が呼ばれた時点ですでに遅いと思われる。

 だが、この失敗が毒ガスに対する対抗策であるガスマスクの開発に繋がったのだ。

 中和剤の入ったフィルターを交換する事で様々な毒ガスに対抗できるようになるだろう。

 むしろ被害者が一人で良かったと思ってしまったのだが、この時代に小官も聊か毒されて来たなぁと言う気がして少し凹んだ。

 ----------------------------------------------------------

 1890年9月

 とうとう骨組みが完成、ここにジュラルミンのボディーを張り付けて行けば良いのだが、未だ複葉機の上の羽が出来て居なかった。

 PCでシミュレーションしつつ考え抜いた結果、ハンググライダーと同じアルミ製のパイプで作った骨組みにジュラルミンを張って行く事にした。

 因みにPCの方も、未だサイズがLPレコードよりデカい直径には成るがHDDと言っても過言では無い磁気ディスクが完成、少しデカいがフルタワーケースに入らない事は無いので採用したお陰でOSの開発にも携れるようになりつつあった。

 お陰でこの骨組みの方の演算も出来るようには徐々にだがなって来た。

 話は戻ってフレームであるが、当然骨組みの殆どは木製では有るがエンジンルームの内部は木に出来うる訳も無いのでそこには酸化アルミを使う事にする。

 取り敢えず、エンジンは試作の水平対向6気筒5980㏄空冷型に2枚ペラを組み合わせて試運転済み。

 初めだから車輪は収納式にしない方向で考えて居る。

 この試作機がうまく飛んでくれた暁には、骨組みを量産出来る様に型を取って酸化アルミ製中空フレームを考えて居る。

 型を取る為にあえて木製でフレームを作れば、もしうまく行かなかった時にも作り変えられる可能性が有る、だからこそ手間暇かけて宮大工の技術を学んで迄こんな遠回りをしたのだ。

 後の問題は旋回と上昇下降の為の、エルロン、ラダー等の制作となる。

 頑丈で軽く、硬すぎず柔らかすぎない関節と言うか蝶番と言うか、可動部を作る必要性が有る。

 ----------------------------------------------------------

 10月

 とうとう、旋回の為の機能も完成したのだ、このおかげで遂に機体が仕上がったのだ。

 操縦桿に付いてだが、これは実の所、一本のグリップを使う方式は小官的には一寸あまり良いとは思えなかったので、バイクの様な両手で扱うハンドル式にして見た。

 スロットルも勿論バイクの様に右手をひねると開くようにして見た。

 旅客機のハンドル型操縦桿が横一文字になってスロットルが一緒に付いた感じである。

 テストパイロットには、乗り物大好きな種田伍長改め、種田軍曹が自ら進んで買って出たのだ。

 念の為、彼にはパラシュートを背負わせる事にした。

 そして小官が木で作った趣味レーション用の教習器でさんざん操作法を叩き込んだ種田軍曹は、とうとう空に舞い上がったのだった。

 長かった、ここまで来るのにどれだけの失敗を重ねたか、どれだけの試作を重ねた事か。

 旋回をする壱号機を見上げながら、隣に居た本多博士、もとい本多少尉と共に諸手を挙げて大喜びをした。

 ----------------------------------------------------------

 1891年 1月

 ハワイ王国はカラカウア王が崩御、その妹のリリウオカラニが女王として即位した。

 史実では、2年後に合衆国軍に包囲され王制を捨てる事となるのだが、今このハワイ国に最も多い軍隊は帝国軍である。

 恐らくはカラカウア王の妹君であるリリウオカラニ女王は我々帝国軍が守る事となるだろう、合衆国と言えど今の帝国軍の軍事力には物量以外に対抗策は無いがその物量がこの島には無いのだから、合衆国としても手出しはしづらいと思われる。

 実際、リリウオカラニ女王は、小官の齎した薬品のお陰で多くの自国民が救われた事を知って居て現在絶大な信頼を帝国軍に寄せて居るのだった。

 ハワイの王政はもうしばらく続けて頂きたいものである。

 ----------------------------------------------------------1891年 5月

 PCのお陰で演算が楽になり、エルロン、ラダー、エレベーター等の精度が上がり、今まで存在した様々な問題点が試験飛行を終える度に改善して行く、良い傾向である。

 未だ爆弾やガトリング砲等の武器を積める程では無いので、実用性はあまり無いが、制空権が有るだけでも戦争は有利に進むはずなのだ、が・・・この時世の航空機に武器等必要在りません、偉い人にはそれが解らんのですよ、等と何処かで聞いた風なセリフをまさか自分が吐く事に成るとは思っても居なかったのだが、要するに兵器としての有用性を認めては貰えなかった・・・

 実績を叩き出すしかないと言う事か・・・しかしせめて戦場で実績をとなると、やはり最低でも90㎏爆弾位積めるようにしたい。

 更なる開発を必要とする事だろう。

 ----------------------------------------------------------

 時は少し遡って1889年11月

 二宮忠八は、風に乗って滑空するカラスの姿を眺めて居て飛行機を開発する事に行き付いて居た、しかしまだ彼は兵科技研の存在を知らなかった。

 地方の部隊とはいえ陸軍病院勤務だったくせに結構すっとこどっこいだよね、この人・・・だが得てして天才と言われる人は何処かヌけて居たりするので恐らくはこの方も天才の部類だったのだろう。

 そして1891年4月

 小官の模型に数年程遅れて、ゴム紐を動力にして4枚羽プロペラで飛ぶ模型の飛行機を完成させた。

 それを上官に得意げに見せると、そのような事をしたかったのならば兵科技研へ行けば良かったのでは無いかと一蹴され、初めて兵科技研成る帝国軍機関の存在を知るのだった(今更って遅いよねw)

 同年6月

 二宮忠八は、彼の上官の推薦状を胸に、模型を携えて滝野川の兵科技研へとやって来た。

「香川は丸亀歩兵第12連隊第1大隊医療小隊より、本日付で此方へ配属となります、二宮忠八軍曹で有ります。」

 滝乃川の警備兵が間髪入れずに「着任されると言う報告は受けているが、貴官の所属先は此方では無い。」

「え?」

「貴官は之より横浜軍港へと移動されたし、其方の警備兵に通達がされて居る筈なのでそこから更に船で移動する事となる。」

「小官の配属先は兵科技研で有ります、海軍施設へは用は有りません。」

 そんなやり取りをして居る所に、小官が用事で滝野川に足を運んだのだった。

 余りにも時間が掛かって居たので、車から降りて「貴官達は何をやって居るのかね?」

 と尋ねると、二宮忠八と名前を聞いてはっと思い出した、そうだ、複葉機〔からす〕の発案者だ。

「君が今日着任する予定の?」

「何で子供が?」

 一寸ムカッと来たが、小官の事を知らないらしいな・・・ある意味一寸新鮮でも有った。

「こら!貴様中佐殿に向かって何たる口を利くか!」

 速攻で警備兵に取り押さえられる。

「ああまぁまぁ、良いから放してやりなさい。」

 警備兵が手を離すと、やっと気づいたらしい。

「ああ、貴方がかの万能薬を作った方でしたか、失礼しました。」

 何だ、医療小隊に居たくらいだし少しは知ってたんじゃ無いか・・・

「あの、聞いても宜しいでしょうか?」

「何かね?」

「この警備兵に海軍の基地へ行けと言われてしまって、それで今諍いに・・・」

「ああ、成程、だが間違って居ないぞ、ここは兵科技研の一部の機能しか持たない、元は本部であったがね。」

「で、どうして海軍なんですか?」

「何も聞いて居ないのかね?君は・・・

 兵科技研は今、隔離された空間に存在するのだよ。

 そこへ行くには横須賀軍港を経由せねば成らんのだ。」

「すみません、小官の発明品をお見せ出来ると思い浮かれて上官の話を聞いて居りませんでした。」

 やっぱりかよコイツは・・・

 何かに没頭すると周りの物音や声が一切聴こえなくなるタイプらしいな・・・まぁ小官にもそう言う部分が割とあると自負して居るのであまり人の事は言えんが・・・

 仕方が無いので小官の公用車で連れて行く事となったのだが・・・

「見て下さい!小官の作った模型で有ります!」

 と言って取り出したのは模型の飛行機だった・・・のだけどね、君、本当に周りも見えなくなるタイプだね・・・

 今は滝野川の兵科技研の小官の執務室、思いっきり小官の作った模型が展示して有る所で今の発言はどうなのだ・・・

 せめて気が付いてくれよな・・・

「君、その前に周りを良く見渡したまえよ。」

 その言葉に辺りを見渡す二宮忠八。

 次の瞬間、愕然として膝を落とし、落胆した表情で自分で持ち込んだ模型を落とす・・・

 こらこら、そんなに落胆すんなよ、あんたも兵科技研に必要なんだってばさぁ・・・

 シリコンの純度の上がり具合を確認した後、目に涙を浮かべる二宮軍曹を車に乗せ、兵科技研新舎へと向かうのだった・・・

 ----------------------------------------------------------

 翌日、二宮軍曹の歓迎を兼ねて、ようやく実用に耐えうるようになったばかりの壱号機を飛ばす事となった。

 余りの事に驚きを隠せない二宮軍曹は、感動の涙を流しつつ茫然自失で立ちすくんで居た、良く泣く奴であるな・・・

 って言うか一寸刺激が強すぎたかな・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る