第32話 追う者、追われる者

         追う者、追われる者

 海軍大将閣下、その正体は、死んだ事になって居る坂本龍馬であり、中身はもっと驚きの未来人で、その上さらに天照大神の眷属であったそうな。

 神が眷属を持つ事自体初耳であったが、本人の口から小官が聞いたのだから恐らく本当なのだろう、あの暑苦しい性格も、やたら何処に居ても彼が居るだけで異様に天気が良かった事も含めてだ・・・

 そして彼は、最後の最後まで同じ未来人の小官を振り回してくれた・・・

 本当に・・・最後の最後まで・・・

 病院で、あんな話をした後に突然意識を失って、逝ってしまったかと驚かされたが、寝ただけだった、安心して帰れば今度は、突然の悲報・・・本当に最後まで、小官を振り回した・・・

 なんであの時、居てやれなかったのだろう。

 だが彼は直ぐに戻ると言って居た・・・きっと、本当に直ぐ戻って来る、そんな気がするのは事実だ、なんせ自分で天照の眷属だと豪語するジジイだった。

 様々な思いを巡らせつつ、今小官は海軍大将閣下の葬儀に出席している。

 悲しい事に、彼は元坂本龍馬であったが為に、死んだ事になって居る人物の体を使って居ただけに、生きて居てはいけない存在だったのだろう、晩年は孤独だったようだ。

 きっと彼は、そんな身の上だったからこそ小官に親しみを感じて、かまって下さったのだろう。

 本当に、最後に潜水艦の完成が間に合って良かったと思う・・・

 棺の小窓を開きお顔を拝見させて頂くと、何時もの、小官と行動を共にして居る時の満足げな笑顔を浮かべて居た。

 今にも、あの豪快な笑い声が聞こえて来そうだ。

 いつ彼が帰って来ても良いように、彼との約束を守り通そう。

 いつ彼が帰って来ても良いように、自分の信念を貫き、彼に再び会えた時に、恥ずかしく無いような自分で居たいと思った。

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 葬儀が終わった後、彼の後を任せられた新海軍大将閣下より声を掛けられた。

「君が益田君だな?噂はかねがね聞いておるよ、今より少々時間は有るかね?」

「は、小官が益田一太郎陸軍少佐兼兵科技研副所長で有ります。

 後は宿舎に帰るだけでしたので時間でしたら十分に御座います。」

「そうか、では話が有る、付いて参れ。

 実はな、執務室に遺書が置かれて居ったのだ、それも貴官宛にな。」

「小官宛にで有りますか、わざわざ小官宛とは・・・」

「勿論、中身は見て居ない、恐らく絶大な信頼をして居た貴官にしか頼めない願い事でも書かれて居るのだろうからな、そのままの状態で持って参ったのだが、どうも車に置き忘れてしまったようなのだ。」

 何だか変なフラグが立った気が・・・

 閣下の車に到着したが、直ぐに手紙は見つかった。

「おお有った有った、やはりここであったか、すまんかったな。」

 手紙を渡されたのだが、開封した後があった・・・

「おや?儂は開けて居らんぞ?おかしいな・・・」

 すると、車の向うの方から、何だか聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 野太い声だ。

「おらキリキリ歩きなさい、あんた人の車荒らすなんてどこのインチキ外人よ!」

 あのオカマだ、小官のストーカー・・・

 彼(彼女?)が此方に気付いた。

「あら~!一太郎ちゃ~ん!あたしよあたし~!今そこで車を荒らしてた変な外人見つけてタコ殴りにしてた所なのよ~!」

 さっきまでと声がまるで違うし!

 なんと恐ろしい事だ・・・素手でここまでの状態って、相手にしたく無いが敵にも回したくないな、こいつ・・・

「これは浩枝(ひろえ)さんでは無いですか、丁度こちらの大将閣下の車が車上荒らしに有ったようだと話して居た所です、浩枝さんが捕まえて下さったのですね、有難う御座います。」

 本当は浩司(ひろし)と言うらしいのだが、こう呼ばないと頗る機嫌が悪くなるらしい、井上准尉からそう聞いて居たので実践する。

「そうなの、丁度良かったわ、この子が犯人よ。」

 と、身柄を引き渡される。

 凄いな、見た所かなり屈強な身体付きをした大男なのだが、ここ迄ボッコボコに出来る物なのだろうか・・・マジ恐るべしオカマである。

「良く取り押さえられましたね、かなり強そうなのに、こいつ。」

「卑怯な事に私に拳銃突きつけて脅して来たからちょっと切れちゃった、うふ。」

「ふて」言うな「うふ」て! ムッチャこえぇわ!

 と言うか、小官相手に話す時は完璧に女性と区別の付かん声を出している、むちゃ器用だな、こいつ・・・

 このオカマ、井上准尉が騙された程キレイなのだが、なんと恐ろしい特技を持った事であろう、拳銃相手に無傷で相手ボコボコって、柔術の免許皆伝でもそうそう出来んぞ。

 拳銃を見ても何処の物か判らない様になって居る。

 恐らく諜報機関専用に作られた改造物なのだろう。

 見た目から判断して小官がフランス語で話し掛けると、一瞬ビクッと体が反応した、間違い無くフランス諜報部だな。

「すっごーい、流石私の見染めた美少年だわ、外国語も喋れちゃうのね~。」

 見染めないで欲しいのだけど・・・

「益田君、この女性は何者かね?こんな大男を取り押さえて引きずって来るなどそうそう出来る事では無いぞ。」

「あら、此方の渋いおじさまはどなた?」

「大将閣下、紹介いたします、以前、チンピラに追われて居た所を小官共がお助けした、服部浩江殿で有ります、浩江さん、此方は現海軍大将閣下です。 浩枝さんの捕まえたその外国人が荒らして居た車の持ち主です。」

「服部だと?まさかとは思うが・・・伊賀の忍びの末裔かね?」

「あらバレちゃった? そうですわ、おじさま。」

 道理で強い訳だ・・・それじゃあ何でチンピラに追いかけられたりしてたのだろう・・・ 小官に近づく為だったらすごく嫌だな・・・

「そう言えば、呉に行った時にやたらと複数の気配に見られてる感が有ったのが帰る頃には全くそんな事は無くなって居たが・・・もしやあれは浩江さんが? あなたなら小官に気付かれずに付けて来れますよね?」

「いやんバレちゃった~、変な外国人の筋肉達が付けてたから私の一太郎ちゃんは渡す訳に行かないと思って始末しちゃった。」

 し・・・始末って・・・

 しかし、もしかしたら使い方次第だがとんでもない拾い物をしたかも知れない・・・

 まさか本当に忍びの末裔なんてのが居るとは思って居なかったが、居るんだね・・・

 あんな忍術とかが実際に有るとは思わないが、実際にスパイ活動は昔からして来た一族なのだろうからその技と格闘術は恐らく本物であろうと思われる。

 小官の影として上手く扱えないだろうか・・・と思って居ると。

「ふむ、君、丁度良いな、儂の権限で捻じ込んでやるから、益田君の護衛兼情報収集役として働かんかね? 彼は世界的にも有名人だからね、狙われとるのだよ。」

 はぁ? いきなりっすか?

「あら素敵なおじさま、願っても無いですわ、これで堂々と一太郎ちゃんを追い回せるわ。

 これから宜しくね、一太郎ちゃん、私の事は浩江ちゃんって呼んで頂戴。」

 ひぃっ!止めてくれ~・・・追い回すって何ですかぁ?

 数か月後、参謀本部直轄の諜報部が設立したらしいのだが、小官にも本当かどうか判らないのだった。

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 後日、取り調べた結果、やはりフランス諜報員であった事が判明、そんな簡単に口を割る筈は無いので相当な拷問をしたのでは無いだろうか、等と思って居たが、早速軍に取り立てられた浩江ちゃんが裸に剥いた諜報員を一晩中うっとりと見つめ続けていただけらしい・・・恐るべしオカマ、一見美女にしか見えない顔にだんだん髭が生えて来るのを見せつけられたからなのか、両肩はずされた上に野太い声で罵倒されながらマウントでボコボコにされた記憶がそうさせたのかは判らないがどっちにしてもお断りしたい所である。

 こうして浩江ちゃんは小官付きの護衛兼情報官としていきなり少尉の階級を得たのだった、常にどっかでオカマに観察されてるとなるとちょっと怖い・・・

 でももしかして、もっと居るのかな、と思い聞いて見る事にした。

「浩江ちゃん居る?」

「ここに居るわよん。」

 何故か座って居るソファーから声がする、何処に居るんだよ恐ろしい・・・

「浩江ちゃんの他に、忍びの末裔って居るのかなーって思って。」

「未だいっぱい居るわよ、今は流派問わずに、隠里に引っ込んじゃったけどね、幕府が無くなった時に職が無くなったと思って皆農業とか漁業に従事してるはず。」

 そうだったのか・・・

「もしも集めて欲しいって言ったら、如何かな?」

「そうね、明治政府が仕事をくれるのなら集まるんじゃない?」

 それは凄いね、諜報部マジで出来るじゃん。

「そうなんだ、そしたら、天皇陛下に提案だけはして見ようかな、諜報部作って欲しいって。」

「ホント?皆喜ぶわよ、きっと。」

 直後、浩江ちゃんの気配が消えたのだった、すげーな、この気配消す技術・・・

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