第27話 バカンス?

          バカンス?

 井上准尉の発明のお陰か、それとも何かの思惑があるのか、小官の夏休みは申請したのは予定していた一週間前で有ったが、休暇自体が三週間程遅れる事となった、休暇再申請する羽目には成ったが、折角兵科技研から誕生した次世代発明家の初の発明品、手伝ってやらん訳にはいかないだろうし、小官のバカンスの荷物にも入れさせて頂こうと思って居るので結果オーライでもあった。

 何でそんな大荷物をと思うだろうが、友好国のハワイ王国に2月に到着してる予定の第一次移民に抽選で当たり、移民したばかりの小官の父の抱えていた書生が、何を始めたら良いかと悩んで居るのだからその手助けにと思って居るのだ。

 ハワイは観光で飯が食えるのだから観光の先駆けになって貰おうと思って居る。

 その目玉として暑いハワイでアイスクリームが食べられたら最高なんじゃ無いかと言う趣旨でも有った。

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 一週間兵科技研に詰めて、シリコンの純度を上げたり各素材の配合量を調節し、現時点での最適解を導き出し、実用に耐えうる物がとうとう出来た、世界初の太陽電池、完成である。

 この太陽電池を土産にしたいのだ、何故ならば、ハワイにはまだ電力インフラがほぼ皆無であるからだ。

 太陽電池が実用に耐えうるレベルにまで確立した事で、井上准尉も発明家として名を連ねる事となるだろう。

 早速特許の申請を行うのだった。

 序でに小官の設計したオートバイも特許申請をした、8月20日だった、ダイムラーが特許申請をする実に9日前、何となくしか記憶して居なかったが間に合ったらしい。

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「では、小官はこれより休暇でハワイ王国に居る知人に会いに行く、海軍の船で載せて貰って行くので何か不測の事態には連絡が取れるようにしてあるのでよろしく。」

「はい、気を付けて行って来て下さい、今回は本当にお世話様でした。」

 井上准尉が感謝の意を言葉にした。

「いやいや、あの発明は君の特許だ、むしろ堂々と胸を張りたまえ、努力は裏切らないと言う良いお手本になったと誇っていいよ。」

「そうだぞ、君は本当にほんの僅かな反応を見逃さなかったから偶然発電してる事に気が付いたのだ、それだけ真剣に研究して居たからこそ見逃さなかったのだ、もっと誇りたまえ。」村田大佐も褒めていた。

「では、大佐、小官の居ない間もよろしくお願いします。」

「ああ、楽しんできたまえ。」

 海軍の寄越した迎えの車に乗り込んで出発したのだった。

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 で?何でこうなったのだ? 何だってこんな酷い揺れなのだ、何だって台風の真っただ中を進んでるのだこの船は?

 思いっ切り酔ってしまったでは無いか・・・

 体がまだ成長期の不安定な時期なので三半規管もまだ未成熟なのだろうけども、それにしても戦闘用の艦船と言う物はこれ程までに揺れない物なのかと感心して居たばかりだったと言うのに、マジで気持ちが悪いぞ、さっきも吐いてしまったがもう胃液も出ないと言うのに気持ちが悪い、誰か助けてくれ~・・・

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 胃袋が出るんじゃ無いかと言う程吐いた後、取り敢えずは寝たのだが、目が覚めると揺れは収まっており、どうやら台風は抜けたようであった。

 ホッとして甲板へ出てみると、素晴らしい光景が広がっていた。

 これだ、小官はこんな美しい惑星ほしを大戦や大量殺りく兵器から守るのだ、その為に俺はこの時代逆行転生を受け入れたのだ、と改めて気を引き締めたのであった。

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 暫くすると警報が鳴りだした。

「何があった?」

 小官の世話役として付いた者に問うと、何でも遠巻きに後を付いて来ていたフランスの艦艇と思わしき船が接近して来たらしい。

 恐らくは清仏戦争に入れた横やりに対する逆恨みだろう。

 だが、此方から発砲する訳にも行かず第2警戒態勢止まりなのだとか。

 しかし一体どの辺から後を付けて居たのだろう、艦橋の艦長以下総舵手達は知って居たのだろうけども、一応客なのだから小官にも知る権利はあると思うのだがね・・・

 そのままやり過ごせれば良いのだろうが、どうやらお相手は毛頭見逃す気が無いようである。

 だが、むしろこちらの艦艇の速度は折り紙付き、相手も攻撃をこちらからして来ないのを知って居てわざと挑発して居るのだろう、ここは最大船速で撒いて貰いたい所だ。

 艦橋へ上がって、小官設計の船の最大船速が見たいのであれを撒いて見て欲しいと言うと、小官が来るのを待って居られたらしい、それは失礼しました、船酔いしてたのでねぇ・・・

 相手の艦隊は4隻居たのだが、こちらは最大船速にすると共に,

 こちら側の一隻の随伴駆逐艦が艦隊を離脱するのが見えた。

 何をするのかと館長に聞くと、牽制しに行くらしいのだが、帝国海軍の駆逐艦は4隻程度の他国戦艦であれば一隻で相手しても負けないらしい・・・なんつう高性能、我ながら恐ろしい物を作り出してしまった気がする。

 駆逐艦であれば最大船速30ノット程もの速度で移動出来るらしい、史実の二次大戦中の重巡より速いでは無いか。

 そんな速度で移動されたらアームストロング砲位しか装備して居ない艦ではいくら撃っても当てられる道理が無い。

 その上離脱した艦は、雷撃特化型の艦艇で、魚雷の他に機雷設置も担うまさに動き回る弾薬庫なのだそうだ。

 因みに最大船速で敵艦を撒きに出たこちらの艦艇の速度は、申し分無い物だった。

 恐らくは、8割程度の速度で24ノット、第二次大戦頃の戦艦の3分の1程度のサイズとは言え、最速艦でも18ノットしか出なかった本来の1890年代の艦船から見積もっても十分過ぎる速度は出て居たのだ。

 しかもこちらの船は大きさでも他国のそれを大きく凌ぐのだから。

 大型の8000馬力ディーゼルエンジン、良くぞこんなオーバーテクノロジー的な小官の設計の艦船を再現してくれたものだ。

 暫く最大船速で走って居たのだが、気が付くと足止めの為に先程離脱した船がもう船団の最後尾に追いついていた。

 流石の速度である。

 追尾していたフランス船はもう追いつく事は出来ないだろう。

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 ようやくハワイ諸島が見えて来た、流石に船旅は、これ程の速度で走る船でも時間が掛かるのだなと実感したものであった。

 真珠湾に入湾、無事入港も果たした、小官の少々大きな荷物を海軍の世話係が、乗船させたトラックの運転を買って出てくれたお陰で運ぶ手段も出来た。

 小官のこのハワイに来た意味は他にも実はあり、友好国として移民の受け入れを快諾してくれたハワイ国王に明治天皇より勲一等の授与を代行して欲しいとの申し出が有り、小官が使者として赴く羽目になって居たのだがそれこそ海軍大将閣下とか、もっと他にも適任者が居たのでは無いかと思うのだが、明治天皇がどうしても小官にと言うので仕方なく引き受ける事となって居たのだ。

 序でと言っては何だが、観光関連の仕事をするのであれば国外から来訪する者を出迎える一番の施設の近くが都合が良い、当面はこの真珠湾付近が商売をするには一番要になるであろうと思った小官は、港付近のウォーターフロントの土地を用意しようと思い、ついでに一角譲って頂こうと思って居た。

 取り敢えず、フェアー・アメリカン号のアイザック・デービスとエレアノラ号のジョン・ヤングの二名の合衆国人が此方の宮廷に使えて居る筈なので英語で会話は成立させる事が出来る筈である、言語の心配は無いだろう。

 早速、ホノルルに有るイオラニ宮廷へと赴く事にした。

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 宮廷に付くと、外国人と見るや、中々に流暢な英語で声を掛けられた。

「ここはイオラニ宮廷である、何者であるか、要件を述べよ。」

「小官は日本より、現在多忙に付き自ら赴けない陛下の使者としての命を受け、カ・メハメハ大王に移民受け入れの感謝の印として勲章をお届けに参った者、陸軍少佐の益田一太郎であります。

 お目通りを願いたく参上した次第であります、献上品として小官の発明であるスルファニルアミド、ペニシリンと言う2種類の万能薬と言っても良い病理薬と、その製法。

 更には電力インフラを推進すべく、発電施設の有用性を説いた論文及び発電機の見本品をお持ちしました。」

 スルファニルアミドとペニシリン、病気の治療薬は何処の国でも喉から手が出るほど欲しい物である。

 しかも今回は製法も献上なので小官への特許使用料は発生しない権利特典付きだ。

 何なら製薬会社と工場も建てても良いと思って居る、これだけの条件で謁見を許されない様な器の小さい王では無い事は良く知っている。

 実際に今ここで顧問として宮仕している二人のアメリカ人は、単独行動が目につき始めて居て一歩間違えたら死罪でも可笑しくは無かった、だがそれを咎める事も無かったようだ。

 もっともそんな二名を宮廷近衛騎士達は信用をして居なかったようである。

 しかし史実によればその後、この王の死後、次代王に更なる信用を付けて置き、その王の死に伴い、王位継承権を持つ姫君を誑し込んでシレッとこの王国を乗っ取るらしいが、そこはそうさせてはいけない、その為にも小官が送り込まれたと言っても過言では無かった。

「これは失礼した、日本国からの使者の方でありましたか、少々お待ちください、取り次いでまいります。」

 と一人がいそいそと走って宮廷内へと消えて行って5分程、小走りで戻って来る、いくら何でも早すぎると思ったのだが、あっさりと謁見の許可が下りたらしい、何つうフランクな国王だ・・・

 ってあれ?どこかに似たようなノリのお方が居た気がするが?

 国王とかってこの位いい加減な方が良いのかね?

 そのまま宮廷内へと案内される。

 本当にこんなアッサリで良いのか?と思ったのだが、どうやら小官の噂が王の耳に入って居た模様。

 そんなに有名なのか?小官って・・・

 まぁ色々やらかしちゃったからなぁ・・・

 カ・メハメハ大王は明治天皇に一度お会いしたかったと少々残念そうではあったが、それでも噂の神童に会えたと大層喜んで下さった。

 勲章も小官に付けてくれと言われたのでお付けして差し上げた程だった。

 わざわざ赴いてくれた褒美をやるから何でも言って見ろと言われたので、丁度良いのでパールハーバー前の土地を、一角で良いので移民に譲ってほしいと申し出る。

 すると、移民者にで良いのかと言われたが、小官は知人が移民者に居るので何時でも遊びに来られるのでその者達の働く場所を宛がって欲しいだけと答えると、気に入ったと申され、パールハーバー付近の土地一角の他に高台の一角に家を建ててやるから何時でも来いと言われてしまった・・・

 なんだか知らんが小官は自分の家も建てる前から別荘を手に入れてしまったらしい・・・しかもハワイに・・・。

 そして陛下よりの書状と一緒に、小官よりの助言で、アメリカ人を排除した方が良いという事とその理由を書いた親書を手渡し、王宮を後にした。

 まぁ、小官からの助言文はさすがに未来から来たからこうなると知ってるとは言えないので強引にねじ込んだ理由なのだが。

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 日本人居住区に行くと、其処は割とパールハーバーから近かったので都合が良かった。

 父の書生はそこでどんな仕事をすれば良いか考える事に心血を注いで居たらしい、まぁ時のハワイでは何も無かったからな・・・小官が観光をと言うと喜んで飛びついて来たのだった。

 大王より賜った土地へと連れて行き、そこで太陽光発電設備一式と厨房設備、アイスクリーム製造機一式とレシピ、そして、実演もやってみる事にした。

 これで電力インフラが出来る以前であっても、このハワイの赤道直下の太陽光である、小規模なアイスクリーム小屋程度なら十分な発電量が期待出来る。

 アイスクリームは全員に大好評で、当面は合衆国海軍と日本海軍の兵隊相手に商売が出来そうだと、集まった移民者全員の合意が出た。

 後は、日本人お得意の農業で生計を立てる方向になったのだが、パイナップルは育て始めてから収穫までに3~5年掛かるので、当面は森林地帯でマンゴーとパパイヤを収穫する事で特産品として販売する事になった。

 冷蔵庫を持って来て居るので良く冷やして店で売り出すのも手なのだ。

 取り敢えず一緒に森林地帯へ足を踏み入れ、マンゴー数個とパパイヤ数個を取って来る、そして実際に切り分けて食べる事となった。

 此方もアイスクリームに負けず好評。

 取り出した種を植えて育てて見ようと言う話に成った。

 序でに、何気に見つけて収穫して来た、キワノ、スターフルーツ、マンゴスチン、パッションフルーツ、ドラゴンフルーツなども有ったのだが、こちらは賛否両論だった。

 ドリアンは個人的に見つけてもご遠慮した。

 あ、そうそう、海辺に生えていたヤシの実も取って来て小官のお気に入りのサーベルでサクッと削って中の水分を飲んで見たらこれは特に大好評だった。

 アイスクリームを作る過程で出来たかき氷に目を付けた書生が何か出来ないかと言うのでカキ氷として甘いシロップを掛けた所イケると言い、何だか青い色の食紅の様な物をシロップに混ぜて海の色に似せたと言って皆に振舞った、これはブルーハワイの走りとなったしハロハロの走りとなったのは言う迄も無い。

 何年早くお目見えしたんだろうか、ブルーハワイにハロハロ・・・(汗)

 この辺の歴史までは知らんしなぁ。

 そのまま日本人街に泊まろうと思って居たので、立ち上がったばかりの日本除虫菊社(後のキ〇チョウ)の蚊取り線香を持って来ていた小官はそれを書生に渡し、少し寛いでいると、大王の使者が現れ、会食の準備が出来たので宮廷へと誘われる事になった。

 小官を迎えに来た使者が、蚊取り線香を気に留め、これは何かと聞かれたので説明をすると、それを是非大王にもと言われたので、仕方なく一缶献上する事になった、やはり南国なのでマラリアや、デングなどの感染症も割とある事なのだろう、会食の最中に蚊取り線香の輸入をしたいと熱望されたのだった。

 此処に泊まる気満々だったのに宮廷で泊まる事になってしまった。

 これではバカンス等では無く使者の外遊?

 何だかまんまと騙された気がするのだが・・・道理で、後れた分等と明言をされたが、三週間もの休暇時間が頂けた訳である、今更後の祭りではあるが。

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 そうこうしてのんびり過ごして居た筈なのだが、楽しい時間はあっという間に過ぎるとは良く言ったもので、今日は帰国の途に就く日である。

 因みに滞在中に2㎏は太ったのでは無かろうか。

 パールハーバーには簡易の小屋がもう出来上がって居て、ソーラーパネルで発電した電気で冷蔵庫も稼働していた。

 帰り際、「お坊ちゃま、今度は御家族全員出来て下さい、其れ迄に商売を大きくして見せますから、その時にはサービスさせて貰いますよ。」と書生が力強く約束してくれたのだった。

 帰りは台風に遭遇しない事を祈るとしよう・・・

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