第26話 新素材
新素材
つい先月、清仏戦争に一本楔を打ち、早期収束させる事に成功したばかりだが、一時駐屯する艦艇を除いた数隻が補給艦2隻を護衛しながら横須賀に入港した、と言う連絡が何故か小官の元に届いた。
何故小官の元へその連絡が?と思ったが、少し考えてその真意を読む事が出来た。
”補給艦が2隻、護衛されて入港”したのだ、そう、また新しい未知の素材でも発見したのだろう。
早速小官の運転手となった種田伍長と、小官の副官に任命された山田准尉を伴って横須賀へと向かう、しかし、アレだな、もう少し安全運転をして頂きたいものだ・・・心臓が幾つ有っても皆口から飛び出してしまいそうな想いだ。
こんな乱暴な運転をする奴が東京鉄道の創業者の息子だと言うのだから世も末である、お父上殿はどうかもっとマシな運転が出来る方である事を祈らせて頂こう。
暴走特急では話に成らんからな。
冗談はさておき、横須賀に到着した我々は、基地内へと入るや行き成り海軍将校の手厚い歓迎を受ける。
何なんだこの妙な待遇は、と思ったものだが、小官の作ったペニシリンのお陰で途中の港で買った女が持って居た梅毒の被害を受けた者が見る見る回復したと言うでは無いか、全くいつの時代でも海兵と言う奴は、そればっかりか・・・
いや小官だってソロソロ性に目覚める年齢に成りつつあるので興味が無いとは言わんよ?
まぁ実年齢はもっとおっさんなので興味は普通の12歳より有るし知識もこの年齢の平均より圧倒的に持っては居るが・・・行く先々で女買って病気を頂いてるようじゃペニシリンいくら積んで行っても足らんわ、全く持って話にもならんと言う物だ。
そんなお間抜けな海兵に誘われて積み荷を見せて貰う事にした・・・やたらと石が大量に積んである、今の時代の日本ではそうそう見る事は叶わないであろう石だ。
「おおっ!これはボーキサイトでは無いかっ!」
つい叫んでしまった。
「へぇ、流石ですね、私達には何だか判らんかったのですが、見た事無いような変わった石でも有ったら持って帰れと言う大将閣下のお言葉で積めるだけ積んで来たのですけど、これって何なんですか?」
「未だどこの国も本格的な精製はして居ない新素材の原料だよ、これまでは精製効率が悪すぎて採算が合わず、真面に利用されて居ない金属だよ。」
またついポロっと言ってしまう。
「未だ何処も利用して無いですって?何でそんな物を知ってるんです?」
「いや気にするな、小官は夢で見たのだ。 正夢と言う奴だよ。」
と誤魔化すも、首をかしげている。
「何はともあれ、これを兵科技研迄運んでくれたまえ、こんなに有るとは思って居なかったのでトラックは同行して無かったのだ。」
「は、了解しました、所で少佐は陸軍なのになんで此方の大将閣下と面識が有るんですか?」
「お爺ちゃんと孫みたいなもんだとでも思っておいてくれ給え。」
この返答で笑いが起こった。
これから同じ事を聞かれた時はこの返しで行くとしよう。
おっと、そんな事より、年が明ける前に折角手に入れたボーキサイトを完全精製に成功してしまわねばいかん、これだけは中々手に入らなかったので本家に先を越されるのも已む無しとばかり思って居た、そう言えばベトナムは産出こそ多くは無いが埋蔵量では世界3位にもなるアルミニウムの潜在地なのだった。
良いぞ、これこそ正に天啓・・・いやそんな事言ったらあの糞野郎共がまた鼻が伸びるでは無いか、悪魔でも小官はあいつらに理不尽に始末されたのだ、小官を助けてくれたのは悪魔の方では無いか。
何はともあれツキが回って来たかもしれない。
小官は、兵科技研出向航空力学教室を一時夏休みと称して学生達を、実家へ帰省させる事にして帰省費用を負担してやることにした。
----------------------------------------------------------
意外とマメな上に危機感に敏感だったベトナム人達は、危うく植民地に成る所だったのを日本に助けられた事で国内の危機感が最高潮に達し、新政権樹立に向けて動き出したそうだ、しかも日本がボーキサイトを大量に持ち帰った事でこの石が売れると商魂たくましくも自分達で掘り始めた。不思議と一致団結する国だったのだ。
駐屯した海軍達も驚く程の団結力だったらしい。
成程、この団結力こそがベトナム戦争で合衆国を退ける事に繋がったのだな、凄い民族だ・・・ほぼジャングルの様な所に住んでいるイメージが強いのだが集団思考でも持ってるんじゃ無いのか?
----------------------------------------------------------
取り急ぎ滝野川へと戻って来ている。
兵科技研では、積んで来れた分だけでもボーキサイトからアルミを抽出する実験を開始していた。
アルミは鉄と比べて融点が低いので、割とすぐに抽出が出来た、だが酸化してしまえば融点も高くなり、硬くもなる為、精製も困難になってしまうのだ、つまりこの特性が精製を阻害し、効率を悪くして居たのだ、途中でもっと温度を上げなければ成らなくなる為、抽出できなくなてしまう。
この酸化を避けてやり過ごしてしまえばアルミインゴットの出来上がり、これを更に純度を上げて薄く延ばしてやるとお料理の幅が広がる、おっと、そうじゃ無くって、航空機のボディーに使えるようになる、成型してから酸化させて硬くするのだ、但しその酸化の工程も慎重に慎重を重ねないとこの時代の技術力では恐らく変形してしまうだろう。
比較的他の金属から見ても軽いので、今の技術力でもこれさえ精製出来たら戦闘機なんか作れちゃったりする良い素材なのだ。
何なら雪平鍋だって作っちゃうよ?
8月に入ったばかりの昨今、平均気温28度で令和の時代と比べたら圧倒的に涼しいのだが、それでも湿度が高い、湿度が75%超えると言う事は反射炉の周りとか洒落ン成らん暑さになる訳です
従って蒸し暑いのには変わりが無い。
嬉しい事に精製にも成功した事で熱伝導率が高く低コストなアルミが手に入ったので、アイスクリームメーカーを作ってしまおうと企てる。
あの本体を冷蔵庫で冷やして使う簡易の物だ、ホームセンター等で売ってたりするアレである。
序でだから、氷鉋を作って貰う事にした。
あのかき氷を作る道具である。
設計図を担当に渡すと、何を作るんだと首を傾げて居たがそんな事は完成した後に判る事である。
かき氷シロップは蜂蜜で良いだろう。
バニラビーンズは手に入りそうにも無かったので、牛乳と生クリーム、卵、砂糖だけでシンプルなミルクアイスクリームを作る事にして買い物を部下にお願いし、小官自身は鍋の成型を手伝った。
結局成型は出来たが、成型したばかりの鍋を冷やすには時間が足らず、アイスクリーム作りは翌日に成るも、有り合わせの廃パーツで氷鉋が完成、最近近所に創業した氷屋から氷を買い付けて来て削ってみた。
うん、意外とうまく行ったんじゃ無いのか?
器にこんもり盛りつけたかき氷に蜂蜜を掛けて一口、「うん、結構いける。」
「少佐、何してんのかと思ったら食い物ですか?これ。」
「おお、山田君、食って見ろ、美味いぞ。」
「それじゃ一口頂きます・・・・・・・・!? うおぉぉ~!冷たくてウメー!」
この声で兵科技研の面々が大集合、氷も蜂蜜も追加購入する羽目になってしまったのだった。
明日作る気のアイスクリームも不安で一杯だ・・・こんなに量産できん!
小官と大佐、その副官達の4人だけでコッソリ食う事にした・・・のだがこう言う悪巧みをしていると何故か来てるんだよね、
5人分だけ作る事にした。
しかしながら未だプロトタイプなので只のアルミ鍋である、かき氷を作ってボールにぎっしり詰めてその上からアイスクリーム用のアルミ鍋をザクっと差し込んで使うのだが、その手間を掛けてるすみからすぐにばれてしまう・・・あっさりバレて文句たらたら言われて3日に分けて振舞う羽目になってしまうのだった・・・
またやっちまった、こう言うのあんまりやらかさない様に気を付けよう・・・
しかしながら
結局あまり大量に作れないアイスクリームの鍋は、小官行きつけの喫茶店に引き取って貰う事となった。
何はともあれ、初のアルミ製品は作る事が出来たので特許を今のうちに申請してしまおう、こう言う事だけは早めに対処するに限るのだ。
----------------------------------------------------------
父上の書生だった者の一人が、ハワイへの移民船に乗れたらしいので、小官は夏休みを利用して彼を訪ねる事にした、手土産は冷蔵庫とアイスクリーム鍋にしたかったのだが、ハワイでは未だ電気が無いのでは無いかという結論に至ってがっくりしたものであったが、並行して進められていたシリコンの有効利用の為の研究を、最近良く本を読むようになって期待していた井上准尉がして居たらしいのだが、偶然にも恐るべき事に、太陽電池の製法を確立したと言って興奮気味に小官へと詰め寄って来たので、早速テストをしてやると、まだまだ発電量は少ないもののちゃんと発電出来ていた。
「おめでとう、井上君、これは特許が取れるレベルだよ、発明家たる小官の仲間入りだな?」
「本当ですか!やった・・・実は偶然だったんですよ、たまたまおかしな反応が有ったので色々試すと、電気が発生していたんで、僕自身も驚いた程ですから。」
「偶然?結構じゃ無いか、失敗は発明の母、偶然は発明の父と言うのだ、偶然無くして発明は無し、覚えて置き給え。」
これは使える、そう思った小官は井上君の発明品、ソーラーパネルの精度を上げるべく尽力し、遂に完成に至った。
早速このパネルも持ち込む事にした、少々大掛かりな荷物にはなったのだが、ソーラー発電機+充電設備+業務用大型冷凍冷蔵庫+アイスクリームボウル10個程+レシピ票を持ち込み、海軍の艦艇に便乗してハワイでバカンスと洒落込もうと思ったのだった。
何故此処迄大掛かりかと言われれば、彼方で食うに困ったら商売に出来るのでは無いかと言う思惑付きの土産である。
まぁ、一人で運べる量でも無いので、トラックごと乗船する羽目になるだろうけどな。
無論、当然だが、移民達の為に電力インフラを構築しようと企んでいる以上、ハワイ王家に挨拶に行かぬ訳にも行かない、小型発電設備等を持ち込んで電力インフラの整備を我が国が請け負いますよと言うアピールをするつもりではある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます