第25話 【閑話】脱亜論・その後

          【閑話】脱亜論・その後

 福沢氏との対談後、福沢氏創設の新聞社、時事新報の記事で、小官の事を批判して居る様な風潮に成り、国民は神童の小官に味方する形で決着してしまった筈だったのだが、改めて良く記事内容を読んで見ると、そうでは無い、小官や軍部を批判した部分などは何も無く、むしろ福沢氏の考え方は小官の意見と似通って居たのだと言う事が何となく読み取れたのだった。

 福沢氏としては亜細亜を軽視したような内容になってしまったのは不徳の致す所であると締めくくって居た。

 どう食い違っていたかと考察すれば、相当量の資源がアジア諸国に眠って居るからこそ重要視して居たという部分が、小官や軍部、政府に関しては多々あり、アジアは何としても西欧諸国より搾取される植民地化計画より保護せねばならぬ対象であると言う結論に至って居た部分が大きい、従って我々は保護する為に戦って居る訳なのだ。

 しかし、恐らく資源がどれだけ眠って居るかを理解出来なければ福沢氏の様に切り捨ての方向へ考えを至らせたとしても不思議では無かったのだ。

 つまり福沢氏は資源が有る事を知らなかったので切り捨てて放置の考えだったのだが、小官はその意味を、亜細亜は朝鮮の様に全て真面な国では無いので支援等と言う甘い考えを切り捨てて西欧諸国の様に植民地として統治して原住民は全て労働力として以外の道を歩ませない、所謂奴隷とせよと聞き取れてしまった所に起因する食い違いであったと、やっと理解出来た。

 そして福沢氏は自分の考えを全否定されたように認識してしまい意見が合わなかっただけで、すれ違いになって居ただけなのだ。

 これだから言葉とは難しいとつくづく理解した小官は、後日、時事新報へ菓子折りを持って出向く事としたのだった。

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 時事新報社屋前に、この度自動車の運転を許される事となった、種田伍長の運転する自動車を横付けしたのだが、未だ運転が下手と言うか、むしろハンドルを握ると人格が変わると言う例のアレだったようでちょっと怖かった・・・道中スピードは出し過ぎるわ急ブレーキは踏むわで下手なジェットコースターより怖かった。

 まぁジェットコースターなんかこの時代には無いけども。

 さて、事前にアポは取ってあるので今日ならばご在社であると思われる。

 中々良い趣味と言って過言では無い程に美しい受付嬢に声を掛ける。

「失礼、事前に面会を申し込んだ者だが。」

「はい、お噂は私共も聞き及んでおります、益田少佐ですね。 少々お待ちください、確認を取ります。」

 既に内線電話位簡単なので小官の発明品とは違う機器だったが、それだけ電話の優位性が重要視された上での製品なのだろう。

 その内線電話で幾つか確認を取っている様子。

「益田少佐、では私がご案内致します。」

 と、受付嬢が席を立つ。

 応接何時の道中、何だかムッチャクチャ気になる視線をずーっと感じて居たのだが、背後に一人、この社の社員で小官の大ファンと言うショタコン女子が居たらしい、後から聞いてゾッとしたものである。

「では、此方でお待ちください、福沢は直ぐに参ります。」

 と言ってお茶が振舞われた。

 受付嬢はそのまま、恐らく福沢氏の部屋であろう奥の部屋へと受付嬢は消えて行った。

 暫くすると、その部屋より、先程の受付嬢を伴って福沢氏が入室。

 受付嬢はそのまま会釈をして退室して行った。

「これは先日はどうも、如何されましたかね? 討論で負けた私をあざ笑いにでも来ましたか?」

 中々辛辣な嫌味であったが、ここは小官から折れるつもりで来たのだから聞き流す。

「これはどうも、先日は聊か失礼致しました、認識の違いからの意見のすれ違いであったと理解に及んだのでこうして謝罪に来たのであります。」

 と言って菓子折りを差し出す、〇盤堂の雷おこしだ。

「ほう、それはどの様な食い違いですかな?」

「福沢殿、先ずお聞きしたいのだが、良く嚙み砕いて読み直してそう思ったのですが、脱亜論とは亜細亜にどれだけの資源が眠って居るかは知らずして出した論文であると認識したのですが間違いは有りませんか?」

「資源ですか、そんな物は調査しないと判らない物なのでは?

 私としては初めからそのような物が有るとは夢にも思っては居りませんでしたが。」

「やはりですか、小官以下、帝国軍としてはアジア諸国は資源の宝庫なのですよ、その認識の違いがすれ違いの原因と理解に及びましたので、こうして伺った次第。」

「そんなに資源があるのですか?」

「ええ、恐らくは想像も付かないであろうと思われる量の資源です、我が日本の国内だと、島国である事も手伝って大した化石資源や鉱物資源は期待出来ません。

 ですが、東南アジア、特にインドネシア諸国には膨大な量の化石燃料を含む化石資源、鉱物資源が眠って居ます。

 此処だけの話、次世代化を推進している軍としては無視できない物が有るのです。」

 福沢氏は夢にも思わなかったと言わんばかりに目を丸くして聞き入っている。

「つまり、すれ違いと言うのは、小官は資源があるのを前提であったので脱亜細亜と言う考え方は存在しなかった、が、貴方が資源の存在を知らないとは思って居なかった事で、脱亜論の言わんとして居る事を曲解してしまった訳です。

 小官も恐らくは、資源が有る事が前提で無ければ、他民族を支援する位ならば切り離した方がと言う考えに至って居たと思います。

 もう一つ確認ですが、貴方の脱亜論の言う所の、”西欧諸国と同じ付き合い方”言う部分は、”西欧諸国に対する付き合い方と同じように”と言う意味で、”西欧諸国がそうしているように資源と労働力明けを提供させる為に植民地化してしまえ”と言う意味では無かったのですよね?」

「ええ、そうです、しかし私も反省しました、”西欧諸国と同じ付き合い方”と言ってしまえば、聞き方によっては”西欧諸国がやって居るように植民地ししてしまえ”と言って居るようなもんであると後から気づかされました。

 言葉足らずでしたね。

 いやぁお互い様とは言え、日本語は難しいですな、はははは。」

 こうして福沢氏とは和解が成立したのであった。

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 更に後日、時事新報の一面にこの一連の対話の様子が克明に記載され、小官の謝罪だけで無く福沢氏の謝罪文も同時に掲載されるのであった。

 更にその後、脱亜論を訂正し新たなる論文を掲載した。

 護亜論(ごあろん)と、脱亜論をもじって三文字にした為に少し無理のあるタイトルになってしまった気はするが、要するに’庇護亜論’無いし’守護亜論’としたかったのでは無かろうかという内容であった。

 理解者として、この新たな道へ進んで行く日本を支えて行く仲間として、小官の中で受け入れる事にした。

 それにしても、転生して来て初めて知る事と成ったものだ、福沢諭吉と良い、大木伯爵様と良い、こんな時代にここまで柔軟な考え方の出来る御仁が多いとは思っても居なかった。

 平成令和にここまで柔軟に、自らを否定されたり、子供の戯言のような意見をしっかり受け止めたりできる者が果たして居ただろうかと思う。

 嘆かわしい事だと思うし、こんな風に柔軟に物を見る事の出来る大人が増えるような教育をして行くべきなのだろうと思い知らされた思いであった。

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