第23話 水力発電とインフレ対策

         水力発電とインフレ対策

 史実通りで、合衆国では既にダムを建設していて、水力発電を試みようとしていた。

 其処に目を付けた小官は、ダム建設のノウハウを日本の建設業者に教え込んで貰おうと思い、共同開発の申し出をして居た。

 既に日本では交流発電を実現して居るので、プラスマイナスを考えないで壁にコンセントを刺せば良いだけのこの技術を相手は喉から手が出るほど欲しい筈なのでそこを取引材料にしたのだ。

 案の定すんなり飛びついてダム建設の技術者を数名と、発電機の製造予定業者を派遣して来たのだ。

 交流発電機と言えば東京府と大阪府で別な物を購入してしまったが為に令和の時代になってもずっと60Hzと50Hzと言う差が有るのだが、この時系列では小官が開発してしまって居る為に、50Hzに規格統一されている。

 小官の事なので読者の方々はもうお分かりだろうとは思うが三相3線式交流発電をいきなり作ってしまってやらかして居るのだ。

 お陰で発電機制作業者もやっと今更原理を理解し始めている、理解出来ない物を数年間作り続けていたのだ、恐ろしや・・・良く今まで大きな事故が無いものだ・・・(テヘ)

 でもそのお陰で大電力が必要な工業用電力が供給されてるんだけどね。

 その技術が欲しくて堪らない合衆国はホイホイと二つ返事でやって来たものだった。

 それにしても合衆国は本当に良い顧客である、石油は産出できるので燃料は心配ない上に、富豪や地主達が挙って自動車を購入してくれる、軍でも半自動小銃を既に全軍に配備完了しているらしい。

 英国よりも仏国よりも、合衆国は新し物好きな傾向が強いようだ。

 お陰でがっぽり稼いだ外貨でインフラの整備も、ゆっくりでは有るが順調、東京-川崎-横浜の三都市間はほぼ国道が完成していた。環状線の整備をするとより発展できると、毎度お世話になって居る伯爵殿にお伝えして居るので法案もさぞすんなりと通る事でしょう。

 なんせ伯爵殿は司法卿までやった程の御仁です、発言力が強いので何か国に対するお願いが有るとその都度お世話になって居るのだ。

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 合衆国からの技術者が到着したので自ら出向いてご挨拶をすると、こんな子供が母国語以外の言語を使って流暢に挨拶が出来るのかと驚いて居たが、其処はスルーしておいた。

 ダム建設を覚えたい建設業者が挙って集まって来て居て、各自通訳を連れている様なので小官はその方々の紹介まででお役御免。

 暇になったので折角横浜に来たのだからと、出来はじめて居る華僑街(後の中華街の事)で食事をして帰る事にした。

 当時の華僑街は、日本人の※的屋(てきや)が清国からの移民達へ土地の斡旋などをして居たので、決して治安が良いとは言えなかったが、軍服を着てサーベルを下げた将校に喧嘩を売って来るような奴は居ないだろう。

 一応運転手として付いて来て居る山田准尉には特権だと連れて来て居る。

「少佐に付いて来ると美味い物が食えて有り難いですよ。」

「折角出て来てるんだ、この位は特権だよ。 ちゃんと軍が昼飯代は持ってくれる様だから遠慮はせんように。」

「ホント、少佐は凄いっす、俺よりずっと若いのに外国語にも堪能な上にあれだけ色々作り出しちゃうんですからね、本当は俺より年上なんじゃ無いですか? 未来の人だったりとか?」とか中々鋭い意見が飛んで来た。

「はははは、子供だから脳が柔軟に色々覚えられるし回転も早いだけさ、頭は使えば使うだけ良く回るようになるからね。」

「はぁ、そんなもんっすかね~。」

 うまく誤魔化せたかな?

 こんな具合に雑談しながら華僑街の路地を歩いて居ると、何やら騒がしい。

 何だろうと思って居ると、的屋の三下と思わしき風体の男が、着物を着た若い女性(恐らく16~18)を追いかけて掴みかかって居た。

「おい、山田君。」

「はい、助けましょう。」

 すかさず小官が大声で「おい、其処の貴様!我々の前で何をしている!」

 山田准尉が走り出して男の襟首を掴む。

 女性の方は、かなりの美形であった。

「お助け下さい!そこで肩がぶつかっただけで、私は謝ったのですが。」

 うら若き美人とあって山田君は助ける気満々だ。

「テメェ放しやがれ!ヤっちまうぞコラ!」

 男も一筋縄ではいかなそうだ。

 小官も加勢しよう、サーベルを抜いて突きつける。

「貴様、帝国軍将校に向かってヤっちまうぞだと? なめるなよ。」

「何だこの餓鬼は!?」

「貴様、少佐殿に向かって随分な軽口を叩くじゃ無いか、この場で処刑されたいか!」

 山田君がそう言って腕を後ろ手にとって極めると、男は悲鳴を上げて大人しくなった。

「危ない所を、有難う御座います。」

 と言って小官に頭を下げる女性、俺何にもしてないけど?

 男は警官隊に引き渡して女性は解放したのだが、是非にお礼をさせて欲しいと言われ、それではムサイ野郎だけで食事をしても詰まらんのでご一緒して頂きたいと申し出ると、承諾して頂いた。

 山田君が小躍りして居たのが一寸可愛らしく面白かった。

 どうやら女性は小官の事を、例の号外を読んで知って居たらしい、ここでまさか本人と遭遇するとは思って居なかったらしい。

 それがまさかトラブった際に助けられたのでちょっと舞い上がってしまったらしいが、本当に子供なんだと感心して居た。

 ええどうせまだ子供ですよーだ、山田君は我が世の春と言った具合に舞い上がってますが・・・

 陸軍省管轄兵科技研の山田ですと勢い良くアピールをして居たので相当に一目惚れでもしたのだろう、それで彼女が尋ねて来るかは知らないけどね。

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 そんな事件から一週間が過ぎたある日、山田准尉が何だか鏡に向かって櫛など入れて居るので、何かあったのかと尋ねると、この間のお嬢さんから連絡が有り、丁度東京府へ来て居るので昼食をご一緒するのだと言うでは無いか。

 是非行って来いと気合を入れてやると満面の笑顔で頑張りますと答えて天にも昇ろうかと言うようなステップを踏みながら昼休憩の時間を満喫するべく出掛けて行った・・・

 どうでも良いから午後の職務の時間迄には帰って来いよ?

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 その後、暫く山田准尉は妙に仕事にも気合が入って居るようだった。

 そんなある日、休み明けの山田准尉は、これ以上無いと言う位落ち込んで居た。

「どうした?山田君。」

「ああ、少佐殿、どうもこうも有りませんよ、はぁ・・・」

「フラれたかね?」

「いえ、そうじゃ無いんですよ、実は彼女・・・」

「なんだ?」

 まさか好きなのは小官だったりしないよな?ショタコンなんて今の時代に居るもんなのか?

「何で少佐を連れて来ないんだと言い出しまして・・・」

 マジか・・・マジでショタコンだったのか・・・

「そ・・・それで?」

「ええ、何で少佐が居ないといけないのかと問い質したら、少佐を狙ってたんだと怒り始めまして・・・」

「か・・・勘弁してくれ・・・」

「未だ続きが有ります、その、騒ぐ声がですね・・・」

 何か風向きが怪しくなってきたような・・・・・・

「その声が・・・野太いんですよ!!」

 そう来たかぁっ!

「彼女、男だったのか・・・」

「はい、ショックでそのまま逃げて来ました・・・」

 マジか、ショタコンオカマって、洒落ン成らんぞ。

 ますます一人で外出出来なくなったでは無いか、こう見えて小官引き籠りでは無いのだが・・・

「えっとだな・・・山田君・・・」

「・・・はい、少佐・・・」

「・・・何とかしておくれ・・・そしてその後全て忘れよう・・・」

「・・・は・・・はい・・・」

 ホロリと涙が流れました・・・

 途方に暮れて居ると、其処へ来客だ。

「益田君はこちらと伺って来たのだが?」

 大木伯爵殿であった。

「これは良くお越し下さいました、お久しぶりで御座います。」

 気持ちを切り替えて、帽子を取ると深々と頭を下げる。

「おお、良かった、やっと会えたな。」

「伯爵様もお忙しい所良くいらっしゃいました。 こちらにお掛けください。」と言って兵科技研唯一の応接セットに案内した。

「ああ、失礼するよ。」

「伯爵様、司法卿のお仕事は宜しいので?」

「うむ、それがだな、貴公のおかげで外貨がドンドン入って来て潤って居るのは良い事と思うのだが、最近少々物の価値が上がってしまったと言うか、金銭の価値が薄れてしまったと言うのか・・・」

「成程、インフレに成りつつあると言う事ですか。」

「いん・・・ふれ?」

「はい、需要が供給を上回って物価が上がって来た状態の事です、好景気の時に起こり易い経済状況です。

 逆に供給量が需要を上回って物価が安くなる不景気な状態をデフレと言います。」

「成程・・・つまりインフレと言うのは景気が良い状態の事で良いのだね?」

「ええ、そうなのですが、行き過ぎると物が髙くなり過ぎて買えなくなって仕舞います。」

「そのバランスが大事なのだね?」

「ええ、そう言う事に成ります。 例えば、デフレになると物価は安いのですが不景気で、人材が余り雇用が無くなってしまい、更に職にあぶれなかった人々は給料も安くて何も買えないと言う事態に成りますが、インフレになると雇用は不足して物価は上がり、行き過ぎると物価が高くなりすぎて民は何も買えないと言う事に成ります、どちらも経済的には多大なる損失と言いますか、不満は出るでしょうね。」

「流石は神童の名を欲しいままにした益田君と言う所か、君に相談して良かったと思う。

 それで、景気対策はどんな事をすれば良いと思うかね?」

 いやはや、いくら神童だからと言って、なかなかこんな小僧に頭を下げて相談するなんて出来ない事と思う、ましてご自分の孫でも可笑しくない程の年齢差、普通プライドが邪魔して絶対に出来ない、凄い人だな、この人は。

 最大限の誠意でお答えしよう。

「そうですねぇ、どうしましょうか・・・提案としては、良い機会ですので、ダムを作る資金が必要と言う名目で、国民から国がお金を借りると言う金融商品を作りませんか?

 水力発電はこれからとても重要なポジションを占める発電だと思われます。

 国がお金を借りるのですから、国が倒れない限りは元金も利息も保証されると言う物です、国債と言う奴ですね。

 現在の大日本帝国は世界でも恐らくはトップと言っても可笑しくない軍事力を誇ります。

 この恐らく滅ぶ事は無いと思われる帝国が国民から金を借りる訳ですから、ちゃんと帰って来る宛てのある安全な金融商品と言う事に成ります、これに国民が預金をする事で、市場の貨幣流通量が制限されます、そうすればインフレは急速に跳ね上がらず、ゆっくりと進みながら景気が向上、儲かった企業はその分社員に支払う賃金が増やせる、利息配当が普通預金と比べて良い国債は市場の貨幣流通量を制限し、かつ景気の上昇を阻害しないので良いと思います。

 緩やかな景気上昇が理想的なのです。

 しかもこれで借りた金は、余らせたとしてもダム以外にも使いようがいくらでも有ります。

 この際思い切って義務教育を提唱し、地方に学校を建てましょう、優秀な人材を生み出し、国の発展を促進する為には有用です。

 日本語は独自の発展を遂げた複雑な言語なので、難しい表現や漢字等覚える事も多い。

 算術もこれからは誰でも計算が出来ないといけないような時代に成るでしょう。

 物理、化学、生物学、地質学を網羅した理(ことわり)の学問、理科も重要になって行くでしょう。

 これは小官個人の意見では有りますが、あまり古い歴史は重要とは私は思いません、しかし近代史位は学んでおいた方が後世でも役立つ事もあるでしょう、近代史を主とした社会学です。

 物作りの仕事へ就く者達にとっては特に重要になると思われる、道具の使い方を覚えさせるための、図画工作もある程度は必要です。

 頭ばかりでは体力の無い大人になってしまっても困りますので、運動も授業に取り入れましょう、体育です。

 音楽などの芸能等も人として文化を育むには重要と思われます、ゆとりのある生活は心身を健康に保つ為に有用で有ります。

 この際ですから、外国語も学ばせましょう、当面は英語で良いと思います、これからの国際社会に向けて先駆けましょう。

 海外の通訳者を連れて来て教師をさせれば良いと思われます。

 これからは学問は誰しもが学べる環境を作らねばなりません。

 道路や鉄道網を含むインフラ整備にもお金は必要です、この好景気を逃す手は無いでしょう。

 ましてや、小官の発明した薬の効果もあって病気での致死率も低下を始めて居ます、労働力が不足する事態にはあまり成り難い時代が目の前にあるのです。

 この際、治療費に掛かる額を軽減出来る制度も作ってしまいましょう、国民への福利厚生です国民健康保険、如何ですか?

 この国保で税の他にいくらか徴収する事で貨幣の価値を上がり過ぎないよう調整して行きましょう。

 今は儲かって金が有る民が多いからこそインフレに成りつつあるのですから、余った金を預けるだけで増える国債、薬品が高価で中々診療できない医療も、保険を適応する事で2割程度の額で受診出来るように成る訳です、この好景気にこの制度は魅力的な筈です。

 以上がインフレに成りつつある好景気を逆に利用する提案に成ります。」

 メモを取りながら目を白黒させて居る伯爵様・・・ちょっと一気にまくしたてすぎたかな?

「しかし、教育を義務化して学校を全国に建てるとなると、華族の反対意見が多く出そうだが・・・」

 やっぱこの人凄いな、ちゃんと内容頭に入ってる人の意見が飛び出した。

「商売は魅力的な商品を手の届きそうな金額で販売する事で成立します、そしてその商品を作って行くのは華族では無く平民の人々だからこそコストが安く生産出来て、手の届きそうな額に抑えられるんですよ、華族の方々がそんな汚れ仕事を出来るとも思いませんし、もしやったとして何でこんな安い給金でこんな酷い仕事をと不平不満が出るでしょう。

 国民は奴隷では有りません、そして国民が生活するに当たって食品や冷蔵庫等の便利な道具を購入するからこそ経済も回るんです、何時までも年貢取り立てて管理してれば楽に暮らせる世の中では無いと言う事です。

 むしろ今こそ政治にも携ろうとせずに遊んで暮らしている一部の怠け者華族にも職を与える事も出来るじゃ無いですか、彼らは教育だけはある程度受けてますからね。

 其れと、これは余談として、小官は外国の植民地政策を阻止出来たら良いと思って軍に入る事を決意しました、天は人の上に人を作らず、ですよね?」

「うむ、判った、君の今の意見、そのまま華族議員どもの説得に使わせて貰う!

 貴重な意見であったし、儂の凝り固まった頭では考え付きもせなんだわ!

 今日は来て良かった、ありがとう。

 君の身元保証人になった事を誇りに思うぞ。」

 この伯爵様、あっさりとプライド投げ捨てて年齢関係無く人に頼れる凄い人だ、一介の司法卿で留めて置くのは勿体無いな、是非総理大臣まで行って頂きたいな・・・

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 そしてダムの建設に資金投入がなされていく、手始めに東京府から近いと言う理由で神奈川県に相模ダムと津久井ダムの二つと、浄水場を隣接する奥利根ダムの建設が始まるのだった。

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