第22話 航空力学のススメ

           航空力学のススメ

 1884年、明治17年である。

 小官も数えで12歳、満11歳である。

 日清戦争迄後10年、大分開発も進んで、圧倒するには十分な装備品も出揃った。 後は量産し完全配備を完了するだけだ。

 コレラの大流行もあと2年、来年には北里博士が戻って来て何とかしてくれるだろう。

 彼には小官が未来から来て史実を知って居る事を伝えてでもコレラだけでなくチフスやペストの流行も防いで貰わねば成らないだろう。

 小官も出来る事をして、浄水場と下水処理場を提唱し、それによって新水道案が浮上、更に工業用水の汲み上げによる地下水の枯渇から起こる地盤沈下を防ぐ為に、工業用水を海水から作り出すシステムを提唱し、実際小型の物を作って見せると、これもうまく建設が始まりそうである。

 因みにこの年、史実では、上野の不忍池に日本初の競馬場が出来る。

 所が馬車があっという間に姿を消す事態になった今の国政では競馬場を作ると言う法案が立ち消えしかけていた、だが小官としては、災害時には馬の有用性は図り知れない物が有ると思っている。

 陸軍省を通じて、馬の有用性を説いて競走馬として育てた馬を有事には運搬等に利用すると言うプランを説き、是非競馬場を作って欲しいとの意見を国会に上げる事に成功した。

 そして史実通り、競馬場は作られる事となったのだ。

 他にも、福島、新潟、函館、金沢、京都、大阪、名古屋、小倉と言った具合に複数の案も提案したが、其れに関しても段階を踏んで少しづつ増やして行こうと言う事で可決した。

 これで馬も、それに携わった人々も路頭に迷うような事にはならないだろう。

 冷蔵庫の存在は、経済の発展に相当な勢いで貢献し始めていた。

 冷たいビールが飲める時代になって居るのだから当然と言えば当然の事で、明治9年から操業していた日本麦酒(現サッ〇ロ)と父上の〇井物産が業務提携し、東京府恵比寿に麦酒製造工場を作る、これが後の〇ビスビールとなるのだが、史実よりも6年も早かった。

 これによって、益々大日本帝国は潤い、資金不足は解消されて行く。

 当然帝国軍も同じ事だ。

 国が豊かになったおかげで装備品等の量産から、戦艦等の大型兵器の生産も急ピッチで進んでいる。

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 一方、プロパガンダのおかげで一人で外出する事が難しくなってしまった小官であったが、悪い事だけでも無かったようだ。

 小官も少し成長したので、制服が少し小さくなって来た。

 海軍大将から送りつけられた海軍制服は少し大きめに作ってあったらしく丁度良さそうなのでこれ着ちゃおうかな、なんて思って居ると、陸軍の新しい制服が支給されたおかげで却下されたのだった。

 この年、陸軍学校だけでなく、母校の慶應義塾や東京物理学講習所からも教鞭を執らないかと言うお誘いを頂いた。

 しかし小官も一塊の陸軍将校となって居るので、そうそう簡単にはいそうですかと言う訳には行かない、陸軍省で上手く調整して頂き、週一だけの教鞭を執る事で合意した。

 陸軍大学校、慶應義塾、東京物理学講習所で各週1日、合計3日間と休暇が1日、計4日は開発に行けなくなってしまった訳だが、行き詰って居た航空機の開発に漕ぎ着ける為には人材を育てる必要もある。

 義塾でも算術系学部を設立したらしく、教える学問が丁度物理学なので、航空力学を主体に人材育成を始めようと思う。

 陸軍大学校では戦術等を教えているが、ハッキリ言ってこっちは本来専門外になるので、もしも慶應義塾の成果が上がったら陸軍大学校の方はお暇させて貰おうとも考えて居る。

 何より今は航空力学を理解できる人材が少しでも多く欲しいのだ。

 後3~4年後にはライト兄弟並みの飛行機を完成せねばなるまい。

 航空力学を提唱するにあたって、単純かつ簡単に飛ばす事が出来る紙飛行機を作って飛ばしてみる事から始めるとしよう。

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 義塾の教壇に立ち始めてから3か月、優秀な生徒が複数名現れ始めたので、課外授業と称して兵科技研へ研究生として迎え入れる事となった。

 大佐殿は、「さすがと言うべきか、無茶苦茶するね、益田君は、まさか学生をここへ招き入れて君の研究の為の人材を作ろうとしてるとはね、恐れ入ったよ。」

 と、少々呆れ気味では有ったが、次期将官候補に選ばれて居るのでその時は兵科技研は小官に返還すると言い、好きにしたら良いと言って下さるのだった。

 本当にこの人を引きずり込んで管理して頂いて、お陰で色々動けたのだ、感謝している。

 村田大佐は小官の開発の手伝いの序でに、研究で出た廃棄物などでコッソリ色々新しい物を作って居た、小官と同じ穴の狢と言うか、小官と同じ種類の人種であった。

 何か興味のあるものが有れば、触ってみる、分解してみるとか、合成して見る。

 電気毛布の絶縁体は小官がタイヤ用の耐熱ゴムを作り出す時に出た廃棄物を村田大佐が玩具にしていた物を小官が閃いて作った耐熱絶縁体だったので、ここで村田大佐と一緒に居なければ生まれなかったかも知れない物だった。

 但し、時代背景上技術力不足でクオリティーが足らず、耐熱性も完全とは言い難いので、取扱説明書には注意事項がこれでもかと書いてあるような代物では有った・・・・・・・

 彼なら少将と成った後も部下想いの素晴らしい上官として出世して行くだろうと思う、発明好きなのでそっち方面で少々暴走気味な所は否めないが。

 今も、小官の論文を基にリチウムイオン電池の開発の陣頭指揮を取って頂き試作を繰り返して下さって居るのだ。

 完成した暁には、小官は論文を書いただけなので、手柄を大佐殿の物として陸軍省及び、実際に欲しがっている海軍省には報告をしておこう。

 史実では割と仲が悪かった陸軍と海軍は、小官を伝手に割と密に連絡を取り合うようになって来て居る、良い傾向である。

 縦型社会に成りがちな軍隊には横の繋がりが実に必要不可欠なのだ。

 脱線したが、こうして小官と生徒達は、先ずはと言う事で実際に飛ばす物の模型を作り、飛ばすという試作を始めたのだった。

 予定よりも早くに航空機が現実の物と成るかも知れない。

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