第20話 プロパガンダ

          プロパガンダ

 1884年2月

 とうとう念願のセルロイドセロハンを使ったフィルムが、小官の指示通りの物が完成した、小西屋六兵衛店は良い仕事をしてくれたと思う。

 もっとクオリティーの低いフィルムならば50㎜サイズで完成して居た。

 今回は、これを35㎜にした訳では無く、小官の求めていた物は畳2畳分のサイズで粒子は従来品の半分以下のハイクオリティーな特大サイズな代物だ。

 何故そんな際物が欲しかったって?

 それはこれからとんでもない物をこの時代に登場させる為だ。

 もう一つの素材の純度を上げる為の専用の生成機器を作る為に膨大な時間を費やしていた。

 最近では、小官が戦艦との通信を確立する為に作ったモールス信号機や通信機の副産物として出来たラジヲが国営放送を始め、国民皆が天皇陛下のお声を拝聴したい、とか、始まったばかりの天気予報を聞きたいなどと言った理由で殺到して買い、かなりの量が普及していた。

 帝国新聞は写真の掲載をするようにもなって来て居る。

 ただ、まだ銀塩カメラは記者位しか持てない高価な物であったが。

 そんなさ中、陸軍省からお呼びがかかる。

 当面中将閣下の執務室へ行けば良いだろう、また受勲か昇格のお話だろうか・・・

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 中将閣下の執務室で、小官は困って居た。

「まぁそうゴネ無いでくれ給えよ、貴官の様な優秀な若者は軍の広報活動には必要なのだ。

 陛下も一緒に帝国放送に出演されるのだ、君ほどの人材は他に居らんのだ、判ってくれ給え。」

「判らんと言う程幼稚な訳では有りませんが、小官はそんな場に出るような英雄とは違います、英雄をお探しならば台湾戦線でご活躍された海軍大将閣下のような方で宜しいのでは?

 小官など言わば一塊の文官で有ります。」

「いや、この度のコレラの一件、報告書はしっかり読んだ上での、軍上層部満場一致での決定なのだ。

 自らを未だ試して居ない薬の被検体にしてまで国民を救った、これが英雄で無く何だと言うのかね?」

 はぁ・・・やっぱあの一件もやらかしちゃってたのね・・・仕方ないか。

「う・・・返す言葉も有りません・・・ですが・・・やはり現場で奮闘する方の方が神格化して持ち上げるのには最善では無いかと・・・」

「とにかくこれは決定事項なのだ、命令である、只今より放送局へ行き、陛下と一緒にラジヲ出演の任務、その後、帝国軍広報部の取材へ協力、根掘り葉掘り聞かれる事になるのでしっかり受け答えをして新聞用の写真も撮らせるように、以上、本日の任務はここまでである。」

 はぁ、面倒な事になった物だ。これでもしも海外のスパイがこんな小官一人を英雄視するようなプロパガンダを見つけて小官の暗殺等を企てて来たらどうしよう、メンドクサイのを通り越して命の危険にも晒される事になるでは無いか。

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 結局放送局へと来てしまった・・・気が重い・・・

 だがこうなってしまった以上は仕方が無い、万が一に備えて、徐々に体力も付けて来た事だし、小官専用に作った28口径自動拳銃と自動小銃を常時携帯させて頂く事にしよう。サーベルだけでは心許ない。

 因みに小官のサーベルは我が兵科技研の専属鍛冶師のオリジナルのダマスカス鋼の薄型刀剣、銘は叢雲、何だか無茶苦茶凄い名前が付いてしまって居る。

 ダマスカス鋼特有の模様が雲の様なイメージだったのでそんな名前を付けたらしいのだが・・・それは一寸、と思ったのは小官だけでは無かった筈だ、あの場に居た兵科技研全隊員全員が思って居た筈である。

 刃の厚みが薄いので正しい向きで降り抜かないと簡単に折れてしまうがちゃんと扱えば異様な程良く切れる、そして通常の物より圧倒的に軽いと言う扱いの難しいピーキーな仕様の日本刀であった。

 その握りはフランスのサーベルの様な美しい装飾付きのグリップガードが付いて居る。

 かっこいいのでこれだけは是非にと作って頂いた一本だった。

 ちょっと自慢の一振りだったのでつい脱線してしまったが、こうしてとうとう国営放送のインタビューを受ける羽目になった。

 結果、思兼神オモヒカネノカミの申し子では無いかとか、菅原道真すがわらみちざねの生まれ変わりでは無いかと神格化をされる羽目となってしまった。

 どいつもこいつも小官を何だと思って居るのやら。

 天皇陛下からも、勲章と官位を授けようとまで言われ困ってしまった。

 勲章なら未だしも官位っすか・・・

 結局後日、受勲式を執り行われ、勲章と官位を頂く事となり、その様子までラジオで報道されてしまうのだった。

 そして小官は既に1等受勲して居るので正四位を頂き、正四位勲一等子爵となってしまった、父の爵位を超えてしまった・・・・

 その旨を陛下へ受勲の際にお伝えすると、父上にも同じ爵位をとおっしゃって下さった、有り難い事です。

 受勲式が終わった後に、暇になったので実家へと帰ると、実家は大騒ぎとなって居た。

 しっかりラジヲを聞いて居たらしい、帰るんじゃ無かったと後悔した一太郎であった。

 小官は大日本帝国を導く神童と言う触れ込みで神格化されてしまったのだった・・・・・

 勘弁してよ。

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