番外編 啓二の誕生日

 今日は10月12日。この日が何の日かお分かりでしょうか?はい、そうです。俺の誕生日です。また今年もぼっち誕生日会でしょうか。かれこれ10年はろくにお祝いして貰えてないぞ。会社で社員のみんなに、おめでとう。と言われることはあるが、プレゼントパーティだとかそういったものは本当にしていない。誰か俺の事を祝ってくれぇ…。


 その時、ピロン。と、スマホの着信音が鳴った。誰からだろうと思いながらスマホを手に取る。そこには…。


「けいちゃん!今から家行ってもいい?」


 差出人は…蒼哉だった。


 え、マジ、蒼哉、最愛の、家、来るって。お、落ち着け俺。好きな人からのメールに過剰反応しすぎだぞ俺…。と、取り敢えず返信しないと。返事は勿論…。


「来ても良いよー。待ってるね」


 今の俺には、断るという選択肢はなかった。





 20時11分、蒼哉がメールをしてきてから30分経過した。そろそろ着く頃かな…。そう思っていると、通知音が鳴った。


「そろそろ着く!」


 と、元気よく書かれていた。俺は1階まで迎えに行くことにした。ドアの鍵を一応閉めて、エレベーターに乗る。1階に着くまで誰も乗ってこなかった。自動ドアを抜けると。目の前から尻尾を左右に揺らしながら走ってくる狼が。


「おまたせ~やっと着いたよ~」


「いらっしゃい。ん?そのビニール袋は?」


「ん~まだ内緒」


「そ、そう?取り敢えず上行こっか」


 俺たちはエレベーターに乗り、俺の部屋がある階まで向かう。エレベーターの中にある鏡を見て、蒼哉が口を開く。


「けいちゃんって身長高いよね」


「そう?虎の平均とさほど大差ないらしいけど…」


「狼からしたら大きく見えるよ~。まぁ俺は狼の中では低い方なんだけど」


「あー狼って180cm以上が殆どだもんね」


「マジで身長あと5cm欲しかったな~」


「俺的には低い方が可愛くて好きなんだけどな…」


「え?可愛い?」


 しまった。つい本音が…。だって自分より身長低い方が可愛いじゃん。ね?分かるでしょ?


「あ、着いた」


「話逸らしたな…」


 俺たちはエレベーターから降りて、家の鍵を開ける。そして、中に入った。また家に蒼哉が来てくれた。それだけで大満足だ。


「おじゃましまーす」


「上がって上がって~」


 俺がリビングまで行くと、突然、蒼哉に肩を掴まれた。


「けいちゃん一旦そこでストップ!」


「え?う、うん」


「目つぶってくれる?」


「わ、わかった」


 俺は言われるがまま目を閉じる。すると、ガサガサと音がする。俺はしばらく暗闇を見つめていると、蒼哉が口を開いた。


「よし、もういいよ~」


 俺が目を開けたその時ーー。


 パァン。と、大きな音が鳴り、カラフルな紙吹雪が舞う。


「…え?」


「けいちゃん、誕生日おめでとう!」


 そう言うと、クラッカーを握った蒼哉が俺に抱き着いてきた。え、これ。サプライズ?てことはこれ…脱ぼっち?


 俺は気づけば泣いていた。勿論涙の理由は嬉しくて。好きな人から、自分の誕生日を祝ってくれたのだ。そもそも、俺の誕生日を覚えていてくれたことだけでも嬉しい。


「…ぅ…ぐすっ」


「え!?泣いてる!?」


「あ…ごめん、嬉しくてさ…」


 涙を流しながら俺は口を開く。言葉は自然と出た。


「俺、誰かから祝われるの久々でさ…嬉しくって…」


「親友の誕生日忘れるわけないでしょ!」


「うん…ありがとう。本当に…ありがとう…!」


 俺は蒼哉に両腕を回し、抱き着き返す。その間も、涙は流れっぱなしだった。




 少し落ち着いた頃、俺たちはケーキを袋から取り出した。蒼哉ガワンホール買ってきてくれたのだ。俺が昔好きと言っていたらしいチョコレートケーキ。実際めっちゃ好き。


「ねぇ、蒼哉」


「ん?」


「俺の事祝ってくれて、ありがとな」


「いやいや当然のこと…」


 俺は優しく蒼哉の唇と俺の唇を触れさせた。蒼哉は驚いた顔をしていた。そっと俺が唇を話すと蒼哉は照れ気味に笑っていた。


「もう、けいちゃんってば…こっちがサプライズじゃん…」


 どこか嬉しそうに言う蒼哉。


「ははは、逆サプライズしちゃった」


 俺たちはしばらくずっと笑いあってた。こんな時間が永遠に続いたらいいなと思ってしまった。俺は今日、人生で最も楽しい誕生日を迎えた。

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