2-3 魔法の授業
教師を始めて、既に一週間が経過した。現在、弓術の講義に参加している者は、ホップとバーム、シャルロッテだった。アーダルベルトは教える必要がないし、マリアは、わざわざごめんなさいと謝って、この講義を止めた。彼女は弓術をやるより他のことに才能があるらしい。アーダルベルトが、怪我や病気の治療が出来る魔法の実力があると言っていた。それならそちらに力を入れた方が良いだろうとジェダイトは思う。
「みんな、上達してきましたね。獣なら狩れるかもしれません。ですが、少数で森の中に入らないようにしてください。魔獣が出れば、貴方達では太刀打ちできないかもしれませんから」
最初の実習以降は、学園の広い敷地を借りて、弓を的に当てる練習をさせていた。この地味な練習が後の本番で役に立つことを彼は知っていた。生徒三人も真面目に的当てをしていて、それが上達を早めていた。
「ジェダイト先生」
「ミリフィラ先生。どうしたんですか」
そこにいたのは初日に一番最初に声をかけてくれたローブととんがり帽子の魔法の先生だ。彼が教師になった後も、色々と彼に話しかけ、この学園について教えてくれた先生でもある。今では他の先生とも話すこともあるが、よく話をするのはこのミリフィラ先生だった。
「領主様がね、貴方に魔法を教えてほしいって」
「魔法を教えてくれるのはすごく嬉しいのですが、忙しくないですか」
「いえ、そこまで忙しくないですよ。そもそも、授業は週三回だし」
「そうですか。負担でないなら、宜しくお願いします」
「ええ、よろしくね」
とんがり帽子とローブのせいでミリフィラ先生の顔などはほとんど見えない。口元がたまに見えるだけで、目や髪は見えない。だが、彼女が親切な人だというのは、この一週間で理解できた。
「じゃあ、まず座学から。魔法の基礎の基礎からね」
「はい、宜しくお願いします」
ジェダイトが連れてこられたのは講義のやっていない教室だった。十人分くらいしか席がないので、あまり大きな教室ではない。しかし、二人で使うにはちょうどいい大きさの教室だった。
「では、まず、魔法はなぜ使えるのか。これはわかるかしら」
「宙に満ちる魔気という物質が体内に蓄積されて、それをイメージと共に放出するんでしたっけ」
「正確には体を通した魔気が魔法を作るの。体内に蓄積された魔気が無くなってしまえば、死んじゃいます。できる限り宙にあるものを使うのよ」
宙にある魔気がなくなった状態を空気状態と言い、この空気状態では生物は生存できない場所となる。
「そして、魔気には火、水、風、土。そして、魔法はこれら持つ性質にあった魔法しか発動できないわね。人を操るとか、体を強くする魔法はないの。魔法でできないことは大抵、超能力ってわけ」
彼女は壁際にあったホワイトボードて、図を描いて教えていた。
「そして、魔法の一番の特徴って何か、わかるかしら?」
ジェダイトは顎に手を当てて、少し考えた。普段、自分で魔法を使わない彼はぱっとその特徴が出てこない。
「あ、盾では防げない、でしたっけ」
「少し正解。基本的に魔法は物理的な干渉が起きないってこと。魔法の威力が大きければ、物理的な干渉は起きるけど」
そう言って、彼女は掌に炎を灯す。そして、それを机に近づけたが、その火が机を燃やすことはなかった。彼女は掌から火を消して、ニコリと笑う。ほらね、とでも言いたそうな表情だ。
「ただ、威力はないものの物理的な干渉を行う魔法もあるわ。それが、家事魔法と魔石魔法。魔石魔法は、魔石に魔気を流すと誰でも家事魔法を使えるというもので、家事魔法は服を綺麗にしたり、料理のための火を起こしたり、そういう生活に密接に関係のある魔法。まぁ、これは生活してたら使ってるものかしら」
ジェダイトにもその魔法は使っている。日常生活に欠かせないものだ。誰もが使っているもので、食料を保存したり、食べ物を温めたり色々できて便利な魔法だ。
「魔法は応用次第で、雷や氷、爆発なんてこともできるけど、初心者じゃ難しいです。無理に使おうとすると、体内の魔気を使ってしまい、死んでしまうので使わないでください。あと、何か質問あるかしら」
ジェダイトはミリフィラの話を真面目に聞いていた。一つ気になることがあった。マリアの才能の話でも出てきた魔法。回復の魔法だ。
「回復の魔法ね。この魔法は一般的には治療と言われている魔法で、魔気の流れを感じ取れるようにならないと使えないわ。基本的には生物に流れる魔気を操って、治癒能力を向上させたり、体内の魔気を活性化させて傷口を塞いだりと結構複雑な魔法の操作が必要なのよね。初心者が手を出すにはあまりに高いハードルがあるわ」
ミリフィラは難しい顔をして、言葉を並べる。それを聞いて、ジェダイトはマリアが実は凄い魔法使いなのかもしれないと思ったのだった。
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