2-2 森の中での実習
──周囲に獣あり。豚、鶏。いずれも危険度は低いでしょう。
超能力に頼って、獲物の場所を把握する。といっても、豚や鶏ではあまり練習には乗らないとジェダイトは考えていた。特に豚は鈍感で、初めて狩りを行う者でも狩れる獣だ。一旦走りだすと、かなり速くしばらくは止まらないので、諦めるしかない。鶏は飛びはしないものの、クチバシで攻撃してくる場合があるので、少し注意の必要な相手たが、それは接近戦での話だ。弓で射ればまず反撃を受けることはないだろう。
「少し進んだところに、豚と鶏がいます。今日はそれを狩りましょう」
後ろをついてきている生徒は頷いた。それから、森に入ってから、渡していた弓にジェダイトが配った矢の三本の内の一本を番える。
「音を立てないように。ゆっくり近づきます」
彼はある程度、進むと生徒にこっちに来いと出て合図した。音を立てない、というのは普段から狩りをしている彼にとっては簡単なことだが、生徒はそう簡単にできないことだ。アーダルベルトはジェダイトに弓を習った時のようにさっと移動することができた。シャルロッテはアーダルベルトの真似を去るように動いて、少しも音を立てずに移動する。それに続いたのがホップだ。印象通りの素早さで、ジェダイトのもとまで来た。残り二人。いずれも音を立てずに移動するのは難しそうなメンバーだ。しかし、バームは慎重に移動していたのか、いつのまにか、彼の近くにいた。そして、残るはマリアだが、彼女はこの森で見るときはいつも何かに追いかけられていた。
彼女は自分だけ残ってしまったと焦り、急ぎ足で来ようとした。その結果、がさがさと草を鳴らしていた。彼女は、あ、という顔をしていた。ジェダイトが豚と鶏がいるであろう方を見ると、鶏と目があってしまった。
コケェエエエ!
その瞬間、鶏が大きく鳴くと、豚が一斉に逃げ出す。人間ではその速さに追い付けない。森の中ということもあって、豚の姿はすぐに見えなくなった。残るは鶏三羽だけだ。鶏は逃げずにこちらを見つめている。攻撃のチャンスでも伺っているような様子にも見えるが、そんな知能は彼らにはない。
「とりあえず、今の実力を見たいので、アーダルベルト以外は矢を射ってください」
アーダルベルトはなぜ僕だけ、というような顔をしていたが、すぐにその理由に思い当たる。実際、彼はこの授業を受ける意味はあまりない。今は彼に弓を教わっている訳ではないが、それでも鍛練は続けているのだ。ここにいる生徒の誰より弓がうまいのは当然だった。
ホップは弓を絞って狙いをつけるまでが早い。バームは矢を引くまでに時間がかかるが放った矢は必ず命中していた。遅れて到着していたマリアは、弓を引ききる前に手が離れてしまい、まともに弓を使うとことが出来ていなかった。シャルロッテは素早くはないが狙いは正確だった。マリア以外は弓を使うのに向いているかもしれない。
「全員、矢は全て打ちましたか」
全員の手元から矢が無くなっているのを確認して、仕留めた鶏の方に移動する。そこに倒れている鶏は三羽で全部仕留められていた。ホップ、バーム、シャルロッテがそれぞれ仕留めたのだろう。
「ホップはもう少し落ち着いて狙いをつけましょう。頭を狙うともっと早く倒せます」
ホップは自分の仕留めた鶏を見ていたが、ジェダイトの話に素直に頷いた。
「バームは狙いは完璧だけど、考えすぎです。もっと、すっと矢を放たないと獲物に逃げられますよ」
バームはその言葉を聞いて、何かを考えているような仕草をした。外からではわからないが、彼は言われたことを既に頭の中で考えて、シミュレーションしていた。
「シャルロッテ様も中々の腕ですが、素早く弓を引くようにしましょう」
「わかりました」
シャルロッテは自分の使った弓を見つめて、ぎゅっと握った。
「ジェダイトさん。私は、どうでしたか」
自身が何を言われるか理解しているようで、落ち込みが既にその目にあった。
「マリアさんは、その、弓じゃなくて、魔法を使った方が良いかもしれませんね」
さすがのジェダイトも苦笑いで、彼女にそういった。それを受けて、そう言われるのを理解していたのか、それ以上落ち込んだ様子はない。
「それでは街に戻りましょう」
学園の入り口まで戻ったところで領主が口を開いた。
「えー、生徒の皆さん。ジェダイト先生の講義はどうでしたか。また受けたいと思いましたか」
「あ、ジェダイト先生って今日だけだったっけ」
そう言ったのはホップだ。その後ろでバームが残念そうな表情をして、ジェダイトを見ていた。アーダルベルトは特に何も言わなかった。彼は自分が何か言えば、ジェダイトは気遣ってしまうと考えたのだ。シャルロッテも同じなのか、何も言わない。マリアは寂しそうだったが、何も言わなかった。
「先生。も少し教えてほしいです、弓術」
ホップだけがジェダイトに言葉を伝える。そう言われるまでもなく、ジェダイトの心は決まっていた。
「そうですね。もう少し続けてみましょうか。僕も魔法について知りたいですし」
「やった! 次はどんな訓練をしますか」
ホップが態度で喜びを表現していたが、一番喜んでいるのはアーダルベルトだった。友人が一緒の学校にいるということが嬉しかったのだ。ただ、その場にいる竜種を含めた全員が喜んでいるのには違いなかった。
こうして、ジェダイトはフォーオクロック学園の教師として、働くことになった。
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